第2部・第1話 人類が送り込んできた「最終兵器」と、アリアさんの冷たい笑顔
お待たせいたしました!『チート能力を貰って異世界転生したはずが、ステータス画面の「正気度」がゼロだった』、満を持して第2部(新章)スタートです!
完全に引きこもり魔王となったカナタのもとに、人類側から「降伏の証」としてあるお土産が届きます。不穏な空気しかしない新章を、どうぞお楽しみください!
人類最後の決死隊を(不本意ながら)返り討ちにしてから数ヶ月。
俺の引きこもり魔王ライフは、いよいよ極まっていた。
一歩もベッドから出ず、ゲーム(※不気味な魔導書に触手を突っ込むと脳内に直接映像が流れる怪異的娯楽)を楽しみ、アリアさんに「あーん」で極上スープを口に運んでもらう。
外の世界では俺のせいで人類の領土がどんどん削られているらしいが、知ったことではない。ここは安全で、何よりみんな俺に優しいのだから。
しかし、そんなある日の午後。
部屋の「肉の檻(結界)」がスルスルと開き、アリアさんが入ってきた。
「カナタ様、お寛ぎのところ恐れ入りますわ。……実は、外の『ニンゲン』どもから、貢ぎ物が届きましたの」
アリアさんの脳内ボイスはいつも通り可憐な美少女のものだ。
だが、その縦に裂けた口からは「ギチ、ギチチ……」と、いつになく不機嫌そうな鋭い牙の擦れ合う音が響いていた。全身の触手も、まるで怒れる蛇のようにピキピキと逆立っている。
(あ、アリアさん、めちゃくちゃ怒ってない……!? 貢ぎ物って一体何だ!?)
「お入りなさい、下等生物」
アリアさんの冷たい(※脳内では超絶冷徹ボイス)声に促され、部屋に入ってきたのは――一人の少女だった。
輝くような白金ブロンドの髪に、気品溢れる美しい顔立ち。身に纏うのはドレスではなく、まるで生贄のような純白の一枚布。
俺は驚いて、すかさず彼女に『万物鑑定』を放った。
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【名前】 エリーゼ・ロズワール
【種族】 人間(ロズワール帝国・第一皇女)
【状態】 極度の恐怖、決死の覚悟(正気度 88 / 100)
【目的】 最凶の魔王を肉体的に誘惑・懐柔し、人類滅亡を食い止めること。
【補足】 人類最高峰の美貌を持つ「傾国の美女」。国と民を救うため、魔王のどんな残虐な夜の営みにも耐える覚悟でやってきました。
(お、お姫様だあああああああ!!)
俺は心の中で絶叫した。
力で勝てないと知った人類側は、まさかの色仕掛けに出たのだ。
だが、送る場所を完全に間違えている。
今の俺の隣には、限界突破した好感度と独占欲を持つ「特級怪異ヤンデレ聖女」がぴったりと張り付いているのだ。
エリーゼ皇女は、ガタガタと全身を激しく震わせながら、部屋の光景を見回していた。
彼女の目(正常なSAN値)には、部屋の壁一面が脈打つ内臓でできており、その中心で禍々しい闇の魔力を垂れ流す魔王(俺)が鎮座し、その横には巨大な触手肉塊が牙を鳴らして睨みつけているという、文字通りの狂気の世界が見えているはずだ。
「は、初めまして……最凶の魔王、カナタ様……。私は、ロズワール帝国の、エリーゼです……」
皇女は涙目で、今にも気絶しそうな声を絞り出した。
そして、国を救うための「決死の作戦」を実行に移した。彼女は純白の布を肩からハラリと滑らせ、人類最高峰と称されるその美しい肢体を、大胆にも俺の前に晒したのだ。
「どうか、私の体を……お好きなようにお使いください……っ。その代わり、どうか、人類への侵攻を……っ」
必死に涙を堪え、俺を誘惑しようと潤んだ瞳で見つめてくる皇女エリーゼ。
中身も外見も、文句なしの超絶美少女だ。元日本人男子として、こんな贅沢なシチュエーションはない。
――ただし。
俺の腰に巻き付いているアリアさんの触手が、**『骨が粉砕する一歩手前』**の強さでミシミシと 締め付けられていなければ、だが。
「……カナタ様」
脳内に響くアリアさんの声は、信じられないほど冷たく、凍りついていた。
「あの泥虫が、カナタ様に不潔な肌を見せていますわ。不愉快です。今すぐ細切れにして、今日のディナーのミンチ肉にして差し上げますね?」
アリアさんの顔の裂け目が、文字通り「カパッ」と180度開き、中から緑色の酸がジクジクと湧き出し始めた。
(ひいいいいいいっ!! 助けて!! 死ぬ!! 触手で俺の腰が折れるか、あの姫様がミンチになるかの2択じゃんこれ!!)
当のエリーゼ皇女は、アリアさんのその悍ましい動きを見て「ひっ、あああ……!」と、恐怖のあまり完全に腰を抜かして床にヘタり込んでいる。彼女からすれば、魔王が自分をどう料理するか、怪物が値踏みしているようにしか見えないだろう。
俺は生き残るために、そしてこの哀れなお姫様を救うために、必死に引きつった笑顔を作って大声をあげた。
「い、いらない! いらないよアリアさん! 俺、そんな不潔なニンゲンの体なんて、これっぽっちも興味ないから!!」
「え……?」
床に伏せたエリーゼ皇女が、ショックを受けたように顔を上げた。人類最高の美貌を「不潔」「興味ない」と一蹴されたのだ。
「本当ですか、カナタ様?」
アリアさんの触手の締め付けが、ほんの少しだけ緩む。
「本当だよ! 俺にはアリアさんっていう、世界で一番美しくて優しい聖女様がいるじゃないか! あんな骨と皮だけのニンゲンより、アリアさんのこの……健康的で、ヌルヌルしてて、温かい触手の方が、何百倍も魅力的だよ!!」
俺は涙目で、アリアさんの極太の触手をギュッと抱きしめ、必死に頬擦りした。心の中のSAN値(元々ゼロだが)がさらにゴリゴリ削れる音がする。
「……っ! ああ、カナタ様……!」
脳内に、アリアさんの最大級に悶絶する可愛い悲鳴が響き渡った。
逆立っていた触手が瞬時にフニャフニャと柔らかくなり、嬉しそうに俺の体に絡みついてくる。
「嬉しい……。やっぱり、カナタ様は私だけのもの……。あの泥虫とは格が違いますわね、ウフフ、ウフフフフ!」
アリアさんは完全に上機嫌になり、ブクブクと大量の幸せな泡を吹き始めた。
なんとか、俺の腰の骨は守られた。
一方。
床に転がったままのエリーゼ皇女は、ガチガチと歯を鳴らしながら、完全に絶望した目で俺たちを見ていた。
彼女の目には、人類最高のハニートラップを仕掛けた結果、**『魔王が悍ましい怪物の触手を狂ったように愛撫し、怪物と一緒になって不気味に泡を吹いて笑っている』**という、理解の範疇を超えた真の地獄絵図が展開されているのだ。
「あ、あ、ああ……(この魔王、完全に狂ってる……。人類の常識が、色仕掛けが、何も通じない……っ!)」
エリーゼ皇女は、あまりの精神的恐怖に耐えかねて、そのまま白目を剥いてバタリと床に失絶した。
「あら、気絶してしまいましたわね。汚らしいので、隅の檻にでも放り込んでおきますわ」
アリアさんはゴミを片付けるように、触手で皇女の足を掴むと、部屋の隅の肉壁(※牢屋)へと放り投げた。
こうして、人類が送り込んできた最強の最終兵器(お姫様)は、俺たちの異常な(※SAN値0の)愛の前に、一瞬で敗北した。
引きこもり魔王の地下室に、新たな「囚われのお姫様」が加わり、第2部の奇妙な共同生活が幕を開けるのだった。
第2部第1話をお読みいただきありがとうございました!
人類最高の美女エリーゼ皇女、初登場にして精神崩壊寸前です。
次回、気絶から目覚めた皇女エリーゼが、この「地獄の地下室」で生き残るために、魔王カナタにある『最悪の誤解』に基づいたおねだりを始めます。
新章も全力で駆け抜けますので、ぜひ【ブックマーク】や【★評価】での応援をよろしくお願いいたします!




