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五十二話、赤い石


 どれほどの時間が過ぎただろう。クロスは立ち上がり泣き腫らした真っ赤な瞳で、ボクたちを睨む。


「ルノンが言ってた。ダンジョンからの莫大なエネルギーが途絶えれば、赤い石の効力も消えて操られていた人々が解放されルネディア攻略が楽になる。だから残るは帝王の親衛隊のみだってな。だから失敗は許さない!」

「了解した。全力を尽くす」


 バタバタ、カツカツ、ガチャガチャと、ボス部屋の更に奥から聞こえてくる。


「もう私たちが来たことに気がついたのね」

「どんどんボクたちに向かってきてるよ」


 小さく弱い魔物はボクたちに近づくこともできない。ピネのペンダントと精霊たちの加護があるからね。けどここからは戦いを避けられないかもしれない。


「ヒルのダンジョンボスは時間経過で回復するだろう。しかしルノンが命懸けで助けてくれた母上……ソフィアはおいてはいけないが背負って行くには……」

「じゃあ、ボクの背中に乗せていくよ」


 ピョンと飛び跳ね猫スケルトンに変幻する。人間を乗せるために身体は大きくした。フィーネで見かけた大人の熊獣人くらいの大きさだ。


「布でソフィアさまを背中に乗せるから、ニャーさん少しかがんでくれる?」

「うん。分かった」


 膝をたたんで伏せの姿勢をとると、まだ意識が戻らないグッタリとしたソフィアを、サアヤとファディスが背中に乗せてくれた。仕上げに落ちたりしないように、ソフィアの身体を布で包んだ。


「これで大丈夫よ」

「ありがと」

「じゃあ、最後の目的を果たしに行こう!」

「体制を立て直される前に一気に決着をつけるぞ」


 走り出す。


「俺は魔物をやる」


 向かってくる魔物をクロスが引きつけ、剣で倒していく。勇者スキルのおかげか魔物たちは斬られても死んだりはしない。


「じゃあ、オレは兵士をどうにかしよう」


 赤い石の効力が残る兵士たちに、ファディスがレイピアを振りかざせば、浄火の炎が燃え上がり兵士たちを包み込み次々に倒れていく。兵士たちは意識は失ってるけど鼓動を感じるから、もちろん生きてる。


「悪い! 逃した」

「頼んだ」

「分かった!」


 ボクは、二人の手を逃れた魔物や兵士を前足で振り払って気絶させていく。怪我をするといけないから爪は出さない。もちろんボクの後ろをついてきてるサアヤには指一本触れさせない。


「だいぶ向かってくる奴らも減ってきたな」

「見ろ! 城の地下室じゃないか?」


 崩れた壁の中に入ると煉瓦造りの小部屋に出た。蜘蛛の巣だらけの天井、木箱や錆びた槍や剣が無造作に置かれただけのさびれた場所。ボクたちが入ってきた反対側の木の扉が半開きになっていた。


「なんか上が騒がしいよ?」


 叫び声や剣撃の音、ドタバタガシャガシャ走りまわる様々な音が間近から聞こえてくる。


「ギルドの連中が先に到着してんだろ」

「乱戦の合間をすり抜けていけば最小限の戦いですみそうだな」

「力は父上に会うまで温存したいからな」

「そういうことだ」


 小部屋から出ると、人間だけじゃなく魔物も血を流して倒れていた。ファディスとクロスみたいに手加減する余裕は無かったのかもしれない。鉄錆の匂いをふくむ、よどんだ空気に満ちた城内を走り抜けていく。途中、何人ものギルドの冒険者たちに遭遇したけど、銀の鍵を見せると「ご武運を」とお辞儀をされた。


 大広間を抜け中庭に出ると見上げるほどの高い塔が建っていた。


「父上はたぶん歴代肖像画の飾ってある部屋にいるはずだ」

「間違いねー。この塔の最上階だけは血族と帝王に認められた者しか入れねーからな」

「ボクたちは入れないの?」

「結界石を破壊すればいいだけのことだ」


 何十段もある螺旋階段を、息を切らせながら一度も休むことなく駆け上がる。


 最上階、細かな草花と美しい鳥たちの彫刻が施された石造りの大扉の前に着いた。


「結界石はどこにあるのかしら?」

「アレだ」


 大扉に描かれた鳥たちの中でも、大きく翼を広げたひときわ大きくて真っ白な鳥の足の部分にはまってる青い宝石、それが結界石みたいだ。


「俺が壊す」


 クロスが、剣先を一気に青い宝石めがけて突き立てる。


ガッ!


バリバリバリーンッ!!


 ガラスが割れるような激しい音が響いたかと思うと、石造りの大扉がサラサラと砂のように崩れ落ちた。


「そろそろ来ると思っておった」


 窓の外を眺めていた重々しい黒い鎧を身にまとった大男、帝王は皮のマントをひるがえし振り返ると、ボクたちを血のような赤い眼で見下ろす。右手には大剣が握られ殺気を隠す様子もない。


「その眼、まさかッ」

「クックックッ。気がついたか。魔呪の石も儂にかかれば、たいしたことなかったわ。儂は狂ったりなぞせんかったからな。こんなもんに狂わされるなぞ、今までの奴らが役立たずのゴミだったことが分かってしまったわ」


 左手を開いてボクたちに見せる。手のひらの上には赤い石が五つ乗ってる。


「まだ残ってたのか」

「これが最後だ。ヒルの太陽樹からしか採れない上に加工に時間がかかる割に使い勝手も悪かったがな」

「太陽樹?」

「フン! そんな事も知らずにヒルのダンジョンの封印を解いたのか。巨木があっただろう? アレが太陽樹だ。そしてコレはその種だ」


 さながらダンジョンボスは太陽樹の守護獣なんだろう。今は封印され力を吸われてた影響で弱ってるけどね。


「加工って何をしてたんだ?」

「貴様らは本当に何も知らんのだな。この石版を見ろ」


 持っていた大剣を床にガッと突き刺し、部屋の隅のテーブルを大げさに、バンッと叩いた。

 

「ヒルのダンジョンには太陽樹、ヨルのダンジョンには月光樹が眠っている。種を芽吹かせ、その実を取り込んだなら絶大な力を手にすることができる。だが人間には過ぎた力。ゆえに触れることを禁忌とする。もし禁を破ったならば太陽と月を失うだろう」


 ファディスとクロスは警戒をしながらもテーブルの上の石版を覗きこみ読みはじめた。


「なんだこれは!? まさかグレングル大陸に太陽がないのは禁を破ったからなのか?」

「太陽なぞ魔法石があれば問題ない。力が手に入れさえすれば些細なことだ」


 クックックッ! ハッハッハッ!! ッと大きな声で笑い、次の瞬間。帝王は手に持っていた赤い石を全部、自分の口に放りこんだ。ゴクリっと飲み込む音が、やけに響いた。


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