↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/21

第16話 剣尊、入学試験を受けたい

女たちの身体も回復し、最低限の剣術も身についた。


入学試験の日も近い。


そろそろ帝都へ向かわなければならない。


問題は、この砦だった。


「捨てるには惜しいな」


城壁があり、井戸があり、寝床もある。


盗賊が使っていたとはいえ、拠点としては十分だ。


グレイヴも同じことを考えていたらしい。


「ならば、このまま使えばよかろう。名前もあった方が便利だな」


「名前?」


「ああ。この辺りはアッシュ地方と呼ばれている。アッシュ砦でどうだ?」


「覚えやすい。それでいい」


こうして盗賊たちの根城は、アッシュ砦となった。


女たちにも今後どうするか確認したが、全員がここへ残ることを選んだ。


帰る家がない者。


家族を失った者。


故郷そのものを盗賊に潰された者。


事情はそれぞれだったが、少なくとも今すぐ戻れる場所はないらしい。


ならば、この砦を使えばいい。


「周辺の盗賊を見つけたら倒せ」


女たちが俺を見る。


「奴らが持っている金や物資はここへ運べ。砦の運営に使えばいい」


「はい」


「死体も状態がよければ持ち帰れ」


何人かが一瞬固まった。


俺は自分を指さす。


「俺はネクロマンサーだからな」


「あ……はい」


それで納得したらしい。


「それから、行き場のない者を見つけた場合は、本人が望むならここへ連れてきていい」


女たちの表情が少し変わった。


「仲間に加えて、剣を教えろ」


人が増えれば、できることも増える。


問題は、俺もグレイヴもここには残れないことだ。


そこで一体の死霊を呼び出した。


大柄な骸骨が地面へ降り立つ。


他のスケルトンよりも重厚な装備を身につけ、腰には剣。


スケルトンジェネラル。


戦闘能力だけではなく、他の死霊を指揮する能力も持っている。


「お前はここに残れ」


「御意」


「砦の防衛と、彼女たちの指導を任せる」


「承知しました」


「新しく人が加わった場合も、素質を見ながら基礎を教えろ」


「御意」


グレイヴも頷いた。


「指導内容は我から伝えておこう」


「頼む」


これでいい。


細かい管理まで俺がする必要はない。


成果が上がれば十分だ。


盗賊団の頭目は賞金首だったため、ベルガへ戻って冒険者ギルドへ報告すると、それなりの報酬も出た。


盗賊たちから回収した金品と合わせれば、弟子たちの装備を整えるには十分だ。


金を稼ぐつもりで寄り道しただけなのだが。


弟子が増え。


拠点が増え。


金まで手に入った。


悪くない。


必要な装備を揃えたあと、俺たちは帝都へ向かった。


そして数日後。


帝立セレスティア・アカデミー。


巨大な正門を抜けると、すでに大勢の受験生が集まっていた。


戦士。


魔術師。


聖職者。


召喚士。


身なりのいい貴族の子供も多い。


俺は案内に従い、受験受付へ向かった。


「次」


受付に座っていた男が顔を上げる。


「入学試験を受けたい」


「ああ、受験者か。ギフトは?」


「ネクロマンサーだ」


男の顔から、露骨に興味が消えた。


「ネクロマンサーか……」


「何か問題でもあるのか?」


「いや。悪いことは言わんが、あまり期待しない方がいいぞ」


「なぜだ?」


「今年のネクロマンサー枠は、ほとんど推薦で埋まっている」


「推薦?」


「そうだ」


男は書類を確認しながら言った。


「ネクロマンサーみたいな弱小ギフトは、一般試験で大勢取る必要がないからな。必要な人数は推薦で入れれば足りる」


肩の上にいるグレイヴが身を乗り出した。


『我が主』


『なんだ?』


『これではアカデミーに入れんぞ』


『別に入れなくても問題ないだろう』


『何?』


『アッシュ砦がある』


グレイヴが黙った。


『あそこを拠点にして冒険者として活動すればいい。弟子も育てられるし、金も稼げる。死体も集められる』


『駄目だ』


即答だった。


『なぜだ?』


『お前には、このアカデミーへ入らなければならない理由がある』


『理由?』


一瞬、グレイヴが言葉を止める。


『……今は言えん』


『意味が分からんな』


『ともかくだ。何としてでも試験を受けろ』


珍しく強い口調だった。


何か隠しているらしい。


今は話す気がないというなら、問い詰めても仕方ない。


俺は受付の男を見る。


「ほかに試験を受ける方法は?」


男が少し驚いた顔をした。


「なくはない」


「なら、それを受ける」


「話を最後まで聞け。戦闘クラスの一般試験だ」


「問題ない」


「いや、ネクロマンサーだぞ?」


「知っている」


「戦闘クラスは、戦士や剣士、槍士、攻撃魔術師なんかが受ける試験だ」


「それがどうした?」


男が黙った。


「……まあ、規則上は召喚系ギフトが受けてはいけないとは書いていないが」


「なら申し込ませてくれ」


「分かったよ。名前は?」


「ソード・刀尊」


男の手が止まった。


「……刀尊?」


周囲にいた職員の一人もこちらを見た。


「刀尊だって?」


「剣術名家の?」


少し離れた場所から、受験生たちの声まで聞こえてくる。


「刀尊家って、あの?」


「まだ残ってたのか」


「剣士の名家だろ。なんでネクロマンサーなんだ?」


「落ちぶれた剣士の家が、今さら何しに来たんだか」


グレイヴが小さく呟いた。


『また面倒になりそうだな』


俺も同じことを考えていた。


前にも、家名を出した途端に話がややこしくなったことがある。


「まさかと思うが」


俺は受付の男を見る。


「刀尊家だから試験を受けられない、などということはないよな?」


「いや。それはない」


男はすぐに否定した。


「現に、お前の兄であるスパロー・刀尊とクロウ・刀尊も、このアカデミーに通っている」


グレイヴが少し安心したように頷く。


『兄たちがいるなら問題ないではないか』


だが、それにしては周囲の反応が妙だ。


「兄たちが通っているなら、何も問題ないだろう?」


男は困ったように頭を掻いた。


「いや……あの二人は一般の生徒とは少し違う」


「何が違う?」


「試験を受けて入ったわけではないんだ」


「では何をしている?」


「古い剣術名家との交流を目的とした特別在籍だ」


グレイヴが即座に言った。


『人質か』


『なるほど』


随分分かりやすい交流だな。


「それで、俺は試験を受けられるのか?」


「それが……」


男は再び書類を見る。


「刀尊家の者を正式な戦闘クラスへ入れていいのかは、俺では判断できん」


「なぜだ?」


「なぜって……」


男は俺を見る。


「そもそも、なぜネクロマンサーなんだ? 剣術名家なら剣士になるものだろう?」


「ギフトは俺が決めたわけではない」


「それはそうだが……」


「試験を受けられるのか、受けられないのか。それだけ教えてくれ」


男はしばらく考え込んだあと、書類を持って立ち上がった。


「……俺では判断できん。上と相談してくる」


そのまま受付の奥へ消えていく。


グレイヴが肩の上で溜息をついた。


『ネクロマンサーだから難しいと言われ、戦闘クラスを受けようとすれば今度は刀尊家か』


『別に駄目ならアッシュ砦へ戻ればいい』


『だから駄目だと言っておる!』


『理由は言えないのだろう?』


『今はな』


『なら俺には判断のしようがない』


『いいから待て。何としてでも試験を受けろ』


やはり妙だ。


グレイヴがここまで入学にこだわる理由。


しかも、今は話せないという。


何を隠しているのかは知らないが。


まずは――。


試験を受けられるかどうかだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。