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17/23

17:岐路

「僕をテストパイロットに……ですか?」

「ああ。我々のチームの一員として、アルシエルの専属として雇いたい。というのがテイラー司令の意向だ」

 報告から戻ってきたハンス隊長たち。それにキョウコさんも加えて、僕たちはアルシエル前に仮設したテーブルを囲んでいる。

 そうして席につくやいなやに聞かされた話。

 おうむ返しに聞き返した僕に、隊長さんは顎を引いてうなづく。

 けれどそんな隊長さんの顔は普段の数割増しに厳めしくて。

 それにラティさんも浮かない顔をしてる。

 二人とも僕を、というか民間人を戦わせたくないって言ってるし、納得できてない命令なのかもしれない。

「いいじゃないか」

 でも苦々しい感じな隊長とラティさんに反して、イキイキしてきたのがキョウコさんだ。

 眼鏡の奥でその目はギラリと輝いて、唇も両端がキュッと楽しげに持ち上がってる。

「実にいい話じゃないか、なあ? 打撃武器を作って使ったイチカくんには、是非とも使って欲しい武器があるんだ! あ、いや待った待てい、むしろアルシエルには乗らなくてもいいから、実際に振り回してその使用感をレポートにまとめて……」

「落ち着けアンパン」

「ぬおッ!?」

 ずいずいずい、と。

 僕が話を受ける前提で話を進めるキョウコさん。その頭をピッコロさんがまるで目覚ましを止めるみたいに叩く。

「まったくせっかちだな。まだ聞かせるには早い情報だってあるだろうがよ」

「……って、ナオトお前、ぽんぽこぽんぽこ人の頭を叩くのはやめろぉ! 後アンパン言うな!」

「おお。悪い悪い。でも止めてやんねえよ」

「お、のーれぇがぁああッ!」

 抗議の声をキシキシ笑いながらあしらうピッコロさんに、キョウコさんが怒りに吠える。

 でも対するピッコロさんは慣れっこだってばかりに軽く受け流し続けてる。

「あの、お二人ってどういう関係なんですか? 妙に親しいというか、お互い遠慮がない感じですけど」

 そんな二人の気安いやり取りがどうしても気になって、僕は話がそれるのを申し訳なく思いながらも聞いてしまう。

「ん? ああ、何のこたぁねえよ? ガキの頃からの腐れ縁てだけだからな」

「まったく腐れ縁だ! 同じ縁ならもっとマシなものが欲しかったよ」

 キョウコさんの頭の上でポンポンと弾む手。

 それを荒っぽく払いのけながら、それでも席を離れようとはしない。

 そんな遠慮のないじゃれあいを微笑ましく思いながら、僕はもう一つ、と手を上げる。

「あの、アンパンってなんですか?」

 たぶん漢字表記で「杏子」ってなるからだろうっていうのは僕もわかる。

 でも「パン」の方がどうにもピンと来なくてすっきりしない。

 この質問に、キョウコさんは低くうめいて言葉を詰まらせる。

 けれど一方で、たぶんあだ名をつけた当人は笑みを深めて、僕の質問に答えようと口を開く。

「それな、ちょいと品のない話だが、実はこいつのシモの……」

「ちぇぁああッりゃぁあああああッ!!」

「うぼぉあああッ!?」

 高い引き気味な笑い声交じりの答えを、キョウコさんの叫びと鋭いボディが遮る。すごい、あれたぶんレバーに入ってる。

「……イチカ君、何か聞いたかな?」

「いえ! 僕は何も!」

 ピッコロさんの肝臓を突いたまま、ギュルリと首を巡らせての問い。

 それに僕は反射的に首を横に振っていた。

「それで、その……そう! 僕をアルシエルのテストパイロットに、って話でしたよね?」

 拳を引き抜かれて机に突っ伏したピッコロさんを横目に、僕は自分が脇に逸らしてしまった話を元々の流れに戻す。

「それでしたら、僕、やりま……」

「ダメよ!」

 話を受けようと返事をしかけた僕を鋭い声が遮る。

 割り込んでストップをかけたのは、やっぱりラティさんだった。

「安請け合いしちゃダメ! ここまでアルシエルを運ぶのに何度も戦ったんだから、どれだけ危険か分かってるでしょ? 新型を動かして守ってきただけで充分なんだから、これ以上付き合う必要なんてないの!」

「そうだな。むしろ、義理立てするべきは我々の方だ」

 僕のスカウト話を止めようとするラティさん。

 それに隊長さんも重々しくうなづいて同意してる。

「……んじゃ、ちゃんともろもろ説明するのも義理立てじゃねえんスかね」

 そこへ別の方向からも声が上がる。

「……ピッコロ少尉」

 苦々しい顔の隊長さんに対して、ピッコロさんは殴られたお腹をさすりさすり、意見を続ける。

「イエスとノー。それぞれの場合のメリット、デメリット。俺らがやってやれそうなところ。そこいらはキチッと説明するべきっしょ? そんでその上でイチカが選ぶべき。違いますかね?」

「だが、イチカ君は民間人で、未成年だぞ」

「関係ないでがしょうよ? もう敵を撃ち落としてんですよ? 的射ちしかしたことない童貞じゃないんだから、自分の進退くらい自分で決められますっしょ?」

 反論する隊長に対して、堂々と意見するピッコロさん。

 ちょっと言葉はアレな感じだけれど、正直一人前に扱ってくれてるのは嬉しい。

「で、イチカも決めるからには軽い気持ちで決めるなよ? 周りの流れはどうあれ、乗ったも反ったもお前自身の決断だからな?」

「はい。ありがとうございます」

 そうなると、この釘刺しもありがたい。これもまたピッコロさんなりの気づかいなんだろう。

「じゃあ、詳しいところも話してもらえますか」

「分かった。ピッコロ少尉の言うことももっともだ。そういうことならきちんと説明して、イチカ君の判断にゆだねよう」

 説明を求める僕に、隊長さんは重々しくうなづいてピッコロさんを一瞥する。

 視線を向けたのはラティさんも一緒にだ。

 するとピッコロさんは、笑いながら手をヒラヒラとさせて二人の目に応える。

 僕が知らない間に、チームの中で何かあったんだろうか。

 そう思って首を傾げた僕だけど、口を挟む前にハンス隊長の説明が始まる。

 その説明が進むにつれて、僕は自分の顔から血の気が引いていくのを感じていた。

「あの……大丈夫なんですか? その、ずいぶんと司令官に反対意見をぶつけたみたいですけど?」

 僕がこれからどうこうと言うことよりも、まず気になったのはそこだ。

 軍隊っていうのは、特に上下関係が厳格だって聞いてる。武力を備えた組織の秩序が崩れたらとんでもないことになるんだから、それは当たり前だ。

 そんな組織で、上からの指示に反発したりしたら酷いことになるんじゃないの?

 僕が監禁されることになるとか、戦闘に参加しなきゃとか。正直そんなことよりも、ラティさんに隊長さん、ピッコロさんが僕のために処罰されるかもしれないことのほうが心配だ。

「その事ならば問題ない。テイラー司令はああ見えて……と言うよりも、見た目通りに線引きのきっちりしてるタイプ、と言うべきか。命令なら命令だと明言してくださる。報告中の意見交換なら目くじらをたてたりはされない」

 そのハンス隊長の言葉を聞いて、僕は胸を撫で下ろす。

 なんでかラティさんも僕と同じ感じで安心してるけど。

 とにかく話をまとめると、僕がテストパイロットをやるなら、アルシエルの世話をしながら、皆さんと一緒に訓練、武装試験、実戦って仕事をすることになる。

 やらないなら監視付きの、あるいは監禁生活。

 さらに叔父さんのところに帰れたとしても、定期的にこの基地と行き来しなくてはならない。それに最悪、基地の皆さんはアルシエル込みで落としにかかって来ている戦力を、アルシエル抜きで相手にしなくちゃならなくなる。

 そうなってアルシエルが逃げたなら、逃げ込んで来る場所は僕の所、リサイクルセンター街だ。

 それは結局僕ばかりか、叔父さんや街の人たちまで戦禍の道連れにすることだ。

 ダメだ。そんなの到底容認できる未来図じゃない!

「しかし、テストパイロットになる事は正直選ばせたくはない。こちらでも奪い取ろうと狙われるようなLBの専属として戦場に立つことになる。我々がチームとしてフォローするとはいえ、徹底的に標的にされることは避けられないだろう」

 ハンス隊長はこう言ってくれるけれど、最悪の予想図を聞かされては僕がそれくらいの危険にさらされるくらいがなんだと思える。

「やっぱり、僕は……」

「おいおい。俺は言ったよな? あんまり甘い考えでいるなよ。実戦の怖さはちゃんと知ってるだろ?」

 だけれど僕が口にしかけた決断を、今度はピッコロさんが遮る。

「甘いだなんて、僕は……」

「いいや、甘いよ? 戦いの怖さは知ってるよな。そこでためらったらどうなるかってことも分かるだろ。生き残るための引き金もためらうような奴が出てきたら迷惑にしかならないってこともな」

 勢いだけで大事な決断をするな。

 こう言われては僕はぐうの音も出せない。

「……ピッコロ少尉、そんな言い方は!? それにあなたは結局イチカくんをどうしたいの!?」

「俺は間違ったことは言ってねえと思うよ? あと、俺はイチカ自身に判断決断させようとしてるんだ、徹頭徹尾な」

「それでも、言い方ってものがあるでしょう!?」

「民間人だからか? それとも未成年だからか? やなこった。俺にとってすりゃケツに卵の殻載せた雛とはいえ戦士だ。そういう風に扱うさ」

「ピッコロ少尉!?」

「止めないか二人とも!」

 ピッコロさんの言葉にラティさんが腰を浮かせかけたところで、隊長の一喝があたりに響く。

 びりびりと背筋にくる怒号に僕ら皆が固まる。

 すると隊長は厳めしい顔から荒々しく息を吐きだして、その巨体に漲らせた気を辺りへ流す。

「ともかく、今すぐに決断を下すには難しい問題だ。時間も遅い、イチカくんには一晩じっくりと考えてから決断を下してもらいたい。いいね」

「は……はい」

 有無を言わさぬ隊長さんの雰囲気に、僕は思わずうなづいてしまう。

「では、オーランド少尉はイチカくんに部屋を手配するように。解散!」

 そうして基地での一泊と、結論を出すタイミングが決定されてしまったのだった。

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