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最終話、宝物


 ルネディアの帝王が起こした大事件から、三ヶ月がすぎていた。


 太陽の戻ったルネディア帝国には少しづつ人々が戻りはじめた。スキル持ちと言う理由で家族と離れ離れだった者も帰ってきた。


「商人も見かけるようになったから賑やかね」

「屋台もあるから美味しそうな匂いもするよ」

「ふふふ! 鶏肉を焼いてるのかしら?」

「そうかも! 食べにいく?」

「そうね。行きましょう」


 ヒルのダンジョンの大穴は埋められ今は入り口すら無い。ダンジョンボスの力が戻って魔法石が生成されはじめたら魔物も戻ってきて、またダンジョンが口を開けてくれるに違いない。


「ダンジョンどのくらいで戻るのかなぁ?」

「早く戻るといいわよね。いつかヒルのダンジョンにも行ってみたいものね」

「うん!」


 屋台で串に刺さった香ばしい鶏肉を買って歩きながら食べる。噛みつくとジュワッと肉汁が滲み出て香辛料がピリッと効いて美味しい。


「そういえばファディスさんが帝王の地位を継ぐそうよ」

「凄いね。王様になるんだ」

「きっと素敵な王様になると思うわ」

「うん! ファディス優しくて頭がいいからね」


 花屋で花を一輪ずつ買ってから、中央大広場に向かう。そこには沢山の花に囲まれた背の高い石碑が三本建っていた。


「この石碑は過去の罪を忘れないためと殺めてしまった者たちを弔うものだそうよ。前の帝王ストラフォリさまとソフィアさまが建てたみたいよ」

「もしかして刻んである文字は名前かなぁ?」


 びっしりと余す所なく書かれた文字をサアヤが指で辿る。


「全員のお名前が書かれてるそうよ」

「こんなにも沢山の人間たちが……。悲しいね」

「えぇ。けどもう二度とあんなことは起きないはずよ」

「うん! そうだね」


 ファディスなら大丈夫。もしものことがあっても、ボクもサアヤも駆けつけるつもりだからね。


「お! お二人さん、久しぶりだね」

「あ! ハイポーションくれた人だ」

「お久しぶりです。無事だったんですね。使わなかったハイポーションお返しします」


 サアヤがリュックサックに手をかける前に、男は「それはあげたものだ。返さなくていい」と首を振った。


「それよりも、お互い元気に再会できて良かった良かった」

「今日は何をしてたのですか?」

「これを女王から預かってきた」

「手紙? 女王さまのお知り合いだったのですか?」

「あぁ。ヴェルチマーさまとは長い付き合いだ。俺は表向きは農夫だが、本当の仕事は情報集めなんだ」

「そうだったのですね。お手紙ありがとうございました」

「仕事のついでだから気にしなくていい。じゃ、またな」


 男と別れてから石碑に祈りと花を捧げて、再び街を歩きだす。


「ね! ニャーさん、ルフトラーガに行きましょう。私、妖精さんやエルフさんが誕生するところが見てみたいの!」


 ボクの前を歩いていたサアヤが、パンッと手を打ち鳴らし振り返る。凄く目が輝いてる。ボクも、気になってたから答えは決まってる。


「ボクも見たい!」

「決まりね。じゃあ、まずはお船を探さないといけないわね」

「待ってサアヤ。ボクに考えがあるんだ。街の外に行かない?」

「分かったわ。けど何かしら?」

「楽しみにしてて」


 サアヤと手を繋いで走りだす。サアヤが寝た後こっそり特訓してたんだけど、今度こそ成功しそうなんだよね。


「ここなら大丈夫かな? サアヤ見てて!」


 街を出て木々が生い茂る、ちょっとした林の中で立ち止まり集中する。ボクの内にいる爺ちゃんの鼓動に耳をすまして胸の奥に力をためる。そして頭の中でイメージする。


ボフンッ!!


 大きな破裂音と共にボクの姿が変わる。


「まぁ! とても素敵! ニャーさん、かっこいいわ」

「やった! 成功した。ボクかっこいい?」

「えぇ! とても素敵でかっこいいわよ!」


 何度も失敗したけど、ついに爺ちゃんの姿そっくりのドラゴンスケルトンに変幻することが出来たのだ。違いがあるとすれば、背中の部分にだけタテガミを作ったことだ。


「じゃあ。ボクに乗って」

「分かったわ」


 伏せの姿勢をしてサアヤが乗るのを待つ。


「タテガミをしっかりつかんでね」

「つかんだわ」


 ぎゅうっとサアヤが、ボクのタテガミをつかんだのが分かった。ゆっくり翼を動かす。風が起こり草木を揺らし、ふわりっと身体が浮く。


バサッ! バサッ!!


「ルフトラーガに向けて、しゅっばーつ!!」

「まぁ! まぁ! まぁ! 飛んでるわ!! 街が小さく見えるわね。人々の姿はもう見えないくらいだわ」


 大興奮のサアヤを乗せて、ルネディアの空を一周してから、ルフトラーガの方角に向かって飛ぶ。


「早いわね。もう見えてきたわ」

「爺ちゃんの超加速スキルのおかげだよ」


 風でサアヤが吹き飛んだり圧でペシャンコにならないように、完全防御スキルも発動させたままにしてある。全体化できるって凄い。サラたちのおかげだよね。


「あの辺に降りるね」

「世界樹の湖の近くね」

「うん。キラキラして綺麗だからね」

「グノーさんたち、きっと驚くわね」


 クスクス笑うサアヤは楽しそう。ボクもワクワク楽しくなって尻尾が揺れる。尻尾も大きくなってるからブォンブォンと凄い音が鳴った。ゆっくりゆっくり着地してから、人間に変幻する。


『サアヤちゃん、ニャーちゃん、久しぶりにゃん。そしてグッドタイミングにゃ!』

「久しぶりサラ。元気そうだね」

「久しぶりサラさん。グッドタイミングって何かしら?」

『ふっふっふっ! 誕生するにゃ』

「それって、もしかして!」

「エルフさんたちが生まれるのかしら?」

『その通りにゃん。ついてくるにゃ』


 ふわっとボクたちの前を飛んでいき、湖の辺りで咲く白い花の前に舞い降りる。


『見てて、精霊はこの雪兎の花の蜜から生まれるにゃん。同時にイフェルのダンジョンの中でも生まれてるはずにゃ』


 白い大きな花弁の中心から、とろりと黄色くて透明な雫が滴り、地面に落ちた瞬間。半透明の小人が現れた。それから背中からゆっくり羽が生えて精霊の姿になっていく。


『生まれたばかりの子は、属性が決まるまで、しばらく動かないにゃん』

「壊れてしまいそうなくらい小さいけど素敵だわ。それに可愛い」

「あと力も強く感じるね」


 ボクたちの周りの花々から次々と生まれる。なんだか凄い。


『あぁ〜。ニャーさんたちだぁ!』

『再び会えて嬉しい』

『ifは!7¥』

「みんな久しぶり」

「グノーさん、ディーネさん、シルフィさん、お久しぶりね」

『ちょうど良かったのぉ〜』

『世界樹からエルフが生まれます』


 今までになく強く金色に輝きを放つ世界樹に注目する。黄色いツボミが開くと、丸くうずくまった人間が現れた。ゆるゆると顔を上げると耳が尖ってるのが分かった。金の髪はサラリと流れ落ち、ボクたちを見つめる瞳は新緑色。けどまだ声は出ないみたい。


「美人さんばかりなのね」

「エルフって綺麗だね」

『今はまだ静かだけど、半月もすれば賑やかになるにゃ。その時また遊びにくるといいにゃん』

「ぜったい来るよ」

『これから世話で忙しくなる』

「その時はお手伝いするわ」


 しばらくエルフと精霊の誕生に夢中になったあと夕暮れと共にサラたちと別れ、再びドラゴンスケルトンになって飛ぶ。


「次はどこ行こうか?」

「お家を出て一年が経ってしまったから、お父さまとお母さまに旅の報告に行きたいわ。実はね。お手紙を読んだら会いたくなってしまったの」


 女王からだと男から渡された手紙は、ピネからだったみたいだ。クロスが転がり込んできたことや、女王の婿探しが本格的になったこと、そして両親のことが書かれてたんだと、サアヤは顔をほころばせボクに話してくれた。そんな話を聞いたらボクだって家に帰りたくなっちゃうよね。


「ボクもガウムとフェリアに会いたい」

「じゃあ。よろしくねニャーさん」

「任せて」


 夕日で景色が赤く染まる中、飛び続ける。鳥たちを追い抜いたり、すれ違ったりしながら故郷に向かう。


「グレングル大陸もメディセーラ大陸も三日月の形をしてたのね」

「空から見ると面白いね。ルフトラーガは円形だったよ」

「ふふふ! 本当に不思議で面白いわね」


 すっかり日が沈む頃、懐かしい我が家が見えてきた。


「灯りがついてるわ」

「二人共、まだ起きてるみたいだね」


 旋回しながら家の前に舞い降りた。反動で風が起こり、家の窓やドアをガタガタ激しく鳴らしてしまった。着地して、すぐに人間に変幻する。


「嵐か!? いきなり一体なんなんっ! って! サアヤとニャーか!!」

「あらあら、まあまあ! お帰りなさい。サアヤ、ニャーさん」

「お父さま、お母さま、ただいま帰りました」

「ただいま! ガウム、フェリア」


 ドアが勢いよく開いて、ガウムとフェリアが飛び出してきた。凄く強い風を起こしたからビックリさせたみたい。それでも二人は笑顔で迎えてボクとサアヤを、温かな両腕でギュウギュウと力いっぱい抱きしめてくれた。フェリアからはミルクシチューの甘い匂いがする。


「ちょうど夕ごはんを食べていたところなのですよ。一緒に食べましょう」

「身体があったまるぞー!」


 家の中に入ると懐かしい匂いがする。たった一年くらいしか経ってないのに、なんだか胸のあたりが熱くてたまらない気分になる。サアヤも同じ気持ちみたいで、顔が赤らみボクの手を握る手がいつもより熱い。


「ほら、突っ立ってないで席に座って食べよう」

「温めたばかりだから美味しいですよ」


 小さなテーブルを四人で囲んで、温かいミルクシチューを食べる。家族と食べるこの世で一番、美味しい幸せご飯。ボクとサアヤは、今まであった様々な出来事を話す。フェリアもガウムも、笑ったり涙ぐんだりしながらも真剣な表情で最後まで聞いてくれた。

 

「シルフィさんからもらった紙鳥はファディスさんに使おうと思うの。いいかしら?」

「ファディスきっと喜ぶよ」

「お父さまとお母さまもいるけど、やらなくてはいけない事が山積みって言ってたから応援しなくちゃね」

「うん!」


 食後、ベッドに転がりながらサアヤはペンを走らせる。一枚の紙にビッシリと書いていく。ボクはあまり難しい文章は読めないけど、なんとなく書かれてる内容は分かる気がした。サアヤと一緒にいるようになってから、簡単な言葉は少しずつ読めるようになったんだよね。


「完成したわ。鳥さんお願いします。ファディスさんの元へ必ず届けてね」


 綺麗に折りたたんで、ベッドサイドの窓を開ける。すると手紙は白い鳥に姿を変え「ピュイ!」っと、ひと鳴きしてから翼を羽ばたかせ空高く飛び立っていった。


 空には月二つ。サアヤと出会って初めて一緒に過ごした明るい夜と同じ。


「沢山の人との出会いやお別れ。大変なこともあったけどとっても楽しかったわ」

「うん! 初めてのことばかりだったけど色々な思い出もいっぱいできたね」

「私たちだけのとても大切な宝物ね」

「宝物! うん! 思い出全部宝物だね!」

「ふふふ!」

「えへへ」


 ベッドの上にサアヤと手を繋いで寝転がって目を閉じる。


 旅に出て分かった事がある。


 爺ちゃんとの別れは身体を引き裂かれてしまったと錯覚するくらい、イタクて苦しくて悲しかった。今も少しだけイタイ。


 けどだからこそ隣に眠るサアヤ、そしてガウムとフェリアの待つ優しく温かい、この家が世界で一番の大切な宝物でかけがえのないモノだってことを知った。


 猫スケルトンに変幻してサアヤの胸元に潜り込む。


「ふふふ! やっぱりニャーさんは、どんな姿でも可愛いわね」

「サアヤは大切で最高の宝物だよ」

「嬉しい! 私もニャーさんのこと大好きよ」


 ほわりと柔らかくサアヤは笑んでボクを抱きしめてくれた。


 きっと爺ちゃんがいなくなった時に感じたイタミさえも、そのすべてがボクの心の中で生きてる宝物なんだと気づいた。


 まるでボクの思いに応えるかのように胸の奥で爺ちゃんが力強くドクンッと鼓動した。


 ⭐︎完⭐︎



最後までお読みいただき心から感謝いたします。


ブクマ、☆評価、応援、とても嬉しくて励みになりました。

本当にありがとうございます。

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