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第13話 剣尊、罠にはまる

冒険者登録を終えた俺は、冒険者証を懐へしまった。


これで金を稼げる。


弟子たちの装備を揃え、ついでにダンジョンへ潜れば、強い魔物や死体も見つかるかもしれない。


悪くない。


「さて、よいダンジョンを探すか」


肩に乗るグレイヴの眼窩で、青白い炎が揺れる。


『ようやく本題だな』


その時だった。


「おう、そこの旦那」


背後から声をかけられた。


振り返る。


壁際で酒を飲んでいた男が、こちらへ歩いてくる。


四十前後。


革鎧を身につけ、腰には剣。


見たところ冒険者だ。


男は俺の冒険者証へちらりと目をやった。


「見たところ、この町に来たのは初めてだろ?」


「ああ」


「やっぱりな」


男が親しげに笑う。


「だったら、いい儲け話があるんだが。どうだ?」


頭の中にグレイヴの声が響く。


『我が主』


『なんだ?』


『明らかに怪しいぞ』


俺は男を見る。


普通に笑っている。


『それがどうかしたのか?』


『登録したばかりの余所者へ、いきなり儲け話を持ってくる奴がまともに見えるのか?』


『何か企んでいるなら、殺して融合に使えばいいんじゃないか?』


『……主よ』


『なんだ?』


『悪くない考えではあるが、魔王である我より物騒だぞ』


『合理的と言ってもらおう』


俺は男へ向き直った。


「話を聞こう」


「おっ、そうこなくちゃな」


男が笑みを深くする。


「この町の近くに、まだあまり知られてねえダンジョンがある」


「ほう」


「ギルドにも詳しい情報が上がってない穴場だ。魔石も素材もほとんど手つかずだぜ」


「では行くか」


「お、おう。やけに乗り気だな」


「ああ。そんな穴場があるなら、他の奴に取られる前に行った方がいいだろう」


「ま、まあ……話が早くて助かるが」


なぜか男が小首をかしげている。


『こやつも可哀想な奴だな。よりにもよって主を罠にはめようとは』


『本当に儲け話かもしれないではないか』


『本気で言っておるのか?』


『本気だ。嘘なら命をいただくだけだ。どちらにしても俺は損をしない。儲け話だろう?』


『……た、確かに』


強い魔物がいるなら稼げる。


罠なら、仕掛けた奴らから奪えばいい。


どちらでも構わない。


「案内しろ」


「おう」


男の口元が、ほんの少し吊り上がった。


◇


町を出てから、一時間ほど歩いた。


街道を外れ、森へ入る。


帝都へ続く大きな道から離れるにつれ、人の気配は減っていった。


代わりに、別の気配が増えている。


先を歩く男も、さりげなく何度か手を動かしていた。


ただ歩いているようにも見えるが、明らかに誰かへ合図を送っている。


肩に乗っているグレイヴから念話が飛んできた。


『我が主。やはり罠のようだな』


『問題は、融合に使えそうな魂がいそうにないことだな』


せっかく怪しい誘いに乗ったのだ。


一人くらい面白そうな相手がいてもよかったのだが、周囲の気配から察するに期待はできそうにない。


『すぐ動くか?』


『いや』


俺は先を歩く男を見る。


『盗賊の手口を見てみたい。興味がある』


『酔狂な』


グレイヴが笑った。


『前世で同じような目に遭ったことはないのか?』


『ないな』


前世では王族だった。


幼い頃から護衛がいたし、剣士として名が売れてからは、わざわざ俺を騙して森まで連れ込もうと考える者もいなかった。


剣尊になってからなら、なおさらだ。


『我は何度もあったぞ』


『魔王だからか?』


『人間だった頃からだ』


『それは大変だったな』


『我は我が主と違い、お坊ちゃん育ちではないのだ』


そんな話をしているうちに、男が足を止めた。


「着いたぜ」


木々の向こうに岩壁がある。


その一部には大きな穴が開いていた。


かなり古い。


人工的に掘られた跡もある。


鉱山跡か何かだろう。


少なくとも、男が言っていたような未発見のダンジョンには見えない。


「ここがダンジョンか?」


「ああ」


男が笑った。


「そういうことになってる」


「なっている?」


「まあ、その前に少し話がある」


周囲の茂みが揺れた。


次々と男たちが姿を現す。


剣。


槍。


斧。


弓。


全部で十二人。


俺を囲むように立っている。


最初に俺をここまで案内してきた男も、腰の剣を抜いた。


「悪いな、旦那」


「何がだ?」


「装備と金を置いていってもらう」


「断ると言ったら?」


男が剣を肩へ担ぐ。


「命を取るまでだ」


なるほど。


そういう流れなのか。


俺は周囲の盗賊たちを見回した。


やはり、強い者はいない。


「雑魚ばかりだな」


男の眉が動いた。


「……なんだと?」


「仕方ない」


俺は右手を上げる。


「起きろ」


魔力が広がった。


次々と契約死霊たちが《ストレージ》から呼び出される。


スケルトンホースへ跨ったナイトスケルトン。


二振りの魔法剣を持つルーンスケルトン。


暗殺戦に特化したスケルトンシャドー。


そして、黒い闘気をまとったデスナイト。


ほかの剣士系の弟子たちも続いて姿を現す。


盗賊たちの表情が一変した。


「う、うわあっ!?」


一人が後ずさる。


「なんだこいつらは!」


「ば、化け物だ!」


「待て!」


別の男がデスナイトを指差した。


顔から血の気が引いている。


「あ、あれ……デスナイトじゃねえか!」


「デ、デスナイト!?」


さっきまで俺を囲んでいた男たちが、一斉にざわめく。


俺は弟子たちを見る。


「好きに戦え」


次の瞬間。


ナイトスケルトンが飛び出した。


スケルトンホースが地面を蹴り、一気に間合いを詰める。


槍の一撃で、二人の武器がまとめて吹き飛んだ。


ルーンスケルトンも左右へ剣を広げる。


右の剣に炎。


左の剣に風。


二本の剣が交差し、盗賊の武器を次々と叩き落としていく。


「なんだこいつ!」


「速すぎる!」


その背後では、スケルトンシャドーが姿を消していた。


次に現れた時には、弓を持っていた盗賊二人が地面へ倒れている。


そしてデスナイト。


大剣を一度振った。


それだけで三人がまとめて吹き飛んだ。


「ひっ……!」


最後まで立っていた男が剣を落とした。


戦闘は、すぐに終わった。


俺は倒れている盗賊たちを見る。


「やはり雑魚だったな」


『そのようだな』


グレイヴも特に驚く様子はない。


「ファントム」


俺が呼ぶと、青白い霊気とともにファントムが姿を現した。


「お呼びでしょうか、我が主」


「戦利品を調べろ。使えそうな物があれば集めておけ」


「御意」


ファントムが弟子たちへ指示を出す。


盗賊たちの懐や荷物から、金、武器、装備、魔道具が次々と集められていった。


しばらくして、ファントムが俺の前へ戻ってくる。


「我が主。確認が終わりました」


「どうだった?」


「現金は全員合わせても大した額ではありません。装備も、我々が使うには品質が低すぎるかと」


ファントムが一本の剣を差し出す。


俺は受け取り、軽く振ってみた。


刃が欠けている。


重心も悪い。


造りも粗い。


「これなら地鋼剣の方がましだな」


「私もそう思います」


一方、グレイヴは死体の魂を順番に確認していた。


「魂の方はどうだ?」


「全員駄目だ」


「融合にも使えないか?」


「使えんことはないが、ほとんど意味はない。今の弟子たちの格を上げられるほどの魂ではないな」


「そうか」


金もない。


装備も使えない。


魂まで弱い。


俺は腕を組んだ。


「せっかく来たのにな」


すると、ファントムが倒れている盗賊たちへ視線を向けた。


「我が主。一つ提案がございます」


「なんだ?」


「この者たちは、ここで生活していたわけではないようです」


言われて周囲を見る。


確かに。


寝床はない。


食料もほとんどない。


旅人から奪ったはずの荷物も見当たらない。


「別に根城があるということか」


「はい」


ファントムが頷く。


「これだけの人数で継続的に旅人を襲っているのであれば、奪った金品を保管する場所があるはずです」


「なるほど」


「でしたら、まず根城を探し出し――」


ファントムの視線が、地面に倒れている盗賊へ移る。


「我々がこの者たちに化けて潜入してはいかがでしょうか」


「潜入?」


「はい。《ファントムシフト》を使えば、外見だけなら完全に本人へ成り代われます」


ファントムは、俺をここまで案内してきた男を指した。


「私はこの者に変身します。根城へ戻れば、少なくとも入口で怪しまれることはないでしょう」


グレイヴも頷く。


「悪くないな。根城ならば、こやつらより強い者がいる可能性もある」


「それだ!」


俺は思わず声を上げた。


「俺の考えと同じだ!」


グレイヴが即座に返す。


「絶対にそんなこと考えておらんかっただろう」


「ああ。王族というのはこういう物言いをするのだ。慣れてくれ」


「今の主は王族ではないはずなのだが」


細かい奴だ。


だが、ファントムの案はいい。


正面から押し入れば、財宝を隠されたり、逃げられたりするかもしれない。


先に中へ入って、金や装備の場所を確認しておいた方が効率がいい。


「俺も変装して行こう」


「では、こちらの男はいかがでしょう」


ファントムが別の盗賊を示した。


三十代ほど。


背格好もちょうどいい。


俺はその顔を覚える。


「《ファントムシフト》」


アル・ラグナの姿が崩れていく。


髪。


顔。


体格。


声。


すべてを盗賊の男へ合わせる。


やがて、地面に倒れている男と同じ姿になった。


ファントムも、最初に俺を案内してきた男へ姿を変える。


俺たちは互いを見る。


「どうだ?」


「問題ございません」


「よし」


グレイヴが俺とファントムを交互に眺めた。


「見事なものだな。外見だけなら完全に盗賊だ」


「なら成功だ」


あとは根城を探す。


中へ入り、金と装備の場所を確認する。


ついでに強い奴がいるなら、魂もいただく。


「行くぞ、ファントム」


「御意」


俺たちは盗賊の姿のまま、森の奥へ歩き出した。


冒険者になったその日のうちに、今度は盗賊になりすますことになるとは。


前世でも、ここまで妙な一日はなかった気がする。


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