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エリックの失態

 スティーグの眼前にやって来たエリックは演技がかった仕草で、スティーグを指指した。


「平民めが。度重なる無礼な振舞い、この私が許さん!」


 顔立ちの整ったエリックの立ち居振る舞いは、女性であれば十人中八人は頬を染めることだろう。

 が、当然ながらスティーグはそんなことでは全く心を動かすことはなかった。


「誰だお前?」

「お、お前だと!?」


 まさか、平民ごときにお前呼ばわりされるとは思わなかったエリックは顔を引きつらせた。

 だが、ここでエリックは王族の雅量を示す。


「フッ、無知蒙昧な平民では私を知らぬのも無理はあるまい。しかと見知りおくがいい。私はエリック。栄えあるエルベキア王国の第一王子にして未来の国王である!」


 エリックは身振り手振りを交えて、朗々と自身の身分を明かした。

 そんなエリックをスティーグは半眼で見つめる。


「ほぉ。王子サマか」

「本来であれば、貴様ごとき平民風情では、一生言葉を交わすことのない至高の存在である。畏れひれ伏すがいい。平民!」


 エリックは優雅に振舞いながら、スティーグに跪く様に促した。

 左右をちらりと観察すれば、エリックに同調する者が大半を占めた。

 真後ろで見えないが、自分のこの毅然とした態度に、父も感心しているだろうとエリックは確信していた。

 後はこの平民が跪ぎ、自分に許しを乞えば、この場を収めた自分の評価は上がることだろう。

 だが、肝心のその平民は、一向に腰を落とす素振りを見せない。

 緊張のあまり、硬直してしまったのだろうかとエリックは訝しんだが、思いもよらないことに、スティーグはエリックを鼻で笑ったのである。


「な、何が可笑しい!」


 エリックはこれまで正面からこんな小馬鹿にするように笑われた経験がない。

 しかも、こんなどこの馬の骨とも知れない平民などに。


「くくく。いやな、パパの前で『僕、頑張ってます』アピールをしたいのはわかるが、余りにも演技がかっているんで、ついな」

「!!!!」


 絶句した。

 自分の評価を上げるための道具であった平民に見下された。

 しかも図星を突かれただけに始末が悪い。

 それほど太くもなかったエリックの堪忍袋の緒がブチ切れた。


「こ、この、無礼者がぁ!!」


 顔を赤黒く変色させ、腰に下げていた美しい装飾の剣を引き抜いた。

 対して蒼白の顔を土気色にまで変色させていたのは、スティーグの隣にいた元帥である。

 エリックはいつ斬りかかってもおかしくない一瞬即発の状態にあった。

 そして、斬りかかった場合、スティーグは間違いなく反撃するだろう。

 そうなったらもはや、後戻りはできない。

 ここにいる騎士達総出でスティーグを取り押さえなければならないが、この玉座の間どころか、王宮にいるすべての兵を動員しても、スティーグを押さえ込むことは不可能だろう。

 下手をすると王宮が吹き飛んでしまうほどの大魔法を使いかねない。

 今正に、なんの誇張もなくエルベキア王国の大ピンチであった。


「さっきまでの役者じみたポーズはどうした? イケメン王子」

「斬る!!!!」


 もはや、エリックの怒りは限界点を突破した。

 躊躇なく剣を振り上げたのである。


(オワタ)


 元帥は自分の人生を振り返り、一人涙した。

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