70話「無人島生活⑤-鉄器」
「・・・なんでお前ら居るんだ?」
家の近くには西の森に生息しているパンサー族が固まって眠っていた。
本格的に冬が到来し周辺全域に雪が降っている始末である。
その中にブレッドやパンにレーズンまでもが固まっている。
どうやら冬眠時期という奴で互いの体温で温め合い固まる事で体温低下を抑えている様だ。
人間と違った賢い冬の過ごし方なのだろうな・・・
ザクザクザクザクッ
さすがのバナナ園のバナナは冬で実を付ける事は無くなった為別の食料を探すしかなくなっている。
ブギィイイイイ
冬でも冬眠をしないのかボアは起きていた。
冬になって悪いことだけじゃなく天然の冷蔵庫と言える場所が幾つも出来上がっている。
つまり夏場では直ぐにダメになったボア肉が腐りづらいのだ・・・1頭狩るだけで十数日は保つ。
肉だけではバランスが悪い為、リリィには山菜系を取りに行ってもらう。
流石にほかの動物も冬で動きが鈍くなっているだろう。
・・・
「全然取れなかったわ」
僅かしか食用に適していない山菜を取ってきただけに終わったらしい。
「冬じゃ植物も全滅か」
夏場では取り放題だったが寒さにやられている。
「肉だけじゃ飽きてきたわ」
「せめて塩が欲しいな・・・作るか?」
「作れるの?」
「土器も作れるしな、土鍋でも作り出して塩水を蒸発させれば即席の塩にはなるだろう」
「それもそうね。今まで考えつかなかったのが不思議ね」
「そこまで余裕があった訳じゃなかったしな」
耐寒装備を充実させるために他の事を考えている余裕はなかった。
今はボアの毛皮を二枚重ねで着て体温を保っている。
眠るときはボアの毛皮布団を更二枚重ねて暖かさを確保しているから凍死は回避できている。
リリィがたまに寂しそうに見つめてくるから2人で一つの布団を使って眠ったりしている。
ジュォオオオオ
土鍋を作りだしてその中に海水を入れ、高火力でガンガンと蒸発させていっている。
「湿度も保てて一石二鳥だな」
「喉風邪は嫌だわ」
乾燥しているこの時期の風邪は困る。
夏場に作り出した薬が使われない事を祈りたい。
・・・
・・・・・・
なんとか冬を乗り越えて春が到来を素直に喜んだ。
設備が整っていない家での冬越しは辛い面がたくさんあった。
この1年程は激動だったな・・・なにも装備もなく突然リリィと一緒に無人島に放りだされてしまいサバイバル生活が始まってしまったのだから。
石器時代から始まり、家を作りだし、食を豊かに、露天風呂を作り、土器時代に移行させ、冬を越す準備を始めた。
この生活がいつまで続くか分からないが・・・そろそろ山越えの準備でもするか。
俺は生活サイクルの中に探索のルーチンを組み込んだ。
山越えに必要なのは潤沢な装備品で固めることだ。
特に平地と違い起伏の激しい場所では足を滑らせて転落死だって可能性は0じゃない。
その為には次の段階・・・鉄器時代が必要だ。
周辺の森、川、山、崖等を探索して鉄に関する物が無いか探す。
「ここだったか」
探索した結果、尾翼が突き刺さっていた崖下に鉄鉱石の鉱脈が顔を出しているのを発見した。
「はっ!」
バキャァアン
オリハルコンの鎧すらへこませる俺の拳だったら不純物が多く含まれている鉄鉱石では防げないだろう。
大きな破砕音があたりに響き渡り鉄鉱石はゴロゴロと弾けとんだ。
「っつ!」
この島ではコレもダメのようで右手が傷ついた。
カパッ
予め持っている傷薬を怪我のした右手に塗って鉄鉱石をカゴに入れて持ち帰る。
「さっき凄い音がしなかった?」
「あぁ、これを取るのにな」
「なにも持っていなかったわよね?」
「こうなった」
右手を見せるとリリィがビクッと震えた。
「大丈夫なの!?」
「少し痛みがあるが回復はしている」
ハイヒューマンになったおかげでヒューマンより回復速度は高くなり傷薬との相乗効果で痛みが無くなっている。
「無茶しないでよ。アレはもって行っていいから」
窯の火口に置いてある尾翼、何もない時は尾翼を使ってボアの肉を焼く為に使っている。
アダマンタイト製の尾翼は錆びず、傷つかず、熱伝導率が良く、焦げ付きにくいので様々な場面に役立っている。
「そうしよう」
「これは外の窯に置いておくわ。アオイは休憩してて」
「あぁ」
リリィがカゴを持ち外の釜付近に置いてくる。
リウイはなんて言ってけな・・・
残念ながら俺には鍛冶の知識が殆どない・・・
鍛冶のエキスパートであるリウイの工房で炉について説明をしてくれたがうろ覚えだ。
十数年前の記憶なんて思い出せるか?
回想・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「鍛冶の炉は基本火は絶やさねぇんだよ。常に高温を保つ事が大事じゃ」
「炉自体も特別なのか?」
「最低でも耐火レンガでの炉が必要じゃ。つくり方じゃがな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんだが思い出してきたな。
回想・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「次に炉の高温を維持する方法じゃが、木を燃やしているだけじゃダメじゃぞ?一定の高温が保った状態じゃなければ鉄は溶けんのじゃ」
「何を燃料にしているんだ?」
「この艦のエネルギーで数万度まで出せるんじゃが、万が一中世レベルで作るんなら鉄を作り出す専用の炉が必要じゃな」
「そうなのか?」
「うむ、高温の場所に鉄鉱石をぶち込んでもダメじゃ。溶けた鉄が鉄として抜ける機構を作り出さなければならんのじゃよ。それにはな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結構材料が必要そうだな・・・
リリィに頼んで土器レンガ作りをして貰うことにした。
俺は製鉄用の炉を作り出すための記憶を辿って材料集めの探索する事にした。
・・・
・・・・・・
春が過ぎ、あの暑い夏場の到来と共に製鉄用の炉が完成した。
土器レンガ釜の倍以上はある、高さ3m、幅1.5m程と大きい炉だ。
「試してみるか」
空焚きで炉自体がちゃんと機能している事は試してる。
後は鉄が精錬できるかが今回の要だ・・・
使用している燃料は大量の木炭だ・・・リウイは石炭が良いと言っていたが石炭は見つけられなかった。
代用品として木炭を同時進行で大量に用意しておいた。
ボッ
火を入れて木炭を大量に投入する。
密閉空間では火は上に伸びる傾向があり、下に設置した空気取り込み口から入っていく。
入った酸素は木炭の燃焼を助けて火の勢いが強くなっていく。
「鉄鉱石を入れるぞ」
「えぇ」
木炭の投入する入り口とは別の入り口から鉄鉱石をリリィに入れてもらう。
【1,600度】
内部温度が上昇を続けて、これまでで一番の火力が出ている。
リウイいわく、よほどの事が無い限り鉄鉱石の融解温度は1,500度であり十分に届いている問題なさそうだ。
ガパッ
極力燃焼室の温度を逃がさない為に踏むと開く両扉から順次木炭を入れ続ける。
・・・
・・・・・・
「開くぞ」
「出来ているといいわね」
鉄鉱石が溶け、鉄の成分だけが残っていれば出てくる筈と信じて流動出口を開く。
シュォオオ
高温に解けた鉄が出口から出てきて空気に触れる事により蒸気が上がる。
ボタボタボタボタ
「あれだけ大量にいれてこの量か」
「鉄の部分は少ないのかもね」
大きいカゴ一杯に入れていた鉄鉱石がナイフ一本程度の鉄しかならないのか・・・
木炭もこの一回でかなり消費したし・・・そこまで鉄は作れないな。
とりあえず、取り出した鉄が固まったら再び炉に放り込み溶かす。
ナイフの形にした粘土の鋳型を作って、解けた鉄を流し込む。
急激に冷ませば鉄が内部崩壊すると言われてたから後は自然に温度が落ちるのを待つ。
・粗悪なナイフ
ナイフとしては粗悪品。
切れ味皆無の鈍器。
攻撃力:15
耐久値:100/100
装備可能職業:全職
ランク:クリエイト
品質:1
ナイフですら無かった・・・
「研げばナイフとして使えるんじゃないかしら?」
「そうだな」
研ぎ石は予め川辺から採取しており研いでみた。
・粗悪なナイフ
ナイフとしては粗悪品。
切れ味が有り。
攻撃力:15
耐久値:100/100
装備可能職業:全職
ランク:クリエイト
品質:1
一応ナイフとしての体が保たれた。
「鍛造しないと駄目か?」
やはり、鉄を叩いて強くしないと駄目なのかもしれないな・・・
・・・
ガラガラガラガラ
あの崖で更なる鉄鉱石を手に入れる為にリリィと共に来ている。
俺の攻撃力と相まって尾翼斧は次々と鉄鉱石は崩れさせてリリィが運び出しをしてもらっているのだ。
ある程度鉄鉱石が集まったら俺も運び出しを手伝う。
「この森が無くなっちゃうわね」
二度目の製鉄をする頃には家周辺の木が無くなり、ぽっかりと空間が出来ていた。
木一本が育つには数年を要するのだから倒し続けていれば駄目なのだろう。
植林も同時にやっておかないとな・・・
適当に切り株から生え始めている新たな苗木を空き地となった場所に植えておく。
本当にコレで合っているのかは不明だ。
・・・
ガラガラ
ん?
崖から5m程採掘している時に鉄鉱石ではない色の鉱脈が顔を出した。
・石炭
燃焼性燃料の一つとして数えられる。
鉄鉱石の奥に石炭が隠れていたのは幸運と言うべきか・・・
これで木を燃やして暖を取る時代は終わりが告げられたな。
ゴォオオオオ
【2,000度】
石炭の火力は凄まじく木炭より400度も高い。
「不味いわね」
「そうだな」
試しに石炭火力でボアの肉を焼いてみたが石炭の成分が肉に付いたようで焦げた時の苦味が舌に広がった。
「木炭だな」
「木炭ね」
調理は木炭、土器、鉄器は石炭とで分けて使う。
「次の冬を見越して、泥レンガの家を作ろうと思う」
「あの寒さは堪えたわ」
「今までと違って大量の泥粘土が必要になる、そこで一方通行型のロープウェイを作ろうと思う」
「ロープウェイですって?」
「源流である湖の方がここより上に位置するから泥粘土を入れたカゴをロープを伝わらせて運ぼうと思う」
「出来なくはないかもしれないけど、ロープはどうするの?」
「今まで通り、植物をより合わせた物で代用する」
「いっその事、アソコに作るれば手間は掛からないわ」
「土地としての立地がな。あそこからのアクセスが大変になるぞ」
ここからなら海、川、温泉、バナナ炎、炭鉱、湖等に行きやすいが湖からになると常に登山下山になる。
「それもそうね」
「冬場限定ならアソコでも良いが、ワニが生息しているからな」
「ワニも冬場なら冬眠じゃない?」
「確かにな・・・春~秋はココで過ごし、冬場はアソコでも問題ないか」
「粘土でログハウスを覆ったから夏場は中が蒸し暑くなると思うわ」
今までは海からくる風などで夏場は乗り切れたが、冬の対策が逆に仇になりそうだ。
「それで行くか」
「手伝うわ」
「俺がワニの相手をしているからその間に泥粘土の採取を任せる」
「えぇ」
・・・
シャァアアア
湖の近くにワニの生息領域ではない土地を選び、泥粘土釜を最初に作り出す為に俺は離れた所でワニの注意を引きつけてリリィが泥粘土の採取に勤しむ。
「結構集まったわ」
「あぁ」
ワニを1頭倒して振り向く。
泥から水分を粗方取り出してレンガ状に形成する。
日光で乾燥させてから泥粘土窯で焼き上げる。
そこから土器レンガで本格的に土器レンガの大量生産が出来る炉を新たに作る。
1年前と違い作り方等を知り尽くしている俺達の息はピッタリあい凄まじい勢いで土器レンガを作り出した。
ぺチャッ
泥粘土を間に噛ませながら土器レンガを積み上げて行く。
生憎、長方形の四角い家しか作ることが出来ない。
レンガだけでは倒壊する恐れもあり木材を加工して中に大黒柱を打ち込み、周囲にレンガを支える柱を幾つも立てている。
鉄器制作が出来る様になり大工道具である、ノコギリ、カンナ、ノミ、カナヅチ、釘等が作り出せている。
石で木を加工していた時代が懐かしく感じつつ鉄器が如何に優秀か身にしみながら作り出していった。
簡易的な木造宅を作り出して周りを土器レンガで覆う事で熱を逃がさない形を作り出す。
冬場の雪も屋根に積もると危険な為、平坦にした屋根の上に後から角度がキツイとんがり屋根を取り付ける。
夏場が終わる頃には湖の畔に土器レンガの家が完成した。
ワニが壊さないように家の周囲には軽く堀と木のバリケードを設置して、秋の内に冬越しの準備を始める。
俺は近場ではなく少し離れた場所で木を倒し鉄の斧を使ってリリィが薪制作をしている。
植林は順調で家の周囲に植えた木々は若いがこの夏で育って来ている。
・・・
・・・・・・
ハァアア
「暖かいわね」
冬の到来で俺達はログハウスからレンガハウスへと拠点を移して活動している。
石炭を使った暖炉で家全体を温める。
目論見通り土器レンガの保温性は高く、熱は全く逃げない。
「前回のように温め合わずに済みそうだな」
「そ、そうね」
「明日も早いし寝るか」
(いつ気づいてくれるのかしら?)
「おやすみ」
「あぁ。おやすみ」
・・・
・・・・・・
「よし行くか」
「えぇ」
この島に漂流して二度目の春を迎える頃には登山の準備は整えた。
靴は長時間耐えられるようにボアの毛皮とワニ革に加え鉄で補強し靴底には鋲を幾つも取り付けてスパイクにしている。
地面に深く刺せる様に杭を何本も作り出している。
冬場の暇な時間を使い植物で作り出したロープもある。
落石に備えて少し思いが鉄のヘルメット、中にはヤシの繊維を圧縮して入れて衝撃を和らげる。
ボアの毛皮で作り出したリュックサックに食料と飲料水を入れ、怪我を負った際に使う薬類も入れている。
サクサクサクッ
西の森を通り抜けて難所である山道に入るポイントへとやってくる。
周囲にはパンを始めとしたパンサー一族が総出で送りに来た。
グルルゥ
流石に縄張りでない場所に行こうとはしないようだ。
ミヤァ
「レーズン」
この1年で立派に育ったレーズンが群れの中から現れる。
スリスリ
「なんだ?」
俺の腰元に顔を擦り付けて先を歩き出した。
ヒュイヒョイ
身軽に山道を駆け上がっていく。
「俺達と一緒に来てくるのか?」
ミィヤ
どうやら、そのつもりらしい。
「心強いわ」
「さて、登るか・・・俺が先に登り始めるから後から付いてきてくれ」
「そうするわ」
俺は足に力を入れて斜度50はありそうな山道を登り始める。
カンカンカンカンッ
山道の一定間隔に鉄杭を打ち込みロープを絡ませては先へ進む。
リリィはゆっくりではあるが俺の通った道をロープを伝い登ってきている。
延々と続く作業の末、急斜面の山道は唐突に途切れた。
「これが向こう側か」
5時間以上の登山の末に山の向こう側が眼下に広がった。
広大な森が向こうの彼方へと続いている・・・俺達の住んでいた場所はほんの一部でこの島は大陸なのかもしれない広さを持っていた。
「ハァハァハァハァ・・・凄い広いわね」
息を切らしたリリィが後から追いついてきた。
「あぁ」
振り向くと俺たちの住んでいた地域が如何に小さい領域だったかが分かる程だ。
「降りにロープが必要がないのは助かったな」
森へ降りる坂道は斜度も緩やかだった。
ザッザッザッ
ツルツルとした岩肌を歩いていく。普通の靴では滑っている所をスパイクがガッチリと岩肌に食い込んで安定した下山が見込めた。
3時間程で下山が終わる。
パチパチパチ
森に入った所で日が落ちて夜が訪れた。
火を熾して焚き火を囲う。
「この森には何が居るのかしらね」
「強い奴がいなければいいんだがな」
「そうね」
・・・
夜も更けて眠りに点く。
念のために3時間交代で火の番と警戒の為に見張る。
朝となり火の後始末をして森の奥へと入る。
「水はこっちよ」
リリィの聴覚を頼りに水のある場所を目指す。
数日分しか持てない水を確保する為だ。
サァア
森を横断するように浅く広い川が目の前に広がる。
コポコポコポッ
ヤシの実水筒に水を入れてリュックサックに保管する。
ザバザバザバッ
川を渡河して更に南を目指す。
「なんだか、湿気が多くなった気がする」
「木々の様子も変だわ」
今まで来た木と違い、巨木が立ち並んでき始めた。
幹の太さは5m以上の物が幾本も生えている。
ズンッ
遠くから地響きが伝わってきた。
ズンズンズンズンズンッ
それは早く近づいてきた。
ボキャァアアア
5m以上ある幹をへし折り俺たちの前に巨大な生物が飛び出してきた。
爬虫類特有の頭を持ち、ギザギザの尖った歯が立ち並び、両腕は小さく、胴体が太く、全体重を支えている両足は太く逞しい。
バランスを保つ太くしなる尻尾は揺ら揺らと揺れている。
【鑑定】
名前:NoName
レベル:58
種族:ディラノサウル
体力:2,435/2,435
魔力:0/0
状態:健康
この島に来てから最大級のレベルだ。
ギャァアアォオウウ
ディラノサウルの喉奥から咆哮が轟く。
ビリビリビリビリッ
音の波が俺たちの体を揺さぶる。
「撤退だ・・・リリィ」
「あ、あぁぁ・・・」
【鑑定】
名前:リリィ
レベル:35(ホビット:70)
種族:ハイホビット
職業①:魔導師(Lv70)
体力:3,341/3,341
魔力:0/0
状態:恐慌
ディラノサウルに対して恐慌状態になった。
グォオワァアア
ドシンッ
その巨大な頭を振り下ろして大口を開く。
ダッ
くっ、間に合え!
ブシュッ
標的をリリィに変えたディラノサウルから庇うように俺はリリィを抱き寄せて避けようと勢いのまま通り過ぎようとした。
クンッ
ドサッ
が、左腕が強制的に引っ張られて、俺の腕からリリィが投げ出された。
「くっ!」
逃走の意志が勝り、防御力を失った腕が奴に食われた。
付け根が噛み千切られておらず繋がったままだ。
ブンッ
ブチブチブチッ
ディラノサウルが頭を振り上げて遠心力によって腕が引きちぎられる。
空中に投げ出されて俺は落下する。
ガパッ
大口を開いて俺を喰らう為に待っている。
「舐めるな!」
ブォオン
攻撃の意志を持って体を捻りディラノサウルの鼻先にキックをかます。
ギャァアアアォオオ
攻撃力6,799を誇る俺のキックでディラノサウルは防御もままならず地面に倒れ伏す。
ドシャッ
バランスを崩して地面に着地する。
ビチャッ
左腕の付け根から大量に血液が流れる。
ズシィン
もう立ち上がるか。
グルルルルウルゥ
ディラノサウルが俺を標的に決めて唸る。
「ア・・・オイ」
ガアアアアォオオオ
ディラノサウルが大口を開けて俺に接近する。
ミィヤァア
ディラノサウルの死角からレーズンが爪を立てて顔に襲い掛かる。
グルゥウウアァアア
大きな頭を振り、レーズンを振り払う。
ガッ
その隙にリリィを残った右腕で抱き寄せてあの山に向かって走り出す。
バシャバシャバシャッ
タッタッタッタッ
レーズンも直ぐに追いかけてきた。
ギャァォオオオン
その後ろにディラノサウルも追いかけてくる。
くっ・・・
走るたびに大量の血液が流れて眩暈がしてきたが、ここで倒れる訳には行かない。
逃走の意志が逃げる速度を上げる。
ここまで来た道を数時間で戻り、あの山を越え垂直過ぎる傾斜を降る。
ズシャッ
「ハァハァハァハァハァハァ」
【鑑定】
名前:アオイ
レベル:35(ヒューマン:210)
種族:ハイヒューマン
職業①:傀儡師(Lv70)
職業②:魔導師(Lv70)
職業③:勇者(Lv70)
職業④:盗賊(Lv70)
職業⑤:薬剤師(Lv70)
職業⑥:採掘師(Lv70)
職業⑦:裁縫師(Lv70)
職業⑧:木工師(Lv70)
職業⑨:僧侶(Lv70)
職業⑩:鍛冶師(Lv25)
体力:760/39,760
魔力:0/0
状態:流血(大)
くそ、血を流しすぎた・・・
幾らなんでもコレは死んだか・・・
「アオイ!ねぇ!」
意識が朦朧とする中、俺を呼ぶ声があるが反応が出来ない。
「死なないで!ねぇ、聞こえてるんでしょ!」
耳元で叫ばれているようだが遠くの様に聞こえる。
「止血剤を・・・腕を縛れ」
最後の気力を振り絞り言葉に残して意識が遠のいていった。
・・・
「アオイ!ねぇ!!」
リリィは最後の言葉をちゃんと聞いていた。
「コレじゃない、これでもない」
幾多もある薬の中から止血剤を探す。
「あった!」
カパッ
ベチャッ
水分を多量に含んだ止血剤を使い切る勢いでアオイの傷口に塗りたくる。
痛みがあるのか、眉を潜ませるが起きる気配は無い。
「死なせない!絶対に!!」
シュルッ
アオイの右手からオリハルコンの糸を取り出して止血の為に左腕の付け根部分を縛る。
出血の量が抑えられたが全てが止まったわけではない。
「このままじゃ、アオイが!」
ミィイヤ
「レーズン、お願いアオイを運んで!」
スッ
リリィは気絶したアオイをレーズンの背中に乗せる。
ミィイイ
レーズンは力強く立ち上がる。
「来て!」
リリィはレーズンと共にログハウスに向けて走り出す。
血の匂いに引き寄せられたブレッドを筆頭にパンサー一族が集まりだしてボアの接近を防いでいく。
「こっちよ」
ログハウスの中に入り、アオイを土間に敷いてあるボアの毛皮カーペットに寝かせる。
「駄目なの・・・血が止まらない」
幾ら傷口を押さえようと、少量ずつだが血が流れ落ちる。
土間にアオイの血が徐々に広まる。
パラッ
「そうだわ」
リリィは急いで火を熾して窯に火を入れて尾翼を熱する。
ジュウウウウ
尾翼を素手でつかみ火傷するのも構わず、アオイの傷口に当てる。
ジュォオオオオ
高熱の尾翼がアオイの傷口を焼き始める。
細胞が熱で焼け焦げて流血を強制的に止める事になった。
カランッ
「ハァハァハァハァ・・・死なせない、もう誰も死なせたくない」
涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながらリリィは懸命にアオイに治療を施す。
「うぅ」
ガタガタガタッ
「寒いのね」
スルスル
リリィは着ているもの脱いでアオイの大きな体に抱きつく。
自らの体温でアオイの体を温め、体温の低下を防ぐ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
うぅ・・・
何時間、気絶していたのか分からないが意識が戻ってきた感覚だ。
スゥ
目を開き、視界にリリィの寝顔が映り込む。
「ここは・・・」
ログハウスの天井だと気づく。
「アオイ?」
視線を再びリリィに向けると涙ぐんでいた。
「起きた・・・やっと」
ポロポロと涙を流すリリィ。
「二度と目覚めないかと思っていたわ」
「うっ」
遠慮がなく俺の体に抱きつくリリィ。
「ゴメンなさい・・・何か口にしないとね」
リリィが立ち上がる。
「なんで?」
裸なんだ?
ボアの毛皮布団を取り払ったリリィは何も着ていなかった。
「水に少し塩を入れたから少しずつ飲んで・・・」
コクコクコク
上体をリリィに起こしてもらい塩水を飲み干す。
「俺は?」
「アオイが助けてくれてから1週間がたったのよ・・・一生懸命看病しても一向に目覚めなくて」
「心配かけたな」
「良かった・・・わ」
再び身を寄せてくるリリィ、彼女の柔らかい肌が俺の体に当たる。
「もう少しだけ看病させてね」
笑顔で言うリリィに圧倒されながら看病を受ける。
左腕には繊維タオルが巻かれている所をみると改めて喪失したのだと認識する。
・・・
「あーん」
「ん」
右腕が動かずリリィに食べさせてもらう。
それからリリィの手厚い懸命な看病が続き、俺の体力は徐々に回復していく。
・・・
・・・・・・
グッ
フラッ
「大丈夫?」
「あぁ」
約1ヶ月ぶりに立ち上がろうとするが、寝続けていた足の筋肉は衰えて苦労を感じる。
リリィが肩を貸してくれる。
グラッ
ドサッ
バランスを崩し倒れてしまった。
「無事か?」
「えぇ、それより」
ムニュッ
リリィを押し倒す形で倒れてしまい、右腕の肘で体を支えているが手はリリィの胸を掴んでしまっていた。
「す・・むぅ」
謝ろうとしたが視界にリリィの顔が近づき、唇に柔らかい物が触れてきた。
スゥ
短い時間だがとても長く感じた。
「ずっと言いたかった・・・好きなの」
「あぁ」
「でも、アナタは振り向いてくれなかった」
「スマン」
「この生活に入ってアナタはちゃんと私を見てくれていた事が嬉しかった。だから、むむぅ」
これ以上の言葉は要らず俺からもする。
「俺なんかで良いのか?」
「アオイはアオイ自身の魅力に気がついていないのよ」
「俺を選んでくれて、ありがとう」
「裏切らないでよね」
「裏切らないさ・・・」
自然と2人の距離が縮まっていった。
瀕死の重傷を負いながらも大切な者を守り抜いた男、死へ向かう男の運命に必死に抗い救い出した女。
これも一種の愛の成せる技なのかも知れない・・・
お疲れ様でした。




