第2話 王宮の歓迎パーティと、ピクピク動く「最高のご馳走」
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無事に(?)聖女様(※肉塊)の抱擁を乗り越えたカナタですが、次は国を挙げた大歓迎を受けることになります。王宮って、こんなに恐ろしい場所でしたっけ……?
ガタゴトと心地よい揺れに揺られながら、俺は豪華な馬車の中にいた。
目の前には、相変わらず純白の法衣を着た巨大な肉塊――聖女アリアが座っている。
(落ち着け、落ち着け俺。彼女の中身は聖女だ。俺を心配してくれている。ただ、俺のSAN値がゼロだから、見た目がバイオハザードのラスボスみたいになってるだけだ……!)
自分にそう言い聞かせ、必死に心拍数を下げようとする。
だが、アリアから伸びた一本の濡れた触手が、俺の額の汗を『優しく』拭った瞬間、ヒッと喉が鳴った。冷たくて、ヌルヌルする。
「まあ、まだ熱があるのでしょうか。勇者様、私の隣へどうぞ。聖なる魔力で癒やして差し上げますわ」
脳内に響くアリアの声は、優しさに満ちた美少女ボイス。
だが目の前では、縦に裂けた口から「ギチギチギチ!」と牙を鳴らし、無数の触手をウネウネと蠢かせている。
「い、いえ! 大初夫です! 気持ちだけで十分ですから!」
「遠慮なさらないで」
ズブブ、と肉塊が座席を滑って隣に移動してきた。拒否権はなかった。
アリアの太い触手が、俺の体に優しく巻き付く。締め付ける力は絶妙に心地よいが、視覚的恐怖が限界突破している。俺はただ、窓の外の景色(※空が血の池のように真っ赤に見える)を見つめて現実逃避するしかなかった。
◇
馬車が止まり、俺たちは王宮へと案内された。
アリアの案内で、豪華絢爛な廊下を歩く。……いや、豪華絢爛なのは『全言語理解』がそう認識させているだけで、俺の目には**「脈動する巨大な生物の内臓の裏側」**を歩いているようにしか見えない。壁がさっきからドクンドクンと波打っている。
「勇者カナタ様、お目通りにございます!」
重厚な扉が開かれ、謁見の間へと入る。
玉座に座っていたのは、この国の国王だった。
「よくぞ来てくれた、異界の勇者よ!」
豪奢な毛皮のマントを羽織り、威厳に満ちた声で笑う国王。
しかし、俺の目に映るその姿は――体長3メートルを超える、直立した巨大なハエだった。
何万もの複眼がギラギラと俺を捉え、口元からはハエ特有の不気味な触肢がピクピクと動いている。
(う、うわあああああ!! マジもんのベルゼブブじゃねえか!!)
慌てて周囲の近衛騎士たちを見る。
フルプレートの鎧を着込んだ頼もしい騎士たち。だが、鎧の隙間からは、無数のムカデやゴキブリのような多足類の足がワサワサと溢れ出て、絶え間なく蠢いていた。集団組織系の怪異だ。
「さあ、旅の疲れもあるだろう。まずは我が国が誇る最高の料理で、歓迎の宴を開こうではないか!」
ハエの王が嬉しそうに両手(前足)を擦り合わせる。
俺は本気で「今すぐ元の世界へ帰してくれ」と心の中で女神に毒づいた。
◇
王宮の食堂。
長机には、色鮮やかなご馳走が……並んでいるはずだった。
「カナタ様、こちらは我が国の一級料理人が腕を振るった、地底特産の『ルビナス牛のステーキ』ですわ。どうぞ温かいうちに」
アリアが親切に、俺のお皿に料理を取り分けてくれる。
俺は引きつった笑みを浮かべながら、その『ステーキ』に『万物鑑定』を放った。
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【名称】 ルビナス牛のステーキ(※主人公の目には「未知の巨大生物の、まだ生きてる心臓」に見えています)
【状態】 新鮮(ピクピクと動いています)
【味】 絶品。口の中でとろけるような極上の赤身肉。
【補足】 食べても人体に害はありません。むしろ魔力が回復します。
(害はない! 味も美味い! 鑑定文がそう言ってる! だけど……!)
皿の上にあるのは、赤黒く変色し、ドクンドクンと自律的に脈打っている「肉の塊」だ。フォークを突き刺すと、プシューッと紫色の体液が噴き出した。アリアや国王、周囲の貴族(※全員漏れなくクリーチャー)たちは、「美味しそうね」「お味はいかがかな、勇者殿?」と、微笑ましそうに(※牙を剥き出しにしながら)俺を見つめている。
(食わなきゃ、こいつら全員を敵に回す……。味は美味いんだ。味は美味いんだ……!)
俺は自己暗示をかけるように目を瞑ると、脈打つ肉の塊をナイフで切り裂き、口の中へと放り込んだ。
「――っ!?」
目が見開かれる。
美味い。信じられないほど美味い。超高級霜降り肉をさらに濃厚にしたような、芳醇な旨味が口いっぱいに広がる。
「どうですか、カナタ様?」
アリアが触手を揺らしながら、期待に満ちた(美しい)声で聞いてくる。
俺は涙目で、必死に喉へと肉を押し込み、満面の笑み(ひきつり顔)で答えた。
「はい……っ! とっても、美味しいです……! こんなに素晴らしいおもてなし、生まれて初めてです!」
国王のハエが「ワハハ!」と満足そうに羽をブーンと震わせ、アリアの肉塊が嬉しそうにブクブクと泡を吹いた。
チート能力のおかげで、味覚も会話も完璧に通じる。
だけど、俺の精神(SAN値)は、確実にガリガリと削り取られていた。
(誰か助けてくれ……。俺、この世界で魔王を倒すまで、ずっとこの食生活を続けなきゃいけないのか……!?)
俺の涙混じりの決意を、周囲の化け物たちは「感動のあまり震えている」と勘違いし、宴の夜は更けていくのだった。
なんとか最初の食事会を生き延びたカナタですが、生き地獄は始まったばかり。
次回、いよいよ「魔王軍」の偵察部隊が王都を襲撃します。
そこでカナタが目にする、魔王軍の『驚くべき姿』とは……?
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