好感度MAXの聖女様(触手持ち)に抱かれながら、俺は静かに絶望する
はじめまして。異世界転生ものの王道と、少しの(?)恐怖を掛け合わせた物語です。主人公カナタの、過酷すぎる異世界サバイバルをお楽しみください。
「――目が覚めましたか、勇者様」
鈴を転がすような、透き通った美しい声が鼓膜を震わせた。
(……ここは?)
体を起こそうとするが、ひどく頭が重い。どうやら俺は、どこかのお神殿の祭壇のような場所に寝かされているようだった。
「良かったです。神託の儀式が成功したのですね」
声の主へ視線を向ける。
そこには、純白の法衣に身を包んだ、金髪碧眼の超絶美少女がいた。憂いを帯びた瞳で俺を覗き込み、安心したように胸に手を当てている。王道ファンタジーの聖女、そのものといった容姿だ。
死後の世界で出会った女神の言葉を思い出す。
『あなたには、異世界を救う勇者として転生してもらいます。お詫びとして、最強のチート能力をいくつか授けましたからね。ステータス画面を開けば確認できますよ』
(そうだ、俺は転生したんだ! よし、まずは定番のステータス確認だな)
俺は胸を躍らせながら、心の中で「ステータス・オープン」と呟いた。
目の前に、半透明の光のウィンドウが広がる。
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【名前】 テンマ・カナタ
【ジョブ】 異界の勇者
【レベル】 1
【魔力】 ∞(無限)
【ユニークスキル】 『万物鑑定』『全言語理解』
(おお……! マジで魔力無限じゃん! ユニークスキルも超便利そうだし、これならイケる!)
大興奮で画面をスクロールする。しかし、一番下の一行に目が留まった瞬間、俺の思考はフリーズした。
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【異常状態】 『致命的な狂気(手遅れ)』
【SAN値(正気度)】 0 / 100
(……え? さんち、ぜろ?)
SAN値。某クトゥルフ神話TRPGとかでよく見る、正気度を表すパラメータだ。それが、ゼロ。おまけに「手遅れ」と書かれている。
その数値を認識した、次の瞬間だった。
頭の芯を、強烈な、割れるような激痛が襲った。
世界が、ぐにゃりと歪む。
「……勇者、様? どうか、されました、か?」
聖女の声が、急に遅回しのレコードのように歪んで聞こえ始める。
いや、違う。
脳内にある『全言語理解』のスキルが、無理やり彼女の声を「翻訳」しているのだ。耳に届く生の音は、そんな綺麗な声じゃない。
「ギチ、ギチギチ……ヌル……ュルル……」
引き攣った悲鳴を上げそうになりながら、俺は目の前の「聖女」を見た。
――金髪の美少女など、そこにはいなかった。
そこにいたのは、純白の法衣をボロ布のように纏った、巨大な肉塊だった。
顔があるべき場所には、縦に裂けた巨大な口があり、そこから何百本もの鋭い牙と、黄色い粘液がボタボタと滴り落ちている。頭部からは、何十本もの濡れた触手がイソギンチャクのように生え、せわしなく蠢いていた。
「ウ、ウア……、ア……」
腰が抜け、祭壇から転げ落ちる。
化け物の体から生えた数本の触手が、心配そうに俺の肩に優しく触れた。ゾっとするほど冷たくて、ヌルヌルしている。
『全言語理解』が、その化け物の行動を脳内で再生する。
(※「大丈夫ですか? 酷く怯えていらっしゃる。召喚の負荷でしょうか」と、脳内ではあの聖女の癒やしボイスが響く)
チート能力のせいで、相手の言葉(怪音)の意味が分かってしまう。
中身は、間違いなく優しくて、俺を心配してくれている。
だけど、見た目は、どうしようもなく――ただの化け物だ。
俺は震える手で、その化け物に『万物鑑定』を放った。
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【種族】 聖女(※主人公の目には「深淵の落とし子」に見えています)
【好感度】 MAX(あなたに深く心酔しています)
【補足】 あなたのことが愛おしくてたまらない。今夜の歓迎パーティーでは、人間の新鮮な脳みその踊り食いを振る舞おうと張り切っている。
(ひっ……、あ、あああああああ!!)
狂っているのは世界か、それとも、SAN値がゼロになった俺の脳なのか。
確かなことが、一つだけあった。
ここで「お前、化け物じゃねえか!」と叫んで彼女(?)の好意を裏切れば、俺の異世界ライフは、1日目にして最悪の形で終わるということだ。
「……は、はい。大丈夫です、聖女様。少し、長旅で疲れくれただけのようです」
俺は引きつった笑顔を浮かべ、涙目を必死に隠しながら、その悍ましい触手を優しく握り返した。
こうして、俺の「絶対に正気だとバレてはいけない異世界勇者生活」が幕を開けた。
第1話を読んでいただきありがとうございます!
最強チートを手に入れたはずが、まさかの精神崩壊スタートとなったカナタ。
次回は王宮へと案内されますが、そこにはさらなる恐怖の出会いと、絶望の「歓迎パーティー」が待っています……。
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