リセリア襲来
お茶会を終えて、スティーグが帰った後、メイはリセリアに話しかけた。
「あんな他愛もないお話だけでよかったんですか?」
リセリアはティーカップを口に運び、目を閉じた。
「敵に回さないだけいいわよ。あなたは玉座の間での一幕を見てなかったわよね?」
「私などがおいそれと行ける場所ではないので」
「あいつ、一瞬だけ姿勢を正してね。正直、息を呑んだわよ。あれは只者じゃないわ」
「へぇ。姫様が殿方を誉めるなんて珍しいですね?」
「そう? まぁ、今はあの男が私の部屋を訪れて、しばらく過ごした。その事実を広めるだけで満足しておきましょう」
直接スティーグが自分に協力しなくとも、そう思わせる様に周囲を錯覚させる。
それが今後、どの様に自分にとって優位に運ぶかまでは読めないが、打てる手は打っておくべきだ。
リセリアは自分が興味を持った男を想い、楽しそうに微笑んだのだった。
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スティーグが王宮を訪れてから数日が経とうとしていた。
あの後、元帥には散々愚痴を聞かされたが、適当に聞き流してなんとかやり過ごした。
そして、スティーグは日常に戻り、今日も今日とて特別クラスの生徒達をしごいていた。
「駄目だ駄目だ。まだまだ判断が遅い。一瞬の迷いが生死を分けるぞ!」
今行っている訓練は5人同時の乱戦である。
状況に応じて臨機応変に戦い続けなければならない、難しい実技訓練だ。
スティーグは広い視野で5人の動きを把握し、要所要所で激を飛ばしていた。
その時ふと、アドルフが出入口の前で誰かと話しているのが目に入った。
何やらもめている様子である。
「何やってんだあいつ?」
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アドルフは出入口付近で何者かがこちらを覗いている気配を察知し、対処に向かった。
たまにあるのだ。
特別クラスに憧れた一般生徒達がコソコソと隠れて覗きに来ることが。
今回もその類だと思ったのだが。
「すまないが、見学は禁止されている。遅くならないうちに帰りなさい」
扉を開けると同時にアドルフは覗いている人物に声をかけた。
だが、予想に反して覗いていたのは生徒ではなかった。
というよりも顔がよくわからない。
全身を覆うフード付きの外套ですっぽりと顔を隠していたからである。
「君は?」
「あ、見つかっちゃった」
女性の声であった。
目元は隠れて見えないが、陶器のような美しい肌をしている。
余程肌に気を使っているのだろう。
一目で上流階級の人間であることが分かった。
だが、生徒でもない貴族の人間がどうして特別クラスを覗くような真似をするのかがわからない。
害意のある人間ではないようなので、アドルフは警戒を緩め質問した。
「何をしているのかな? ここは学園でも特別な場所だ。早々に立ち去りなさい」
「ちょ~っとだけ、スティーグに会いたいんだけど、駄目?」
「スティーグに?」
アドルフは眉をひそめた。
(あいつ、今度は何をやった?)
全く謎だが、スティーグが女性によく好意を持たれることはアドルフも認めていた。
もしかしたら、この女性もスティーグに引っ掛けられた一人かもしれない。
「見ての通り、彼は今、生徒を指導している最中だ。時間をずらしてもらえるか?」
「ん~。私のほうもちょっと無理して出てきてるのよ。お願い! 中に入れて」
両手を合わせてお願いされてしまい、アドルフは困り果てた。
そもそもアドルフは女性に対してそれほど免疫がない。
特別クラスの生徒達にもある一定の距離を置いて接している。
どうすべきかと悩んでいると、アドルフはこの女性の顔に見覚えがあることに気が付いた。
どこで見た?
直接話したことはないと思う。
だが、偶々すれ違ったにしては鮮明に記憶にある。
「・・・いや、まさか、あ、あなたは」
「あはは、ばれちゃった?」
アドルフは愕然とした。
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アドルフがもめている様なので、様子を伺っていたスティーグだったが、アドルフがフードを被った人物を闘技場内に招き入れたのを見て何事かと思った。
基本的に特別クラスは関係者以外出入り禁止である。
アドルフもそれはわかっているはずなのだが。
そんなアドルフは汗をダラダラかきながら困惑しているようだった。
「誰だ、あれ?」
謎の人物はスティーグに手を振りながらフードを取って顔を露にした。
「やっほー。スティーグ。遊びに来たわよん♪」
「リセリア!?」
そこにいたのはここにいるはずのない人物。
第一王女リセリア姫であった。




