第14話 剣尊、盗賊の根城を攻略する
盗賊の姿に変わった俺とファントムは、森の奥へ進んでいた。
先ほど倒した連中の足跡は隠されてもいない。
何度も同じ場所を行き来しているのだろう。
ファントムに案内されるまま進んでいくと、やがて木々の向こうに古びた砦が見えてきた。
石造りの壁。
増築された木柵。
見張り台。
かなり古い施設のようだが、人が住むには十分な形を残している。
「あれか」
「間違いございません」
ファントムが答える。
砦の中からは、かなりの人数の気配がした。
俺たちはそのまま砦へ近づいた。
門の前には二人の盗賊が立っている。
こちらを見るなり、一人が手を上げた。
「おう。早かったな」
ファントムは、俺を町から連れ出した盗賊の姿のままだ。
「ああ」
「獲物は?」
一瞬の間もなく答える。
「駄目だった」
「逃げられたのか?」
「思ったより腕が立った。こっちも何人かやられた」
「マジかよ」
門番が顔をしかめる。
「珍しいこともあるもんだな」
俺たちはそのまま門を通ろうとした。
「おい、ちょっと待て」
呼び止められる。
ファントムが振り返った。
「なんだ?」
門番が怪訝そうにこちらを見る。
「合言葉はどうした?」
なるほど。
そこまでは分からなかったらしい。
ファントムから念話が飛んでくる。
『どうしましょうか、我が主』
『任せておけ』
俺は門番を見る。
「合言葉はこれだ」
腰からナイフを抜き、そのまま投げる。
ナイフは門番の額へ突き刺さった。
「がっ……」
男がその場へ崩れ落ちる。
もう一人の門番が目を見開いた。
「なっ――」
「起きろ」
死体へ魔力を流す。
【契約戦を開始します】
次の瞬間。
【契約が完了しました】
【バンディットゾンビとの契約が成立しました】
倒れていた男の身体がびくりと動く。
ゆっくりと立ち上がった。
額にはまだナイフが刺さっている。
『我が主』
グレイブの声が飛んでくる。
『死霊のストック数はいっぱいだったはずだが?』
『少し前に、スキルポイントというものがあることに気づいてな』
『ほう?』
何となく能力を確認していた時に見つけた。
使わずに溜まっていたので、とりあえず召喚関連へ割り振ってみたのだ。
『死霊は最大50体までストックできるようになったらしい』
『50体もか』
グレイブが感心したように言う。
『それなら、こういう場合に備えて何枠か空けておくのもよいな』
『確かにな』
強い死霊だけで埋める必要もない。
その場で使える死体を一時的に契約する余裕を残しておけば、こういう使い方もできる。
俺はバンディットゾンビを見る。
「逃げ出す盗賊がいたら殺せ」
「分かったぜ」
生前の話し方が残っているらしい。
残っていたもう一人の門番が、完全に青ざめていた。
「お、お前ら……何なんだよ……」
俺はその言葉を完全に無視する。もう隠れる意味もない。
「起きろ」
魔法陣が次々と広がる。
ナイトスケルトン。
ルーンスケルトン。
スケルトンシャドー。
デスナイト。
ほかの契約死霊たちも姿を現した。
門番が尻もちをつく。
「ひっ……!」
俺は弟子たちを見る。
「暴れてこい」
「御意」
一斉に砦の中へ飛び込んでいった。
すぐに怒声が上がる。
「な、なんだこいつら!」
「敵襲だ!」
「アンデッド!?」
「デスナイトがいるぞ!」
金属音。
悲鳴。
壁を何かが突き破る音。
かなり騒がしくなった。
俺も砦の中へ歩いていく。
別に急ぐ必要はない。
弟子たちだけで十分だろう。
ファントムも俺の横を歩いている。
「私は内部を索敵いたします」
「ああ。金品の場所も頼む」
「御意」
ファントムが姿を消す。
俺はグレイブとともに砦の中を見て回ることにした。
すぐ近くに盗賊の死体が一つ転がっている。
少し進むと、また一つ。
さらに奥にも。
「これが盗賊の生活というものか」
『王族には無縁の生活であろうな』
「これはこれでなかなか趣があるぞ」
粗末ではあるが、食堂らしき場所もある。
寝床もある。
酒樽も積まれている。
奪ってきたのだろう荷物も、そこら中に置かれていた。
盗賊の根城というより、普通の小さな集落に近い生活感がある。俺が想像していたよりもずっと人間的だと言えた。
最も人を襲う時点で、人間ではなくモンスターに分類されるのが盗賊というものなのだろう。
グレイブは周囲を眺めていたが、やがて言った。
『国が乱れれば、ますますこんな輩が増える』
「現在の帝国領は乱れていると?」
『我はそう感じた。この辺りの廃村の多さを見ただろう?』
「ああ」
帝都へ向かう途中にも、いくつもの廃村を通った。
最初のスケルトンたちを拾った村もその一つだ。
『主はどう思う?』
「そうだな。かつてこの辺は剣術名家の所領だったと聞いた。そのせいもあるのか盗賊がいたという噂は聞いたことがない。むしろかなり人々が潤っていて賑わっていたと聞いている」
『戦争後の帝国の政策がうまくいっておらぬのかもな』
グレイブは断言しなかった。
『その辺りも、アカデミーへ行けば事情が分かるだろう』
帝立セレスティア・アカデミー。
帝国各地の有力家門の子弟が集まる場所だ。
情報を集めるには確かに向いている。
グレイブの眼窩の炎が揺れた。
『もし帝国の統治がうまくいっていないのなら、そこに我らが付け入る隙も生まれるはずだ』
「付け入る?」
『女神を引きずり下ろすにも、帝国と敵対するにも、内部が一枚岩であるより崩れている方が都合がいい』
「そうだな」
俺は内心、あまり関心がなく好きに調べたいいさと考えていた。
その時、奥の廊下から足音が聞こえた。
ファントムがこちらへ駆けてくる。
「主君」
「どうした?」
「女たちが捕まっておりました」
「なら解放すればいいだろう」
ファントムは珍しく言葉を濁した。
「いや、それが……」
「なんだ?」
「ともかく、来ていただけませんか?」
俺とグレイブは顔を見合わせた。
「何だろうな」
『さてな』
ファントムがこんな言い方をするのも珍しい。
俺たちはその後を追った。




