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五十話、小瓶


 勢いよくドアが、バンッと開く。


「やれやれ、ようやく来たか。待ちくたびれたぜ」

「馬が使えないのですから仕方ありませんよ」


 見覚えのある顔が出迎えてくれた。クロスは相変わらず態度が大きいけど、ルノンは落ち着いた雰囲気だ。


「寒かったでしょう。早く中へ入ってください」

「久しぶりだなルノン。無事でなによりだ」

「あなた方も無事で良かったです」

「お邪魔します」

「お邪魔しまーす!」


 部屋の中は暖炉の炎で暖かい。それと食欲をそそる良い匂いもしてる。


「夕食時に来るとは狙ったのか?」

「それはないと思いますよ。それよりも突っ立ってないで手伝いなさい」

「へいへーい。まぁ、お前ら適当に座れ」

「椅子くらい物置部屋から持ってきてあげなさい」

「ちっ! うるせーな」


 ドタドタと足音を立ててクロスは部屋から出ていった。二人は初対面だったはずだけど、数ヶ月の間でクロスとルノンは仲良くなっていたみたいだね。


「はいよ! 座れ」


 再びクロスはドタドタと戻ってきて、ガタガタンッと椅子をテーブルの周りに並べた。ボクたちが座ると、ルノンが用意した料理をテーブルにカタカタと並べていく。黒パンと少しの野菜と肉が入ったスープだ。


「たいしたものはありませんが食べながら話を聞きましょう」

「じゅうぶんだわ。温かいお料理は久しぶりだもの」

「塩味が効いて美味いな」

「ボク、黒パン好きだよ」


 暖かい部屋で温かい食べ物、それだけで嬉しいよね。ずっと真っ暗な吹雪の中にいたからさ。


「時間が惜しい。新情報が無いなんてことはないんだろ。早く話せ」


 ルノンは姿勢正しく、クロスはスプーンでスープ皿をカシカシ鳴らす。


「分かった。クロスと別れてからのすべてを話そう」


 ファディスが、これまでのことを二人に聞かせた。ルノンは目を閉じて静かに、クロスはテーブルに片肘をついて足を組んで貧乏ゆすり。


「そしてコレが万能薬だ。赤い石を無毒化し、オレたちと同じくらい生きることができるそうだ」


 テーブルの上に、青い液体が揺らめく小瓶を二つコトンッと置く。


「なるほど状況は理解しました。しかし世界樹の万能薬……。伝説でしか聞いたことがない代物ですね」


 ルノンは瓶を手にすると観察するように、青い液体を見つめる。


「ハイポーションまでなら見たことあるけどな」


 ふんぞりかえりながらも、クロスも瓶を横目で見てる。やっぱり興味はあるみたいだね。


「答えは明日の朝までに出します」

「分かった。万能薬は渡しておく」

「ありがとう。クロスもそれでいいですね?」

「あぁ。あんたのすきにしろ」

「寝具はクロスに運ばせるので、今日のところはここで休んでください」

「俺が運ぶんかよ!」


 文句をプツプツ言いながらもクロスは、何故だかルノンの言葉に従って、寝具を取りに行った。もしかしたらクロスの見た目が子供だから、ルノンなりに可愛がってるのかもしれない。クロスも文句を言いながらも嫌がってないからね。


「久しぶりのお布団だわ」

「ふかふかだね」

「今日は眠れそうだな」


 渡された布団は柔らかく温かい。サアヤとファディスは凄く嬉しそうだ。最近は白黒の雪世界の中、三人で固まって毛皮に包まって寝る感じだったから、ぐっすり寝れないって言ってたからね。


 スケルトンだから平気だと思ってたんだけど、思いのほか旅の疲れがたまってたみたいで、ボクの意識はすぐに遠のいていった。



 街で一番、大きいと言っても、俺からすればこの家は狭い。部屋数も先ほどまで飯を食ってた部屋と物置、そして今いるこのルノンの部屋しか無い。当然、同じベッドで寝ることになる。だが今日のように話し合いするにはちょうどいい。が、やっぱりとにかく狭い。


「さて、クロスあなたはどうしますか」

「俺は飲む。最近、身体が思うように動かない。こんなんじゃ、目的をやり遂げられないからな」


 ルノンが手のひらでもてあそんでる二つの小瓶のうちの、一つを手に取る。


「あなたはそう言うと思いました」

「お前はどうすんだ? 体調、俺より悪いんだろ?」

「まぁ。そうですね。杖が無いと歩くこともままなりません」

「じゃ、飲めよ。今までの苦しみを思えば、罪はじゅうぶんに償ったはずだぜ」


 赤い石に操られていたルノンは、人間を含むかなり沢山の生き物を屠ってきたと言っていた。正気に戻ってからは、夢に見てうなされているほどだ。


「ありがとうございます。クロスは優しいですね」

「フン! 優しくなんかねーよ。朝までには飲んどけ!」


 俺はフタをポンッと開け一気に青い液体を飲み干し、布団にもぐってしまう。味は花の蜜のように甘かった。


カチ……。


 魔法石ランプを、ルノンから消した気配がする。ソッと、布団から頭だけ出した。


「……」


 手のひらに小瓶を握りしめて、俺に聞こえないくらいの小さな声でルノンは何かをつぶやいた。


 決めるのはルノンだ。俺が決めることはできない。


 やるせない気持ちを抱えたまま目を閉じた。



「おい! 起きろ。出発するぞ」


 目を覚ますと、クロスが仁王立ちでボクたちを見下ろしていた。万能薬を飲んだのだろう顔色も良く背には荷物、腰には剣を提げている。準備万端なようだ。


「この家の物置から地下道に降りてルネディアに向かいます。名もなき街に伝令も出してあるのでギルドからの援軍も闇に紛れて地上から向かっているはずです」


 ルノンは昨日と同じで顔色が悪く杖をついている。万能薬が効かないはずはないから、もしかしたら飲んでないのかもしれない。


「分かったわ。行きましょう」

「たしかに奇襲するなら今だな」


 具合の悪そうなルノンに気がついても、ファディスとサアヤは何も言わない。いや、言えないのかもしれない。万能薬を飲まない答えも、ルノンの覚悟や決意のカタチなんだと思うからね。


「お前はどうする?」


 やり取りを見てるだけのボクに、焦れたクロスが聞いてきた。


「ボクはサアヤが行くところには、どこにでもついて行くし守るって決めてる」

「よし。では行こう」

「うん」


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