36話「ルーキー」
「おめでとうございます。これでF-ランクになります」
あれから1ヶ月が経ちG-からF-へと昇格した。
Gランククエストの殆どは街の中でできる配達、雑用、力仕事ばかりだった。
「ゴブリン退治は出来るのか?」
「はい、F-ランクからのクエストです」
「場所は?」
「3つのポイントです。トランブルの街近郊にある森の中、ルネ村に向かう途中にある森、北西方面にある森です」
「討伐証明は?」
「右耳を5つ持ってきてください」
「30匹くらい出てくると思うんだが?」
「森の奥に入れば出てきますが、浅瀬にいるゴブリンは数匹程度です」
「出てきたら?」
「逃げてください」
「薬草採取もしていいのか?」
「はい。併用して薬草採取もできれば行って損はありません。ゴブリン退治や薬草採取は常設クエストなので事後報告でも構いません」
こう言った所は同じなんだな。
「ヨクナール草以外も採取してきてもいいのか?」
「雑草や毒草以外なら構いません。薬草にも別種があるのは分かるのですか?」
「ヨクナール草の他にフエール草、シャッキリ草、カイドーク草、シビレナーイ草があるだろ?」
「それなら安心ですね。どの種類のものでも構わないので採れるだけ取ってきてください。先の戦争でポーション類の在庫が心もとないのです」
「わかった。何枚で1クエストなんだ?」
「10枚で1クエスト分になります」
「わかった」
こうして俺はクエストに完遂しに街を出ていく。
ルネ村の森は流石によそう・・
門番に街近郊の森の位置を教えてもらいそっちに向かう。
・・・
プツプツ
迷わず森に辿りついて、早速浅瀬で薬草を採取する。
シュンッ
薬草は自動的に別種の薬草毎に仕分けられて99まで纏めてインベントリに収納されていく。
ギャギャギャッ
「ようやっと出たか」
途中からゴブリンが足音を消して近づいてきていたのは分かっていた。
敢えて誘い出した訳だ。
「看破」
クンッ
魔力が消費され目の前のゴブリンの詳細を見る。
【看破】
名前:NoName
レベル:2
種族:ゴブリン
体力:31/31
魔力:2/2
攻撃力:2(+2)
防御力:2
各種装備品:棍棒、腰布
所有スキル:棍棒術
状態:健康
「こんな物か」
ギャギャッ
ブンゥ
ゴッ
ゴブリンの棍棒が俺の脇腹にヒットする。
ギャギャギャッ
ゴブリンが広角を上げてニタァと嗤う。
「痛みは少しあるくらいか」
ギャッ?
俺のリアクションにゴブリンの方が戸惑う。
「じゃぁな。二連脚」
ゴゴッ
フギャァア
一瞬にして2回の蹴り技を受けたゴブリンは横に吹っ飛び木に激突して絶命する。
ジャキッ
携帯ナイフで討伐の証である右耳を切り取り麻袋に入れる。
ここに来たことで分かった事だが、別に専用の装備を装着しなくてもスキルは発動する。
また、装備品も布や革製の防具でなくても鉄製のフルプレートアーマーを装備できる事が分かった。
職業で装備品に制限が掛けられる事は無い。
・ドクニナール草
毒になる(10%)
紫色の線が3本入っている葉。
ランク:ノーマル
品質:1
CT:5秒
・マヒール草
麻痺になる(10%)
黄色い線が3本入っている葉。
ランク:ノーマル
品質:1
CT:5秒
急に毒草や麻痺草が増えた。
「奥へ来すぎたようだ」
森の魔素が濃くなって薬草類が育つような環境ではないようだ。
「さて・・・どっちだったかな」
初心者あるあるの一つで薬草採取に夢中になって迷うパターンだな。
ギャギャギャっ
ゴブリンが数匹まとめて現れた。
「斬糸」
魔力糸を操り一瞬にしてゴブリンを刈り取る。
ギャギャッ
ギャガアアア
四方八方からゴブリン共が姿を現す。
「囲まれていたか」
俺が薬草採取に気を取られている内にゴブリンが囲い込んでいた。
「その程度の数じゃ俺は倒せないぜ」
遠視で確認しても40程度では俺は止められない。
「魔力糸10本」
ヒィイイイン
魔力で出来た糸が俺の指先から漂い出る。
「俺に近づける奴が居るか試してもらうぜ」
ギャギャっ!!
40近くのゴブリン達が一斉に俺へと目掛けて迫り狂う。
ヒュオッ
ブシャァアア
糸が縦横無尽に走り、一撃でゴブリンの体を切り裂き絶命していく。
・・・
・・・・・・
ポタポタポタ
約10分でカタが付いた。
40居たゴブリンの体は四肢を切断され木や地面を血で濡らした。
ジャキジャキッ
糸を操りゴブリンの耳を切り取り麻袋に収納していく。
「帰るか。遠視」
俺の視界を真上に飛ばして周囲をグルリと見渡し遠くの方に街影を見つけて方角を定める。
「アッチか」
ザッザッザッ
俺は街の方へと歩き帰路に着く。
「お疲れ様でした。収穫はどうでした?」
「この通りだ」
ドサドサドサッ
ゴブリンの右耳をカウンターのトレイに載せる。
「結構倒しましたね」
受付嬢のミーアは眉一つ動かさず素早く処理した。
「薬草類はどうでしたか?」
「それはコッチだ」
バサバサバサッ
インベントリから袋に薬草類を移してから取り出す。
「こちらも大量ですね。少々お待ちください」
「あぁ」
ミーアともう一人の受付嬢の2人で処理していった。
「ゴブリン48匹分で9回分、薬草類102枚で10回分。合計銅貨140枚になります。銀貨に変える事もできます」
「銀貨で」
「銀貨1枚と銅貨40枚となります」
ここでの貨幣価値は銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚となる。
一食は銅貨5枚、1泊は銅貨10枚で事足りる。新人の内はギルド内で寝て一夜を明かすようだ。
ジャラッ
報酬を受け取る。
「F-ランククエスト19回分でFランクに昇格となりました。端数9回分はFランクポイントに加算されませんが90銅に換金致しますか?」
端数処理において破棄するか、換金するかが分けられている。どのランクも1律10銅故に高ランク程殆ど無意味になるが入ったばかりの冒険者たちにとってはありがたい制度だ。
「頼む」
「畏まりました」
「こちらが、90銅と余った物です」
90銅にゴブリンの耳4つと薬草2枚が返ってきた。
ゴブリンの耳はぶっちゃけ不要な物だ。直ぐに腐る特性があるゆえに次回に持ち越しも出来ないし食用にも適さない
薬草は少ないとはいえ薬師の所へもって行けば売れる。
『いらっしゃえぇ』
初めて薬屋へと入る。
店内には薬の独特な香りが充満しており、所狭しと薬の元となる物が棚に置いてある。
カウンターには70は超えた老婆が鎮座している。
『見ない顔だねぇ』
「薬草を買い取ってもらいたいんだが」
『そぉかい。いくつだい?』
「コレだけだ」
『2枚なら2銅だよぉ』
「あぁ」
チャリッ
2枚の薬草と銅貨を交換する。
「また、来る」
『ちょぉ、待ちぃな』
踵を返そうとしたら老婆に呼び止められた。
『毒草や麻痺草も持ってるねぇ・・・それらも買い取るよぉ』
「なぜ?」
『ヒェヒェッヒェツ。何年も薬師をやってるとねぇ自然と香りで分かるもんだよぉ』
「薬にならないだろう?」
と言いつつ、ドクニナール草とマヒール草を取り出す。
『これらは狩りに使える薬になるのさぁ』
「毒矢とか痺れ罠とかか?」
『知っているなら早いよぉ。ホレ、5銅さぁ』
「あぁ」
『あんまりワシが毒草や麻痺草を買い取っているなんて言いふらさないでくれよぉ、国では違法とされてるからねぇ』
「金になるなら言わないさ。冒険者から流れて来そうな物だが」
『ギルド員が秘密裏に雑草と言って処分しちまうのさ』
「なるほど」
『アンタぁは毒草や麻痺草を見分けられる目を持っているねぇ』
「たまたまだ」
『ヒェヒェッヒェツ。そう言う事にしておくよぉ』
「変な婆さんだ」
カラァン
薬屋を出て宿へと向かう。
・・・
「お帰りなさい。アオイさん」
「あぁ」
俺はマンプク亭と呼ばれる宿に寝泊りしている。
そこの看板娘のエインが出迎えてくれた。
1泊15銅と少し高いが出てくる飯が多いからここに留まっている訳だ。
泊まっている客の品格も酷くない。
「夕食はどうするの?」
「食べる」
「はぁーい。お父さん、マンプク定食1つだよ~」
「おぅ!」
厨房の奥から野太い声が返ってくる。
マンプク亭の主人兼料理長のオーガンの声だ。
「はい、お待ち!」
元気のいい声で大盛りの定食が運ばれてくる。
「アオイさんって成人してるんだよね?お酒とか飲まないの?」
「酒は飲んだことないからな・・・出費も嵩張るしな」
「おう、坊主。酒飲んだことねぇのか?」
向かい側の席で飲んでいたC+級冒険者ヤンジャン。
俺が始めて冒険者ギルドに来た時に絡んできた大男だ。
実は面倒見の良い冒険者で顔が強面が故に新人達から恐れられている。
「失礼な事考えてんじゃねぇだろうな?」
ジョッキに注がれたビールを飲みながらアルコールの匂いが混じった息を吐き出す。
「そんな事はない」
「コイツは良いぞ。昼間の疲れを吹っ飛ばしてくれる」
「遠慮しておく」
「そう言うな。嬢ちゃん、こいつにビールを一杯持ってきてくれ。俺の奢りだからよ」
「はぁい」
「俺は欲しがっていないぞ?」
「とにかく飲んでみれば分かる」
ドンッ
「お待ち!」
木で出来たジョッキにはビールが注がれて出された。
ビールは苦手なんだよな・・・日本で作られているビールの味ですら遠慮したいんだ。
この時代のビールはもっとエグイんだろうな・・・
チラッ
ヤンジャンが期待を込めた目でコチラを見る。
「はぁ」
グイッ
盃を傾けてビールを口に運ぶ。
ゴクゴクッ
「おっ!いい飲みっぷりじゃねぇか!!」
止めろ・・・こっちは味を感じる前に飲み下してるんだよ。
うっ・・・
ダンッ
「プハッ」
「どうだ!旨いだろう!!」
「いや、苦いだけだ。あと温い」
日本で飲んだときは冷えたビールが当たり前だったから飲みやすかった。
が、ここで出されるビールは常温で保存された物だ。
「贅沢いうんじゃねぇ。冷えた物なんざ滅多にお目にかかれねぇ。冬にならないと無理だからな」
「まだ、葡萄ジュースとかがいい」
「葡萄ジュースはないけど、レモンジュースならあるよ」
「じゃ、それで」
「まだまだ、餓鬼だな。いつかこの味が分かるときが来るぜ」
そう言ってヤンジャンは自分の席に戻っていった。
コトッ
「はい、レモンジュース」
「あぁ」
ゴクッ
ブフッ!?
「ど、どうしたの!?」
「酸っぱすぎだろ!」
「レモン果汁の飲み物だからね。酔い覚めとかに良いよ」
「せめて水と薄めてくれ」
「わかったよ」
エインが水で薄めたレモンジュースを持ってきた。
「やっぱ温い」
「当たり前だよ」
ここ等の飲み物は全てが温い。
「コールド」
ヒュオッ
右手を飲み口に当てて、呪文を唱えると一瞬ヒンヤリとした風が周囲に巻き起こる。
「え?何をしたの?」
「冷やしただけだ」
グビッ
冷えた事により酸っぱさが抑えられて飲みやすくなった。
「冷たいの?」
「飲んでみるか?」
コップをエインに向ける。
「え?」
カァアアア
エインの顔が赤みを帯びていった。
「良いよ。お客様の物は飲めないし」
「そうか」
エインはパタパタと厨房の奥へと消えていった。
「ごちそうさん」
マンプク定職を食べ終り、食器を返却カウンターに置いて部屋へと向かっていく。
ギィイ
ベットに寝転がる。
「ステータス」
ブゥン
視界に自身のステータスが浮かび上がる。
【ステータス】
名前:アオイ
種族:ヒューマン
レベル:5
職業①:傀儡師(Lv1)
職業②:裁縫師(Lv5)
職業③:薬剤師(Lv2)
職業④:木工師(Lv2)
体力:5,475/5,475
魔力:4,329/4,329
攻撃力:997
防御力:925(+3)
状態:健康
称号:なし
ランク:F
やっぱりレベルが上がっていたか。
ゴブリンとの戦闘でそういった感覚があったからな。
この傀儡師というのは結局は何なんだろうな?
・傀儡師
人形を操る事のできる職業。
最大10体。
専用スキルによりのみ発動可能。
専用スキル:自立化
うおっと!
疑問に思ったら説明文が出てきたな。
傀儡師は人形使いの上位互換の職業って奴か。
「インベントリ」
ブゥン
今度はインベントリを表示し中身を見る。
全70枠で埋まっているのが銀貨、銅貨、ゴブリンの耳、衣服等この世界で手に入れた物。
・自律型魔導人形《NALL》
字は少し違うがナルだけがインベントリに入った状態でこの世界に迷い込んできたようだ。
ナルを含めて残り9体の人形を同時に操る事が出来る職業のようだ。
・自律型魔導人形《NALL》
太古の昔に作られた自律型魔導人形。
魔力を注がなくても自立行動が可能。
また、同型機体は世界に散らばっている。
傀儡師でないとマスターとして認めない。
165cm
術者の魔力を消費して装備に合ったスキルを使うことができる。
固有スキル【マナチャージ】を持っている。
【ドラゴンスケイルギア】
【ドラゴンスケイルアーマー】
【ドラゴンスケイルレギンス】
【ドラゴンスケイルブーツ】
【ドラゴンクローレイピア】
攻撃力:250
防御力:550
耐久値:750/750
ランク:アーティファクト
品質:5
お、おう・・・いつの間にかアーティファクト級になってやがる。
同型機体という事は何処かにナルのような人形が1体以上はあるっていう事か・・・
「自律型魔導人形《NALL》」
シュンッ
目の前にナルが変わらずドラゴンスケイル装備の状態で現れた。
ウィイイン
ナルから起動音が聞こえ始める。
ドクンッドクンッ
魔力の波動が微小ながら周囲へ伝播する事が感じ取れる。
「起動」
シュッ
俺の魔力糸がナルに接続して魔力を送る。
「起動シーケンスクリア。自律型魔導人形《NALL》3号機起動します」
ヒィイン
瞼が開き魔力を灯った瞳が見える。
「おはようございます。新たなマスター」
「新たなマスター?」
「はい。自律型魔導人形のマスターという事で御座います」
「俺とお前は始めて会ったわけじゃないよな?」
「いえ。私はアナタと始めて会います」
「前のマスターの名前はなんだ?」
「いえ。私は作られて始めて起動する事が出来ました。前マスター等は存在致しません」
どういう事だ?
「創造主様の記憶は破損しています。経年劣化によるものと推測。復元は不可能と断定致します」
このナルは別のナルという事か?
「《NALL》というのはお前自身の固有名でいいんだな?」
「《NALL》というのはシリーズ名になります。自律型魔導人形《NALL》シリーズです」
「お前はいくつ目になるんだ?」
「製造番号は3番目と記憶しております」
「少なくてもあと2体はいるって事か」
「《NALL》シリーズは全部で5体になります。残念ながら私の感知範囲能力では同型機は見つけられません」
「5体か・・・装備はお前と同じなのか?」
「役割毎で装備はバラバラです。3号機である私はスピード重視型の前衛です」
「防御力重視型の前衛や魔法攻撃重視型の後衛もいるって事だな?」
「はい、5体の私達は主を守る人形として作られました」
「なるほど・・・残り4体。道のりは長いというわけか」
「マスターを守ることこそが私達の使命。どうか同型機をお探しください」
「あぁ。その前に安定した収入が必要となってくる。お前の戦力は俺に必要だ。手を貸してくれるな?」
「マスターの御心のままに」
こうして自律型魔導人形《NULL》シリーズ3号機と俺は出会った。
「お前にはサンの名前を与える」
「分かりました。これから私の事はサンとお呼び下さい」
「では、戻れ」
「はっ」
サンは俺のインベントリの中へと収納されていった。
さて・・・寝るか。
・・・
・・・・・・
「失礼します。お呼びですか?」
『あぁ。アレから彼の行動を聞きたくなったからな』
「今のところ不審な動きは見られません。強いて言えばランクの上昇率は早いかと」
『G-から始まったのだろう?貢献度を稼ぐにはそれなりの時間が必要だが』
「本日付けでFになった所です」
『たったの1ヵ月ちょっとでFにたどり着いたのか。周りの冒険者たちの反応は?』
「接触する気はない感じです。最初にヤンジャンを退けたのが牽制になっているようです」
『うむ。で、彼に誰か監視をつけているのか?』
「C+級冒険者ヤンジャンに監視をつかせていますがコレとった動きは無いとのこと」
『彼は世話好きだからな。こちらも調べて分かったことが幾つかある』
「謎のスキルですね」
『結論から言うと。そのスキルは太古の昔に失伝された糸使いと呼ばれる職業スキルの一つという事だ』
「糸使いですか?」
『読んで字のごとく、糸を操る職業だ』
「糸ならなんでも操るといった職業ですか・・・裁縫師に向いてそうですね」
『君らしい感想だな』
「いえ」
『が、そんな生易しい職業ではなく戦闘職である事は確実だ。とある遺跡から出土した石版の一節には糸使いの一撃は鉄をも両断すると書かれているらしい』
「鉄をもですか」
『あぁ。どのように鉄を切るかまでは分からないが気を付けたほうがいい事は間違いない。彼の装備は変わったのか?』
「ウルフコートを着始めた事以外はないですね」
『ウルフか・・・引き続き監視を頼む』
「はっ!失礼します」
ガチャンっ
『さて、彼は一体何者なんだろうか・・・』
お疲れ様でした。




