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恥辱

 エリックが剣を振り上げた瞬間に 元帥はこの後起こるであろう惨劇に恐怖した。

 だが、結果として予想された惨劇は回避される。

 アーゼル王の怒号によって。


「やめんか、この大馬鹿者がぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 とんでもない大音量が玉座の間に響き渡った。

 仰天したエリックは、その拍子に剣を床に落としてしまった。が、そんなことを気にしている余裕は今の彼にはなかった。

 恐る恐る振り返ると、そこには今まで見たことがない程鬼の形相をした父の姿があった。


「ち、父上?」

「この痴れ者めが。余が招いた客人に剣を向けるとは何事か!」


 エリックは自分が何故責められるのか理解できなかった。


「父上、お言葉ですが、こ奴はこの私を愚弄したのですよ!」

「先に無礼を働いたのはお前ではないか」

「ぶ、無礼? 私がぁ!?」


 エリックはこれまで父と母以外のすべての者をごく自然に下に見ていた。

 それが許される立場にエリックはいたのだ。

 ただの平民を相手に何かしたところで、それがなんだというのか?

 エリックには父がなぜ怒っているのか本当にわからなかった。

 アーゼル王は小さくため息をつくと、エリックを見つめた。


「どうやら余はこれまでお前を甘やかし過ぎたようだ。もうよい。下がれ」

「父上、私は、私は・・・」

「二度は言わぬ」


 パクパクと口を開き、エリックは何かを言いたそうだったが、アーゼル王の厳しい顔を前に、何も言うことができず、玉座の間から立ち去ろうとした。

 その時にスティーグの顔を睨みつけたのだが、全く意に介さないスティーグに、どうしようもない口惜しさが込み上げてきた。

 と、そこで部屋の隅にいるある人物と目が合った。

 妹のリセリア姫であった。

 リセリアは微笑を浮かべながらエリックを見つめていた。

 一番弱みを見せてはいけない人物に、とんでもない失態を見られてしまった。

 エリックは恥辱に震えた。


(これでは私はただの道化ではないか!)


 父と有力貴族達の前で、ちょっとしたポイント稼ぎのつもりでいた。

 それがまさかの大失態を犯し、エリックはトボトボと玉座の間を後にしたのだった。


「我が愚息がすまなかったな。一人の父としてお詫び申し上げる」


 貴族達はぎょっとした。

 王が平民相手に頭を下げるなど、前代未聞であった。


「まあ、あれだ。苦労するな?」


 そんな重大事件の当の本人は、どうでもいいように受け答えをした。


「本来であれば別室でゆるりと話をしたかったのだが、それはまたの機会にしよう」

「『また』があるのか? 遠慮したいんだがな」

「ふっふ。そう言うな。余はそなたが気に入った。是非また遊びに来てくれ」

「しばらく先で頼むわ」


 見ている者達はもう何に驚いていいかわからなかった。

 王に対してとんでもない軽口を叩くスティーグと、それを許し、気さくに受け答えをするアーゼル王の会話に、只々唖然としていたのであった。

 エルベキア王国の歴史に刻まれるほどの珍事となったスティーグの謁見は幕を閉じた。

 これがスティーグとアーゼル王の最初の出会いとなったのである。

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