第18話 剣尊、最強の死霊を創り出す
試験官から戦闘の中断を命じられて、ほどなくして数人の試験官がこちらへやってきた。
先頭にいるのは、先ほどから何やら騒いでいた魔術師だ。
俺の死霊たちを見るなり、険しい顔をする。
「ソード・刀尊だな」
「ああ」
「現在、お前が使用している死霊には不正な強化が施されている疑いがある」
「不正?」
「とぼけるな!」
男が声を荒らげる。
「ギフトに目覚めて間もない十歳のネクロマンサーが、デスナイトをはじめとするこれほどの死霊を従えられるはずがない!」
「実際に従えているが」
「だからおかしいと言っている!」
グレイヴが肩の上で小さく溜息をついた。
『話が進まんな』
『そうだな』
試験官はさらに続ける。
「ネクロマンサーは契約戦を経て死者を屈服させる。つまり、基本的には術者自身の力量を大きく上回る死霊を使役することはできん!」
「そうらしいな」
「そうらしいな、ではない!」
男は俺の死霊たちを指さした。
「刀尊家が何らかの方法でギフトへ干渉したに違いない!」
「それがどうした?」
「どうしただと?」
「それの何が問題だ?俺が契約で死霊を従えようが刀尊家の力を借りようがどうだというのだ?俺の力であることに変わりないではないか」
「だ、黙れ!穢れた剣士風情が粋がるなよ!」
それを聞いたグレイヴは呆れている。
『滅茶苦茶すぎるな』
『権力を持った人間なんてこんなもんだ』
『余裕ぶっている状況か?』
『さて、どうかな』
少し待っていると、別の試験官が前へ出た。
「ともかく、現状の死霊を使用したまま試験を続けることは認められない」
「ではどうする?」
「これまでに得た点数は一度無効とする」
「それで?」
「異議はないのか?」
「試験を運営しているのはそちらだろう」
俺が決めることではない。
試験官たちが少しだけ拍子抜けした顔をした。
「それから、現在召喚している死霊についても、試験終了までこちらで預からせてもらう」
「好きにしろ」
俺は死霊たちへ命令した。
「抵抗するな」
「御意」
死霊たちが武器を下ろす。
アカデミー側から、一人のネクロマンサーが呼ばれてきた。
どうやら俺との契約を一時的に切り離し、死霊たちを預かるつもりらしい。
男がデスナイトへ手を伸ばした。
次の瞬間。
「ぎっ――」
身体が硬直した。
「おい?」
「な、なんだ……これは……!」
男が頭を抱える。
「無理だ……こんな……魂を……何体も……!」
そのまま地面へ崩れ落ちた。
試験官たちが駆け寄る。
しばらく騒ぎになったが、どうやら死霊との接続に耐えられず精神を破壊されたらしい。
そのまま息を引き取った。
「……」
俺とグレイヴはその様子を冷静に見つめていた。
『死んだな』
『あれだけの死霊だ。魔王クラスの器がなければ制御はできんだろう。まっ自業自得というやつだな』
しばらくして、例の魔術師が戻ってきた。
顔色は悪い。
だが、こちらを睨む目だけは変わっていなかった。
「と、ともかくだ!」
少し声が裏返っている。
「その死霊どもは使用禁止だ!」
「預かるのではなかったのか?」
「使用禁止だ!」
どうやら預かることは諦めたらしい。
俺は《リコール》で死霊たちを戻した。
「では、俺はどうやって試験を受ければいい?」
「そこはこちらも公平に配慮する!」
公平。
随分便利な言葉だ。
試験官が合図すると、三体のスケルトンが連れてこられた。
どれも武器すら持っていない。
骨も細い。
魔力も弱い。
見るからに最下級だ。
「この三体を貸与する!」
「これで戦えと?」
「そうだ!」
グレイヴが三体を眺める。
『一体ではさすがに罪悪感があったのか、三体寄越したぞ』
『うーむ。この三体で戦う戦術を考えないとだな』
『しかし、まあ三体とも見事なクズだ。これじゃ一体でも三体でも変わらん。
妙なところで良心を見せるところも、かえって憎らしいぞ』
確かに弱い。とはいえ愚痴ばかり言っていても何にもならない。
「残り時間は?」
「二十分だ!」
「そうか」
ほかの受験生たちは、今も魔物を狩り続けている。
どうやら俺が止められている間も、試験時間は減り続けていたらしい。
そのうえ、俺の得点はゼロへ戻された。
合格点まで稼ぐには、少し急ぐ必要があるな。
『どうする、我が主?』
「できることをやるしかない」
三体のスケルトンを見る。
まずは。
「《合成》」
三体の身体が崩れ、骨が一つへ集まっていく。
魔力が絡み合い、一体のスケルトンへ変化した。
先ほどより骨格が太い。
魔力量も増えている。
グレイヴが頷く。
『まずまずだな』
「次だ」
近くに落ちていた試験用のダガーを拾い、スケルトンへ渡す。
スケルトンがダガーを握った瞬間。
魔力が変化した。
【クラスチェンジが発生しました】
【スケルトン → スケルトンダガー】
「ほう」
グレイヴが少し感心する。
『クラスチェンジしたか』
「ああ」
『といっても、スケルトンダガーか……』
「弱いな」
『弱いな』
二人でスケルトンを見る。
これでは残り時間で合格点まで稼ぐのは難しい。
『お前自身で動くか?』
「それも考えたが」
試験官席を見る。
例の魔術師がこちらをじっと監視している。
「剣尊の技を使った瞬間、今度はそれが違法だと言われそうだ」
『……言いそうだな』
「なら死霊術だけでやる」
せっかくネクロマンサーとして受験しているのだ。
『むろんそれが理想だろう。それならどこからも文句は出ないはずだ。しかし、策はあるのか?』
方法はある。
俺は《ストレージ》を開いた。
「こいつを使う」
取り出したのは、盗賊団の頭目から回収した魂だ。
頭目の首は冒険者ギルドへ渡したが、魂は別に確保してある。
『バンディットリーダーか』
「ああ」
元々、死霊の強化に使うつもりだった。
ちょうどいい。
俺はスケルトンダガーへ手を向ける。
「《融合》」
頭目の魂が光となり、スケルトンダガーへ吸い込まれていく。
その瞬間。
いくつもの文字が目の前へ浮かんだ。
【融合条件を満たしました】
【進化候補を検索します】
【特殊進化候補を確認】
【ソウルイーター】
グレイヴの眼窩の炎が大きく揺れた。
『ソウルイーター!?』
「知っているのか?」
『知っているも何も、大当たりだ!』
珍しく興奮している。俺は聞いたことがない魔物だから、古代の魔物かあるいは魔界にいる魔物なのだろうか?
『魂を喰らい、自らを成長させる上位死霊だぞ! 普通のスケルトンから進化できるようなものではない!』
「現に進化しているようだが?」
『まさに奇跡だ!』
グレイヴが俺を見る。
『さすが剣尊。運まであるとはな!』
「運?」
俺は少し考える。果たして運なのか?別の要素も考えられる気もするのだが、グレイヴが何も言わない以上運なのかもしれない。
「運だとしてもおかしくない。剣尊たるこの俺は天をも操作する技量がある」
『そこまで言っておらん』
事実を言っただけだが、しかし、多少急ぐ必要がある。
進化を選択する。
スケルトンダガーの身体を黒い魔力が包んだ。
骨が黒く染まり、身体が一回り大きくなる。
空洞だった眼窩に、紫色の炎が灯った。
周囲の空気が変わった。
試験官席からも騒ぎ声が聞こえる。
「なんだ、あれは?」
「魔力が急激に上昇しているぞ!」
「まさか……進化したのか!?」
黒い死霊がゆっくり顔を上げる。
【ソウルイーターへの進化が完了しました】
グレイヴが笑う。
『これならいけるぞ』
「ああ」
俺もそう思う。明らかに格が高い。デスナイト並みかそれ以上の格だろう。
残り時間は少ない。
だが。
これなら十分だ。
俺は試験場を見渡した。
まだ魔物は残っている。
「ソウルイーター」
紫色の炎がこちらを向いた。
「行け」
腕を上げる。
「魔物どもを喰らい尽くせ」
「グオオオオオオオオオ――!」
咆哮が試験場を震わせた。
近くにいた魔物たちが一斉に振り返る。
次の瞬間。
ソウルイーターが消えた。
いや。
速すぎて見えなくなっただけだ。
一体目の魔物が吹き飛ぶ。
続いて二体目。
三体目。
倒した魔物から浮かび上がった魂を、ソウルイーターが吸収していく。
そのたびに魔力が膨れ上がる。
「なるほど」
倒せば倒すほど強くなるのか。
これは面白い。
試験場の得点表示が動き始める。
十点。
三十点。
七十点。
百二十点。
ソウルイーターは止まらない。
魔物を倒し。
魂を喰い。
さらに強くなり。
次の魔物を倒す。
そうして、次々と魔物を狩り続けた。
しかし、合格点にはまだ届かない。
グレイヴが笑った。
『まさか、あの三体のクズがこうなるとはな』
「まだまだいけそうだ」
『残り十分だぞ』
「十分もあるのか」
『お前に言うと長く聞こえるから不思議だ。しかし、大体の魔物が狩り尽くされているぞ。このままだと不合格になる』
確かに、先ほどまであちこちから聞こえていた魔物の咆哮も、今ではほとんど聞こえなくなっている。
俺が試験を中断させられている間にも、ほかの受験生たちは魔物を狩り続けていたのだ。
『どうする?』
「探すしかないだろう」
俺はソウルイーターへ命じた。
「残っている魔物を探せ」
ソウルイーターが森へ駆け込んでいく。
だが。
なかなか獲物が見つからない。
時折、魔物を見つけては倒しているようだが、得点の増加はわずかだった。
時間だけが過ぎていく。
『まずいぞ、我が主』
「何がだ?」
『残り五分だ。まだ合格点には届いておらん』
「そうか」
『そうか、ではない!』
「だが、魔物がいないのだから仕方あるまい」
『それはそうだが……!』
さらに時間が過ぎた。
ソウルイーターは演習区域を駆け回り、わずかに残った魔物を仕留めていく。
しかし、合格点にはあと少し届かない。
『残り一分だぞ!』
「まだ一分もあるのか」
『お前という奴は……!』
その時だった。
試験場の一角から、大きな咆哮が聞こえた。
どうやら高得点の大型魔物が、まだ生き残っていたらしい。
俺が指示するより早く、ソウルイーターがそちらへ向かう。
数十秒後。
得点表示が大きく跳ね上がった。
『合格点まであと少しだ!』
「なら問題ない」
『問題あるわ! もう時間が――!』
ソウルイーターはすでに次の獲物へ向かっていた。
そして。
試験終了の鐘が鳴る直前。
最後の魔物が倒れた。
得点表示が止まる。
俺の名前の横に表示された数字は――。
合格最低点を、ほんの少しだけ上回っていた。
「ふう」
俺は息を吐く。
「何とかなったな」
グレイヴが肩の上で頷いた。
『最初の得点を全部没収された時はどうなるかと思ったぞ』
「合格したなら同じだろう」
圧倒的な首席でも。
ぎりぎりの末席でも。
アカデミーに入れることに変わりはない。
俺はそう思っていた。




