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四十五話、ルフトラーガ(前)


「うわぁ! すっごーい!」

「まるで夢の中の世界みたいだわ!」

「この世のすべての美が集まってるかのようだな」


 ダンジョンを抜けた先には、七色の輝きを放つ湖。その真ん中に巨大な大樹が天高くそびえ、ボクたちがいる陸地は青々と茂る木々と色とりどりの草花が咲き誇っていた。


「でもやっぱり少し元気がないわね。ディーネさんは何処にいるのかしら?』


 足元を注意深く見ると花は萎れてるし、木の枝先は枯れてしまってるのもある。空気も新鮮とは言えなくて、ダンジョン内と同じ埃っぽくて乾いた感じがする。


『今、呼ぶにゃん』


 ファディスの頭から飛びたち、サラは指笛を鳴らす。


『♪〜♪〜♪♪♪〜♪〜♪♪〜』


 風がざわめき静かだった湖が泡立つ。何かの気配が、こちらにゆっくり向かってきて、そして。


『うーぅあー。ぅ〜……』


 ちゃぽんっと湖から顔を出したのは、半分湖と同化した小さな精霊。ただ右半身が黒ずみ溶けかけて、言葉さえ発することもできず苦しそうに顔を歪めてる。


『こんな病気、今まで見たことないにゃん』

『うabt67…か?』

『ディーネちゃん、周りにも影響が出始めたから、サラちゃんたちにも近づくなって言ってるにゃー』

『5,:d5はsyも!』


 うなだれるサラに、シルフィがよりそい頭を撫でる。二人共、本当はディーネの近くに行って癒したいって思っているんだよね。


「出来るか分からないけどやってみるわ」


 靴を脱ぎズボンの裾をまくって、サアヤは湖に入っていく。ディーネはオロオロと手足をバタつかせながら、『ゔぅぁ』と唸りサアヤに近づかないで! って水飛沫をあげ体全体で拒絶する。


「私は大丈夫よ。ゆっくりでいいわ。私の手のひらに乗ってみて欲しいの」


 湖に両手を広げてディーネが来てくれるのを、サアヤはひたすら待つ。


 見つめ合う。


 どれほどの時間が経っただろう?


 ディーネは溶けかけた身体を泳がせ、ちゃぷんと音を立ててサアヤの手のひらの上に乗った。


「すぐに治すわね」

『うぁうぅ……』


 優しくディーネの身体を撫でながらサアヤは目を閉じる。するとサアヤの身体から金のオーラが立ちのぼり、湖が波立ち波紋が広がっていく。


 じょじょにディーネの身体が、しっかりとした形になってサラたちと同じ羽の生えた美しい精霊の姿に戻った。湖の精霊ってだけあって身体も透き通ったブルーで綺麗だ。


『ありがとう。聖なる乙女サアヤ。ディーネの力も使うがよい』


 ディーネがサアヤの周りをクルンッと一回転した途端、波紋は風となりボクたちのいる大地に届き草木を癒し、夢幻の世界樹の枝先まで元の虹色の輝きを取り戻していく。


『サアヤちゃん! 凄いにゃん! ルフトラーガ全体を癒やしちゃったにゃ!!』


 目を開けたサアヤは「みんなが元気になって本当に良かったわ」と、ふわっと微笑む。


「けど私だけの力じゃないわ。ディーネさんもお手伝いしてくれたからできたのよ。ありがとうございますディーネさん」

『礼はいらない。サアヤが居なければルフトラーガは、じわじわ腐り死に向かっただろうから……』

「そんなにも危険な状態だったのね」


 驚きと不安でサアヤの顔がくもる。ボクもビックリした。だってサラはルフトラーガは回復して、もうすぐ新しい住人が産まれるって言ってたからね。


「まさかとは思うが、この件もルネディアが絡んでるのか?」

『……』

「本当のことを教えてくれ。覚悟はできてる」

『ファディスちゃん……』


 サラはファディスの頭に再び座ると、小さな手のひらで頭を撫でる。サラはファディスのことをすっごく気に入ってる。だから拳を震わせ痛みをこらえるような表情のファディスが心配なんだと思う。


『サラが地上に行ったのと入れ違いで、フィーネから行商人が来た。その行商人は先祖代々ルフトラーガと地上を行き来するのを許された一族。だから油断した』

「もしかして赤い石で操られてたの?」

『あぁ、その者は、いきなり湖の中に入ったかと思うと自分の首を持っていた短剣で切った。その血は穢れそのものであった。穢れは猛毒となり夢幻の世界樹を蝕み本来、エルフが産まれるはずの蕾からは魔物が産まれたはじめた』

「それが空飛ぶ魔物の正体?」


 コクンと頷きディーネは、サラを見つめる。


『ルフトラーガと直接、魂で繋がってるサラちゃんたちにも少しだけ影響があったんだけど、湖が一番最初に穢されたからディーネちゃんが病気になったのにゃ。でもサアヤちゃんが治してくれたから、もう何も心配はないにゃん』


 サラはファディスの頭を撫でながら、ディーネの話の続きを教えてくれた。


『今は以前より調子がいいくらいだ。もう二度と魔物が産まれることもない。地上に逃げていった魔物も消えてるだろう』

『fyjbあわ7@¥』

「そうか。だが全ての問題を……根源を解決しなければ安心できない」

『ファディスちゃんにはサアヤちゃんやニャーちゃんや沢山の仲間がいるにゃ! だから一人で抱えこんじゃダメにゃん!』


 覚悟はしていると言ってもファディスの現実はあまりにも重すぎる。表情を昏く沈ませるファディスの頭を、サラが強めにタシタシッ! と叩く。そして、ふわっと飛んでファディスの目の前に来て『それにサラちゃんたちもいるにゃ!』と胸を張った。


「そうだったな。弱気になってる場合じゃないな」


 ぎこちなくファディスは微笑む。そんなファディスの肩に乗って、サラが癒しを与えるように頬を優しくなでる。


 ファディスは両手でサラを優しく包み、サアヤの手のひらに乗せた。


「ありがとうサラ」


 腰のレイピアを引き抜き、ファディスは自らの長い髪を握りしめ深呼吸をする。


 そしてレイピアをスラリと髪束に走らせた。


「母上を救う、その日まで己の弱さとはサヨナラだ」


 髪束を掴んでいた手のひらを開くと、髪がふわっと風に舞い散りちりに消えていく。


『bu6:46jiあ〜!』


 空中をシルフィが一回転すると、捨てたはずのファディスの髪の束が、ふわりと浮かぶ。


『ゆrvi9わd@』


 シルフィは自分の髪を一筋を引き抜き、細く小さな指先をクルクル回し息を吹きかけた。


 するとファディスの紫とシルフィの透明に近い薄い青の髪が、混じり合い一本の紐へ変化した。


『Iな6らsu74』

『シルフィちゃんがファディスちゃんに渡したいって言ってるにゃ』


 サラはシルフィから紐を受けとると、ファディスの手首に結んだ。


「これは?」

『髪の毛には力が宿ってるにゃん。特にサラちゃんたち精霊の髪は心を癒し守る力があるのにゃ。だからきっとファディスちゃんの心の支えになってくれるにゃ』


 クルクルッとシルフィはファディスの周りを回る。サラは相変わらずファディスを撫でつづけてる。


「……ありがとうシルフィ、サラ」


 短くなってしまった髪の毛を掻き上げたファディスは、スッキリした表情をみせた。


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