↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/21

第9話 剣尊、スケルトンを弟子にする

アカデミーへ行くことが決まってから、出発までは早かった。


必要な書類や荷物は父が用意してくれた。


俺が用意したものといえば、着替えと旅用の食料くらいだ。


そして今。


俺は刀尊家の屋敷から帝都へ向かう街道を走っていた。


背中には馬を背負っている。


「我が主よ」


右肩に腰掛けていたグレイヴが口を開いた。


今のグレイヴは、手のひらより少し大きい程度の小さなスケルトンだ。


本来の姿のまま連れ歩けば目立つということで、身体を小さくしているらしい。


「なんだ?」


「やはり何度見てもおかしいぞ」


「何がだ?」


「馬を背負って走っていることだ」


俺は背中の馬を見る。


馬ももう慣れたのか、大人しくしている。


「俺が走った方が速い」


「それは分かった」


「なら問題ないだろう」


「大ありだ」


グレイヴが俺の肩を骨の手で叩いた。


「いくらなんでも、馬を背負ったままアカデミーまで行けば怪しすぎる」


「なぜだ?」


「なぜ分からんのだ」


「馬に乗って走るより、俺が馬を背負って走った方が速い。それだけの話だろう」


「世間では、それをそれだけの話とは言わん」


面倒だな。


「では馬を置いていくか?」


「それも駄目だ。人目のある場所では普通に馬へ乗れ」


「なぜそんな手間を……」


「普通の十歳として振る舞うためだ!」


グレイヴの声が街道に響いた。


普通の十歳というものは、随分と面倒らしい。


仕方なく、人の気配が近づけば馬を下ろして乗る。


人がいなくなれば、再び背負って走る。


その方が圧倒的に速い。


「我は千年以上生きてきたが」


グレイヴが呟く。


「馬の方が休憩させられる旅は初めてだ」


「別に普通のことだ。剣尊たるこの俺、アルド・ラグナス――いや、ソード・刀尊にとってはな。弟子にも実践させていた」


「剣尊流というのは、あほの集まりなのか?」


街道を進んでいると、少し先に建物の影が見えてきた。


「村か?」


俺は速度を落とした。


だが、人の気配がない。


煙も上がっていない。


畑は荒れ、家々の屋根も崩れている。


入口に立っていた木製の看板も半分腐っていた。


「廃村のようだな」


グレイヴが言う。


「ああ」


俺は村へ入った。


かなり前に捨てられた場所らしい。


「ちょうどいい」


グレイヴが肩の上で言った。


「何がだ?」


「ここらで死体を漁っていこう」


俺は周囲を見る。


「ほう。ここに強者が眠っているのか?」


「いや。ただの村人だ」


「……必要あるか?」


期待して損をした。


「ある」


グレイヴは即答した。


「お前はこれからアカデミーへ行くのであろう?」


「ああ」


「そこで剣尊の剣術を使うなと、父親から釘を刺されたばかりではないか」


「枝なら問題ないだろう」


「そういう問題ではない」


また同じことを言われた。


「我が主よ。お前はネクロマンサーになったのだ」


グレイヴが言う。


「剣士として自由に立ち回れぬ以上、死霊術を覚えておく必要がある」


「お前がいるだろう」


「今の我はこの有様だ」


グレイヴが小さな両腕を広げる。


確かに小さい。


「それに、我だけに頼るつもりか?」


「いや」


「なら使役する死者を増やせ。強者の死体を手に入れるまで、何も使わないつもりではあるまい」


理屈は分かる。


だが。


「ただの村人だろう?」


「そう嫌そうな顔をするな」


グレイヴが呆れる。


「確かに、お前は剣を極めている」


「ああ」


「ならば今世では、魔術も極めてみよ」


俺はグレイヴを見る。


「魔術を?」


「そうだ」


眼窩で青白い炎が揺れる。


「剣だけを極めて届かなかった場所があるのであろう?」


「剣尊の先か」


「ならば前世と同じことだけを繰り返していても意味はあるまい」


なるほど。


前世の俺が使っていた魔力は、ほとんどが肉体強化と剣へ通すためのものだ。


魔術師のように外へ放ち、現象として組み上げる技術はほとんど身につけていない。


ましてや死者を操る死霊術など、完全に未知の領域だ。


「何か気づくことがあるかもしれんな」


「そういうことだ」


グレイヴが頷いた。


「ようやくネクロマンサーとして成長する気になったか」


「剣尊の先へ繋がるならな」


「理由はそれでよい」


村の奥へ進むと、崩れかけた家屋の裏に古い墓地があった。


墓石の多くは倒れ、草に埋もれている。


俺は地面へ手を向けた。


「それで、どうすればいい?」


「死者を感じ取れ」


「死者を?」


「お前の魔力を地中へ広げよ。死体に残った魂の残滓を探るのだ」


言われた通りに魔力を流す。


すぐに分かった。


「三体いるな」


「……もう分かったのか?」


「ああ」


「初めてではなかったのか?」


「正確には二回目だな」


「そうか……」


なぜかグレイヴが少し黙った。


気にせず、地中へ伸ばした魔力を三つの骨へ絡ませる。


感覚としては、糸を繋ぐのに近い。


「起きろ」


地面が揺れた。


ぼこり。


ぼこり。


ぼこり。


三ヶ所で土が盛り上がり、骨の腕が突き出した。


やがて三体のボロボロのスケルトンが地上へ這い出してくる。


武器すら持っていない。


生前は本当にただの村人だったのだろう。


カタカタカタ!


三体が俺へ向かって両腕を上げた。


精いっぱい威嚇しているらしい。


「……何をしている?」


「契約戦だ」


グレイヴが答えた。


その直後。


頭の中に声が響く。


【三体のスケルトンとの契約戦を開始します】


「またこれか」


三体のスケルトンが身構える。


一体は拳を握り。


一体は落ちていた骨を拾い。


最後の一体は両腕を広げた。


そして。


【契約が完了しました】


三体が一斉に腕を下ろした。


「……」


俺は黙ってスケルトンを見る。


「また戦えなかったのだが」


「仕方あるまい」


グレイヴが言う。


「術者と使役される側の力量が違いすぎる」


「契約戦という名前を変えた方がいいんじゃないか?」


「我に言うな」


まあいい。


俺は三体を眺めた。


「それで、こいつらをどうする?」


「好きに命令すればよい」


「好きにか」


生前はただの村人。


現状ではまともに戦うこともできない。


だが。


「そういえば、俺自身は剣を持てない」


「ああ」


「こいつらなら持てるな」


グレイヴの眼窩の炎がわずかに揺れた。


「……なるほど」


「なら剣士にすればいい」


「村人の骨をか?」


「何か問題があるか?」


「いや」


グレイヴが笑った。


「面白い。やってみよ」


まず剣が必要だ。


俺は地面へ右手を向ける。


オーラを流し込み、土を圧縮する。


三つの土塊が浮かび上がり、細長く形を変えていく。


内部をオーラで固定し、刃と柄を作る。


数秒後。


三振りの剣が宙に浮かんでいた。


「地鋼剣」


三本の剣がそれぞれのスケルトンの前へ飛ぶ。


カタ。


三体が受け取った。


見た目こそ土色だが、強度は鋼鉄とほとんど変わらない。


グレイヴが剣を見上げる。


「土から剣まで作るのか」


「圧縮してオーラで固定しただけだ」


「それにしては一級品の武器の硬度だぞ」


「剣尊にとってはこの程度たやすいことだ」


「だてに剣尊ではないということか」


俺も剣が必要だ。


辺りを見渡し、手頃な枝を拾う。


「我が主」


「なんだ?」


「なぜお前だけ枝なのだ?」


「剣を持てないからだ」


「三体には立派な剣を作ったというのに」


「俺にはこれで十分だ」


枝を軽く振る。


悪くない。


俺は三体の前へ立った。


「構えろ」


カタカタ。


三体が地鋼剣を構える。


ひどい。


剣先が定まっていない。


足幅もばらばら。


腕だけで剣を支えている。


「全員駄目だ」


カタ……。


「落ち込むな。今から直す」


俺は一体目の足を枝で叩いた。


「右足を半歩後ろ。腰を落とせ。肩の力を抜け」


次。


「お前は握りすぎだ。骨でも力みは動きに出る」


次。


「剣先を上げろ」


一通り構えを直す。


「斬れ」


三体が剣を振る。


遅い。


「もう一度」


振る。


「腕だけで斬るな。足から腰へ力を繋げろ」


もう一度。


「違う」


もう一度。


「今のはいい」


カタ!


「喜ぶ暇があるならもう一度だ」


カタカタ!


それを繰り返した。


剣の振り方。


足運び。


重心。


間合い。


最初は剣を持つことすら危うかった三体の動きが、見る見る変わっていく。


「三体で俺を囲め」


カタ!


一体が正面。


残り二体が左右へ回る。


「遅い」


俺は枝で正面の剣を弾き、左右から振り下ろされた二本も受け流す。


「だが、最初よりはいい。もう一度」


三体はすぐに構え直した。


その時だった。


三体の身体が突然光り始めた。


「なんだ?」


淡い光が骨を包む。


三体の魔力が明らかに膨れ上がっている。


「これは……」


頭の中に声が響いた。


【条件を満たしました】


【スケルトンのクラスアップを開始します】


「クラスアップ?」


光が強くなる。


細かった骨は厚みを増し、全身を覆う魔力も濃くなっていく。


そして。


【スケルトンは『ソードスケルトン』へクラスアップしました】


光が消えた。


三体が同時に地鋼剣を構える。


明らかに先ほどまでとは違う。


「ほう」


俺は一体の肩を軽く叩いた。


カタ!


反応も速い。


「剣を教えただけで、クラスまで変わるのか」


「我も驚いている。クラスアップはそう簡単に起こる現象ではない」


俺は三体を見る。


なるほど。


俺自身が剣を持てないのなら、死者へ剣を持たせればいい。


俺が剣を教えれば、死者は強くなる。


そして俺自身は死霊術を学ぶ。


前世にはなかったものが、二つとも手に入るわけだ。


「グレイヴ」


「なんだ?」


「お前の言う通りだった」


「何がだ?」


「死霊術は極める価値がある」


眼窩の炎が大きくなる。


「ほう。ようやくネクロマンサーらしくなってきたではないか、我が主」


「逆だろう?」


「なに?」


「ネクロマンサーというギフトが剣尊の弟子を育成するのに適しているということだ」


「死霊を弟子扱いするつもりか」


当然だろう。


「では行くか」


俺は馬を背負った。


三体のソードスケルトンも地鋼剣を持って後ろへ並ぶ。


「ところで我が主よ」


「なんだ?」


「契約した死者は常に連れ歩く必要はないぞ」


「そうなのか?」


「ああ。《リコール》を使えば召喚を解除できる。必要な時に再び呼び出せばよい」


「便利だな」


「ならば今は戻しておけば――」


「いや。このままでいい」


「なぜだ?」


「移動中に歩法を教える」


「……」


俺は三体へ向き直った。


「これから俺の後ろを走れ。ただついてくるだけでは駄目だ。足運びを意識しろ」


カタ!


三体が揃って骨を鳴らした。


グレイヴが俺と三体のソードスケルトン、そして背中の馬を順番に見た。


「我が主よ」


「なんだ?」


「やはり人目のあるところでは馬に乗れ」


「善処する」


「絶対にだ!」


俺は走り出した。


三体も教えたばかりの歩法で後に続く。


走りながらでも、直すところはいくらでもある。


ただの村人だった骨でも、教えれば剣士になった。


なら、もっと鍛えればいい。


どうやらネクロマンサーというギフトは、思っていた以上に俺向きなのかもしれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。