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冒険者という職業

--冒険者という職業


「はいよ、お待ちー。熊肉の焼きだよー。あと野菜盛りね。こっちはサービス」


 おかみさんがじゅうじゅうと音を立てている肉とこんもりと盛られた野菜の盛り合わせにサービスという果汁のジュースを持ってテーブルにやってきた。

 テーブルの上に所狭しと並べられた料理はどれも旨そうに出来ている。

 フォークとナイフを持ち、肉に突き立て一口サイズに切ったものを口に頬張る。

 うん、塩胡椒が効いててうまい。そしてソースがまたうまい。

 ニンニク風の辛味が効いているペースト状のものを肉汁と絡めたのかな?

 肉の下味と相俟って辛味と甘みが同居しているこの口の中。

 口から光線を出す某食事評論家のようになってしまう。


「それだけおいしそうな顔して食べてくれると作りがいがあるね」


 いつのまにか目の前の空いている椅子に座っていたおかみさんに気づかずに相当顔が緩んでいたのだろう。

 おかみさんがニマニマした顔でこっちを見ていた。


「食べてるところを直視されていると恥ずかしいものですね」

「こんなおばちゃん相手に何を恥ずかしがるんだね。いいから食べな」


 こっそりと持ってきていた自分の分の飲み物を口に含みながら足を組んだ状態で横を向いて座っている。


「もう昼時なのにのんきにおしゃべりしてて大丈夫なんです?」

「こんな寂れてる食堂になんかそうそう客なんか来やしないよ。来たとしても旦那が厨房にいるから問題ないさね」

「さようですか」

「それよかあんた、やっぱり雑貨屋に買い取り断られたんかい?」

「えぇ、冒険者だろう!とかで」


 小さく切り分けた肉をフォークにぶっ刺しながら会話の相手をする。

 いい情報というのはこういう雑談から手に入れられることが多い。


「まぁ許してやっておくれね。あの人の息子が冒険者になるって言って飛び出して行っちまってるんだよ。」

「あー、八つ当たり的なやつですか」

「そうだね。まぁもう何年も音沙汰がないくらいだ、とっくに…ってのはあの人もわかっているとは思うんだよね。気持ちが追いついていないだけで」

「気持ちはわかりますけどね。冒険者っていう職業自体を恨んでるんならそれこそ店自体やっていけないでしょうに」

「そうなんだよね。村の中の売買だけなんてたかがしれてるし。もういい加減吹っ切れればいいんだけどねぇ」


 たしかに冒険者という職業があるからそれを選んだんだろうし、それがなければきっと跡をついで雑貨屋なり村で別の仕事をするなりしていたはずだ。


 冒険者というしょくぎょうはたしかに討伐とあれば魔物と戦ったり、護衛をすれば盗賊なんかと戦うこともある。

 採取依頼だって場所によっては高山の崖にしか生えない薬草だってあるし雪山の雪の中にしか咲かない花もある。

 そういうところに危険なくして近寄るなんていうのはそもそもがお門違い。


 そういう危険を乗り越え、目標をクリアし、無事に生還するからこそ高い報酬と名声が手に入る。

 街を出てすぐの草原にある薬草と、竜に囲まれながら採取する雪山での薬草の価値は、どちらも危険があるとはいえ、やはり後者の方が高い。


 探索系の冒険者だってそうだ。

 未踏破迷宮に眠る財宝を探しに何日も何週間も迷宮に篭るなんてのはザラ。

 魔境なんかの調査なんて達成できればそこに土地と共に自治権をもらえる。

 まぁ早い話が貴族になれるってことだな。

 他の国との勢力圏なんかを考えれば国を作ることだって可能だ。

 それだけの可能性を。冒険者は持っている。


 もちろん誰もが富と名声を手に入れることが出来るかといえば出来ないものもいる。

 志半ばで魔物に喰われるものもいれば迷宮の罠にかかってそのまま迷宮の養分になってしまったりする冒険者も少なくはない。


 そういった話は…冒険者についての話を聞けばすぐに出てくる。

 雑貨屋の息子というのもそういう話に触発されて飛び出して行った口なのだろう。


 自分が冒険者になりたいというのであれば理想論で言えばまずは親を説得しないといけない。

 自分が危険と隣り合わせの職業につくことに理解を示してもらうのが最初だと俺は思う。


 成功を収めるにしても、失敗して帰ってこれなくなるにしても、怪我で早々に引退なんていうこともある。

 それを知らずに悶々とすごす親が可哀想だ。

 あ、人の事いえませんね。はい。


 ま、そんな状況なんであればあの雑貨屋で買い物をするのは無理だな。

 次の村なり街なりまで我慢しますか。

 毛布とコートくらいはほしかったなぁ


「そういえばあんた、この後はどこに向かうんだい?」


 また唐突だな。


「王都の方向に向かおうと思っています。」

「王都方向か。明日の朝まで待てるなら行商の馬車が出発するからそれに同行させてもらったらどうだい?」


 ふむ、よくあるパターンの依頼だな。

 正直これで盗賊に襲われるとか、そんでそれを撃退すると行商人に気に入られて店で優遇とかそんなパターンになるのが目に見えてる。

 もうそういうのおなかいっぱいなんですよね…

 あえて言おう。あえてそういうお約束な展開は外れて歩くと。


「んー、一人旅が好きなのでゆっくり行こうかな、って思ってるんですよ」


 ぶっちゃけ一人旅のほうが気楽でいい。

 歩くのに飽きたら昨日みたいに空歩で進んじゃえばいいしね。


 するとおかみさんが残念そうな顔でため息をついた。


「そうかい。今回村の子供達が行商と一緒に街まで行く事になっていたから一緒についていってやってほしかったんだけどね」


 こっちが本音なわけですね。

 その子供の中に自分の息子か娘がいるわけなんですね。わかります。


「なるほど、でも今冒険者としては休業中だから依頼って形で受けられないんですよねー」

「休業中とはいえ、熊が入るくらいの魔法の鞄(マジックポーチ)持ってるくらいだからそれなりに腕は立つんだろう?」


 粘るなぁ。と思いながらやり取りをしていると、疲れたーとか言いながら食堂に数人がゾロゾロ入ってきた。

 全員が子供だけど剣や皮鎧なんかを身にまといいっぱしの冒険者風の装備をしている。

 まさか街に行くのってこいつら?


「おばちゃん!定食4つ!」


 リーダー風の男の子がテーブルに座ろうとしながらこっちに向かって言ってくるのを聞きおかみさんがこっちに苦笑をしながら席を立つ。


「好き嫌いするなよー?あと泥ひどいから裏庭行って靴洗っておいで」


 はいーと言いながら裏庭に歩いていく子供達に横目で見られる。

 子供達が食堂からいなくなったところでおかみさんが「ごめんねぇ、うるさくて」と言いながら厨房に入っていく。


 しばらくして子供達が戻ってきてさっき座ろうとしていたテーブルを囲む。

 昨日草原で野営した子たちかな?とか思いながら食事の続きをしていると、おかみさんが厨房から肉が乗ったプレートを持ってくる。


「おおおおおおお、肉だ!」

「まじだ!すげぇ!」

「久しぶりにこんな分厚いの見た…」

「……」


 大興奮である。

 一人なんか何も言わずにいきなりフォークとナイフをぶっ刺してるし。


「あんたたち、あそこの人がその肉を提供してくれたんだからね、ちゃんと感謝しなさい」

「「「「ありがとうございまーす!」」」」


 うん、がっついて食うなよ?咽るからな。


----


 その後子供らがすごい勢いでおかわりをするのを見ながら食後の果汁ジュースを飲んでいると、子供らはやはり先日の草原での野営をしていた子ららしく、この年ですでに冒険者らしい。

 たいしたものだ。


 その子供らの話は明日の行商についていくことについてに変わっている。

 誰が前衛で誰が後衛で。どこをどのように守ってといった事前の打ち合わせをしているのは冒険者として好感触である。


「あんたたち、あそこの人もその行商に加わると思うから仲良くするんだよ」


 おかみさんから唐突に話をふられて焦る。

 話を振るときは事前に稟議書と申請書をだな…


「えー、おじさん冒険者なの?それとも商人?」


 お、おじさん…

 まぁもう30だけどな。

 いざ言われると凹むな…


「そのどっちでもないよ。元がついていいなら冒険者だけどね」

「冒険者なのかー。じゃあ自分の身は自分で守れる?」

「それくらいは出来るぞー。おじさんをなめるなよー?」

「「「「えー、だっておじさんじゃーん」」」」


 おじさんだが?

 元Sランクを舐めるなよ?


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