86話「現代④-死の瞬間」
1年間のテスト期間が終了しフリースタイルオンラインは本番リリースに向けて最終調整が入った。
テスター達を死のどん底に落とし入れた【悪夢の3時間】が昔の俺の手によって発生しプレイヤーが殺されまくる最終イベントがテスト終了を告げた。
最終調整をしていた開発者達が「魔大陸にいる筈のプレイヤーが何故か聖大陸に居るのか」信じられなくなり原因調査祭り状態にもなった。
俺はモニター越しで笑ってみているだけである・・・開発陣が徹夜でバグの最終段階をしている間にリアル徹夜の時間を使って聖大陸へやって来ていたのだ。
・・・
「事故った?」
《はい、マスターの転生前である”佐藤隆彦”が交通事故に巻き込まれました》
本番リリースに向けて調整している最中にマザーから報告が上がってきた。
ズキッ
それを聞いて、俺の脳裏にフラッシュバックが起こった。
パパッー
キキィイィイ
ドゴォンン
この身では体験したことのない筈なのに、両親が運転する軽自動車に大型トラックが正面衝突する瞬間の事故当時の映像だ・・・。
《事故当初の状況は佐藤隆彦の両親は大型トラックとの正面衝突の衝撃で圧死、後部座席に座ってた本人はシートベルトをしていなかった為に全身を強打し脊椎損傷し集中治療室へ運ばれて今でもなお治療中との事。大型トラックの運転手も衝突の事故で死んでいます・・・如何されますか?》
「と、いう事は昔の俺は死んでいないんだな?」
《辛うじて生きている状態です》
「脊椎損傷というのは何処までだ?」
《詳細は不明、恐らく首下から動かないかと思われます》
「これが、転生前の原因ではなかったのか?」
《マスターの死亡報告時期と離れていますので直接的な原因ではないかと?》
「この後か・・・引き続き監視をしてくれ」
《はい》
・・・
・・・・・・
暫くして、昔の俺について情報が上がってきた。
マザーの予測通り、首から下が動かない状態で入院していると報告を受けた。
未だに意識は戻らない昏睡状態である事も把握しているようだ。
「いつも思うんだが、データを盗み出してないか?」
《私の手に掛かれば、地球上の情報を引き抜く事は簡単なことですよ。手なんてありませんが》
「オーバーテクノロジーの塊め」
《お褒めの言葉有難うございます》
「とにかく、入院先の病院等は把握済みなんだろ?」
《もちろんです。現在事故の調査で警察機関が出入りしているので暫くは面会は無理かと》
「分かった。柊家の力を借りるとするか」
《お任せします》
プルルルルッ
「アオイだが・・・あぁ、すこし力を貸してくれないか? 頼んだぞ」
柊家の裏の力(政治力)で根回しして意識不明のタカヒコの頭にVR装置BCGを取り付ける事に成功する。
ピピピピッ
ボワッ
俺も社長室でBCGを装着し特別VR空間へと意識を飛ばす。
真っ白く物が一切ない殺風景な部屋にタカヒコが居る。
「起きろ」
ペチペチ
頬を叩き、ショックアブソーバ制度を高めてリアルの痛み程度は与えている。
『うぅ』
「さっさと起きろ」
『はっ!?』
両目をカッと開き俺と目が合う。
「やっと起きたか」
『俺は・・・たしか』
昔の俺は何が起きたのか記憶を辿る。
『そうだ、事故にあって・・・それから』
「あぁ、お前は自動車事故にあった」
『父さんと母さんは!?』
俺の声に反応する昔の俺。
「大型トラックとの正面衝突だ、2人共即死だったそうだ」
『じゃぁ・・・ここは』
「ここはお前が考えている場所じゃないぞ?」
『え?』
「お前は助かっている。ここは事故直後のお前を刺激しないように設定しただけだ」
『アナタは?』
「ブレインエレクトロニックゲームズって知っているか?」
『・・・はっ、FSO(フリースタイルオンラインの略)を作った会社名だ』
「俺はそこで社長をしている物だ」
『柊勤・・・さん?』
「これはアバターだから外見は気にするな」
リアル俺の体と寸分違わないが日本人名で外国人の姿は違和感があるだろうしな。
『それで、なんで俺は?』
「リアルじゃ、お前との接触が困難だったからだ」
『困難?』
「お前の現状は脊椎損傷における首下から体が動かない状態だ」
『首から下が・・・』
「あぁ、意識が戻っても二度と自由に動く事はできない」
『あ、あぁ』
ガクッ
絶望に表情が染まる昔の俺は膝から落ちる。
・・・
暫くしてショックから立ち直った昔の俺が顔を上げる。
『じゃぁ、俺はどうすれば?』
「その事で話に来た。今、法的にはギリギリな所を実行してお前に話しかけている。このままだと両親が残してくれた遺産で寿命までは病院で過ごす事になるだろう」
『あぁ』
「ただ、病院だと不自由な生活を5,60年は過ごす事になる」
『それは嫌だ』
「そこで、話を持ってきた。実験体になってくれ」
『じっけんたい?』
「ウチで開発したはBCGは何もゲームの為に作ったわけじゃない、VR空間は無限大に可能性を秘めている」
『無限大』
ブワッ
白い空間から大草原へとフィールドが変わる。
「例えば、身動きが取れない人間に装着する事で自由に動ける体を与える事が出来る。体が動かないのは脊椎から体に電気信号が上手く伝達されないからだ。ソレを拾ってアバターに反映させるのがBCGなのだからな」
『たしかに』
「この技術を応用すれば、車の免許書取得のシュミレーションを何回でも行うことができる、VR空間で事故っても問題ない!」
『そうだな』
「さらに医療技術、新米医師に手術のシュミレーションさせて自信を付けさせる事も出来る」
『あぁ』
「この空間は様々な分野に応用可能ではあるが、実績が伴っていない」
『実績?』
「BCGは装着者の脳にどれだけの負荷に耐えられるのかは不明である」
『BCGは安全なんだろ?』
「安全装置がついているからな。ある程度の時間が過ぎれば強制的にログアウトする設定が設けられている」
『そうなのか』
【悪夢の3時間】前の徹夜はマザーの裏操作でお前のBCGは強制ログアウトはしなかっただけだ。
「そこで、唯一FSOのテスターだった君に白羽の矢がたった。四六時中ゲーム世界に入る代わりに我々に実験データを提供して欲しい。もちろん君の意見を尊重しよう、ただし・・・数年は目覚めない状態になる」
『・・・考えさせてくれ』
「時間はそこそこある。無断ではあるが減速空間も併用させてもらっている」
『減速空間?』
「脳の機能を引き出して1秒を10倍に伸ばす隠し機能だ。リアルの1分は10分と考えてくれればいい」
『そうか・・・』
リアルで6分、この空間で1時間程経過する。
『分かった・・・』
「疑わないのか?」
『疑った。なんども思惑があるんじゃないか疑ったが・・・俺は不自由に余生を過ごすならこのチャンスを逃したくは無い』
「そうか・・・一応お前の現状を見せよう」
ピッ
白い空間にモニターが現れる。
病室のベットに入院服を来た男がBCGを装着し横たわっている映像が映し出される。
「コレが今のお前だ。今は面会時間を使って君と話しているがそれほど時間が有るわけではない」
『じゃぁ、俺はもう』
「残念ながら、今の医療技術では治せないのは確かだ。電気信号を拾う事は出来るが体に反映させるまでの技術はない・・・ロボット技術があれば話は別だが」
『ロボット技術?』
「体の周囲にパワードスーツの様な物を装着し、体を動かす代わりにロボット側に動く命令を出してやれば」
『自由に動ける』
「これは未来の技術者に期待だな・・・そういった事も踏まえて君に協力要請をしているわけだ。答えは変わらないな」
『ぁあ。実験体になってでも俺はVR空間を自由に動き回りたい』
「わかった、手続きはコチラに任せてくれ。あぁ、君の体もコチラで預かりたい。近くに居たほうが何かと対処がし易くなる」
『わかった。よろしく頼む』
ガシッ
VR空間で握手を交す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『という事で本人からは了承を得ています。入院費などは全額負担するので安心してください』
VR空間での会話を映像としてモニターに写していたのをやめる。
話し相手はタカヒコの親戚だ。
『隆彦君の事よろしくお願いします』
『あぁ、言っておきますが、隆彦さんに残された遺産は隆彦さんしか使えないようになっています』
『え?』
『現在は身動きも取れないので消費先は入院費位ですかね。もちろんアナタ方には一切使用する権利もありません。世話もこちらで行いますのでお気になさらず。そういう契約を本人と結んでますので。では、搬送を開始してください』
『はっ!』
ウチの顧問弁護士に説明をさせて、タカヒコの体をウチの会社に運び入れる。
・・・
「マザー、準備は整ったか?」
《いつでも可能です》
「フリースタイルオンライン起動」
《起動します》
そう、今思えば・・・俺は全身動けない状態だった・・・突如現れたアレは未来の俺だったのだ。
一瞬神かなにかかと思ってしまったが恥ずかしくて心の奥底にしまっていこう。
そして、今の俺が隆彦にする事は自由な世界を気の済むまでゲームを続けさせたいだけだった。
《ノンプレイヤーキャラAI郡を順次起動》
最初の町ファストにの住人であるAI達が動き始める。
《ファスト周辺のモンスターを起動》
フィールド中にモンスターであるホーンラビットがポップし始める。
《プレイヤーのログイン可能状態に移行》
今かと待っていたテスターと新規プレイヤーが入り混じってログインしてくる。
「フリースタイルオンライン、本番リリースだ」
モニターに隆彦がログインしてきた、ヒューマンの糸使いとして・・・
・・・
・・・・・・
『心拍数・呼吸数・血圧・体温、脳波共に乱れもありません』
隆彦が戦っている時のデータを収集をしている。
モンスターバトル中にリアルの体に影響があるのか診るためだ。
VR機器製作の時も幾人かの協力者で実験をしたが全身が動かない患者にはどうなるか未知数だからだ。
『一回目のログアウトを確認、BCGを取り外します』
ガコッ
BCGを取り外して隆彦の顔が露になる。
ムゥ
光が瞼を貫通し眩しく感じたのか瞼が一瞬動いてからユックリと開かれた。
リアルで意識を取り戻すのがこれが始めてだ。
「意識はあるか?」
『バイタルは正常で視覚、聴覚共に問題ありません』
「俺の声が聞こえるか?」
隆彦は目をキョロキョロとして見ている。
「ここは、とある専用の医療施設だ。何時でも対応できるようにウチで体を預かっているんだ」
パチパチ
「喋れないのか?」
コクッ
『ショックの影響で一時的に喋れない事は稀ではありません』
専門の医者からそう回答がある。
「ゲームの中じゃ、結構喋っていたんだがな」
『頭で考え出された言語をアバターに喋らせるのとは違います』
「そうか・・・それでリアルに戻ってきて不自由・・・これは失礼した」
フルフル
全身麻痺となってしまった以上、不自由な事この上ないだろう。
「こちらの言葉が理解できているなら、説明を続けよう・・・この前VR空間内で言った通り、君は全身麻痺状態で身動きもできない状態だ。そこで我々はテスターだった事も踏まえて実験という形で協力要請したという流れだ。君はVR空間の中とはいえ自由に動き回るアバターを手に入れた。我々は全身麻痺の患者にBCGを装着するとどうなるのかデータが取れるというギブアンドテイクの関係という訳だ」
「・・・・」
「何が言いたいか分かるか?」
『私は読心術を持ってませんよ』
「一旦、VR空間で話したほうがいいか?」
コクコク
「分かった。準備をする」
部屋を出て俺のVR専用室に入りVR空間へとダイブする。
真っ白い空間ではなく、対話ができるように一軒家のリビングのような部屋に入る。
「ゲームは楽しいか?」
「まだ、なんとも」
「毎日ホーンラビットに殺されてる日々だからな」
「なんで!?」
「こっちは監視する側だ。ちゃんと見てる」
「なんか攻略法とかないのかよ?」
「ゲームのコンセプトは」
「自ら冒険して見つけ出せか」
「そういうことだ。製作者が答えるわけないだろ」
「特殊種族側はどうなったんだ?」
「現時点で3種類は確定した。残りの2種類は未だ適合者が出てきていない」
「そういう事は教えるんだな」
「当分、合わないプレイヤー達だからな」
「それで、リアルの俺はどうなったんだ?」
「両親の葬儀等は親戚たちに任せて滞りなく終わっている。君に残る財産の一部が葬儀代に消えてしまったが黙らせるには最低限必要な処置だった」
「それはいい。俺はこれからゲームの世界で生きていくのか?」
「ある程度、データが取れればリアルで生活しても良いが・・・」
「さっきも感じたけど全身が本気で動かせなかった」
「お前に恋人とか」
これは野暮だな・・・答えはわかっている。
「居ない」
「リアルで過ごすのは退屈だろう。こちらも契約上は世話をする内容だが、望めば他の病院に搬送する事となる」
「それは、嫌だな」
「だろうな・・・今は両親の財産があるからある程度の保証はされている。国からも要介護重度後遺障害の保証金が出ているしな」
「暫くは世話になる」
「俺たちはデータをアンタは自由を手に入れている。対等な立場で行きたい」
「あぁ」
「そうだ、ログアウト後は如何する?」
「というと?」
「ログアウトしてもあの病室で目覚めるだけだ。ただ此処の様に一軒屋程度の空間なら造れなくも無い・・・家の外には出れないが」
「あの病室よりましだ」
「ログアウト後はここで目覚める設定にする。何か望むものはあるか?」
「ネットとか見れないのか?」
「設定すれば見れなくは無いが、お前の意思で求めた物だから俺たちからは金は出さないぞ」
「遺産とかはどうやってみれば良いんだ?」
「マザー」
《それには私がお答えしましょう》
ブンッ
「おわっ!?」
急に現れたマザー(球体のロボットを模した物)に驚く隆彦。
《ただいま、タカヒコ様に残っている財産はコチラになります》
ウィンドが立ち上がり、隆彦に見えるように見せる。
「こんなに」
《現在はコチラが遺産として残っております。またご実家が手付かずで放置されております。現在は電気・ガス・水道・携帯料金・ネット代等のライフラインも停止しており金銭は発生させておりません》
「実家は誰が管理しているんだ?」
《誰も管理しておりません。・・・そうですね、父方の姉がご実家の管理をしたいと申し出てきた様です》
「叔母さんが?」
《顧問弁護士は本人の了承がない限り管理権は本人にあると伝え、近づかないように警告は出しておりますが・・・如何いたしますか?》
「と言われてもな・・・俺は身動き出来ないし」
《ご実家をお売りになるという選択肢もあります。思い出の品以外をリサイクルショップ等に持ち込めばそれなりの値になります》
「父さん達が残してくれた家を売るのはな」
《時間は沢山あるので考えておいてください。ただ、人の済まなくなった家というのは劣化が激しくなります・・・放置していれば人知れず崩れるかもしれません》
それは隆彦が生きている間はないだろうな。
「事故の時はどうなったんだ?」
《周囲の防犯カメラには、隆彦様のお父上が運転していた時は不審な点がございませんでした。急に対向車線を走っていた大型トラックが逆走を開始して避けきれなかった事が警察の手で解明されております。また、大型トラックと隆彦様の乗っていた車の車載カメラの映像から9対1で相手側の過失が確定したため、トラック運転手の親族から多額の慰謝料等が振り込まれる予定です》
「相手のトラック運転手の状態はなんだったんですか?」
《ながら運転です。デバイスを片手に運転していたことが直接的な原因です》
「そんな事で父さんと母さんが!?」
グッ
アバターの両手が握りこまれる。
《お悔やみ申し上げます・・・相手側の親族からも多額の慰謝料の他に謝罪の言葉を受けております》
「そんな言葉は要らない。聞いたところで父さん達は帰ってこないんだから」
《では、いつか聴きたくなるまでは保留にしておきます》
「それで遺産があれば俺の望む環境は整うんだな?」
「あぁ」
「それじゃ、それで頼む」
「マザー」
《畏まりました。ネット環境が使えるように整えます》
「とりあえず、俺はリアルに戻る。これが最後の面会となる。もし俺に会いたくても会えないものだと思ってくれ」
「分かった」
「次会うときはクリアした後だ」
ブンッ
意識がリアルに戻り、BCGを外す。
《例の計画を進めますか?》
「念の為にな」
例の計画・・・それはデスゲーム化の準備だ。
未来の俺はなんでデスゲーム化したのかが不思議でならなかった。
あの時、VRMMOゲームはデスゲーム化する事は美徳の一つと言っていたが裏があると思う。
現時点でやる要素が皆無なのだからな。
・・・
隆彦が糸使いとして本領を発揮し始めてサードに向かう頃、こちらの準備は整い始めた。
《裏フリースタイルオンラインは準備が整いました》
「あぁ」
裏フリースタイルオンラインとは、マザーによって作られた全てが隆彦の為に作られた空間だ。
基本構造やシステムは同じだ。すこし違うのはプレイヤーもNPC化する事だ。NPCと言っても本物のプレイヤーの性格等をフルトレースしたNPCだ。
自分で考え答えをだす人間に最も近いAIという事だな。
ここ数ヶ月考えていたがデスゲーム化するにしても予算が足りなさ過ぎた。
約1万人のプレイヤー達を医療施設に収容する事なんて不可能だ。
ましてや、犯罪を犯してまで罪なきプレイヤーをゲームの世界には閉じ込められない。
ただ、1人を除いてだ。
未来の俺は何がしたかったのかは未だに不明だが不測の事態が起こる前に準備は整えた。
そして、隆彦が仲間と共に地下鉱山へ入っていった。
「準備はいいか?」
《はい》
モニター越しに隆彦達の動きを追跡し、タイミング良くアナウンスを流す。
-ゲーム内------------------------------------
ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン
≪フィフスの街が解放されました。ただいまより、開発責任者から重大な発表がありますので全プレイヤーは最寄の街、復活ポータル広場に転移されます≫
シュンッ
バトルフィールドにいた全プレイヤーが強制転移され最寄りの復活ポータルへと送られる。
「そっちは頼んだ」
≪畏まりました≫
俺は専用のアバターで全プレイヤーの前に姿を現す。
『お、おい。アレを見ろ!』
誰かが上空を指差して皆が視線を上げる。
キィイイイイン
≪プレイヤー諸君。始めまして、フリースタイルオンライン開発責任者の柊勤という≫
『マジで』
『このVRMMOゲームを作り出した人じゃん』
『重大イベントって事』
≪諸君には無事フィフスの街を開放してくれた事に感謝しよう。特典としてレベルキャップ開放及び二次職が選択できるように大幅アップデートを施す事となった≫
『マジで!』
『おぉおお!二次職キター!』
≪詳細は追って発表する事とする。さて、既に気づいたプレイヤーは幾人か居ると思うが既にログアウトできない事に・・・私の目的は既に達成されている。デスゲームという言葉はVRMMOゲームでは有名な話だと私は思っているのだ。しかし、安心してくれたまえ。このゲームをしている限り君達が死んだところで現実での死には至らない。ただし、君達の意志以外でヘッドギアを外した場合は高圧電磁波によって死をもたらす。残念ながらこの忠告を受け入れず、君達の親兄弟が無理やり外そうとして自らの子供を殺してしまったようだ。今ではあらゆるメディアが一連の騒動をニュースで呼びかけこれ以上の死亡者は限りなく少ない。さて、問題になってくるのは君達の体だが現在国を挙げて各医療施設に設備を構築してもらっている所である。もし、君達が現実に戻りたいのであればゲーム世界で死すれば良い。ただし二度とこのゲームをプレイする事はできない。だが、月額制での支払いはゲームがクリアするまで継続される。君達がプレイを諦めたとしても支払われる額は運営費として使われる事となる。その一部が君たちの入院費に含まれる≫
『ふざけるなよ!』
『そーだ!止めた所で金を払わすなんて詐欺もいい所だろ!』
『二度とプレイできなくなるなんてフザケルナ!』
周囲のプレイヤー達が騒ぎ始める。
プレイできないのに金を払わせ続ける方針に怒りを覚えているようだ。
≪文句があるならちゃんと規約を読むべきだと私は思う。クリアされるまで請求及び支払いは続行されるとちゃんと記載されている≫
ブンッ
このゲームをする前にプレイヤーは契約書を通してプレイヤーIDとパスワードが配布された。
その規約書の中にはちゃんと書かれていた。
≪君達がゲームを止めるのであれば誰も止めはしない。ただし、プレイ料金はゲームがクリアするまで継続され続ける。誰かに迷惑を掛けたくなければゲームを継続し早く終わらせる事となる。今は君達または親の口座から支払いが発生しているが、もし払えなくなれば親族達へ請求が行く事となる。それでも払えない場合は国が負担する事となる。負担した分は個々人の借金になるため長引けば長引くほど大変な目に会う。止めて年間の6万円の支払いをするのも良し、続行して借金をするのも良し。全ては君達の手による。万が一全プレイヤーが全滅した場合は君達が死ぬまで支払いが続く事となる≫
『ふざけんなよ!』
『誰が支払うか!!』
『でも、契約書の通りなら』
『そんな物は契約破棄だ!!』
≪契約解除について、クリア以外ありえない。ベータテスター時代からこの事について問題になっていた事に気づいていなかった訳じゃないだろう?その時の判決を言い渡そう、起訴は無罪判決。我社への裁判は無意味になったという訳だ・・・いまでも辞めてしまったベータプレイヤー達は支払いを続けている≫
『だけど、契約破棄ができるって』
≪また、契約破棄はそちらが罪に問われる可能性がある、止めたまえ。私は君たちの命を取ろうと考えていないのさ。純粋に私の作ったゲームの世界を楽しんでもらいたい、現実のことなんか忘れて。さて、これにて正式チュートリアルを終了とする。プレイヤー諸君、健闘を祈る≫
ブシャアアアアア
俺のアバターが消え去り、プレイヤー達の顔が絶望に変わる。
ここまでは裏フリースタイルオンライン側に転送された隆彦にも伝わった筈だ。
ここからが、表と裏が分岐する。
パァアアアア
バサッ
バサッ
『おい、また何か現れたぞ!』
『女神か?』
純白の翼を羽ばたかせ、白い衣を身にまとい、ブロンドのロングヘアーのこれぞ女神という姿をしたアバターが天から舞い降りる。
テッテレ~
どこかで聞いたことのある短い音が流れる。
『デスゲームというのは嘘で~す。ラノベじゃありません』
女神からドッキリ成功のプレートを見せられるプレイヤー達。
『ははははっ!』
『ふざけるなよ!』
『驚かせやがって』
『すっかり騙されちまったぜ』
『お、ログアウトできるぜ』
『なんだよ、ドッキリかよ』
プレイヤー達はホッと一息をつく。
『先ほどの開発責任者からの発言は一部フィクションでありますが、レベルキャップ開放及び二次職は本当の事です。また、その他の細かい大型アップデートは今夜21:00から始まりますので、それまでには全員ログアウトするようにお願いします。以上で正式チュートリアルを終了いたします』
フッ
女神が姿を消して何時もの喧騒が町に戻っていく。
--------------------------------------------------
表側は通常運転として継続させる予定だ。
裏フリースタイルオンラインというのはデスゲームを実現させる為のものだった訳だ。
「マザー、成功したか?」
《滞りなく、昔のマスターは残ることを選択いたしました》
「だろうな、俺も通ってきた道だ」
《この先、マスターがあの惑星に魂が転生する"何か"がある訳なんですね》
「恐らく・・・これから2年後の話になるがな」
《その時まで待つとしましょう。表はここの社員に任せても問題ありません》
「あぁ」
裏は俺達でしっかりと管理するか。
俺が地球で迎える死の原因が解明されるまでカウントダウンが始まった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ロボット開発?」
とある、企業からVR技術を用いた共同開発について誘いの申し出があり面会する事となった。
『違います、闘天使ですわ』
「それがウチと何か?」
『これはですな、アナタ所のVR機器を利用した小型戦闘用人形なんですわ』
「つまる所、ロボットじゃないのか?」
『全っぜん、違います。聞いた所によるとアナタの所で扱っているVR機器は脳電気信号をキャッチしてアバターに動きを命令させていると』
「そうだな」
『その動きをこの人形に出力できると思いましてな』
机の上に置かれた、何処にでもあるフィギュアだ。
若干、関節部分は機械的だ。
『ウチで開発した闘天使という商品なんですわ。これは細かい所までメカが詰め込まれていましてな~』
「何が言いたいんだ?」
『アナタの所との共同開発でこれを完成品にして欲しいんです』
「つまり、ウチのVR機器とそっちの闘~」
『闘天使ですわ』
「闘天使を繋げて動かせないかという事か?」
『大正解ですわ!』
「そもそも、自立できるのか?」
『少し待ってちょうだいな! 今、リモートで動かします』
カタカタカタ
ノートパソコンで何やら操作する。
ウィンウィンウィン
「これは、凄いな」
第一印象では頼りげないフィギュアに見えたがしっかりとバランスを取って動いている。
『今の段階だと命令した事しか動かせんのですよ』
「それだけでも、こんな小さな人形にさせるのは凄い事だろ?」
『お世辞を言っても何も出ませんよ。それで』
「脳電気信号で様々な動きを実現させたいって所だな」
『そういう事ですわ』
「技術的につなげる事は出来るが・・・」
『出来るんです!?』
「問題が出る。ソレを動かす時、本人は眠る事になる」
『んな!?』
「調査不足だったな。意識ある状態で動かそうと考えていたな」
『寝なくても出来ますよね?』
「体への負担を考えれば、寝ていたほうが安全なんだ。たとえ意識ある状態でやろうとすれば」
『すれば?』
「人形と体が同じ動きをしようとする。これが負担になる」
『な、なるほど』
「脳波で動かすのとは違って、体に電気信号を送らせずに人形だけに命令を送るには負担が大きいんだ」
『だとしたら寝ている時も・・・あっ』
「寝ている時なら体への電気信号は殆ど送られないからな。結果寝てゲームをするのと寝てリアルで人形を動かすのでは同じになる・・・むしろゲームの方が自由度が高い』
『くそっ!』
「仮にも客先なんだからそういう悪態は良くないぞ」
『すまんなぁ。少し焦っていたようですわ』
「・・・あまり突っ込んじゃ駄目なんだろうが何か事情があるんだな?」
『妻が事故で下半身不全になりましてな・・・此処が唯一の頼みの綱だったんですわ』
「・・・もし、だ。もし、ソッチでその人形を自由に動かせるようになるまで開発し尽くすと約束してくれるなら。ウチのVR技術を渡そう」
『なっ!?宜しいのですか!! VR技術は超極秘事項の筈』
「現在、ウチはソッチの開発に手助けする時間は無い。ただし、今の事が約束できるならVR技術を最重要秘匿技術だと扱って開発してくれるならだ」
『こちらとしては非常に嬉しい申し出なのですが・・・ウチを信用するんで? 本日始めてあったばかりなんですよ?』
「ウチにも全身麻痺の人物がいまVR世界で自由にプレイしているんだ。もしソッチが技術を完成してくれれば遠からず願ったり叶ったりだ」
『そ、そうなんですね。これは失礼を』
「互の私情だろう。近々ロボット開発をしている企業をリストアップして同じような話をする計画はあったんだがソッチから来てくれて助かった。現在のロボット技術も実際に見せてもらったしな」
『で、では』
「VR技術を渡す代わりに闘天使の開発を急いで貰いたい。詳細の打ち合わせは後日でいいか?」
『はい! 本日は急な面会に時間を作っていただき有難うございます!』
「こちらの都合が付き次第に連絡をする」
『はい、お待ちしています!!』
白衣の男は喜び帰って行く。
《宜しいので?》
「マザーのリストアップした企業のロボット技術は今より上か?」
《バランスを取って歩行する程度なら幾つもありますが、あのサイズは無いです》
「フィギュアサイズであの動きができるんだ、大きいものを小さくするのは難しいが、逆に小さい物を大きくするのは数段簡単であるしな」
《VR技術はこういった分野に生かされるのですね》
「人間の発想力・応用力があっての物だ。そしてそれを実行するだけの力がアイツにはあったから実現へ一歩近づいただけ。俺はそれを手助けしたまでだ」
《契約準備を進めます》
「頼んだ」
後日、男と再会し契約事項の説明および技術提供の商談を成立させる。
わからない部分があればVR機器を用い専用の部屋でマザーが回答する手はずになっている。
闘天使か・・・遥か昔の記憶にそんな話を聞いた覚えがある・・・何処だったかな?
・・・
・・・・・・
『心拍数・呼吸数・血圧・体温、脳波共に正常』
そして、俺が死んだであろう時間がやって来た。
仲間と共に再びサードの鉱山最下層にいる隠しフィールドボスの偵察をしにに来たところだ。
-ゲーム内------------
コォオオオオ
インテリジェントタートルが目の前に転がり落ちてきた隆彦に向けて。
口を広げ周囲から何を取り込んで溜め込んでいるモーションだ。
「マジかよ!?」
【広範囲ブレス】
隆彦のアバターを包み込む白いブレスが放たれる。
------------
ビィービィービィー
モニター越しで監視していたのだが、攻撃直後に隆彦を見ていたバイタル系が全て異常音を出し始めた。
ビクンビクンッ
隆彦の体が痙攣を起こす。全身麻痺でこの症状なのだ異常である。
『心拍数・呼吸数・血圧・体温、脳波が全て異常値に跳ね上がりました!!』
「どうすればいい! BCGを外すか!?」
ガッ
隆彦に装着されているBCGに手を掛ける。
『正常ログアウトしていないと何が起こるか分かりませんよ!』
「マザー、隆彦を強制ログアウトしろ」
≪・・・≫
「どうした、マザー!!」
≪ガ~・・ザ~・・・ザ~≫
こんな時に太陽フレアの影響か!?
数十年おきに発生する太陽フレアの影響でマザーとの通信が途絶える。
『脳波が異常数値を更新しております。このままだと焼き切れます』
「強制ログアウトボタンを押せ」
こんな時に作っておいた、強制ログアウトボタン。
『はい!』
バンッ
プシュウウ
VR世界との繋がりを強制的に絶たせて、BCGも自動的に脱げるシステムだ。
ピ~~~~~
『心停止しました』
「呼吸は!」
『微弱です』
「脳波と血圧は」
『脳波が消えてます、血圧も下がりつつあります』
「蘇生を開始してくれ」
『今、やってます』
「緊急オペだ」
『はい。今、オペ要員が向かってます。私達も行きましょう』
「あぁ」
ストレッチャーに乗せて緊急オペ室へと入る。
医療は専門外な俺は待つこととなる。
数時間の蘇生術式が続けられたが・・・
『お悔やみ申し上げます』
「いや、いい」
『ご親戚にはこちらから連絡いたします』
「あぁ。長々と付き合わせてしまったな」
専用の医師を雇いれて3年近く付き合わせてしまった。
ギシッ
ハァアアア
社長の椅子に深く座りため息を吐き出す。
どんな事が起ころうと準備万端だったが、急激な変化に間に合わなかった。
《ガガァ~・・・ビィイイ~~スター、マスター。申し訳ございません》
「今回は早かったな」
太陽フレアの影響を受けると数日は通信ができなくなるが、今回は1日も立たなかった。
《佐藤隆彦のバイタルが消えておりますが?》
「さっき、死亡が確認された」
《では・・・》
「なす術なかった」
《残ったログやデータから原因調査は致しますか?》
「たのむ、俺は疲れた」
こうして、昔の俺が死亡した原因が分からず死亡した日は過ぎていった。




