87話「現代⑤-闘天使の開発」
佐藤隆彦の死亡事故は瞬く間に世間に広がっていった。
タカヒコの親戚たちが会社を訴えてきた為に起こった事象だ。
こちらも非が無いわけでは無い為、多額の慰謝料を支払い裁判を終える。
また、VRゲーム機BCGの危険性が世間に広まりプレイヤー離れが発生、たちまちに会社が立ち行かなくなった。
プレイヤーの中には殺人未遂だった事を前面に訴えてきて、これまで支払ってきた月額料金およびBCGの払い戻しを要求してきた。
最高裁判もこれにはプレイヤー側が優勢で敗訴となり、約1万人近くへ全額返金が発生し儲けの殆どが吹き飛んだ。
「済まないな・・・急にこんな事になってしまって」
会議室にいつものメンバーが集まり最後の会議をしている。
『やむを得なかった事じゃ』
『前社長は何か言ってますか?』
「こういう事もあるだそうだ」
『死亡事故といっても原因が全く分からないのでしょう?』
「マザーの分析結果でもBCGの暴走による事故ではない・・・そもそも、安全性を最優先にして作られたからな」
『それは俺が保証するぜ』
「恐らく、ショック死だそうだ。ゲーム内の死が現実にも反映されてしまった・・・それだけ大きなショックが起こった事しか分からなかった」
『その言い方では、ショック死の線も薄いですか?』
「俺はそう思っているが、死亡した説明がつかない」
『この会社はもう』
「あぁ、倒産だ。当然といえば当然の結果だが、お前たちの全員の退職金の心配はしなくても良い」
殆どのスタッフは50以上のベテランが運営していた会社で人生の大半をここで消費してくれたのだ。
相応の対価を用意している。これで前社長から引き継がれてきた資金は底を着いた訳だ。
『最後に前社長に合わせてもらえんか?』
『挨拶くらいしないとですね』
『歯切れが悪いわ』
3人からの嘆願でスターニアに頼み、会議室を出て行く。
暫くして戻ると3人は満足した様子だ。
「本日を持って、ブレインエレクトロニックゲームズは倒産した。今まで着いてきてくれて助かった。余生は各々自由に過ごしてくれ。後日退職金などは振込まれる」
『『『有難うございました!』』』
こうして、100年続いたブレインエレクトロニックゲームズは世間から幕を閉じた。
ゲーム会社の土地、施設等を売っても他に充てる金額に代わり、俺のところには殆ど残らなかった。
当然、VR技術を目当てに声を掛けてきていた企業も軒並み手を引いた。
『大変でしたな』
唯一、ウチと共同開発という名目で契約を結んでいた闘天使を開発している会社以外は・・・。
「まぁな」
『その代わりにウチが引っこ抜けたのは大きいですな』
俺がフリーになったところを見計らって闘天使の開発を手伝わないかと誘われた。
会社が潰れた為にマザーからのアドバイスが受けられなくなり開発が滞っているとの事。
『一応、ここまでは開発したんですわ』
カチャッ
一見サンバイザーに似たデバイスを頭に装着する。
ピピピッ
半透明な部分に人形のデータが写り始める。
カチャカチャカチャッ
デバイスとノートPCが有線で接続、更に人形とも繋がっている状態だ。
ウィウィウィン
ウウィン
カクカクとしているが人形が動いた。
「ここまで動かせるようになったか」
『ここまでなんですわ・・・色々と試しているんですけどね。スムーズに動きませんわ』
「俺も試しても良いか?」
『えぇですよ』
パッ
デバイスを受け取り、装着する。
ピピピッ
装着された事を検知して頭から外れないように不快感を与えずに自動的に締められる。
『あれ?』
「どうした?」
『私の時より電子信号が強いですね』
「そうなのか?」
『すこし闘天使に動くイメージを送って貰ってもえぇですか?』
「あぁ」
ウィン
先ほどと変わって人形の足がスムーズに持ち上げられて一歩前進した。
『こりゃ凄いですな。同じ物とは思えませんよ』
「そうだな」
何だが、似たような経験を以前にしたような・・・
遥か昔・・・アレは
ブワッ
記憶の奥底から俺がVRMMOで人形使いをやっていた時のことがフラッシュバックし思い出された。
「そうか・・・現実でも」
『何か、言いましたか?』
「もう少し良いか?」
『えぇ、データも取れますからね』
「遠慮なく」
ウィンウィンウィン
人形に入っている小型モーターが動き始める。
「くっ、各関節ごとか」
『人間に模して作りましたからな』
VRMMO時代は5箇所のイメージで後はシステムが動かしてくれた。
だが、これは高性能の人形だ・・・容易には動いてくれない。
ウィンウィン
「これは・・・難しいな」
『いやはや、これだけ動かせれば凄いですよ。見てください、私とアオイさんとでは違いがハッキリわかります』
2人の操作時に出ていた脳からの電気信号をグラフ化し比較した物を見せられる。
圧倒的に俺の方が多く出ていた事が可視化された。
「理由は分かるか?」
『理由はなんでかは分かりません』
恐らく、人形使い時代の記憶とハイヒューマンの能力が合わさっているからだろう・・・
俺の体は普通の人間より頑丈で死ににくく気が緩むと人を殺しかねない能力秘めている。
それは内部側にも起こっている・・・身体を動かす電気信号が大きければそれだけ能力は向上するのだろう・・・普通の人間だって脳がリミッターを掛けているというのだからな。
『改めて是非、ウチで働きませんか? アオイさんの力が必要なんですわ』
「あぁ、これはウチも絡んでいた案件だしな。それに時間もタップリある」
タカヒコの死因はゆっくり原因解明していく他ない。
当時のデータはマザーが月の裏側まで回収してくれた・・・寿命までには知りたいな。
『改めて、結城博之いいます』
「柊アオイだ。よろしく頼む」
グッ
事務処理を終えて、闘天使を開発しているエンジェリーヴォロジッツカンパニーへと再就職が決まった。
「皆、本日からここのラボで闘天使の開発する仲間となった人を紹介しますわ」
闘天使の技術開発会社は小ぢんまりとしていた。
テナントビルの一室を借りた、従業員がたったの4名しか居ない企業と呼んでいいのか困惑する会社だった。
「柊アオイだ、この闘天使を試験運用のテスターとして雇われた者だ。よろしく頼む」
「アオイさんは数年前にウチに脳電気信号の受信理論を教えてくれた人物ですわ」
オオォ
今はVR技術を応用した事は伏せてもらっている。
「先日、闘天使を実際に見て動かしてもらった所我々の誰よりも動かしてくれたので入社して貰いました。仲良くするようにして下さいね」
パチパチパチパチ
「では、紹介しますね。ルーウェル大学のロボット工学部出身で闘天使を動かす大部分を担当してくれています。東透さん」
「はい。ご紹介にあずかりました東透といいます。アナタの技術提供のお陰で開発が進みました。有難うございます」
「続いて、闘天使の外見を担当してくれていますプロフィギュア製作師のミミンさん」
「フィギュア歴15年のミミンです。私なんかが一緒に携われて光栄です」
「ミミンさんはプロフィギュアを製作する最に作品者名として使われている名前です。本名は」
「チーフ、それは言わないでください」
「冗談ですわ。最後にロボットを動かす為のシステムを手がけている椎名誠さん」
「始めまして、ロボットの動作システムエンジニアの椎名誠です。よろしくお願いします」
「以上、私を含めて4人の小さな会社ですが、ここまで来ました」
「流石にパトロンは居るんだろ?趣味とかじゃ出来ないだろうし?」
「えぇ、支援を受けてますよ。開発費用を出してもらう代わりに完成し販売にまで至ったら正式に雇ってもらえるそうで」
「十分な成果は出していると思うんだがな」
「お世辞を言っても何も出ませんよ。これはあくまで開発段階ですからね。最後には互いが戦えるまでを目標ですよ」
「そうか」
「では、アオイさんのテスターの実力を皆さんに見てもらいましょう」
ガタタッ
全員が立ち上がり、部屋の隅には直径5m程の小さな円舞闘技場へとやって来る。
「本来は此処で戦わせます。両足に電極があって舞台から直接充電しつつ闘わせます」
「有線だった訳は会議室だったからか」
「えぇ」
「電気信号はどうやって受信するんだ?」
「デバイスと闘天使を同期させる事で、相手と区別をするシステムです」
「なるほど、さっそくやってみるか」
チャッ
座ってデバイスを頭に装着。
「闘天使起動!」
勢い良く、結城が闘天使を円舞闘技場に入れる。
フワッ
自動的に闘天使が浮き上がり地面に立つ。
「どういう仕組みだ?」
「この中では闘天使を電磁力で浮き上がらせて自重を軽くしてるんですよ」
「それって障害にならないか?」
「そこも課題なんですよ。電磁力でデバイスから送られた命令受信が遅れるという点がね」
「やはりな」
「何か対応策って思いつきます?」
「電磁力以外でか・・・直ぐには思いつかんな」
「ですよね・・・ここら辺が目下の課題ですわ」
「ちなみに投げ入れ時の掛け声は?」
「その方がカッコイイからですわ」
「そうか。とにかく動かしてみるか」
先日は有線での動作チェックであり、今回は無線動作だ。
ピピピッ
闘天使との同期が取れて動かせる状態に移行する。
スッ
「むっ」
スススッ
「どういう事だ?」
「なにか問題がありましたか?」
「先日と違って動かしやすいんだが?」
「有線時ですとコードの関係でバランスが違うんですわ。これが本来の闘天使の動きになりますわ」
「そういう事か・・・色々とやらせてみるか」
30分程度、闘天使に俺のイメージさせた動きを命令する。
電磁波問題でタイムラグが若干あるが大体はイメージ通りに動いてくれる。
グラッ
パタンッ
たまにバランスを失い倒れてしまう。
「バランス機能はどうなっているんだ?」
動物であれば脳が勝手にバランスを取って立つのだが、闘天使にはそれが無い。
「ただ、立つだけなら自動制御はさせてますが、動く時だけはバランス機能をオフにするような仕様ですよ。でないと動きの阻害になりますから」
椎名が答える。
「殆ど自分で操作する訳か・・・慣れるまでが結構な鬼門になるぞ」
「それも課題の一つなんですわ・・・初心者には難しく感じるかもしれません。アオイさんは操作に梃子摺っている様子はなさそうですが実際にやるとこんな物ですわ」
結城が対面に座り、デバイスを装着し闘天使を投げ入れる。
ギクッシャクッ
俺が動かすよりも闘天使の動きが良くない。
「これが普通ですわ・・・この差がある限りは闘いにもなりませんわ」
「なるほどな」
「いい、機会ですし。いっちょ戦ってみますか」
ウィン
「あぁ」
スッスッスッスッ
・・・
パタンッ
結城の闘天使が倒れ俺の圧倒的有利で勝利が確定した。
「現状はこんな物ですわ」
「トライアンドエラーをして行く他ないな」
「ですな」
こうして闘天使を一般人でも扱えるまでの試行錯誤が始まった。
それから1年半の歳月を掛けて課題を次々にクリアして行った。
ガチャッ
「おはよう」
フワァ
連日の徹夜で欠伸が出る。
「すごいやろ~」
『うふふ、凄いですね』
円舞闘技場の近くに車椅子の女性がデバイスを装着して結城と楽しそうに会話をしている所だった。
「あっ」
結城がバツの悪そうな表情をする。
見ず知らずの人間が俺たちの開発室にいるのだからな。
「初めまして、結城の奥さんか?」
『あら? 日本語がとてもお上手なのですね?』
「あぁ、長年日本にいるからな」
『挨拶が遅れましたわ。彼の妻の結城翠といいます』
「柊アオイだ。ここへは何用で?」
「彼が開発中の闘天使を見せてくれると言うので」
「どうだ?」
「話を聞いたとおり、素晴らしいと思いますわ」
「その通りですわ」
「だが、部外者を情報機密が多いここに連れてくるのは頂けないんじゃないか?」
ジト目で結城を見るとシュンとなる。
「御免なさい、余りにも楽しく話すので私が無理言って来させて貰ったの」
「違います、私が後先考えないで連れてきてしまったから」
「夫婦仲はよろしいな。今後無ければいい。もう、動かしたか?」
デバイスを装着しているという事は闘天使を動かした後の様だ。
「そうですわ、やはり妻は飲み込みが早くて闘天使が上手く動かせるんですわ」
「アンタには聞いていない」
「うぐ!」
「えぇ! 話を聞いていた以上に上手く動かせましたわ」
「そうか。では、俺と一戦してみないか?」
「え?」
「いやいや、アオイさん。妻は先ほど始めて動かしたんですよ!?」
「俺は常々思っていたことがある。そして目の前に実現できそうな人物がいる」
「それって」
「この闘天使は身体の不自由な方であればあるほど動かしやすいと」
細かい課題はクリアしているが大きな課題は中々解消されない。
「それはどういう事ですか?」
ミドリはムッとしている。
「この話は戦ったあとで・・・」
カチャッ
「闘天使起動」
スーツケースに入れていた俺専用の闘天使を円舞闘技場へ投げ入れる。
ズシッ
重量感ある着地をする。
「これは?」
「これが俺の闘天使」
闘天使は操り手の趣味趣向でサイズ、重量、姿形を好きにカスタマイズする。
俺のは無骨で重厚な盾を持つ、重騎士をイメージしたタイプの闘天使。
「名をチャリオットという」
ピィン
「私のは試作品と聞きましたが」
「これも試作品の一つだ。重量がある防御力を特化させたタイプのな」
「私のはどのタイプなんですか?」
「話が分かって貰えて助かるな。軽量のスピード特化タイプだ」
「そちらより早いという事ですか?」
「あぁ。ただし、軽いという事はアドバンテージだけという事は思わないでくれ」
「分かりました」
「結城」
「「はい?」」
「どちらとも結城だったな」
今後は名前で区別しないとな・・・
「私が審判をしますわ・・・」
チャッ
デバイスを装着して相対する。
「闘天使バトル、ファイッ!」
ヒロユキの合図で戦いが始まった。
「行きますっ!」
スイッ
これまで、どのスタッフよりもスムーズに闘天使が動き出した。
タッタッタッ
数秒で、スピード特化の闘天使がトップスピードに乗りだす。
ガシャンッ
俺のチャリオットは巨大な盾を構えて向きを変えるだけでコチラからは動かない。
「そこっ!」
チャリオットの背後を取った形で闘天使の持つ細剣が突き込まれる。
ギィン
「うそ!?」
「盾だけが防御するのが手段じゃない」
背後からの攻撃をガントレットで受け止めるチャリオット。
「そのスピード特化試作闘天使はサンと呼んでいる」
「サンですか。良い名前ですね」
「アオイさんがデザインした物なんですわ。女騎士をイメージして作られたとか」
「防御していても勝てないからな、こちらからも行くぞ」
ダッダッダッダッ
重量もあり重苦しい足音を出しながらもサンへと向かうチャリオット。
「操作にも慣れてきたので、私には追いつけないと思いますよ」
スタタタタタッ
先ほどよりも足を早く動かしてチャリオットから遠ざかっていく。
「チャリオットはタダの防御特化だけではない」
「え?」
「パージ」
バァン
ガシャンァン
盾を投げ捨て、重厚な鎧の中から別の闘天使が出現する。
「遠距離攻撃特化型試作闘天使アルテミス」
チャッ
弓を構えて逃げているサンを狙う。
「シュート」
ヒュォッ
矢が放たれてサンに向かう。
キィン
「ふぅ」
サンの細剣が振るわれて矢が防がれた。
「アレを防ぐか」
チャッ
次の矢を構えるアルテミス。
「昔、聞いたことありますよ。矢は一度放たれてから次を構える間に隙があると」
「突っ込んでくるか」
タッタッタッタ
方向転換してアルテミスに向かってくるサン。
ヒュォッ
キィン
矢を弾きながら間合いを詰めてきた。
ダンッ
力いっぱいに飛び、空から細剣を掲げて突っ込んでくる。
「勝った!」
「まだだ、チャリオット」
ズシッ
ガキィン
「うそでしょ!?」
サンとアルテミスの間に脱ぎ捨てられた鎧が動きだして盾で細剣を防がれる。
タッ
盾を足場にしてサンが後退する。
「なんで!」
「これがチャリオットの特性、もう一体を搭載する事のできる闘天使ですわ」
「アズマには無理を言ったからな」
別の闘天使を積み込む空間を作りつつ、自身も動けるようにしろという無茶を通してくれた。
ガヤガヤガヤッ
ガチャッ
「あれ、チーフ」
「こんな時間に何を?」
「奥さんまで?」
3人のスタッフが部屋へ入ってきた。
「あの、これはだな!?」
普段、冷静な男なのに慌てている。
「いま、動作実験を行っているんだ。ミドリさんにはそのテスターとしてヒロユキに連れてきてもらったんだ」
「えぇ、私の妻が闘天使の操作に適合したんですわ」
俺がそれとなく理由をつけてフォローを入れておく。
「そうなんですね、俺らじゃアオイさんの相手ができませんから」
「アオイさんと対等に渡り合ってるんですか?凄いじゃないですか」
「へぇ」
ゾロゾロと円舞闘技場に集まる3人。
「翠さんがサンを」
「アオイさんはチャリオットとアルテミスを同時操作ですか」
「人形使いとして相手しているんですね」
「人形使いってなんですか?」
「アオイさんは規格外の人ですよ。普通は人が動かせるの闘天使は1体までが限界です」
「それを同時に動かせるのは相当脳に負荷がかかっている筈なんですがね」
「異常がまったく出てないので不思議なんですよねぇ」
「俺を異常者と勘違いさせる発言はするな」
「何を言ってるんですか、最大5体も同時運用するくせに」
「異常も異常ですよ」
「そうですよね」
3人がうんうん頷きながら言う。
「5体もですか?」
「そこのサン、チャリオット、アルテミス。そして攻防バランス特化型のペンドラゴンに後方支援特化型のジャンヌの5体同時運用ができるアオイさんの事を自分達は人形使いと呼んでいるんですよ」
「す、すごいんですね」
「翠さんも凄い事ですよ。そのアオイさんに2体目を出させたんですから」
「そうなんですか?」
「そのチャリオットとアルテミスの組み合わせは厄介ですよ・・・硬い防御を突破して遠距離射手を倒さないと永遠と射たれまくりますから」
パンパンッ
「お前たち、とっくに始業時間が過ぎてるんだ。仕事に戻るぞ」
「今日は有難うございました」
「ヒロユキ、ちゃんと説明しておけよ」
「えぇ」
後の事はヒロユキに任せて、今日も動作データを取る。
闘天使を動かすテスターは稀にしか現れない。
そして、おいそれと外部の人間に漏らすわけには行かないのだ。
機密情報で溢れかえっているここに無断で入らせたヒロユキの行動は契約規定違反に該当するものだ。
・・・
数日後、第二のテスターとしてミドリが参戦する事となった。
技術開発に手を貸すのではなく、単純に闘天使を動かすだけのスタッフという事だ。
多少の給料が入るようだが、バイト程度の賃金だそうだ。
俺はロボット性能向上、デザインアドバイス、プログラムアドバイザー等他のスタッフの相談役になったりしている為、普通に給料が出ている。
ヒロユキはその統括兼営業回りを担当している。
「この、チャリオットというのは動かしずらいですね」
「最大重量で防御特化型だからな」
ミドリには試作闘天使5体をそれぞれ動かして貰い、感想などを言ってもらう。
と、同時にミドリの脳電気信号データを観測。
やはり一般人(あの4人)よりも電気信号波形が主に足腰部分が強い。
「そういえば、体の不自由な方が動かし易いと言ってましたが何なんですか?」
ピシッ
その場の空気が変わった。
「え?そんな事言ったのですか?」
「翠さんに失礼だろ」
「アオイさんて時々デリカシーというか遠慮無く言いますしね」
3人がヒソヒソと話し合う。
「この闘天使がなぜ動くか知っているか?」
「この頭に装着しているデバイスで脳波をキャッチして闘天使に送っていると聞きましたが?」
「説明を端折ったな・・・脳波だけじゃ闘天使は動かん」
「そうなんですか?」
「このデバイスは脳波ではなく、脳から体に送られる筈の電気信号を読み取っているんだ」
「電気信号?」
「手を握る、この動作は手自身が勝手に行っているわけじゃないのは分かるよな?」
「はい・・・あぁ、なるほど。だから不自由な方なんですね」
「理解が早くて助かる。健常者だと電気信号を捕まえるのが難しいんだ。それに比べて」
「私の場合は足腰にいく筈の電気信号が捕まえやすい、ですね?」
「あぁ。闘天使の下半身は動かし易いだろう?」
「そうなんですよ・・・不思議に思っていましたが納得しました」
闘天使の下半身は動かしやすく、上半身の動きはギクシャクしていた。
「では、アオイさんは如何して動かせるんですか?」
「俺の電気信号の力は一般人より強力なんだ」
「強力ですか?」
「まぁ、見ててくれ」
デバイスを装着して席に座る。
「闘天使起動、ペンドラゴン、サン、アルテミス、ジャンヌ」
フワッ
4体の闘天使が円舞闘技場に入る。
スタッ
「チャリオットも返してもらう」
ガシャガシャッ
デバイスの同期をミドリから俺に切り替える。
ペンドラゴンを中心に他の4体が鶴翼の陣形を組む。
○ ○
○ ○
○
「音楽スタート」
♪~
何処かで聞いたことのある音楽が流れる。
スッ
5体が同時に動いて腰を屈めて同じポーズを取らせる。
リズムに合わせてペンドラゴンを踊らせ始める。
「一体を動かすのは普通の人でも可能だ・・・俺はその部分が強力で最大で別の動作を5種類に分けて電気信号として出せる」
スッスッスッスッ
ガシャガシャガシャッ
タッッタッタ
カシャンカシャンッ
シャッシャッシャッ
他の4体もペンドラゴンに会わせて同じ動きをさせていたが途中で別々の動きをさせる。
~♪
約4分間の音楽が止み、5体はそれぞれのポーズを取って止まる。
パチパチパチッ
ミドリから拍手が贈られる。
「俺がここに居る最大の理由はこの異常な電気信号発生者だからだ。ただ、強力すぎて研究が滞っていた」
「そうなんですか?」
「一般人では満足に動かせない、俺の場合は強すぎてデータが取りつらい。そこで、その中間であるミドリさんがやって来てくれた。俺たちとして願ったりな状態な訳だ」
「はぁ」
「来てくれて有難うという訳だ」
「それは、嬉しいですね。私は博之さんに頼ってばかりだったので」
「そんな事はないぞ。アイツはミドリさんにベタ惚れだ。たまに飲む時も惚気話ばかりだしな」
「えぇ。そんな事はありませんよ」
「私達が保証しますよ」
「翠さんはチーフを支えてください。あの人、結構抱え込むので」
「皆さん」
「それじゃ、データ取りをするか」
「はい!」
翠の参戦で課題が次々にクリアされていき、研究を開始して5年で闘天使が商品化されるまでに至った。
「やっとここまで来れましたわ」
「そうだな」
「それも、アオイさんの技術提供が大きな進歩だと思いますわ」
「そうだったとしても、アンタの奥さんが来なければ実現は不可能だったと思うぞ」
「ぇぇ。非常に助かりましたわ。一般人にも適用するデバイス作成のキッカケを作ってくれましたからな」
「さてと」
「行くんで?」
「闘天使開発までは俺が手助けする理由だった。後は任せた」
「はい、達者でな」
「あぁ」
こうして、俺達が作りだした闘天使が僅か数年で闘人形は知らないものが居ない程認知度が上がっていった。




