第2部・第4話 ハエの王の御成りと、極上のデザート
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魔王カナタの「呪いの美味シチュー」によって、味覚から精神汚染が始まった(と大勘違いしている)エリーゼ皇女。
怯えながらも必死に召使いとして立ち働く彼女のもとへ、この国のトップである『国王様』が直々に見舞いにやってきます。
人類最高の美女と、異形の王。最悪の対面が幕を開けます。
「うう……お父様、お母様……エリーゼは、エリーゼはまだ人間です……。まだ、心まではバケモノに屈していません……っ」
部屋の隅で、エリーゼがボロ雑巾のように小さくなり、ブツブツと壊れた人形のように呟きながら床を磨いている。
昨日のシチューがよほどショックだったらしい。すっかり大人しくなって、今や俺の顔を見るだけで「ひっ!」と小さく悲鳴を上げて平伏するレベルだ。
(うん、ちょっと怯えすぎな気はするけど、反抗されるよりはマシか。今日も平和だなあ)
俺がアリアさんの触手に包まれながら、のんびりと読書(※禍々しい魔導書)を楽しんでいた、その時だった。
ズゥウウウウン……!
部屋の肉壁が大きく左右に開き、重厚な足音が地下室に響き渡る。
そこに現れたのは、頭にきらびやかな純金の王冠を戴いた、恰幅のいいおじ様――この国の国王様だった。
「いやあ、勇者カナタ殿! 監禁――おっと、アリアの『過保護部屋』での暮らし心地はいかがかな? ブーン」
国王様は、親しみやすい笑顔を浮かべながら、背中から「ブーン、ブーン」と心地よい羽音を鳴らして歩み寄ってきた。さすがは王の風格、実に見事なジェントルマンだ。
「国王様! わざわざ地下までありがとうございます。おかげさまで、毎日美味いものを食べて快適に過ごしていますよ」
俺が笑顔で挨拶を返した、その瞬間。
部屋の隅から、これまで聞いたこともないような、魂の底からの絶叫が上がった。
「――ひ、いやあああああああああああああああっっっ!??!?!」
エリーゼだった。
彼女は持っていた雑巾を放り出し、狂ったように頭を抱えて壁際に背中を打ち付けている。その瞳は完全に限界まで見開かれ、ガチガチと鳴る歯の音がこちらまで聞こえるほどだ。
(え、何? 急にどうしたんだ、このお姫様)
不思議に思う俺だったが、彼女の視点(正常なSAN値)に立てば、その理由は明白だった。
彼女の目に映る国王様の姿は、これだった。
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【種族】 異形の魔王(※主人公の目には「恰幅のいい人間の国王」に見えています)
【外見】 体長3メートルを超える、直立した巨大な『蝿』の化け物。全身から腐肉の悪臭を放ち、頭には血に汚れた王冠を被っている。背中の透き通った4枚の羽を激しく震わせ、不快極まりない「ブウウウン!」という重低音を響かせている。
(ま、魔王……! 本物の、怪物の王……っ! なんで、なんでこんな地下室に、あんな悍ましい蝿の化け物が平然と入ってくるのよぉおおおっっ!!)
エリーゼは過呼吸を起こしそうになりながら、目の前の地獄絵図に絶望していた。
何より恐ろしいのは、その巨大なハエの化け物に対し、人間の姿をした魔王(俺)が「快適に過ごしていますよ」と、まるで近所の世間話でもするかのように爽やかに微笑みかけていることだった。
「ほう、ブーン。それが、人間どもが降伏の証として送り込んできたという、ロズワール帝国の皇女か。なかなか美味そうな、いや、良さそうな泥虫ではないか。アリア、カナタ殿の夜のお相手として役に立っているのか? ブーン」
国王様がギチギチと前足を擦り合わせながら、エリーゼを値踏みするように見つめる。
(※カナタの耳には「なかなか肉付きが良い。アリア、こやつはカナタ殿の良き夜の玩具になっているか?」という親戚のおじさん風の声に翻訳されています)
「滅相もございません、お父様」
アリアさんが無数の触手をウネウネと蠢かせながら、冷酷に(※脳内美少女ボイスで)答えた。
「こんな泥虫、カナタ様の指一本触れさせる価値もありませんわ。今はただの床磨き用の奴隷として命を長らえさせているだけです」
「そうかそうか、それなら良い。ブーン。……おっと、忘れるところだった。カナタ殿、今日は我が国の特産品である、極上の『デザート』を差し入れに持ってきてな」
国王様はそう言うと、手にした銀の器の蓋を恭しく開けた。
「さあ、もぎたての完熟チェリーだ。非常に甘くてジューシーだぞ。カナタ殿だけでなく、そこの奴隷の泥虫にも一つ分けてやるといい。ブーン」
国王様の手のひらに載せられたのは、宝石のように真っ赤に輝く、大粒の美しいサクランボだった。
(うわあ、美味そう! さすが国王様、気が利くなぁ!)
俺は嬉しくなって、そのチェリーを一つ摘み取ると、恐怖でガタガタ震えているエリーゼの元へと歩み寄った。
「ほら、エリーゼ。国王様からのありがたいお下がりだ。頑張って床を掃除したご褒美に、お前も一つ食べなさい」
「ひっ……! あ、ああ……、ぁ……」
差し出された『デザート』を見た瞬間、エリーゼの精神は完全に崩壊の一歩手前まで追い詰められた。
なぜなら、彼女の目に映るそのチェリーの正体は――巨大なハエの王が、そのおぞましい口から「オロロロロ……」と、ぐちゃぐちゃに粘液まみれで吐き出した、**『蠢く巨大な蛆虫の卵塊』**だったからだ。
(い、嫌……! 嫌よぉおおおっっ!!)
エリーゼは心の中で血の涙を流して絶叫した。
(あの巨大なハエのバケモノが吐き出した蛆虫の卵を喰えっていうの!? そんなの、そんなの絶対に嫌! 食べたら私は完全に中身まで虫のバケモノになっちゃう!!)
「……泥虫。国王様とカナタ様からの慈悲を、また拒絶するのですか?」
後ろから、アリアさんの何十本もの触手がギチギチと音を立てて伸びてくる。
さらに、国王様も「ブウウウウウウウン!!」と、部屋全体を震わせるほどの凄まじい羽音(※国王様的には『遠慮せず食べなさい』という優しい促し)を響かせた。
(拒否すれば、あのハエに生きたまま貪り食われる……! 食べるしかない……食べるしかないのよぉおおおっっ!!)
エリーゼは完全に正気を失った目で、狂ったように笑いながら、俺の手から「それ」をひったくった。そして、目を固く閉じて、蠢く(と勘違いしている)塊を口の中へと放り込み、一気に噛み潰した!
プシャッ……!
口の中で、濃厚な果汁が弾け飛ぶ。
「――っ!?!?!?」
甘い。
信じられないほど、脳がとろけるように甘くて、みずみずしくて、極上に美味しい。
昨日食べたシチュー以上の、人生で味わったことのない究極の果実の味が、彼女の口いっぱいに広がった。
「あ、あ、あああ……っ!!(美味い……! 美味すぎる……っ! 嘘でしょう、ハエの卵がこんなに甘くて美味しいなんて……っ!?)」
エリーゼはボロボロと涙を流しながら、咀嚼を止められなかった。
あまりの美味さに、彼女の脳は完全に恐怖のカン違いへと突き落とされる。
(ああ、私の脳が……私の身体が、あのハエの王の因子を受け入れてしまっているわ……! 蛆虫の卵を『極上のスイーツ』だと感じてしまうほど、私は、私はもう……バケモノの眷属に作り変えられてしまったのよぉおおおおおっっ!!)
「ううっ、お、美味しいです……! 素晴らしいデザートです、王様、魔王様ぁあああっ!」
エリーゼは四つん這いのまま、狂ったように涙と涎を垂らし、恍惚と絶望が入り混じった表情で咀嚼を続けた。その姿は、どこからどう見ても「狂気の魔王に調教され、完全にこちら側の住人になりかけた哀れなペット」そのものだった。
「ブーン、ブーン! そうかそうか、気に入ってくれたようで何よりだ! いやあ、我が国の味覚が理解できるとは、あの泥虫もなかなか見所があるな! ブーン!」
国王様は大変嬉しそうに(※エリーゼには、ハエが前足を擦り合わせてゲラゲラ笑っているように見える)羽を鳴らした。
「カナタ様、私にも……私にも『あーん』でチェリーをくださいな」
アリアさんが嫉妬に身を悶えさせながら、ウネウネと触手を伸ばして俺におねだりしてくる。
「はいはい、アリアさんにもあげるよ。ほら、あーん」
「あんっ……♪ ああ、カナタ様の手からいただく果実は、世界で一番美味しいですわ……!」
アリアさんは幸せそうにブクブクと大量の泡を吹き、国王様は楽しそうにブーンと羽を鳴らし、部屋の隅では元皇女が「私はもう人間じゃない……」とシクシク泣きながらチェリーの種を吐き出している。
人類側の思惑などどこへやら。
引きこもり魔王の地下室は、今日も今日とて、SAN値ゼロ基準の「アットホームで狂った笑顔」に満ち溢れているのだった。
第4話をお読みいただきありがとうございました!
国王様(※巨大なハエ)の登場により、エリーゼ皇女の精神汚染(※ただの高級チェリーの美味さ)はついに最終段階へ。
次回、第2部・第5話(最終回)!
帝国側はエリーゼからの連絡が途絶えたことで、「皇女は魔王によって完全に洗脳され、バケモノの尖兵となった」と判断。
人類は最後の手段として、あの『本物の勇者』を再び動かすことになりますが……?
激動の最終回をぜひお楽しみに! ブックマークや評価での応援も、よろしくお願いいたします!




