新たなる敵
お茶会は楽しく進んでいった。
スティーグはお茶菓子を手に取り、口に運ぶ。
サクッとしたクッキーだった。
貴重な砂糖を惜しみなく使った上質な味わいが口の中に広がる。
「なんで猫かぶりをやめたんだ?」
紅茶で口を潤すとスティーグは疑問を口にした。
初対面の人間に王女が素の自分を晒すのはかなりハイリスクだ。
「言ったでしょ。馬鹿馬鹿しくなっちゃったのよ」
リセリアは苦笑しながら告白した。
「ほんとはね、あんたを私の派閥に取り込めればって思ったんだけど、止めたわ。あんたって王族の権威とかそういうの通じなさそうだし。思った通りに動かない人間がいると逆に足枷になるわ」
「派閥?」
リセリアはコクリと頷く。
「王位継承争いよ。お父様はまだまだ元気だけどね」
スティーグは思わず天井を見上げた。
いつの時代、どこの世界でもトップの継承争いは絶えることはない。
自分も父親の跡を継いだ時は色々と大変だったことを思い出した。
リセリアは居住まいを正して語りだした。
「私らには兄妹が5人いるんだけど、年齢的に次期国王は私か、あんたに絡んだあのバカ兄かのどっちかって言われてるわ」
「・・・あれか」
スティーグは先ほどの男のことを思い出してうんざりした。
「あんなのが王になったらこの国終わるぞ」
「あんなんでも嫡男だからね。やっぱり有利なのよ。順当にいけばすんなり決まっちゃうわ」
「だが、人格に問題がある」
「あれは貴族至上主義よ。市井の人間のことなんかこれっぽっちも考えていないわ」
「お前は違うのか?」
リセリアは心外と言わんばかりに眉を顰める。
「私はお母様が平民出身でね」
「ほぉ」
「本当に悔しいことだけど、それで私が王位を継ぐのに相応しくないって思っている連中もいるわけよ。そんな奴らを黙らせて、私が女王になるにはより多くの支持が必要なの」
「なるほどねぇ」
スティーグは興味なさげにリセリアの話を聞きながら紅茶をすすった。
あの王子が王になるのはかなり嫌だが、ドロドロの王位継承争いなどに巻き込まれるのはもっと嫌だった。
自分の目の届かないところで好きなだけやってくれと、切に願う。
「そんなわけで、さっきのあのバカ兄の失態は傑作だったわ。痛快とはこのことね!」
「期せずしてお役に立てたようで何より」
「今頃部屋で悔しがってるわね。あんた相当恨まれるわよ」
「それは怖いな」
笑いながらそう言い放つスティーグだが、全く怖がっていないのは誰の目にも明らかだった。
「まあ、所詮は小物だから、一人じゃなんにもできないでしょうけどね」
**********
エリックは私室に戻ると部屋の家具に当たり散らしていた。
「おのれおのれおのれおのれぇ~~~~!!!!」
家具は床に散乱し、叩き落とした手は地味に痛い。
それもこれもすべてあの平民のせいだと、エリックの理不尽な怒りは際限なく燃え上がっていた。
あの平民はなんとしても殺してやるが、一体どうやればいいのだろう? エリックはしばし黙考した。
考えに耽っていると誰かが部屋をノックしているのに気が付いた。
「誰だ!」
「殿下、サイオンでございます」
「サイオン卿か。なんだ? 私は今機嫌が悪い」
「存じております。どうかお目通りを」
「む、良い。開けるがいい」
エリックはバツが悪かった。
カッカリコもあの場にいたのだろう。
臣下にとんだ失態を見せてしまった。
入室したカッカリコは恭しく首を垂れる。
「殿下の御心、私にはよくわかりますぞ。あの男の所業、正に万死に値します」
「うむ。当然である!」
同意を得られてエリックはほんの少し留飲を下げた。
もちろん、それであの平民を許すことはないが。
「私もあの者には何度か煮え湯を飲まされましてな。なんとかしたいと考えておりました。ですが、あの者の武力は侮れません。力でねじ伏せるよりもこちらの派閥に引き入れた方がよろしいかと」
「む・・・」
エリックは考えあぐねた。
自分としては憎んで余りあるあの男を殺してしまいたいが、跪かせて飼い殺しにするのも悪くはないかもしれない。
そもそもエリックはあの平民の名前も覚えていない。
一体何のために今日、招かれたのかも、素性も何一つ知らないのだ。
「よい。許す。卿の策を聞かせるがいい」
「はっ。それでは」
カッカリコはエリックに策を披露した。
リセリアは言った。
エリックは一人では何もできないと。
だが、カッカリコという協力者を得て、エリックの復讐が始まろうとしていた。




