第4話 過保護すぎる監禁生活と、勘違いのパニック
第4話をお読みいただきありがとうございます。
人間に拒絶され、聖女アリア(※肉塊)によって王宮の地下へと連れ去られたカナタ。
始まったのは、暴力も苦痛もない、ただただ精神が削られていく「最凶の過保護ライフ」でした。引きこもり魔王の誕生です。
「――ふふ、よく眠っていらっしゃいましたね、カナタ様」
目が覚めると、そこは天国のような場所だった。
シルクのように滑らかな最高級のベッド。部屋のあちこちには美しい花が飾られ、大理石の床はピカピカに磨かれている。王宮の地下室と聞いてドナドナされる覚悟をしていたのだが、用意されていたのは、前世の大統領スイートルームもかくやという超豪華な部屋だった。
……ただ一点、部屋の四方が**「脈動する巨大な肉の檻」**で囲まれていることを除けば。
「さあ、朝食のお時間ですわ。カナタ様のために、私が付きっきりで作りましたの」
ベッドの脇には、相変わらず純白の法衣を纏った巨大な肉塊――アリアが控えていた。
何十本もの触手を嬉しそうにウネウネと蠢かせ、縦に裂けた口から「ギチギチ!」と牙を鳴らしている。脳内に響く声は、寝起きの耳に心地よい超絶美少女ボイスなのが本当に脳をバグらせる。
「あ、アリアさん……。あの、俺、もう元気ですし、外に出たいなーなんて……」
「ダメですわ」
アリアの声が、一瞬だけドスの利いた低音になった。
数本の太い触手がベッドの周りをガッチリと囲い、俺の退路を断つ。
「外には、カナタ様を騙して利用しようとする、あの邪悪な『ニンゲン』どもがウロウロしているのです。貴方はお優しすぎるから、またすぐに傷つけられてしまう……。だから、ここにいてください。ここなら、誰も貴方に触れられません。私が、一生お世話して差し上げますから」
アリアの脳内ボイスは、愛する人を心配して泣き出しそうなヒロインそのものだ。
しかし目の前では、顔の裂け目から黄色い粘液をドバドバと溢れさせている。愛が重い。物理的にもビジュアル的にも重すぎる。
「ほら、お口を開けてください。あーん、ですわ」
一本の触手の先が器用にスプーンを掴み、スープを俺の口元へと運んできた。
俺は本能的な恐怖に震えながらも、そのスープに『万物鑑定』を放つ。
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【名称】 聖女特製・愛の特濃ハーブスープ(※主人公の目には「どろどろに溶けた謎の目玉スープ」に見えています)
【状態】 出来立て(時折、小さく気泡が弾けます)
【味】 絶品。体の芯から元気が湧き出る、極上のコーンポタージュ味。
【補足】 カナタ様への愛の魔力が込められており、これを飲むと絶対に病気になりません。
(美味い! 体にも良い! 鑑定結果に嘘はない! だが、見た目が魔女の劇薬なんだよなぁ……!)
「あ、あーん……」
覚悟を決めて口を開け、スープを流し込む。
……美味い。びっくりするほど優しい、極上のコーンポタージュだ。美味すぎて涙が出てくる。
「まあ、美味しいですか? 嬉しいわ、カナタ様」
俺が大人しく食べたことで、アリアは機嫌を良くしたらしい。ブクブクと泡を吹きながら、別の触手で俺の頭を「いい子いい子」と撫でてくる。冷たくてヌルヌルする。
ぶっちゃけ、女神から貰った『無限の魔力』を使えば、この肉の檻をぶち破って脱出することなんて造作もない。
だが、それをやれば、目の前でこんなに嬉しそうに(※牙をギチギチ鳴らしながら)俺に尽くしてくれているアリアを傷つけることになる。中身は純粋な善意と愛なのだ。俺の良心が、チート能力の発動を全力でストップさせていた。
◇
それから数日が経ったが、俺の監禁監護生活は徹底していた。
食事、お風呂、着替え、すべてアリアが(触手で)やってくれる。
時折、ハエの国王様も「勇者殿、住み心地はいかがかな?」とわざわざ地下までお見舞い(?)に来てくれて、最高級のおもちゃや本(※人間の皮で装丁されたように見える不気味な魔導書)を差し入れしてくれた。王国全体で、俺を全力で箱入り娘のように守ろうとしている。
完全なニート生活。ある意味では天国だが、精神的SAN値は毎日すり減っていく。
そんなある日。アリアが部屋の掃除をしながら、外の様子を教えてくれた。
「そういえばカナタ様。外の『ニンゲン』どもですが、大変なパニックになっているようですわ」
「え? パニック?」
「ええ。彼らは、カナタ様が王宮の最奥、地下深くに潜み――**『世界を混沌の闇で塗り潰す、終焉の禁忌儀式』**を執筆されていると勘違いしているのです。本当に愚かな下等生物たちですね、ふふふ」
アリアは可笑しそうに(※無数の触手を激しくのたうち回らせながら)笑った。
(いや、それ、俺が地下に監禁されて引きこもってるのを、人間側が深読みして大恐怖してるだけじゃねえか!!)
俺がただアリアに「あーん」されてスープを飲んでいるだけの時間が、人間側からは「最凶の魔王が世界滅亡の呪いを編んでいる絶望の時間」としてカウントされているらしい。
「彼らは、カナタ様を恐れるあまり、もう誰もこの国へ近づこうとしません。これで安心ですわね、カナタ様」
アリアの触手が、ベッドに座る俺の腰に、スルスルと愛おしそうに巻き付いてくる。
「もうすぐ、お昼寝の時間です。今日も私と一緒に、お眠りになりましょうね?」
脳内に響く甘い甘い美少女の声。
俺を捕らえて離さない、冷たくて力強い触手の束。
外の世界では「最凶の引きこもり魔王」として恐れられ、内側の世界では「過保護な化け物たちの姫」として愛される。
俺はもう脱出することを諦め、アリアの肉塊に背中を預けながら、静かに目を閉じるのだった。
第4話をお読みいただきありがとうございました!
完全に「最強の引きこもり魔王」のポジションが確立されてしまったカナタ。人間側の勘違いパニックも最高潮です。
次回、いよいよ最終回(第5話)。
立てこもるカナタを討伐するため、人間側が「決死の最終作戦」を敢行しますが……?
結末をぜひ見届けてください! ブックマークや評価での応援も、よろしくお願いいたします!




