↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/24

第8話 剣尊、アカデミーへ

「それで」


俺はグレイヴを見る。


「強者の死体が眠っている場所は分かるんだな?」


「ああ。そうだが、まずはネクロマンサーの基礎をだな」


何やら骨がごちゃごちゃ言っているが、無視する。


「なら話は早い。順番に回ればいい」


「待て」


今度は父が口を挟んだ。


「なんだ?」


「お前はこれから、どうやってそこまで行くつもりなのだ?」


「どうやって?」


「考えてみろ」


父は呆れたように言った。


「いくら強者の死体が眠る場所が分かったところで、そこまで自由に行けるとは限らん」


「なぜだ?」


「検問はどうする?」


「……」


「移動手段は?」


「……」


「金は?」


「……」


父がさらに続ける。


「何より、今この世界の大半は帝国の影響下にある」


それは知っている。


「俺はアルド本人ではないぞ。指名手配されているわけでもないはずだ」


「それでも刀尊家の人間だ」


父は即答した。


「そして今の帝国にとって、古い剣術名家は決して信用できる存在ではない」


「そうなのか?」


「そうなのだ。お前は世間を知らなすぎる。剣士そのものの地位も、剣尊の時代ほど高くない。お前が何者か以前に、刀尊家の人間というだけで警戒される場所もある」


父は腕を組んだ。


「好き勝手に国境や町を行き来できると思うな」


確かに。


前世では王子だった。


移動したいと言えば馬車が用意された。


国境を越えるなら使者が先に話を通した。


宿も金も身分証明も、ほとんど考える必要がなかった。


今は違う。


「仮に」


父が続ける。


「今のお前に全盛期のアルドと同じ力があったとしてもだ」


「仮にではない。今の俺は全盛期のアルドと同じ程度の力はある」


「いや」


父が遮った。


「確かに、お前は誰よりも強いのかもしれん。それは認めよう」


「そうだ」


「だが、強いからといって必ず戦いの勝者になれるわけではない。それは分かるな?」


俺は少し考えた。


それは否定できない。


前世ですでに経験している。


「そうだな」


俺が答えると、父が少し意外そうな顔をした。


「分かっているのか?」


「ああ」


俺は父を見る。


「例えば、父上を人質に取られるかもしれない」


「……私か」


「母上でもいい」


「想像でもやめてくれ」


「なら、スパローでもクロウでもいいが」


「扱いが違わないか? 一応お前の兄たちなのだぞ」


「例えだ」


俺は続ける。


「俺自身を正面から倒せなくても、周囲を利用することはできる」


前世の俺を殺した方法も、それだった。


「俺は誰よりも強い。だが、強いからといって戦いの勝者になるとは限らない」


父がしばらく俺を見た。


やがて、満足そうに頷く。


「よく分かっているではないか」


「前世で一度死んだからな」


「高い授業料だったな」


「命一つだ」


「普通はそれを最高額と言う」


だろうな。


俺も別に、生き返れる確信があったわけではない。


「だからこそだ」


父は話を戻した。


「今世のお前は、自分で人との繋がりを作れ」


「人との繋がり?」


「もっと簡単に言えば、コネだ」


「コネか」


前世では考えたこともなかった。


ラグナス王家という巨大なコネの中に、最初からいたからだ。


とはいえ、最後はその巨大なコネも何の役にも立たなかったわけだが。


「そうだ」


父が頷く。


「お前自身が人脈を作り、必要な時に協力してくれる者を増やせ」


「なるほど。前世と違い、俺自ら能動的に動けということか」


そうすれば前世と何か違いが出てくるのだろうか。


今のところ、よくは分からない。


「その通りだ。金も必要だ。情報も必要だ。身分も必要になる。お前一人が強ければ何でもできるという考えは捨てろ」


「では、どうすればいい?」


父は待っていたように答えた。


「アカデミーへ行け」


「アカデミー?」


「ああ」


十歳でギフトを得た者たちが通う教育機関。


存在は知っている。


だが、俺には縁がないと思っていた。


「そこで何をする?」


「まず人と知り合え」


「それが目的か?」


「それだけではない」


父は俺の右手を見る。


「アカデミーには死霊術の講義もある」


「ほう」


それは少し興味がある。


「お前は今日ネクロマンサーになったばかりだ。グレイヴから学ぶのもよいが、まず現代の死霊術がどういうものなのか知っておいて損はない」


「確かに」


「有力家門の子弟も集まる。そこで友誼を結べば、将来各地を動く際にも役に立つ」


「一石二鳥というわけか」


「それだけではない」


まだあるのか。


「知力と戦略も鍛えろ」


「必要か?」


「必要だ」


即答だった。


「剣で斬ること以外も覚えろ」


「分かった」


父が少し驚いた。


「今日はやけに素直だな」


「強くなるために必要なら覚える」


「……やはり理由はそれか」


当然だろう。


「それに」


父が少し笑った。


「お前にとって懐かしい人物もいる」


「誰だ?」


「アカデミーの学院長、レオン・グランツだ」


俺は少し目を見開いた。


「レオン?」


「ああ」


忘れるはずもない。


前世の俺の弟子の一人だ。


「ほう」


思わず口元が緩む。


「あいつが学院長になったのか」


十年。


あいつなら、少しは腕を上げているだろう。


「強くなっているといいが」


しかし父の表情は曇った。


「それはあまり期待しない方がいい」


「なぜだ?」


「噂では、病を患っているらしい」


「病?」


「ああ。詳しいことまでは知らんが、長く剣を握れていないとも聞く」


「そうか」


それは気の毒だ。


「なら治ればいいな」


「簡単に言うな」


「治せない病なのか?」


「知らん。だが剣尊の教えが帝国法で禁止されて以降、医療技術にも著しい制限がかかっている。期待しない方がいいだろう」


なら、会ってから確認すればいい。


ともかく。


アカデミー。


死霊術を学べる。


人脈を作れる。


戦略も学べる。


さらに前世の弟子、レオン・グランツまでいる。


悪くない。


「分かった」


俺は頷いた。


「アカデミーへ行こう」


父も頷く。


そして今度は、グレイヴへ顔を向けた。


「魔王グレイヴ。頼みがある」


「なんだ?」


「ソードがアルド殿下の転生体であること。そして、剣尊の剣術を使えること。この二つを外で悟られぬよう見張っていてほしい」


「父上?」


なぜ俺ではなく、グレイヴに頼む。


グレイヴは腕を組み、俺をしばらく眺めた。


「ふむ」


「なんだ?」


「確かに今の状況で正体が露見すれば、我らの大望を果たす前に潰されかねん」


「ああ」


父が頷く。


「露見すれば刀尊家だけではない。古い剣術名家まで危険に晒される」


「ほう。そうなるのか。心得た。十分注意するとしよう」


グレイヴはもう一度俺を見る。


「それに、見たところ我が主は少々頭がよろしくないようだ」


「誰の頭が悪い?」


グレイヴは俺を無視して、胸を張った。


「よかろう。我が主に足りぬ頭脳は、この我が補ってやる。見事に制御してみせようぞ」


「頼む」


「任せておけ、ブレイド」


なぜか二人の間で話がまとまっている。


「まあいい。なら俺からも頼む」


「やけに素直だな」


「些事に過ぎないし、俺を本気で制御できるはずもないからな」


「それはそうだな……」


グレイヴがあっさり認めた。


確かに策略も、人脈も、地位も必要なのだろう。


だが結局、それらすべてを凌駕し得るのは圧倒的な強さだ。


その考え自体を変えるつもりはない。


とはいえ、前世のようなことになっても困る。


常に身近にいて、俺に足りない部分を補い、それなりに裏切りにくそうな参謀を手に入れたと思えば、むしろありがたいことだ。


アカデミーか。


前世では必要としなかったものを学ぶ場所。


そして。


今世で新しい力を手に入れる場所。


悪くない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。