その②
翌朝、勇気はまだ眠たそうな目を擦りながら家から出て学校に行こうとしていた。
・・・・くっそぉっ。昨日のあの訳の分からん話しのせいで完全に睡眠不足だ・・・・・・
彼の顔は不機嫌そのものだった。
「おっはよ~。勇気!」
キキッ!
どんっ!
背後から自転車で勇気の背中に勢いよく突っ込んで来る少女。
それのせいで、ど派手に地面に倒れ込む勇気。
「あっ!ごっめーん。わざとじゃないわよ。わざとじゃ。」
むくりと起き上がり自転車の真ん前に立ち走行の邪魔をする勇気。
「痛ってぇなぁっ。絶対わざとやったに決まってるだろ?」
すると少女は笑みを浮かべ舌を可愛くべーっと出して見せた。
「ばれちゃったか。」
・・・・・こいつは・・・・・・
一瞬怒りを覚えたが直に怒りはどこかへと消えて行った。
彼女の名は、光明寺望美。勇気の小学校からの幼馴染であり、高校での同級生でもある。
彼女の特徴は、まだ幼さが抜けて無い様な顔立ちに茶色混ざりなロングヘアー。もちろん地毛である。
「そぅいや。今朝のニュース見た?」
「あ?何だ?突然。お前ニュース毎朝観てるのか?」
彼は望美の横に並び、彼女は自転車を降りて一緒に歩きだした。
「観てるわよ。当り前でしょ?一日はニュースから始まりニュースで終わるのよ。」
「当り前って・・・・・それはお前の一日だろ。・・・・・・・オレは起きて、顔洗って、制服着て、そしてパンかじってそのまま登校。まぁ10分もかかるかかからないか・・・・。」
すると望美は深い溜息を付き。
「まぁ。それが勇気なんだけどね。」
「どーいう意味だ?そりゃ!?」
勇気は望美の発言に力強く抗議の声をもらした。
「まぁ、話し戻すけど、この付近で事件が起きたわ」
ぴくっ。
『これはお前が選んだ事だ。お前のせいで本来目覚めなくて良い者が目覚め、殺されなくて良い者が殺される・・・・・。これからお前自身に何が起きるかは分からないが絶対に後悔だけはするな。』
冬木が言った言葉が一瞬、脳裏に過る。
・・・・・まさかな・・・・・
彼は思い過ごしだと思う事にして、あまり深く考えないようにした。
「早朝に、近くの公園の噴水の中で男女不明のバラバラになった遺体が5体程発見されたらしいのよね。犯人も見つかってないって言うし・・・・・
で・・・・ね。」
何やら自転車の籠に放り込まれていたコンパクトな携帯型ビデオカメラを彼の目の前に突き出して。
「じゃーん!
ホームルームサボっちゃって二人で様子見に行かない?わたしはこの前の事件と同一犯だと思うのよね。バラバラだし。」
・・・・げっ!!・・・・・
勇気の口元は微妙に引きつっていた。
「くっだらねぇ。昔から思ってたんだが、お前って変な奴だな。普通なら行かないだろ?気味悪がって。特に女子なんかは嫌がるんじゃねぇ?」
すると望美は笑みを浮かべ。
「野次馬よ。野次馬。
わたし以外にも結構いると思うわ。テレビでやってた程なんだから、それによく言うじゃない。犯人は再び現場に戻る!って。」
・・・・・・・・確かに言うが・・・・・・・・・
「オレは行かんぞ。それに行ったって立入禁止のロープ張ってて入れないだろうし警察もわんさかいるだろうよ。そーいう厄介事は警察に任せとけば良いんだよ。」
すると彼女は笑みを浮かべて。
「う~ん。残念。じゃ一人で行っちゃうよ?」
「どーぞ。勝手にしてくれ。」
すると望美は勇気の歩く方とは逆の方に自転車の方向を転回し自転車に乗ると・・・・。
「スクープ撮っても見せてやんないんだから!」
そんな言葉を吐き捨ててそのまま走り去って行った。
・・・・・・・・別にどーでも良いよ。どうせ撮れないだろうし、しょぼくれた顔して帰ってくるが落ちだろーからな。
そして勇気は学校へと足を速めた
当然と言えば当然なのだろうが、公園の周りには報道人やら野次馬でごった返しており、その中で黙々と警察は取り調べを行っていた。
「恐いわねぇ。わたしそこの向かいのアパートに一人で住んでるんだけど。犯人が捕まるまで恐くて寝れないわよ。」
「そうよね。わたしも先週、息子に呼ばれてこの街に越して来たんだけど、また前の家に戻る訳にも行かないしねぇ。」
望美はそんなご近所の奥さん達の会話を聞きながら自転車を駐輪所に置いて公園の付近まで歩いた。
直ぐ目の前には警察が立っており、その後ろには立入禁止のロープが張ってあった。
・・・・・行けるのはここまでか・・・・・・これじゃ現場を見る事は出来ないわね。
制服のポケットに手を突っ込みそこに入ったビデオカメラをギュっと掴んで周りを見渡した。
「君。学校はどうした?」
目の前の警察が望美に声をかけて来た。
すると望美は笑みを浮かべて。
「大丈夫です。一時間目に入る前に学校行きますから。」
それに一瞬沈黙する警察だが。
「正直な事は結構だが、まだ犯人が潜んでるかも知れない。危ないから早く学校へ行きなさい。」
・・・・・・ここは反抗しない方が得策か・・・・・。反抗して学校に連絡されでもしたら大変だしね。仕方がない。別の所に移動するか・・・・・
「分りました。では行きますね。」
「気をつけてな。」
言って御辞儀をして警察に見送られながら望美は取りあえず駐輪所に戻って行った。
・・・・・・制服は邪魔になるわね。かと言って学校サボるのも問題だし・・・・・。
キシっ!
そんな事を考えてる時に突然、望美の耳に妙な軋み音が聞こえ、咄嗟に周りを見渡してみた。
「え゛っ!?」
異変を感じ驚きの声をもらした。
周りを見渡すと今まで動き回っていた人々が動きを止め、そして全ての音も消えていた。
・・・・・・どうなってるの?これは?・・・・・・超常現象?わたしだけを残して? ・・・・・・これは何?・・・・・・
「へえ~。君は人間だよね。おかしいな。僕は君を意識した訳でも無いし、そもそも君と言う人物は知らない。なのにどう見たって普通の人間の君がこの場所で動けるのさ。もしかして普通じゃないのかな?ふふふっ。」
声は、横の車の駐車場から聞こえて来た。
・・・・な゛っ!?・・・・・
止まってる空間の中での突然の声。望美は声の主を目で追った。
そこには一人の男の子が足をぶらつかせながら白いワゴン車のボンネットの上に座ってる姿があった。
・・・・少年?・・・・・
彼女は全ての疑問を捨て平常心を保つのを優先させようとしていた。
「駄目だよ。車の上に乗っちゃあ。それお父さんの?」
笑みを浮かべて少年に優しく話しかけた。だが少年は苦笑し・・・・。
「面白い事を言うよね。お姉ちゃんは。
分かってるさ。否定したいんでしょ?僕がこの時間を止めている原因である事を。
そして、もう一つ。気付いているよね?」
少年は周りをゆっくり見渡した。
そして望美は息を飲み少年から数歩後ず去る。
「何の事?・・・・わたしはさっぱり。
あっ。わたし学校行かなきゃなんないんだ。じゃ!」
言って望美は自転車に飛び乗り走り出した。
「分かっちゃいないよね。この時間の世界の中では僕が主。時間を止めている間は君も含め皆僕の玩具なんだよ。何処まで行っても僕には分かるよ。」
言って少年は笑みを浮かべた。
・・・・・・間違いない、あの口ぶりからするとあの子が事件の犯人って事よね!?人間じゃないじゃない!一体何なのよ!!!・・・・・
彼女は自転車で止まったままの人間を交わしながら心の奥でそんな事を叫んだ。
その頃、勇気は学校で時間の凍結を体験していた。
鞄から落ちかけの教科書、動かない教室の仲間達。
・・・・・・またか、これはグレンの力か?・・・・・・
勇気は窓の外を見て嫌な顔をした。
・・・・・・どうせオレが出て行った所で何も出来やしない。オレには何の力も無い。ただ異質な力を持つと言われているだけの普通の人間、今はただ見ているだけしか何も出来ない・・・・・・
ふと、彼の頭に望美の顔が過る。
がたっ!
席を立ち周りを見渡すが彼女の姿は無かった。
「くそっ。何でこんな時に・・・・・。」
勇気は教室から出て学校の外へと走り出した。
どんっ!
校門を出た所で止まっていた女性に勢いよくぶつかった。
「痛ったぁぁぁぁっ!!
何処見てるのよ!?あんた!ここの学生でしょ?授業じゃないの?」
「すみません・・・・・。ちょっと急いでて・・・。」
地面に倒れている彼女に手を貸しペコペコと謝る彼だが、違和感を感じ辺りを見渡した。
・・・・・な゛っ!?どぉ言う事だ?・・・・・
空で停止する群れをなした鳥達、動かない人達。オレが触れた彼女とオレ以外の時間は全て止まっていた。
「きゃぁぁぁっ!!!
何よこれ?何で皆止まってる訳?」
・・・・・どぉ言う事だ?・・・・・
勇気は話す時間も惜しいので女性を置いてそのまま公園へ向かって走り出した。
途中何度も色んな動く物に触れてみるが触れた物全てが動き出した。
・・・・・これがオレの異質の力?・・・・・
交差点を曲がれば、こっちに向かって下り坂を自転車で全速力で走って来る少女が見えた。
「勇気ぃぃぃぃっ!!!どきなさぃぃぃっ!!!」
どがしゃぁぁぁっ!!!
そのまま勇気に突っ込む少女。
自転車もろとも近くのゴミ箱に二人は倒れていた。
「望美・・・・お前、どんな現れ方しやがるんだ。毎度毎度と!!!」
頭の上に張り付いたゴミを払いのけ怒りをぶつける彼。
「あんたもね。突然現れないでよね!わたしは今、追われてるのよ!化け物に!!」
望美は立ち上がり辺りをキョロキョロと見渡した。
・・・・・化け物?・・・・・
「化け物とは心外だよ。お姉ちゃん。」
突然後ろの方から声がして上を見ればブロック塀の上に腰を下ろし、くすっと笑うグレンの姿があった。
「グレン!お前・・・・。こいつ狙ったのか?」
キョトンとした顔をして二人の様子を窺う望美。
「別に狙った訳じゃないよ。僕の時間の世界で普通に動いてたから、調べようとしてただけだよ。でも何か逃げられちゃってね。
でも大体想像はついたよ。見た所、君とそのお姉ちゃんはお友達の様だから、きっと君の異質の力がお姉ちゃんに働いているんだね。だから僕の力が働いているこの世界でも普通に動けるって所かな?」
・・・・・・恐らく、それは外れてるだろう。友達と言うのならオレの友達はクラスにも沢山いる。なのに全員止まっていた。この事はグレンには隠しておいた方が良いな・・・・・・・
「勇気・・・・ちょっと・・・・。」
望美は勇気の耳に口を近づけ。
「あなたこの子と知り合いなの?どうもこの子が今朝のニュースの犯人みたいなのよ。」
・・・・こいつが・・・・・
勇気はグレンを睨み・・・・。
「お前か早朝に人を殺した犯人って奴は・・・!?」
するとグレンは満面に笑みを浮かべ・・・。
「うん、そうさ。僕だよ。
でもね。あいつ等がいけないんだよ。闇の者の癖に近づいたら見境無しに僕を襲って来たんだ・・・・。当然の報いってやつだと思うけど?でもこれでまた仲間が減っちゃった訳だよ。」
・・・・・闇の者が闇の者を襲った?・・・・・・
「それでも認めないのかぃ?君が、生み出されるはずの無い狂人を生み出している事を・・・・・知らず知らずの内に行っていたとしても、悪は悪なんだ。君は僕と来るべきなんだよ。」
望美が勇気の手をギュッと握った。
「何かよく分かんないけどね。勇気は悪い事は嫌いなんだから!むしろ勇者に近い良い奴よ。」
ブロック塀に座る彼を見上げ、彼女は力強く熱弁した。
「お、おぃ!勇者って何だ?オレそんなに凄い事今までして来たのかよ?」
すると緊張は何処へ行ったのか彼女は突然胸を張り・・・。
「わたし知ってるのよ。
おばあさんが重い荷物を持って歩道橋を上ろうと苦労されていた時、普通に荷物を運んで行った事や・・・。」
・・・・まぁ、困っている人がいれば当たり前だろ・・・・・
「クラスの子が苛めを受けてたら苛められない様に色々一緒になって考えてた事や・・・。」
・・・・・あぁ・・・・。確かにあったな。そー言う事も・・・・結構大変だったんだよな。あれは・・・。
「わたしの大嫌いなトマトが給食に出た時、食べてくれた事や・・・。」
・・・・・・オレ、トマト好きだし一石二鳥だからな・・・・・・・
「わたしが猛犬の側に宿題のプリントを風で飛ばしてしまって困ってたら、身を挺してまでそのプリントを取って来てくれたんだから。」
沈黙する勇気。
「最後は違うだろ。ありゃ、お前がオレをおちょくってオレのテスト用紙を犬の側に投げたんだろ。あの後災難だったんだからな。ケツ噛まれるは、そこの家の主にテストの点見られて母さんにちくられて説教されるはで・・・。」
すると望美は明後日の方を向き・・・。
「あれ?そうだったかな?
そー言う事もあった様な無かった様な・・・・。」
「あったんだよ!!ちゃんと覚えとけよな。」
言うと彼女は舌をベーっと出した。
「とにかく、そー言う事だ。これは全てオレの心次第なんだ。オレの力がバックで何やってようが一切関係ねぇ。だからオレは悪を行おうとしているお前とは付き合わない。」
するとグレンは溜息を付き・・・。
「まぁ、君は仲間を目覚めさせてくれる貴重な人材だし僕の恩人でもあるから殺さないけど、そこのお姉ちゃんは分からないよ。」
嫌な笑みを浮かべる彼を睨みつける勇気。
「お前・・・。こいつに何かしてみろ?
ただじゃおかねぇぞ!」
だがグレンはクスッと笑い立ち上がり・・・。
「ただ異質ってだけで何も能力の無い君に僕は倒せないよ。せいぜい彼女が巻き込まれない様に守る事だな。じゃあね。」
言って彼は宙へと消えた。
「おぃ!待て!!」
勇気の言葉は虚しく誰もいない虚空へと放たれた。
・・・・・・あいつ、瞬間移動なんて技も出来るのかよ。化け物め・・・・。
ザワっ!
周りの時間が動き出し様々な雑音が聞こえて来る。
勇気は望美の自転車を起こし上げ望美に渡した。
「気にするな。オレが絶対守ってやるから。」
彼女は自転車を押しゆっくり俯いて歩き出す。
その後ろから心配そうな顔をして付いて行く勇気。
「くっくっくっくっ・・・・・。」
・・・・!?・・・・
突然不気味な声で笑い出す望美を見て彼は驚いた。
「・・・・・ったく・・・・面倒な事に巻き込まれた物ね。」
そして彼女は勇気の方を振り向き、彼の制服を引っ掴み・・・。
「ちゃんと説明してもらわなきゃねぇ。勇気くん?」
そう言う彼女は冷たい眼差しで不気味に笑っていた。
恐ろしさの余り口元を完全に引きつらせる勇気だった。
【第二話終わり】




