四十六話、ルフトラーガ(後)
風の匂いも爽やかになって、草木も元気を取り戻し、ファディスも普段と変わらない雰囲気に戻った。かっこいいファディスは、やっぱりキリッとしてる方がいいよね。サアヤもホッとしたのか、肩の力をぬいて空を見てる。
「ルフトラーガが浮いてるからかしら。星が近くに見えるわ!」
「本当だね。あ! 流れ星!」
空に向かって両手を広げる。まるで隣に存在するかのような大きくて丸い月。周りにキラキラ散らばる星々。
しばらく空に夢中になっていると。
『あぁ〜! ニャーさんとぉ〜、サアヤだぁ〜。久しぶりぃ〜』
聞き覚えのある間延びした声が聞こえてくる。声のする方を見ると、少しヨロヨロしながら飛んでくるグノーがいた。
「グノーさん、疲れてるみたいね」
『グノーちゃん、毒が大地に入りこまないように世界樹の根本で結界を張ってたにゃん』
『疲れてるぅ〜、けどぉ〜いきなりぃ〜、毒が消えたぁ〜。ビックリして〜、飛んできたぁ〜』
羽をせわしなく動かしてはいるけど、グノーの顔色は悪く両手をダランとさせてる。サアヤの言う通り、かなりぐったり気味だ。
「グノーさん、こちらに来て」
『分かったぁ〜』
ちょこんとサアヤの手のひらにグノーが座り首をかしげる。
「グノーさんが元気になりますように」
手のひらが淡く光をおびてグノーを包む。
『サアヤァ〜、凄いぃ〜! あちし元気もどったぁ〜!』
ピョンッと飛び上がり、グノーは両腕をブンブン振り回す。
「良かったわ」
もしかして、これで四大精霊が揃ったんじゃないかな? って思ったら、いつのまにかディーネの姿が見えない。
『ニャーちゃん、キョロキョロして、どうしたにゃ?』
「ディーネはどこかな? って思って……」
『もうすぐ戻ってくるにゃん』
サラの指さす方を見ると、湖をスイスイ泳いでくるディーネがいた。重そうな四本の瓶を両腕で抱えてる。
『ファディス、これをあの者たちに使ってやれ』
『世界樹の根本から直接、樹液を採取して作った万能薬にゃん』
ディーネが持っていた青い液体の入った小瓶を、ふわふわ飛んでサラが一本ずつ受け取っては慎重に一本ずつファディスの手のひらに乗せていく。
「ルノンとクロスと二人のカレン。これがあれば四人とも助かるのか?」
『うん! うん! 世界樹との相性もあるけど元気いっぱいに百年は生きられるにゃ!』
力こぶを作ってサラは胸を張る。
「まぁ! じゃあ。私たちと同じくらい生きていられるのね!」
「すっごいねー!! 早く持って行ってあげなきゃだね」
「そうね」
「しかしどう言うことだ? オレたちはルフトラーガに来た理由を、まだ話してなかったはずだが?」
治せると分かってホッとしながらもファディスは眉間にシワをよせ「うーん?」と、うなる。
『水鏡で見てたのにゃん! だから全部サラちゃんたちは知ってるにゃ』
「なるほどな。説明がいらないのは助かる」
『時が限られているのだろ。コレを使え。クロスの持つ転移石ほどの力はないが、一度だけ望んだ場所に何処へでも行ける』
ディーネは胸の谷間から小さな虹色の石を出してファディスに向かって投げた。反射的にファディスは受け取った。
『8?さpd@tあ』
『シルフィちゃんからはサアヤちゃんにプレゼントにゃん』
「まぁ! 可愛いわね。紙で作った鳥さんなのね」
『可愛いだけじゃないにゃん! 届けたい人のことを思いながら書くと紙鳥は一瞬で相手の元に飛ぶにゃ。一度だけしか使えないけど高性能なんだにゃん』
「シルフィさん、とっても素敵なプレゼントありがとうございます」
『ifのら8)@』
『シルフィちゃんが、どういたしましてって言ってるにゃ。緊急の知らせでもいいし家族にあててもいいにゃん。サアヤの心が動いた時に使って欲しいにゃ』
受け取った紙鳥を、サアヤは大切そうに抱きしめてからリュックサックにしまった。
『ニャーさんにはぁ〜、コレェ〜』
飛んできたグノーが、ボクの胸に両手をかざす。ほわりっと温かいモノがボクの内側に入りこんできた。
「なぁに?」
『ドラゴンスケルトンのぉ〜、スキルをぉ〜、強化したぁ〜』
胸に手を当ててスキルを確認すると、爺ちゃんのスキル絶対防御が、全体化してることが分かった。
「これってボクだけじゃなくてサアヤとファディスも守れるってこと!?」
『そうだよぉ〜、だからぁ〜、みんなぁ〜死んじゃダメなんだよぉ〜』
「うわぁ! グノーありがと! 絶対にみんなを守るよ」
『ニャーさんも生きて戻るのぉ〜』
「うん。絶対、死んだりしないよ!」
『約束ぅ〜』
グノーは細く小さな両腕で、ボクの小指を抱きしめる。
「うん! 約束」
「私も約束するわ」
「オレもだ」
サアヤとファディスも、ボクの手に手を重ねた。
『それじゃあぁ〜、あちしがぁ〜、フィーネまでぇ〜、送るぅ〜』
世界樹の方まで勢いよくグノーは飛んでいったかと思うと、葉っぱを何枚も摘みとって戻ってきた。
『いっくよぉ〜!』
掛け声と共に葉っぱを空に舞いあげ、くるくるんっと三回転、更に聞き取りにくい早口で呪文を唱える。
『出来上がりぃ〜』
次の瞬間、葉っぱで出来た船が湖に浮かんでいた。
「まぁ! 可愛いお船ね」
「凄い! 一瞬で出来ちゃった」
「面白いな」
『凄いでしょ〜、凄いでしょ〜!』
褒められて嬉しいのかグノーは体をくねらせ手足をバタバタさせた。
『グノーちゃん、サラちゃんたちも手伝うにゃ』
『サアヤ、ニャー、ファディス、乗りなさい』
『upの!6¥』
精霊たちに急かされ、葉っぱの小船に乗りこむ。見た目は頼りなさげなのに、まったく揺れないし、ピッタリ三人が座れるサイズだ。
『しっかりつかまるにゃ!』
『せぇ〜のぉ〜』
『それぇ!』
『g9)さ』
小船の周囲を風が包み、水飛沫を上げ空中にふわっと浮かび、一気に加速する。振り返って手を振るけど、サラたちには届くことはなかった。
「月が映る湖が見えなくなったわ」
「世界樹がどんどん遠ざかっていくね」
「見ろ! もうフィーネが見えてきた」




