第5話(最終回) 引きこもり魔王の、世界で一番甘い檻
ついに最終回です!ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
バケモノたちの過保護な愛によって、王宮の地下で完全な箱入りニート生活を送るカナタ。
しかし、人間側はこれを「世界を滅ぼすための禁忌の儀式」と大勘違い。
人類最後の決死隊が地下へと突入してきますが、そこで彼らが目撃する「本当の地獄」とは――。
ドン、ドォオオオオン!!
激しい爆発音とともに、俺の部屋を囲んでいた「脈動する肉の檻(アリアさんの結界)」が、聖なる光によって激しく吹き飛ばされた。
「そこまでだ、魔王カナタ! 世界を滅ぼす禁忌の儀式も、今日ここで終わりだ!」
煙の向こうから現れたのは、ボロボロになりながらも目を血走らせた、人類最後の決死隊――聖騎士たちだった。彼らは、世界を救うために命を捨てる覚悟で、この最奥の地下まで攻め込んできたのだ。
その、あまりにも高潔で悲壮な正義の姿に、俺は――。
「あ、いや……違うんです。これには、その、深いわけが……」
アリアさんの膝(※正確には、柔らかくて温かい肉塊のくぼみ)に頭を乗せ、耳掃除(※細い触手の先で優しくカリカリされている最中)をされながら、情けない声を出すことしかできなかった。
「な、なんだこの光景は……!?」
突入してきた聖騎士の隊長が、ガチガチと歯を鳴らして驚愕した。
彼らの目(正常なSAN値)には、こう映っている。
部屋の中心で、禍々しい漆黒のオーラ(※俺の無限魔力)を放つ最凶の魔王が、名状しがたき巨大な異形の肉体を椅子代わりにし、人類を精神崩壊させるための不気味な呪いの儀式を行っている、と。
「おのれ、我々を狂わせるための精神攻撃か! 騙されるな、あれが世界を滅ぼす魔王の真の姿だ! 全員、突撃ィイイ!」
「待って! 話を聞いて! 本当にただの耳掃除なんだって!」
俺の必死の叫びは、彼らには**『愚かな人間どもよ、深淵の闇に呑まれるがいい』**的な、脳を直接破壊するデスボイス(※全言語理解スキルの逆作用)として翻訳されて届いたらしい。
「う、うわあああ! 耳から血が……! 脳が、脳が溶ける!」
「神よ、我が魂をお守りくださ……!」
聖騎士たちが武器を構えて一歩踏み出した、その瞬間だった。
『――我が最愛のカナタ様の、至福の時間を邪魔するなんて』
アリアさんの脳内美少女ボイスが、冷酷なトーンへと切り替わる。
次の瞬間、アリアさんから伸びた何百本もの太い触手が、怒涛の勢いで聖騎士たちへと襲いかかった。
それだけではない。俺を驚かせまいと、俺の体から漏れ出ていた『無限の魔力』が自動的に防御壁を展開。聖騎士たちの放った神聖魔法を、触れるだけで一瞬にして霧散させていく。
「バ、バケモノめ……! 我ら人類の『正義』が、指一本触れることすらできんというのか……っ!」
「違うんだ、これは俺の意志じゃなくてオートガードなんだ……!」
俺が涙目で言い訳をすればするほど、周囲のドス黒いオーラは激しさを増していく。
わずか数分。
人類最後の決死隊は、アリアさんの容赦ない過保護カウンターと、俺のチートスキルの威圧感の前に、一人残らず戦意を完全に喪失した。
「だ、ダメだ……。あいつは強すぎる……。あれは戦っていい存在じゃない、本物の『災厄』だ……!」
聖騎士の隊長は、恐怖のあまり完全に精神を破壊され、折れた剣を放り出すと、這いずるようにして壊れた扉の向こうへと逃げ去っていった。残りの兵士たちも、悲鳴を上げながらクモの子を散らすように逃げていく。
「あ、待って……。本当に行かないで……」
俺が伸ばした手は、誰に届くこともなかった。
「ふふ、もう大丈夫ですわ、カナタ様。羽虫どもはすべて追い払いました」
アリアさんの触手が、俺の頬を優しく包み込み、涙を拭ってくれる。冷たくて、ヌルヌルとした、歪んでいるけれど本物の愛の感触。
「さあ、お耳掃除の続きをしましょうね? その後は、お昼寝の時間ですわ」
縦に裂けた巨大な口から、満足そうに「ギチギチ」と牙の鳴る音が響く。
遠くからは、ハエの国王様が「今日も我が国の平和は守られた!」とブーン、ブーンと嬉しそうに羽を鳴らす音が聞こえてきた。
(……ああ。もう、いいか)
俺は、そっと諦めるように、目の前に浮遊していたステータス画面を閉じた。
【SAN値:0 / 100】の数値は、相変わらず綺麗にゼロを示している。
外の世界(人間側)からは、誰も近づけない『最凶の引きこもり魔王』として永遠に恐れられ。
内の世界(バケモノ側)からは、全力で甘やかされ、愛される『箱入り娘の救世主』として過ごす。
自由はない。人間としての尊厳も、とっくにドブに捨てた。
だけど――この冷たくてヌルヌルした触手の檻は、驚くほど温かくて、心地が良かった。
「うん。よろしくね、アリアさん」
俺は笑顔でアリアさんの肉塊に身を委ね、世界で一番甘くて恐ろしい、終わらない監禁ライフへと、幸せに溺れていくのだった。
【第一部・完】
人間側にとっては最悪のバッドエンド、カナタにとっては(ある意味)最高(?)のハッピーエンドという、なろうホラーならではの結末となりました。
ここまで読者の皆様と一緒にこの狂った世界を駆け抜けることができ、作者としてこれ以上の喜びはありません。
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