78話「戦国時代②-織田家家臣になる」
織田家御膳試合を迎えて、俺とハルヒコは順当に勝ち進めていく。
御前試合の内容は決められた円形の範囲内で互いに素手で押し合う「相撲」であった。
織田信長は相撲が好きと言う史実は本当であったようだな。
『ひぃがぁしぃ~、アオイぃい、にぃしぃ~ハァルヒィコォ』
行司の進行が進み、決勝戦まで上り詰めた俺達は互いに褌姿で相対する。
「久々にアオイさんと戦えますね」
「そうだな」
仲間内で戦うことは殆どなかった。
ハルヒコは俺と戦える事が嬉しいらしい。
『構え! 手を突いて! 見合わせて!』
両足を開き、土俵に両手を付き、互いに見合わせる。
『はっけよぉい! のこった!!』
ブォッ
互いの張り手が顔面に向かって伸びる。
バシィイン
左頬に衝撃を受けて、肌が震える。
「ぐっ」
ハルヒコ側からうめき声が発せられる。
俺の張り手を受けても顔を逸らさずに見返してくる。
ツッゥー
ハルヒコの左側の唇から血が流れる。
「効きましたよ!」
ブゥン
左腰を捻って、更なる張り手を繰り出すハルヒコ。
ブブブッ
ブォオオン
常人の目には止まらぬ速さで5回分の張り手で連撃してくる。
フッフッフフッ
俺は最小限の身のこなしで避ける。
ブワァア
土俵の上にあった砂が舞い上がり砂煙となる。
「ふんっ」
「ぐっ」
ドッ
左手の張り手がハルヒコの鳩尾に入る。
ブワッ
衝撃が周囲へと伝播する。
「まだまだ、だな」
ドフッ
右手の張り手がハルヒコの左肩に入り、土俵外へと押し出す。
ドドォン
ハルヒコが土俵から地面へと落ちる。
オオオオオォオオオ
周囲で見ていた武官・文官が歓声を上げる。
パチパチパチパチ
城の一角に建てられた屋敷から見ていた人物が拍手をし始めると周囲も同調して拍手が贈られた。
『うむ、良き試合であった! その方等の力とくと拝見できた』
スッ
奥の座敷から立ち上がり、人が出てくる。
周囲とは違った出で立ちの男、際立って若い印象を受ける。
若干18歳の織田信長がそこに立っていた。
「名をなんと申したか?」
スッ
「名はアオイ」
「天城晴彦と言います」
俺達は片膝を付き、頭を下げる。
ドヨッ
周囲からはどよめきが立った。
「それが向こうでの位が上のものに対する挨拶の仕方か?」
「城仕えの場合はこの形です。平民の場合は平伏が一般的でございます」
ハルヒコが先に答える。
「その方、日の本出身でだな?」
「その通りでございます。幼少の頃より師匠に拾われてから向こうで育ちました」
「拾われた・・・か?」
「この戦乱の世、人さらいは何処にでもいるものです」
「であるか・・・して、アオイと申したか? その強さがあればワシではなくても他の武家に仕える事もできただろうに?」
この時期の尾張は信長が収めているわけではなく上には上の存在が居た。
「南蛮人を雇い入れる武家が何処かにあるなら紹介して頂きたい」
「確かに! 日の本中を探してもここ以外でお前を雇おうとする者はおらんな!! ワシは強き者であれば誰だって雇う。どれ、その強さをワシに見せてもらおうか」
ババッ
着物の襟から腕を出して上半身が裸になる。
『信長様! この場でそのような発言は如何なものかと!』
近くで控えていた初老の男が発する。
「じぃ、たまには良いではないか」
バサバサバサッ
歩くたびに衣服を脱ぎ捨てて褌姿になる。
細身でガッシリとした肉体が日に晒される。
「土俵に来るが良い」
ズシッ
「本気で?」
「無論だ」
『構え! 手を突いて! 見合わせて!』
行司の指示に従い、両足を開き、土俵に両手を付き、互いに見合わせる。
『はっけよぉい! のこった!!』
「フンッ」
迷いのない張り手が俺の鳩尾に迫る。
敢えて、これを受ける。
パァン
手の平と胸板がぶつかった音が周囲に撒き散らされる。
「フンフンフンフンッ!」
左、右と張り手が俺の上半身に嵐のごとく襲いかかってきた。
「むぅ」
信長の息が上がり、張り手の嵐は収まる。
「効いておらぬ・・・か」
「こちらから行かせてもらう」
ググッ
右手を頭上高く上げて、俺の背より低い信長の頭上から襲いかかる。
ブォン
「くっ」
背を低くして、俺の一撃を横へ逃げて回避する。
ボハッ
右手で押し出された風圧が土俵にぶつかり土煙が舞い上がる。
「むっ」
それで視界が霞む。
フッ
「これで、どうだ!!」
いつの間にか背後に回っていた信長が俺の褌の両脇を掴み上半身を後ろに逸らす。
ググググッ
体重100キロ近くある、俺の身体をあの細身で持ち上げようとしていた。
タッ
「ぬぉっ!」
自ら飛び上がり、信長がやろうとしていた事を手伝う。
俺の体はあたかも信長に投げ飛ばされたかのように見えているだろう。
ドシィン
土俵の外に俺は投げ出されて地面に叩き付けられた。
ォオオオオオオオオオオオオオオ
それを見ていた武官や文官達が雄叫びを上げる。
自ら仕える主が巨漢の男を投げるという事が凄いという認識であろう。
「おにょれ」
信長自信は俺を睨み続けているが、先ほどの初老の男が仕切り始めて話は進んでいった。
とりあえず、御前試合の決勝戦に勝ち進んだ十数名は新たに信長の配下として加わることとなった。
皆、平等に足軽という位置だ。
標準装備が配られて、城に近い場所の長屋に案内された。
自前の武器があれば装備して戦に出ても良いという。
足軽の身分としては低く、1部屋2人で使うこととなり、俺とハルヒコが同部屋にして貰った。
「ここに皆を住まわせるには狭すぎますね」
「所詮2人用だからな」
この時代の背丈を基準に作られた為に俺達2人が寝転ぶだけで床が埋まるほど狭い場所だ。
「地道に地位を上げていけば屋敷くらいは手に入りますかね?」
「この戦国時代じゃ、そうそう手柄は上がらないだろうな」
「連絡しますか」
「だな」
通信機を使って、アキヒサ達と連絡を取る。
こっちの進捗に加えて、向こうの様子を教えてもらった。
向こうは、アキヒサ達が中心となって洞穴内部を人の住めるように改築している様であった。
暫くは隠れ潜む事はできる様なのだが長くは持たないとの事。
「頑張りましょう」
「あぁ」
こうして、俺達は織田信長の足軽として雇われた。




