四十八話、隠された真実
暗く狭い洞窟の中を右に行ったり左に行ったり、曲がりくねった道を進んでいくと、ぼんやりとした光に照らされた広い空間に出た。見回すと壁一面に穴が開いていて、その奥からは人間たちの気配がする。
「キョロキョロするな」
「こっちだ」
三人は入り口が一番大きな穴の中に入っていった。ボクたちは、ひたすらついていくしかない。
「ユウハ様、侵入者を連れてきました」
ユウハと呼ばれた人間が、どうやらこの場所のボスみたいだ。白いローブを身にまとって、目元も白い布で隠し、髪の毛も真っ白の痩せ細った人間は、小さな木製の椅子に腰掛けボクたちの方を向いて座っている。
「おやおや。ついに予言の時が来たようだねぇ」
柔らかな響きの声は、奇妙な言葉を紡ぎだした。だってルネディアにはスキル持ちはいないはずなんだ。だから予言なんて言葉を使うとは思えないんだよね。
「もしかしてボクたちが来るの知ってたの?」
「ホッホッホッ! もちろんじゃ。妾は先見スキル持ちじゃからのぉ」
「まさか!? ルネディアにもスキル持ちがいるのか!? あり得ないし聞いたことがない」
ファディスもボクと同じことを思ったみたいで、腰のレイピアに手を触れ警戒しだした。同時に、ここまでボクたちを案内した三人も武器をかまえる。
「妾は争いは好まぬ。双方、武器から手を離すのじゃ」
ゆっくりと武器から手を離すけど、空気はヒリついたままだ。
「紫の髪を持つ其方は、帝国の皇女でありながら反旗をひるがえす者。赤い髪の女性は、グレングルを救い世界を癒す者。そして魔物でありながら人間と共に歩む子は、世界を渡り見て全てを愛す者」
杖をついてボクたちの前にくる。口元しか見えないけど、ゆるく弧をえがいてるから微笑んでるのかもしれない。
「貴女たちの探してる者たちは、この名もなき街から南に行ったところにある、グレングル唯一の名を持つ街グレルにいるはずじゃ」
女性は杖を南に向けて「行くがいい。運命の動く場所へ」と、声を張りあげる。
「ついてこい。南への出口に案内する」
スキルのことは何も答えてくれなかったけど、聞き返せる雰囲気でもなさそう。ボクたちは、仕方なく三人の後をついていく。
「先ほどスキル持ちはルネディアにはいないと言っていたな。たしかにそれは間違ではない」
「ルネディア帝国にいないと言うだけでグレングル大陸にはいないわけではない」
「スキル持ちと判明した瞬間、帝国から抹消されるから存在しないと言うだけのこと」
「素質を持って生まれた者たちが殺される寸前に、同胞たちが助けだしてる」
「我らは帝国には知られないようにギルドを立ち上げた。その本拠地がここって訳だ」
三人は歩きながら口々に語りはじめる。隠された真実を……。
「知らなかった。たぶんモリスも知らないだろう。メディセーラから嫁いできた母上だけは、もしかしたら気がついていたかもしれないが……」
「けどなんでスキル持ちは消されちゃうの?」
「そうよね。何故なのかしら? 同じ人間なのに、とてもに悲しいわ」
ピタリッと三人は立ち止まるとボクたちを振り返る。
「帝王がスキルを持たないからだ」
「ただの人間は、どう足掻いてもスキル持ちには敵わない」
「だからスキルを自由に操れるようになる前に、成人の儀で消される」
「成人の儀式は祝福なんかではない」
「スキルの有無を確かめるだけの残酷なものだ」
暗闇の中でも分かる。この三人の昏く澱んだ憎しみの目。そして身体中から、にじみ揺らめく怒り。
「……なるほど。ち……帝王はスキル持ちを恐れてるってことか」
「そう言うことだ」
再び前を向いて歩きはじめる。重苦しい空気は消えないどころか澱みすら感じる。洞窟の中だからって理由だけじゃない気がする。この空間には、人々の様々な思いが積み重なっているんだと思う。
「お前たちのことも知りたい」
「情報があれば頼む」
相手にばかり情報を貰ってはいけないと思ったのだろう。ファディスは頷くと、全てを話すことは出来ないがと前置きをしてから、今までの事とこれからの事を話した。
「これは卵かしら?」
「沢山あるね」
しばらく進むと暗闇の中で、ほのかに光を放つ丸い物体があちらこちらに転がって、小さな茶色い毛玉(魔物)がよりそい眠っている空間に出た。
「攻撃性のない魔物と動物も保護するようにしてるんだ」
「魔物はダンジョンを維持するために必要で大切な生き物なんだ」
「全てを助けることは難しいんだけどな」
地面に膝をつき眠り続ける魔物を、ソッと撫でる手つきは優しいものだ。カレンたちがダンジョンに必要なのと同じなのかもしれない。
「ダンジョンを取り戻した時に帰してやるつもりだ」
「さぁ。もうすぐ出口だ」
「外は吹雪。これを渡しておく。魔物の毛皮だ。我らの古で悪いが寒さは防げる」
立ち上がって背負っていた荷物から、身体全体をおおうコートと、もふもふ帽子と靴と手袋を、ボクたち一人一人に手渡してくれた。
「ありがとうございます」
「ありがと」
「助かる」
突き当たりの壁に三人が同時に手で触れると、ゴゴゴォォォッと地響きのような重い音と共に、目の前の壁が動きだした。
ヒュォォォーーー!
雪と冷気が一気に入りこんでくる。身体をブルブル震わせ「うぅ! 寒い」と、サアヤとファディスは、もらった防寒服を慌てて着こむ。
「我らの仲間はいたるところにいる。助けが必要な時はコレを見せろ」
放り投げられたものをキャッチする。細かい細工が施された銀色の鍵だ。
「武運を祈る」
再びゴゴゴォォォッと重い音がして洞窟は閉じられた。
「真っ暗なのに雪は白いんだね」
「朝になれば明るくなるわ。そうすれば景色が楽しめるはずよ」
「いや、朝になっても暗い」
サアヤの期待に満ちた弾んだ声に、申し訳なさそうにファディスは苦笑いした。
「じゃあ。昼も真っ暗?」
「朝はこないのかしら?」
「グレングル大陸には太陽はない。雪雲に覆われてるから星も無い。朝はくるが暗いままだな。ルネディアだけは巨大な魔法石が、一日のうち六時間だけ太陽の代わりに街を照らしていた」
昼の無い大陸。心も閉ざされ隠し事ばかりの国。目の前には降り積もった雪しか見えない暗い大地。
「太陽は戻らないのかしら?」
「分からない。今まで考えたこともなかった……。昔から太陽が無かったのか? それとも……」
眉間にシワをよせ、ザクザク雪を踏みしめ歩くファディスの足は重い。サアヤも雪に足をもつれさせながら歩きにくそう。ボクは猫スケルトンになってピョンピョン跳ねながらいく。人間の姿より動きやすいからね。




