72話「無人島生活⑦-遠出」
「お父さん、あっち」
「あっちか」
再び山越えを果たしてリンの指差す方向に向かって進む。
なんの因果なのか分からないがこの森は中心部、あの化物の眠る場所へ足を向かわせてしまう感覚に陥ってしまう。
無意識に向かうのだから俺でも防ぐことができない・・・
異常状態には抵抗はあるはずなのだがソレにも該当しないのだろう・・・
グルルゥ
リンを乗せているレーズンが喉奥を鳴らして警戒しだす。
今の俺では周囲から近づいてくる敵の情報は分からない。
ガサガサッ
ゲェゲェ
リンを襲ったラプトルの群れが姿を現した。
「レーズン、リンを守れ」
グルゥ
タッタッタタッ
レーズンは器用に近くの木に登り始める。
「お父さん、頑張れ!」
戦闘において非戦闘員であるリンが安全な場所にいてくれさえすれば俺は戦いに集中できる。
ラプトルは5頭、何れも人の背を越えた2m弱の体躯をしている。
爬虫類独特の目をギョロギョロと動かし餌である俺を見つめている。
ゲェゲェ
ゲェ
どうやら俺をどう殺すのかコミュニケーションを取っている。
群れで動く動物に見られる光景だ。
スッ
腰に下げた尾翼斧を取り出して構える。
この程度の相手に火縄銃は勿体無い。
黒色火薬も弾丸も限りがあるからな・・・
ゲェエエエ
一番近いラプトルが跳躍して俺にのしかかる勢いで太い足で抑えにかかってくる。
スッ
たとえスキルが使えなくても身体能力は変わらないのだ、余裕で避けることが出来る。
スタッ
ゲェ
俺がズレてラプトルが着地する。
ブンッ
着地のタイミングに合わせて尾翼斧を振るう。
グシャァアア
尾翼斧はラプトルの太い首に抵抗もなく切り裂き、通り過ぎる。
ドスンッ
プシャアアアア
首が簡単に切断され頭が地面に落ちる。
ドォッ
頭を失った体は地面に倒れ首から大量の血液を流す。
それを見ていた残りの4頭は警戒を強める。
「遅い」
スッ
体重移動を感じさせずに近くのラプトルの懐に潜り込む。
ブッ
ンっ!
ブッシャァ
ゲエェエエエエ
尾翼斧を振り上げてラプトルの顎を打ち上げる。
ブシャアア
ゲェエゲエェエ
顎の半分を割られたラプトルは血を大量に流して後ろに下がる。
ゲエエェ
俺の死角から3頭目のラプトルが飛び上がって襲いかかってくる。
ガッ!
右腕でガートして数百キロあるだろうラプトルの落下速度を殺す。
「フンッ!」
右腕を掴んでいる鋭い脚ごと振り回し地面に倒れさせる。
ゴキャッ
ベシャアア
地面に叩きつけた所で隙を作ったラプトルの頭を踏み抜き周囲に血液と脳漿をブチまける。
ゲェエゲエエエ
ゲェエエ
残った2頭が再びコミュニケーションをとり始めて後退をし始めた。
ダッ
ある程度の距離をとったラプトルがバラバラに逃げ出す。
「リン、ラプトルはどこに行った?」
「どっち共分からなくなっちゃったよ」
「ならいい。レーズン降りて来い」
タッタッ
ギュッ
木から降りてきたレーズンの背に居たリンが降りてきて俺の腰に抱きついてくる。
「パパッて強いね!」
「そうでもない」
「でも!こんな大きな化物を倒しちゃんだもん!!」
「限度っていうのもあるんだがな」
流石に徒手空拳で相手どれるのはラプトルまでの大きさだ。
ディラノサウルの巨体になると相手取るのが難しい、その場合は火縄銃で戦うことにする。
「それより食料が手に入ったぞ」
「これ、食べるの?」
「贅沢を言わない」
「う、うん」
「ワニ肉と思えばいい」
「筋張ってそう」
「食えそうな部位だけを取るからな」
ガツガツガツッ
既にレーズンが死んでいる1頭のラプトルを生で食い始めていた。
「手伝ってくれ」
「うん」
首を切断したラプトルの足を縛って木に吊るして血抜きをした上で肉の採取に入る。
俺が切ったりしている間にリンが周囲から血の匂いに誘われて来ている敵対生物の警戒をしている。
レーズンはお腹を満たしてリンの護衛を勤めている。
パチパチパチッ
ガブッ
「硬いな」
ギッギッ
「かた~い」
俺ですら硬いと感じる肉質なのだからリンは噛み切れてすらいない。
「ラプトルの肉は食べるのに苦労するな」
「美味しくない」
肉自体も筋張っていて肉汁もあまり出てこない。
この環境下では栄養の殆どは消費されてしまうのかもしれない。
俺達の住んでいた場所が恵まれていたに過ぎないのか?
「燻製肉で我慢するか」
「うん」
バナナの木をチップにして燻したボアの肉をバックパックから取り出す。
ほのかにバナナの甘い香りが香る肉を食べて夜を過ごす。
こんな早い段階で非常食である燻製肉を食べるには早すぎる・・・食料はできるだけ現地調達にしないとダメだな
・・・
パチパチパチ
レーズンを枕にリンは眠りに入った。
俺は火を見つめて今後のことについて考える。
そもそもこの島はなんなのかが分からない。
出てくるモンスターは地球で言うところの恐竜時代の生物ばかりだ・・・。
つまりこの惑星を地球に当てはめればジュラ紀の真っ只中である事が伺える。
しかしあの旅客機墜落を見てしまった後ではジュラ紀とは違う時代、人類が飛行機を飛ばす技術レベルには達している時代なのかもしれない。
それも日本の物だったんだぞ?
あの時代に恐竜が住まう島があったら、それこそ世界的に有名となっているに違いない・・・
その逆、旅客機だけがジュラ紀にタイムスリップしてきたのではないか?
であるならば、乗客乗務員達が生きていた場合はかなりマズイ事態になっている事だろう・・・
既に2週間近く経過している、生き残っている人間・・・サバイバル訓練も受けたことが無い人であるならば過酷な環境といえる場所だ。
近くに旅客機の残骸があればしばらくは保つだろうが・・・これ以上考えるのを止めよう。キリがない。
・・・
・・・・・・
「あっちに水があるよ」
「あぁ」
リンの能力は敵味方だけではなく範囲内ならば状況を離れていても見れるようだ。
上手く水辺が範囲内になければ無意味と化すがやっぱり千里眼は凄い能力ではある。
コポコポコポッ
ヤシの実水筒に真水を入れて補充する。
「この川はどっちに伸びている?」
「う~んと、あっちとあっち」
「川上をたどってみるか」
リンの指差す先は南の山の方角、川上だ。
川下は中心部に向かっているから選択すらしない。
「あ、バナナ」
歩いている途中でリンが呟く。
「どこだ?」
「こっち。レーズン」
ミィ
レーズンがリンの言うとおり歩き出して後ろを着いていく。
「バナナだな・・・」
俺たちの知っているバナナの形をしているが
「すごく、おおきぃ」
人の腕ほどにもなるバナナが何房も実っている。
本当にバナナかと疑ってしまうほどだ。
「む!?」
【鑑定】
名前:NoName
レベル:3
種族:食虫植物
体力:242/242
魔力:0/0
状態:健康
「これはバナナじゃない・・・食虫植物の一種だ」
「そうなの?」
「おそらくバナナの香りで獲物を待つタイプの植物だ・・・アレを取ろうとしたら幹に引き込まれるぞ」
幹には不自然な縦の筋が入っているからアレが開くのだろう。
コンッ
幹に小石を投げてあててみる。
ガバッ
驚くほどの速度で幹が線に沿って開き中からウネウネと触手らしき物が飛び出してきた。
「うえぇ」
ソレをみてリンが吐き気を催す。
「こんな物も居るのか」
鑑定が無ければ無警戒でバナナを取ろうとして幹に登る所だった。
「人間の力を舐めてるがな」
スッ
一旦腰を落として垂れ下がっているバナナに向かって垂直ジャンプする。
ブワッ
高さ5mはあるかというバナナの房まで到達する。
ブチィッ
一本だけ引きちぎって着地する。
ギィイイイ
食虫植物から悲鳴が聞こえる。
「お父さん凄い!」
「やはりコレはバナナとして食べられるようだ」
本当にバナナの実を作り出して餌にしている食虫植物だった。
幹にさえ近づかなければ容易に食べ物が手に入る。
モグモグモグッ
「リン、食べてみろ」
皮を向いて黄色に熟したバナナを食べてみる。
「あまぁい」
リンが頬に手を当てて満面の笑みを浮かべる。
「レーズンも食べるか?」
ミィイ
首を横に振るレーズン、肉食獣は食べないようだ。
俺とリンでバナナ一本を分けて食べるが大きさもさる事ながら一回で食べきれない。
バックに入れて先を進む事としよう。
・・・
俺、リン、レーズンで南に進み始めて1週間が経ったが一向に着く気配が無い。
北の山は離れていき、南の山は近づいてきているのは確かなのだから移動している事は実感できる。
北と南の山の間が広大な森となっている事が伺える。
出会った敵性動物はディラノサウル、ラプトル、バナナ食虫植物の3種類だけだ。
他の生物とはまだ合っていない所をみると縄張りから出てすらいないのかもしれない。
川上を登り上流を目指すが景色は一向に変化を見せない。
「んっんっ、ぷはっ」
「ゆっくり飲め」
「うん」
水は潤沢にあるのが救いだが食べるものは自生していない事が多い。
野草の殆どは食用に向かず、バナナ食虫植物が殆どになってる。
ブゴッ
「ん?リン、近くになに居るか?」
「ボアがいるよ」
「喜べ、今日はまともな肉だ」
「お肉!」
「どっちだ?」
「あっち側」
ブゴッ
おいおい・・・
【鑑定】
名前:NoName
レベル:24
種族:ビックファングボア
体力:174/174
魔力:0/0
状態:興奮
俺達が普段見慣れているボアとは違い高さ3mはありそうな巨体が目の前に現れた。
ブゴォオオオオオオ
ノーモーションで俺達に突っ込んでくる。
ガッ
ズサァアアアア
「ぉおおおおお!」
右腕でビックファングボアの牙をつかみ、足に力を入れる。
ザッザッザッ!
危なかったが、突進をなんとか止められた。
「お父さん、危ない!」
ドドドドドドッ
んなっ!
俺の真横から新たなビックファングボアが突進してきた。
ガッ
右腕でなんとかガードを間に合わせるが踏ん張っておらず俺は吹っ飛ばされる。
クルッ
空中で体制を整えながら地面に着地する。
ブルルルゥ
ビックファングボアが3頭か・・・
レーズンはリンを背に乗せて木の上に退避している。
ザッザッザッ
ブギィイイイ
ビックファングボアの1頭がリン達のいる木に突っ込んでいく。
ドゥ
グラグラグラ
奴の狙いはリン達もか
木の上にいるレーズンは木から振り落とされないように爪を立てて耐えているが時間の問題だろう。
「どけぇ!」
目の前のビックファングボアに向かって拳を振るう。
向こうも合わせて突進して来る。
バキィ
グシャァァ
牙を拳でへし折り、そのままの勢いで顔面を拳で貫く。
ブギィイイイ
一撃で絶命し倒れ伏す1頭。
ドドドドッ
それを見た、残りの2頭が恐れをなして逃げていった。
「大丈夫か?」
「う、うん。血まみれだね」
至近距離でボアの血を浴びた俺は全身を真っ赤に染め上げた。
「っつ」
無理やり殴った拳が負傷した。
「薬塗る?」
「体を洗ってからだな」
川で血を洗い流してリンに右拳の怪我に傷薬を塗り繊維タオルで巻く。
一人では出来なかった事に今更ながら気づく。
「リン、お前がいて助かってるからな」
「えへへぇ」
フッ
一人だけではこんな気持ちは出てこなかっただろう・・・暫く親バカは抜け出せないな。
・・・
「ウマウマ」
「そうだな」
久しぶりのボア肉を堪能する。
さっきまで生きていたボアの肉は脂がのっていてジューシーだ。
塩が肉の甘みを引き立てていい塩梅になる。
大きな体をしているが中身は繊細な味だった。
特に霜降り肉の部分は甘味を感じるほど旨い。
レーズンも久しぶりの獣肉で尻尾を振りっぱなしだ。
ガリガリガリ
「お父さん、何をしているの?」
「これで武器を作っているんだ」
ボアの大腿骨を持ちやすくナイフで削り、殴り折った牙の根元に穴を深く空ける。
ズゴッ
大腿骨を深く牙の穴に差して完成する。
・ボーンボアランス
ファングボアの骨を使ったランス。
攻撃力:30
耐久値:100/100
特殊効果:移動速度-10%
装備可能職業:全職
ランク:クリエイト
品質:2
ブンッ
ランスを突き出して手応えを確かめる。
「バランスが悪いな」
まっすぐに牙は伸びていない分、突く時に焦点が合わし辛い。
「お父さん、持たせて」
「重いぞ?」
「頑張る、んんぅ!」
8歳の女の子じゃ、やはり持てないだろう・・・
「ふぬううううう」
「諦めろ」
「でも、私だけ何もしていないのは嫌ぁ」
「・・・やはりリリィの子供だな」
「お母さん似?」
「あぁ。コレをやろう」
俺はリンに小さなナイフを手渡す。
「いいか、コレは戦うための武器じゃないぞ」
「じゃぁ」
「お前の役目は戦うことじゃない」
「え?」
「俺を支えるのが役目だ。次からは食事の準備をしてほしい。出来るか?」
「うん!任せて!!マ・・・お母さんの手伝いはちゃんとしてたもん」
「その内、解体を教えてやる」
「が、頑張るよ」
「頼むぞ」
リンはボアの解体時、目をつぶっている事がある。
生の内蔵を直で見るのに抵抗があるようだ・・・実際グロテスクなのは変わりないし女の子なんだろうな。
食いきれない肉を土に埋めて処分をしてその場を離れる。
血の匂いに誘われて他の肉食獣が近寄ってこないとは限らないからな・・・
ラプトル系が姿を現さなくなった代わりにボアが頻繁に遭遇し始めた。
食べるものに困らなくなったが無駄な殺生はしたくないな・・・
「旨いけど飽きたよ」
毎日ボア肉ばかりでは味にも飽きてくる。
バナナ食虫植物も滅多に生えておらず栄養バランスが壊れ始めた。
育ち盛りのリンにはバランスのいい食事をとらせたい所だ・・・
極力、地面に野菜に似た物が実っていないか見ながら俺達は進む。
・・・
「やっと麓か」
出発してから約1ヶ月が流れて南の山へと到着した。
北の山と同様に山を超えなければ向こう側に行けないようになっている。
「ロープの準備は出来たか?」
「うん」
移動しながらリンには植物の紐ロープを作り続けてもらっていた。
「先にいって杭を打ってくる」
斜度60度程の斜面が眼前に聳えている。
ガッガッ
スパイク付き革靴と小さなピッケルを2つ用意して、山肌に突き刺して体を持ち上げる。
カンカンカンカンッ
杭をカバンから取り出して、斜面に深く突き刺しロープを張っていく。
ミィイ
ガリガリガリ
レーズンが地面に爪を立てて登ってくる。ロープを噛み下に落ちるのを支えながら俺の後に着いてくる。
「レーズン、頑張って!」
背中に乗っているリンがレーズンを応援する。
「ロープはここまでか・・・」
杭も数本しか残っていないがロープの方が無くなってしまった。
ガリガリッ
最初に比べて斜度も緩やかになりレーズンの身体能力で登ってこれたようだ。
「わぁああ!」
山頂ではないが途中で向こう側が見える場所に登ってこれた。
夕日が山を照らし、オレンジ色の景色が満遍なく広がっている。
「お父さんアレって」
「あぁ」
山を越えた先にも森が続いているが海岸線がグルッと見えた。
その一部、海岸線にはこの島に似合わない人工物が小さいながら見えていた。
あの時、上空3,000mを滑空して墜落していった旅客機の残骸だ・・・
「煙?」
墜落現場である南の海岸線、内陸にある湖らしき場所、少し離れた西の海岸線3つの場所から煙が立ち上がっているのが伺えた。
「とりあえず、山を降りて野営をするか」
ゴールが見えて少しホッとする。
墜落した旅客機に生存者が最低でも3名以上はいると分かったからだ。
こちら側の斜面は緩やかであり道具を使わず降りる。
パチパチパチ
山の麓で焚き火を囲い、ボアの肉を炙って食べる。
「ここの森もボアがいるのか」
「でも、普通のボアだったよ?」
今回はリンに解体から調理まで一人でやらせて居た。
要領もよく頭も良いから何回かの解体で覚えてもらった。
多少、血には抵抗があるがシッカリとしたナイフ捌きであった。
・・・
一夜空けて朝日が登ってきた所で俺達は出発する。
狩ったボアの毛皮に肉を包んでレーズンの背中に乗せる。
この暑さでは数日ともたないだろう。
2日程歩き、目的地の一つである湖の近くまで近づいてこれた。
『くそっ、いつまで待つつもりなんだ』
『かれこれ1ヶ月だぞ』
『食料が尽きかけてきたぞ』
『どうするの?』
複数人の男女が会話している声がアチコチから聞こえる。
「リン、人が居るようだが何人かわかるか?」
「うんと・・・15人位かな?」
「15か」
「どうしたの?」
「おそらく彼らは遭難してしまった状況で気が立っている・・・お前を連れて行くのは」
「わかった、レーズンと待っているよ」
「いい子だ」
ポンポン
「ん!」
俺が撫でてやるとリンは笑顔になる。
「お父さん、危ない!?」
ブギィイイイイ
!?
俺の背後、すぐ近くの薮からファングボアが飛び出て突っ込んできた。
突然の事で大した体勢も取れず右腕でガードする。
ガッ
ブゥン
牙で俺の体を空中に浮かせても突進は止まらない。
ガサガサガサ
俺ごとファングボアは湖の畔に茂みから飛び出すこととなった。
ズサアアアアアア
ファングボアは俺を刺し殺そうと突進し続けるが足を地面に着けて踏ん張り突進力を腕力で殺す。
ガッガッガッ
グンッ
プギィイイイ
右腕の腕力でファングボアを地面に横倒す。
ガシャッ
背中に掛けていたボーンボアランスを取り出して構える。
ブルルゥ
ファングボアは直ぐに立ち上がり突進の構えをする。
プギィイイイ
今度も力強い足取りで突っ込んでくる。
「ふんっ!」
曲がった穂先をファングボアの体下に滑り込ませて掬い上げる。
プギィイ
ファングボアは軽々しく空中に投げ出されて落下する事しか出来なくなった。
ブゥンッ
グサァアツ
ブギィイイイ!!
落下に合わせて俺はランスの穂先をファングボアの体に下から深く突き刺す。
ブシャァアアア
刺さった所から血が噴き出して血の雨を大量に降らせる。
バタバタバタバタバタッ
ファングボアは逃れようと体を動かしているが深々体に突き刺さったランスの穂先が体力と血を奪っていく。
時間が経つにつれ俺の体と地面はボアの血で赤く染め上げた。
ブギィイ
ファングボアは物の数分で絶命し動かなくなった。
ドスゥウン
死亡を確認しファングボアを地面に降ろす。
ザワザワザワザワ
この騒ぎを聞きつけた湖に居た漂流者達が集まり始めた。
『外国人?』
『日本人しか生き残っていなかったんじゃ?』
『あんな大きな猪を殺しちゃったわ』
様々な憶測を話し合う彼らは一定距離を保ち近寄らない。
『何事かね?』
『前田機長さん』
『それが』
奥から明らかに他の人間とは違う格好をした人間が現れた。
『む』
湖の畔で血まみれの男と横たわるファングボアを見たその男は一度動きを止める。
『私が話してみよう』
ザッザッ
男は俺に向かって臆する事無く近づいてきた。
スッ
一応、ボーンランスを構える。
その男の腰にはホルスターが見えるからだ。
影で詳細は分からないが拳銃の類かもしれない。
『Nice to meet you, I am the captain of Maeda, who belongs to Japan Airlines. Are you a person aboard a passenger plane? I hope that this case will not be completed but I want you to tell me who you are[初めまして、私は日本航空会社に所属している前田機長と言う者だ。君は旅客機に乗っていた人かね?今回の件は済まないと思っているが君が何者なのか教えて欲しい]』
※日本語を直訳しただけで英文はあっていないと思われる。
唐突に俺の分からない言葉を話しだした。
おそらく英語なのだろうが・・・分からない。
俺の容姿から外国人だから英語で話しかけたといった判断だろう。
「日本語で話してくれ」
『おぉ、日本語が話せるなら話は早い。改めて私は日本航空会社に所属している前田機長と言う者だ。君は旅客機に乗っていた人かね?今回の件は済まないと思っているが君が何者なのか教えて欲しい』
「ふむ・・・何かを勘違いしている用だが、俺はアンタ達とは違う」
「あの旅客機の乗客ではないのかね?」
「俺達はあの北の山を2つ越えた場所から来た」
「この島に人が住んでいたのか・・・質問を変えたい。この島はなんなのだ?そもそも何処なのだ?君の他に人はいるのか?」
「この島は俺も全てを把握していない。何処とはどういった質問かが分からない。知っている限り娘と妻しか居ない」
「・・・少しでもいいから情報が欲しい。この島はどの国の物なんだ?アメリカか?3人以外住んでいないのかね?」
「この島のとても危険な島である。このファングボアであれば対処できるだろうが山向こうには行かない方が良い。国に所属している事は俺たちも知らない。3人だけだ」
「・・・その口ぶりからキミは一体何者なんだね?」
「キミらより先輩遭難者と言った所だな」
「では、キミはこの島に遭難中という事なのかね!?」
ザワザワザワ
前田の声に周囲の人間がざわめく。
「何年、この島にいるんだ!」
「10年はこの島で暮らしている。最初は妻と一緒に遭難してその後で娘が産まれた」
「10年だと・・・」
「1ヶ月前に飛行機が墜落している途中を目撃して俺達はやって来た」
「俺達?まだ誰かいるのかね?」
「危害を加えないと約束して貰えるか?」
「約束しよう」
「その腰の物を渡して貰いたい」
「これはタダの信号弾だ」
・信号弾
遠くの者に位置を知らせる信号弾。
拳銃型の信号弾だった。
撃たれても多少の火傷をする程度の攻撃力しかない代物だった。
ピュイッ
口笛を吹き、レーズンを呼ぶ。
ガサガサガサガサッ
「!?」
前田の表情が一瞬こわばる。
ミィ
「お父さん、お話終わった?」
「まだだ。どうやら友好的には話は進んでいる」
「解体はする?」
「頼めるか?」
「任せて!行こ!」
リンはレーズンを連れて倒れふしているボアを引きずっていく。
「アレはなんなんだね?」
「娘だ」
「あの動物の方だ」
「サーベルパンサーだ」
「聞いたことのない種類だな・・・その肉食獣なのかね?」
「もちろんだ」
「飼い慣らせているのかね?」
「俺達は友好関係で絆を結んでいる。飼い慣らしているとは言わない」
「つまり」
「俺や娘に危害を加えたら容赦なく襲いかかるだろう」
「・・・分かった。まだ居るのかね?」
「俺達だけだ・・・体を洗ってきてもいいか?凝固し始めた」
血まみれ状態で話し込んでしまい顔や腕に着いたボアの血液が固まってきて皮膚の上でパリパリとしてきた。
「あ、あぁ。私も皆に話してくる」
一旦、離れて整理する事にする。
俺はリンに一言いって湖から流れ出る川へと向かう。
ビチャッ
ビシャッ
ボアの毛皮で作った服を脱ぎ捨てて川へと入る。
バシャッバシャッ
顔や手足に付着した血を洗い流し、衣服もついでに洗う。
ボワァアア
今までの汚れや血が川を汚して流れていった。
バサッ
荷物から繊維タオルを取り出して水気を拭き取り戻る。
「お父さん、もう少しで解体は終わるよ」
「あぁ」
ナイフ片手に娘が満面の笑みで木に吊るしているボアを解体している。
木の根元が血まみれだが娘の手以外では血の一滴も付着していない。
「火をおこす」
近くの場所から木の枝を拾い、舞いきり式火起こし器を使って火をおこす。
パチパチパチパチッ
「お父さん、コレ」
娘がボアの肉を一部切り取って渡してくる。
「そろそろ昼だったな」
尾翼斧を解体し、尾翼を鉄板に見立ててボアの肉を焼いていく。
手のひらに乗る小壺から塩を取り出して振りかけたシンプルな味付けだ。
ジュウウウウ
肉を焼く匂いが周囲に漂う。
ザッ
「すまないが肉を分けてくれないか?」
前田機長が戻ってきた。
よく見ると頬が痩けていて十分に食事を摂っていないように見える。
後ろにいる日本人たちも個人差はあれど疲れきった顔をしている。
「俺達だけでは無駄にするからな」
ザッ
立ち上がってリンが解体している場所へと向かう。
「その左腕」
「これか?この島に存在する生物に噛みちぎられたんだ」
「噛みちぎられた?」
「体長は10m程の爬虫類に分類される二足歩行の化物だ」
そう言い残して、リンに近づく。
「あの人たちに肉を分けたい」
「お父さんが良いならいいよ?」
「そうか・・・」
あの人数だと後ろ足を2つで良いだろう。
解体途中である後ろ足を丸ごと担ぎ前田機長の元へ向かう。
「こんなにも貰っていいのか?」
「直ぐになくなるだろう?」
「ありがとう、助かる!」
前田機長は頭を下げて2つの後ろ足を他の人たちへと渡していった。
「お父さんお腹すいた」
解体途中だが昼食にする。
向こうの方でも歓声を上げて煙が上がり始めた。
果たしてどうなるのかは今後しだいだな・・・
お疲れ様でした。




