85話「現代③-テスター」
注意:ここの話には作者が勝手に考えた裁判の様相(ルール含め)を描写しております。
実際の法と照らし合わせて矛盾を感じられますが話を面白くする為に法的効力等は無視した形となります。
正しい情報だと勘違いされるかもしれませんが決して誤認をしない様にして下さい。
『当作品に関する内容を真似た行為に関して一切の責任を負いかねます』
法に関する事は専門家である弁護士に相談して下さい!
俺はテスター達の動きをモニター越しで眺めていた。
「テスター達はどうですかぁ?」
「難易度が高いのか、はたまたVRゲーム自体に慣れていないのか分からないが第二の街に向かうのでも精一杯のようだ」
「それでぇ、昔のアナタはどのキャラなのですか?」
「ここには居ない・・・こっちだ」
カチカチ
画面が切り替わり、西洋の墓場のような場所が映し出される。
ボワァ
その中心に聳え立つ崩れかけた礼拝堂に3メートル程の身長を持つボロボロのローブを着た白骨死体が立っていた。
「これはぁ?」
「特殊種族のスケルトンキングだな」
「たしか、滅多に出ない種族でしたねぇ」
「あぁ、参加しているテスター人数分でたった1人しか出ない種族だ。他にもサキュバスクイーン、オーガジェネラル、ヴァンパイアロード、ナーガラージャの4種類も居る」
「その他の種族もテスターは選んでいるのですかぁ?」
「サキュバスクイーン、オーガジェネラルは選ばれた」
「残りの2つは別種族を選ばれたんですねぇ」
「まぁ、完全ソロ仕様で鬼フィールドでのスタートだからな」
現在、テスター達の大半はヒューマン種族を選び第二の街に向けて攻略を続けている。人間達が住む聖大陸側の話だ。
特殊種族の出現ポイントは魔大陸と呼ばれるモンスターしか居ないフィールドだ。
街もなければ、物資の補給も受けられない。
特殊種族同士でPTを組めるかといえば、初期位置が離れ離れにしてある為ソロオンリーを強制している。
「唯一の救いは掲示板機能だけだったな」
「こっちは、そちらに任せましたが凄い事になってますねぇ」
魔大陸側の製作はマザーに色々と注文をして作成してもらった、人間側はBEGの開発スタッフの手によるものだ。
流石に人口AIを作り出す技術力がないのでマザーをベースにした劣化版人工知能を大量に作り出して、人間の様に振舞わせている。
どこかロボットっぽい喋り方をするNPCが街を運営している。
他のゲームと違うポイントは決められた台詞しか喋らないという訳ではなく、ある程度の知識をフル活用してテスターの相手をしている。
対応できない場合は他を当たれと促す仕様だ。
魔大陸側は常に分厚い雲に覆われており、薄暗くホラー要素が含まれている。
昔の俺も一人という事に加えて周囲の雰囲気にビクビクしていて探索しに行かないでいた。
ザッ
「やっと動きましたねぇ」
「想像以上にリアルに作りこんだからな」
魔大陸側と聖大陸側に比べプレイ人数が極端に少ない為、決められた容量の殆どがリアルに近づけたグラフィックにある。
聖大陸側で出てくるモンスターと魔大陸側のモンスターには決定的なグラフィック差が生まれている。
だから
グルゥア
『ひっ』
墓場の外にでた昔の俺は最初に出会うゾンビドック(Lv1)に驚いていた。
姿形は犬なのだが、目が飛び出し、傷口からはあばら骨が見え、腐敗した体をしている。
あばら骨の間から飛び出す腐った内臓がテカテカと光って余計に気持ち悪さを増長させるだろう。
よりリアルに醜悪なモンスターを跋扈させ、3人しか居ないプレイヤー達を驚かせている頃だ。
残りのサキュバスクイーンとオーガジェネラルも初期位置から少し離れた場所でリアル過ぎるゴブリンと戦闘を開始している。
プルルルゥ
ガチャッ
「はい、スターニアですよぉ。え?バグ報告ぅ。深刻なのですかぁ・・・そこで待っていてくださいねぇ」
ガチャッ
「じゃぁ、行って来るのですよぉ」
「そっちは大変だな」
テスター達から逐一バグ報告がなされて、開発陣はその対応に当たっている。
時折深刻すぎる件はスターニア自ら修正に行くほどでもある。
逆に、こちら側は特殊種族を選んだ3人分の報告を受けるのみだ。
しかも、リアルタイムでマザーが裏で魔大陸側のバグを即座に発見して修正しているので早々にバグは見つからないだろうな。
「ようやく、掲示板に気付いたか」
他とのコミュニケーションには掲示板しかないのだからな。
特殊種族3人で少ない情報を出し合いながら少しずつ活動範囲を広げていった。
しかし、ヒューマン側が途中で投げ出すプレイヤーが現れだした。
・・・
「うちの会社が起訴されたのですかぁ?」
月一の合同会議の場で裁判沙汰になった事が持ち上がった。
契約内容の取り消しを要求されている問題だそうだ。
「ゲームを止めたのだから、支払い義務はないか」
「まったく、身勝手な意見ですねぇ。途中で食事をやめたらお店への支払い義務は無いと言っているような物ですよぉ」
このゲームを行うには契約書に同意しないと始められないシステムであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第9条 利用料金等
・ユーザーは、本サービスのうち有料サービスを利用する場合には、利用料金等を支払うものとします。
・利用料金等の額、支払方法は口座引き落としのみ、支払時期等については、アカウント規約を含め、利用料金等に関する定めは、予告なく変更されることがあります。
・当社は、当該月に係る利用料金等を、その翌月以降に請求する場合があり、ユーザーは予めこれを了承するものとします。
・ユーザーは本サービス上のゲームをクリアするまで支払い義務が発生する事を理解しユーザーは予めこれを了承するものとします。クリアされた時点でゲームは月額無料となる。
・ユーザーが利用料金等を滞納した場合、当社又は当社が指定する他者は、当社が適当と判断する方法、時期にて、当該利用料金等をユーザーに対し請求するものとします。
・当社は、ユーザーが利用料金等を滞納した場合、滞納した日の翌日から滞納した利用料金等を完済した日まで、滞納利用料金等に加えて年利14.6%の遅延損害金をユーザーに対して請求することができるものとします。
・当社は、ユーザーに対し、他に定めのある場合を除き、利用料金等に係る請求書、引き落とし額を明記した通知等を発行しないものとします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、契約の内容にはハッキリと「ゲームをクリアするまで支払い義務が生じ続ける」と書かれている。
最初のテスト接続前での説明会でもスタッフからちゃんと説明を受けた上で契約書に同意し了承を得た上でプレイを開始した連中だ。
中にはゲームを辞退した人も1,000人近くだがいるのも事実。
ネット上でもこの事が拡散され賛否両論とされた。
[BEG自体が悪徳商法をしている]という声と
[契約書にはちゃんと書かれているし、説明会でも料金に関することは説明しているから悪徳ではない]という声だ
カチカチ
「【ゲームをクリアするまで】の定義があやふやで契約内容がの不備について幾人の弁護士側が要求されていますねぇ」
「断定的判断が欠如しているだとよ。ゲームクリア条件を自分達で探しだすのも一つの醍醐味だろ。一応はクリア条件は用意しているからな」
グランドクエストで道筋を作ってはいる。
発表でもしたら現在のプレイヤー達から苦情が殺到しそうだ・・・
「一応マザーのチェックのもと、契約内容は作り出したんですけどねぇ」
「ちゃんと確認と説明を聞いていないからこうなる事になるんだがな」
「この件については、こちらで何とかしますので安心してください。万が一この会社が潰れた場合はそうですねぇ・・・原因を作った方々には社会的に消えてもらいますぅ?」
素で恐ろしいことをいうな・・・
「契約内容の破棄を条件に賠償請求をして、日夜残業しているスタッフの臨時ボーナスにでもするか」
なんだが、いつの間にかスターニアの相談役のような存在になっている。
「月額5,000円支払い義務の30年分でも請求しましょうかぁ」
「1年6万の30年分だとして180万の賠償請求か・・・通るのか?」
「ネットに踊らされてスポンサーの何社かが離れていってしまったのですよぉ。運営費だって無料じゃないんですからねぇ。向こうの確認不足で私たちは時間を奪われているのですよぉ。こんな話し合いしているならバグ修正をした方が利益になるのですよぉ」
「それもそうだな・・・他の議題に移ろうか」
殆ど俺たちしか喋っていない・・・というよりスタッフ自体が少ないというのもある。
たった十数人でしか運営していないゲーム会社であった。その分1人1人の質はエリートと呼ばれる奇才・天才の集団だ。
そいつらを纏めているのは開発担当・経理担当・運営担当の3人だ。
今回は経理担当からこの話が持ち上がっているという訳だ。
小さな会社がVRゲームの開発に成功し、大企業からも幾つか声を頂くほどまでは成長していたのだが、この一件でBEGの株価暴落する可能性に対して株主が離れていった。
時間が過ぎて行き裁判の日がやって来た。
プレイヤーの代表が1人と弁護士、対するはBEGの社長のスターニアと顧問弁護士が法廷の場に立つ。
傍聴席には途中でやめたプレイヤー達が集まっている。
BEG側は秘書と俺の2人だけだ。
『それでは、開廷いたします。被告人は前に出てください』
スターニアが立ち上がり、証言席に立つ。
『被告人は、ブレインエレクトリックゲーム株式会社の代表取締役として2000年の4月頃に会社を設立、数名の技術者と共にオンラインゲーム上でいう大規模多人数同時参加型オンラインRPGを2作品を手がけ、2030年の春にVRゲームの開発を開始し、昨年の2050年にはVRシステムが完成。現在はテストプレイヤーを募りVRMMOを行っています。その契約内容があまりにも理不尽という事となります』
顧問弁護士からブレインエレクトリックゲーム株式会社について説明をする。
『その契約内容とは?』
『契約要項、第9条 利用料金等・第4項「ユーザーは本サービス上のゲームをクリアするまで支払い義務が発生する事を理解しユーザーは予めこれを了承するものとします。クリアされた時点でゲームは月額無料となる。」が原因です』
『被告人からは何か言い分がありますか?』
『私からはぁ、契約違反をしてるのが一体どっちなのかぁ考えて頂きたいだけですよぉ』
ザワザワザワ
傍聴席側が騒がしくなる。
『静粛に! では、原告人は前へ』
スターニアが証言席から離れて原告人が立つ。
『原告側の言い分をどうぞ』
『先ほど、そちらが言っておりました通り第9条、第4項の内容の取消しを要求しております。アレではゲームを辞めた者達も引き続き払い続ける事になります』
『ゲームをクリアするまでとはどの事を指しているのか、被告側からありますか?』
『ゲームクリアに関しましては現状開示できない案件となっております』
『ふざけるなっ!』
『それだけで納得できるか!!』
傍聴席側から野次が飛ぶ。
『静粛に! なぜ、開示できないのですか?』
『当社のコンセプトは「ゲームの様な世界で冒険をしたい」という夢を叶えるためなのです。ゲームクリア条件も冒険をする事でわかってくる仕様です。つまり開発側から答えを開示してしまえば現在プレイしている9,000人強のテスター達の努力を無駄にする事になります』
『この場に居る者達だけでも開示は可能ですか?』
『拒否いたします』
『では、条項の取消しを要求を受け入れを受理いたしますか?』
『そちらも拒否です。我社は三度に渡って契約内容についてテスターに選ばれたプレイヤーに説明義務を果たしております』
『三度ですか?』
『当選者全員に契約内容を熟読した上でないとテストにすら参加できないシステムを通して行っております。こちらが当時の当選時に配布された内容です』
当選したプレイヤーに送られたメールには契約内容を最後まで読まないとテストプレイにすら参加できない旨が記載されている。
契約内容を下まで読み終わった所でID及びパスワード発行手続きが発生する。
『続きまして、各地域で行われておりました。接続テスト前の説明会です』
スタッフが契約内容を全て読み上げていく映像、今回の部分もしっかり読み上げている。
最後に質問等があれば言うように言われている。
『最後に接続した最初に契約内容の最終確認についてしております。現在、証言席にたっておられる原告人の映像です』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
≪ようこそ、フリースタイルオンラインの世界へ≫
機械的な女性の声で俺の意識が戻った。
全方向を見渡しても真っ白な空間だった。
そこにアバター作成前の姿をした原告人と同じ顔をした人物が浮かび上がっている。
≪フリースタイルオンラインの世界へ入る前にもう一度契約内容の確認および承諾にて最終契約が完了いたします≫
「また、契約内容の確認かよ。俺はこのゲームをやる為に時間も使ってんだ。早くやらせろよ」
≪契約内容の十分な確認が必要となります≫
ブゥン
VR状態でもウィンドが開き、契約内容がズラリと並ぶ。
「こんな物、読まなくても問題ないんだよ」
男はウィンド横のスクロールバーを一気に一番したにズラして。
契約に同意するチェックをして確認ボタン押した。
≪警告、十分な確認をされておりません。本当に続けますか?≫
「うるせぇ、こっちはゲームをしてぇんだ」
≪このまま続けた場合、今後アナタは契約について文句や訴える権利が剥奪されますが宜しいでしょうか?≫
「分かったから早くしろ」
≪畏まりました。契約完了につき、フリースタイルオンラインの世界へ入るにはアナタのもう一つの体アバターを作成しなければなりません≫
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『以上が原告人の行動です。三度に渡る契約確認を怠っただけではなく、権利を剥奪されたのにも関わらずその場に立っているという自体が拒否の理由となります。もちろん傍聴席にいる方達も同じ証拠映像はこちらが持っています』
『裁判長、発言をしても宜しいですか?』
『原告側弁護士、どうぞ』
『契約内容を淡々と読み上げさせただけで説明したという訳ではないと思われます』
向こうの弁護士側から突っつかれる。
『では、こちらのグラフを見てもらいましょう』
ピッ
テストプレイが始まる前の日付からグラフが始まっており、1ヶ月後には100名近くがID発行を辞退している事が分かった。
『最初の契約内容をよく読んだ人は契約できないと判断されてテストプレイを辞退されております。次に接続テスト時』
グラフがグンッと減った。
『全体で400名近くが2回目の説明時に質問あるいは気付かなかった点に気づき辞退されております。その1時間後には』
最終的にテストプレイヤーは9,000人をギリギリ超えた程度で収まった。
『1万人の当選者から約1割の人間が契約内容を読み辞退しております。残りは契約内容を理解した上で契約完了させているので原告側の主張である条項の取消しには応じられないのが我々の考えです』
『ゲームをクリアするまでに関する期間が分からないではないですか?』
『クリアするまではプレイヤー次第なので設けられません』
『契約期間は契約時に定めておくべきではないでしょうか?』
『契約期間は今から30年後の2125年です』
『30年の契約期間なんて聞いた事がありません』
『えぇ、契約者が死亡またはゲームプレイができなくなった場合のみ契約解除できる旨もちゃんと記載されています』
『30年の間に契約状態が変わる場合もありえますよね?』
『いえ、この契約内容の改訂予定はありません。最初に提示された契約内容は固定します。以上が我々が拒否する理由および証拠です』
『双方にこれ以上の証拠提出等がなければ審議に入らせて頂きます』
一旦、裁判長達による審議を挟むこととなる。
通常の裁判では裁判長は一人で判決を下すが前例のないVRシステムに関する裁判故に特別に3人の裁判長が座っていた。
被告側と原告側に傍聴席側の人間が裁判室を離れて各々で休憩を挟む。
ダンッ
『なんでだよ』
『くそっ』
フロアロビーのハブリックスペースで原告側の人間達が集まってざわめいている。
「アチラさんは慌てているようだ」
「雰囲気はコッチが有利ですからねぇ」
3度にも渡って契約の説明を受けてなお、契約書にサインをしてしまったのだから自業自得だろう。
『そうだ、この事を拡散して』
『ばか、そんな事したら他のプレイヤー達に殺されるぞ・・・俺達は支払い義務がなくなればいいんだ』
『もしあの会社が潰れてVRシステムでのゲームが出来なくなったら敵は1万人近くに増えるぞ』
『バレやしないって』
『俺、あの会社の事調べてみたんだが』
『なんだ?』
『ホームページ上の情報程度しか分からなかったんだ。過去に2作品もMMORPGを作り上げたんだからそこそこ有名な会社になってもいいだろ? でも、俺の知り合いのゲーマーも知らない会社だって言うんだ』
『2000年に設立したって言ってなかったか?』
『50年も続くゲーム会社の事を誰も知らないなんてあり得るのか?』
『どういう事だ?』
『それって情報操作で秘匿してたんじゃ?』
『一企業がなんでそんな事してんだ?』
『そもそもVR開発の発表時であの会社のことが全世界に知れ渡ったんだろう?』
『脊髄から脳からの電磁信号をキャッチするパターンを見つけだせたてVRハードが出来上がったって記事で読んだな』
『どうやって見つけ出したんだよ?』
『そりゃ、人を使ってだろ?』
『どんな方法で?』
『ペタペタと首の後ろに何か貼ってじゃないのか?』
『そんな事で見つかるなら他の会社もやれている筈だろ?』
『まさか、実際に切り開いて』
『よせ。これ以上あの会社に関わらないほうがいいんだ。俺達は残りの30年間分を払い続けたくないだけで来てるんだ』
『そ、そうだよな』
『あの雰囲気じゃ勝てるのか?』
『こっちの弁護士もあの映像を見せられて顔色が悪くなっていったんだが』
『恐らく負けるだとよ・・・しかも、あんな映像を見せられちゃぁな』
・・・
時間が過ぎて、審議の結果が発表される事となった。
『審議の結果を発表いたします。原告側からの被告側への条項取消しについては様々な観点において原告側の過失が多くあり要望は無効となります』
『裁判長』
『なにかね?』
『それは契約内容をよく見ていないこちら側の過失だとしてもあの内容では勘違いしても可笑しくありませんか?』
「何処がかしらぁ?」
今まで黙って聞いてスターニアが嘲笑している声で聞き返す。
『ゲームがクリアされるまでという曖昧な表現、契約期間が30年という前代未聞な長さ等もです』
「先程も私達の顧問弁護士に説明させた通りですよぉ? プレイヤー達が私達の用意した条件をクリアした時なのですよぉ? 契約期間が長いですかぁ? 確か契約期間の最大年数に制限は無かったですよねぇ? それだって可笑しいと気付いて質問をして詳しく聞いていれば防げた筈ですよね? それをしなかったのに私達が一方的に悪者扱いですかぁ?」
『それは』
「判決はそちらの要望は無効と言われたのですよぉ。アナタもプロなら負けを認めてくださいな」
『くっ』
スターニアの勝利の宣言が室内に響き渡った。
『では、『異議あり!』』
傍聴席からそんな言葉が出てきた。
『俺たちはアンタ等に騙されて契約をしたんだ。あんな糞ゲーに金なんか払ってられるか!』
『傍聴席側から異議の申し立ては通用いたしません』
『なんで条項取消しが出来ないんだよ』
『審議の結果です。その他に異議が無ければ閉廷いたします』
ザッ
全員が起立して判決は下された。
・・・
・・・・・・
その後、判決に控訴が言い渡されて高等裁判所での再裁判が行われる事となった。
結果は前回と同じで原告側の過失による物が大きく、条項の削除要望は無効となった。
これで終わるかと思いきや上告が発生して最高裁判所での再々裁判が決定した。
最高裁判所での結果も同じで勝訴が確定した。
「テスト期間が終われば等しく支払い義務が発生しますのでぇ、延滞をなさらないように注意してくださいねぇ」
スターニアが元テスター達にそう告げると裁判所を去った。
《拡散情報を削除しました》
マザーがBEGの裁判に関する情報を逐一削除している。
あらゆるSNSでの発言や掲示板を利用した情報拡散を防いでいるのだ。
・・・
「社長を辞める?」
テスト期間が終わろうという時期にスターニアがBEG代表取締役を辞める事を宣言した。
これまで部下として付いてきた社員たちから声が上がる。
「これまでぇ、みんなとぉ一緒にゲーム作りをしてこれたのは楽しかったんですがぁ疲れてしまいましたぁ。今後は柊勤さんにぃ引き継ぎたいと思います」
「あんな仮想人物に社長の座を明け渡すのか?」
「いえ、アナタが社長ですよぉ。柊勤さんを作り出したのはアナタなのですからぁ」
「俺が? 副社長らしい事もしてこなかったんだぞ? VR開発も殆ど部下達の賜物だろう?」
「アナタの持つ技術力がなければここまでは来れなかったのでぇ・・・それに私の次に年長者ですからねぇ。皆も薄々気づいていると思いますよぉ」
VR開発に数十年と要して最初に会った頃より全員が老けた。
だが、俺とスターニアだけは容姿の殆どが変わらない。
外国人だとしても老けないのは変だと皆気づき始めている。
「みんなにはぁ、突然で悪いんですけど私はぁ社長を辞めて隠居しますぅ。今後はこのアオイさんについて行って下さいねぇ」
「あんまり管理職は苦手なんだよなぁ」
「大丈夫ですよぉ、アオイさんはお飾りの社長になるだけですからぁ」
「は?」
「実質は彼女が舵取りしますので」
ブゥン
《はじめまして、BEGの皆様》
CG加工されたマザーがスターニアの後ろにあるモニターに写りこんだ。
《スターニア様の代わりに舵取りを任された人工AIのマザーと申します。質問等はしっかり受け付けます》
「本気か?」
《はい、これはスターニア様との打ち合わせで決定いたしました。マスターであるアオイ様を代表取締役に置き、私が影で舵取りをする方針が決まっております》
「いつの間に決まったんだよ」
《あの裁判後に行いました》
「みんな、何十年も尽くしてくれて有難うございましたぁ」
スターニアがお辞儀をする。
『俺達は構わねぇぜ』
『楽しませて貰いましたからね』
『今まで有難うございました。ワシ等が代表して礼を言うわい』
殆ど定年に近い各部署の担当者がそれぞれに言う。
『それで最後に聞きたいんだが?』
「なんですかぁ?」
『『『(アナタ、アンタ)、なんで老けない(の?/んだ?)』』』
三人が口を揃えて言う。
『ウチの最大の謎なのよねぇ?』
『30年くらい前から疑問に思っとったわな』
『若い連中も不思議がってますよ』
「それはぁ、企業秘密です」
パチンッ
見た目20歳後半の女性が口元に人差し指を立ててウィンクを送るスターニア。
設立100年になるゲーム会社一代目社長の姿だった。
『で、若いの』
『この会社の社長になるのですから、覚悟が必要ですよ』
『前社長と仲が良いので大目に見てきましたが、ビシバシ教育しますよ』
古参三人集から今まで感じたことの無い空気を出される。
「若い?」
「アオイさんも十分"お"若く見えますからねぇ」
スターニアがクスクスと笑う。
「マザー、俺の戸籍ってあるか?」
《もちろん、ありますよ。現在の年齢から逆算してあります》
ブゥン
俺の戸籍情報(名前と年齢が分かる程度だが)がモニターに映し出される。
『柊アオイ、2003年生まれじゃと!?』
『92歳!?』
『信じられないわ!!』
「で、誰が若造だって?」
『いやいや、年齢詐称は止してくれ』
『心臓が止まるかと思ったわい』
『そうよね、こんなに若い見た目で90歳の御爺ちゃんなんて・・・だれが信じられるのかしらね』
3人は各々で自己解決していく。
「クスクス、嘘だと思われてますねぇ」
「ここで見た目が裏目に出たか・・・」
『とにかく、二代目社長としては実力が伴ってないとな』
『様々な事に触れてもらいますからね』
『年齢通りに経験豊富なら直ぐにできますわよね?』
どうやら、俺の年齢はネタとして見られてしまったようだ・・・
「止めると言っても、私もアドバイス位はしますよぉ」
「なら、止めるなよ」
「一種のケジメ見たいな物ですよ。現社長が辞すれば周囲の目が変わりますからねぇ」
「本音を言うと」
「疲れたのですよぉ~、アチコチに交渉なんてもう嫌ですぅ」
「はぁ・・・先が思いやられる」
こうして、スターニア前社長は会社を辞めることで周囲からの目を和らげ、二代目社長に柊勤(柊アオイ)が任命された。




