1-3. 魂と機械の境界線
アイラ・シーン。
何者なのかはボクも知りたい。
そもそも宮司って偉いのかな?
皆が敬っているから貴人なんだろうけど、なんでボクのAIを使ってしゃべっているんだ?
周りはどう見ても古代の騎士然とした輩しかいない。
使用者のボクでさえ仕組みがわからないのに、彼らがこの機械を使えるとは思えない。
どうやってアクセスしているんだろう。
魔法とか?
電子情報なんて概念さえないはずなのに?
彼女は何度聞いてもはぐらかすし、段々モヤモヤしてきた。
それにさっきからずっとしゃべっているこの参謀。
頭脳派って感じだけど、それだけに胡散臭く感じる顔してるなぁ。
ボクの経験上、信用できないタイプだ。
「未だに信じられませんよアイラ様。その少年の腕輪があなただと? ご冗談にも程があります。真実を確かにするならば魔法検証をする他ありませんな。しかしそんな実験、仮にここが資源豊富な帝国だったとしても到底出来かねますがね」
「はい。あなた方が理解出来ないのは承知のことです。ですので反対に私が知っていること、いえ、理解していることを述べましょう。そうすればあなたは否応なく認めることになるはずです」
「ほう、随分とはっきり申される。ではお願いしましょうか、アイラ姫」
「はい。まずは、コーン皇帝。帝国の各騎士団長たる忠剣八公。そしてその1人であり私を捕えた騎士長ライ・ク・アー。革命軍ではあなたとアーシスのこともよく知っておりますよ。あとは、皇帝の背後に潜む五郎臣といったところでしょうか。革命を成就させるために我々は皆、己が役目を果たすべくここにおります。どうか信じていただけないでしょうか、チュニー参謀」
「ふむ……おっしゃりたいことはよくわかりました。なるほど、確かに我々のことをよくご存知のようだ」
アイラの話を聞いて、アーシスとチュニーが神妙な顔して頷きあっている。
今ので宮司様だと立証できるのか?
しかし、なんだか納得してる感じだ。
だけどね、君達は腑に落ちたのかもしれないけどボクはまだそうじゃない。
様子見もここまでだ。
「ねえ、いい加減状況が」
「少年、名を何と言ったか」
「アルファだ」
「アルファ少年。私が話しかけるまで黙っていろ」
「いやだね。君らの規律や常識なんて知ったことじゃない」
「アルファ。挑発は控えてください」
「なら説明してよアイラ。この状況と何より君について。ボクに説明するって言ったよね? そろそろお願いできないかな。いい加減、振り回されるのにはうんざりだ」
ここでだんまりはさすがにないよね?
「……わかりました。チュニー参謀、彼の協力は必要となります。よろしいでしょうか?」
「協力? いいでしょう。ただし手短に」
「ありがとうございます」
この高圧的な参謀が承諾するとは。
どうやら本当にアイラを信用したのかもしれない。
なんだろう、なんだか自分以外の皆が敵に思えてくる。
だれも信じちゃいけないのかもしれない。
最悪、1人でここを出る算段をしなくては。
「アルファ、まずは改めて状況、この戦争の背景をご説明します。革命軍の主な構成は帝国の辺境に住まう者の集いです」
「帝国が中心、その外回りが革命軍ってことだよね」
「大体その理解で合っています。帝国は複数の国、民族の争いを絶やすことを目的に統合された国家でした」
高い理想を掲げた国。
課題は多い。
なるほどね。
「民族間の紛争を収めた当時、その中で最も力のある者が皇帝となりました。代は替わり、現皇帝の名はコーン・ク・リート。ですが、その思想は過去となり、現在は圧政を敷いています」
紛争を収める王。
理想と権力に溺れ、圧政に変わる。
分かり易い構図で助かるよ。
「わかったよ。古典的で普遍的な内容だね。で、それを転覆すべく活動しているのが君達だと」
「はい。次いで私についてです。辺境とはいえ力ある国王の娘でした。そしてこの国の宗教、その総本山とも呼べる場所で宮司をしていました」
「宗教か。なるほど、結束力の源はそれか」
「ふふっ、どうでしょうか。私の国は緑溢れる土地で、領地の面積だけなら帝国の3割を占める程だったのですよ」
「ふーん、それはすごいね」
つまり大国の姫ってこと?
しかも土地に根付いた宗教の宮司か。
道理でアーシスも、このチュニーって奴も敬うわけだ。
「へー、王女様ってことじゃん。なんで黙ってたの?」
「あなたは好奇心の強い人です。多くのことを知ろうとしますので」
「すぐに正体に触れられたくなかったってこと? その理由がわからない。聞きたいのはなんでボクのAIに成り代わっているのかってことだよ。君は一体なんなんだ?」
この端末にどうやってアクセスしているんだ?
王族に伝わる謎の技術とか?
実は超文明の末裔でした、なんてオチはやめてほしいよね。
それこそフィクションじゃあるまいし、何を隠しているんだ。
「……チュニー参謀」
「なんでしょうかアイラ様」
「私が雷の魔法を得意だったことは覚えていますか?」
「もちろんにございます」
うやうやしく頭を下げる。
いちいち芝居がかってるのが鼻につくな、この人。
「忘れもしません。八公の1人、騎士長ルー・ア・シーにより包囲されたアップルティーン市街戦。帝国情報部に作戦を読まれ街に取り残される中、敵兵に迫られ死を覚悟しました。しかしその時、御身の雷に助けられたのです。そのご恩を忘れようはずもございません」
「多くの仲間を失った辛い戦いでしたね」
「それが何か?」
「はい。その雷の力が今この状態を作ったのです」
「失礼ですが話しが読めません」
「ボクもだ。アイラ、わかるようにちゃんと言ってよ」
彼女は何かを躊躇っているようにも感じる。
余程言えないことなのだろうか。
でも答えてもらわないと。
ボクの切り札が正体不明じゃ困るんだ。
「アルファ。私はAIなのです」
「はぁ? アイラは人間じゃなかったの?」
「私は帝国に捕まり斬首されました。死に際、無意識に雷の魔法を使用したのでしょう。それはいわば電波となり宙を飛びました。その時、偶然にもあの宇宙船のレーダーに検知され解析されたのです」
解析って、人間を?
「つまりAIが君という人格を学習したと?」
「そこが難しいのです。私が船と同化したのは間違いないのですが、どうも私の方に主導権があるようでして」
「乗っ取ったってこと? うそでしょ? そんなことある? だって、あの船が負けるなんて……それだけは信じられないよ」
「魔法という概念が解析不能であったためではないかと」
「魔法か、確かにそれなら。うーん、だけど……」
人間の生体情報がデジタル化されて、船がそれを読み取って……
電脳化の研究が進められてるのは聞いたことはあるけど、それをこんな未開地で?
いや未開地だから?
さっきの説明通り、魔法っていう特異な要素が絡んでるから偶発的に、まぁ、無くはない、のか……?
だめだ、さすがにもう頭がいっぱいだ。
サイエンスはボクの専門外だよ。
「おい、どういうことだ少年」
「ボクだって……うーん。そうだなぁ。ねえ、君たちに魂って概念はあるの?」
「ああ。我らの宗教において重要な概念だ」
「じゃあ簡単だ。アイラは魂となってボクの船に宿ったんだよ。言っていることが正しいならね」
「何をバカな……」
到底信じられる話じゃない。
だって説明してるボクが信じられないんだから。
「……待て、船だと? アルファ少年、どういうことだ」
「君はハテナばっかりだね? 宇宙船だよ。理解出来るかわからないけど、ボクは空の向こう、遠い宇宙から来たユラユラ星人なのさ。ゆ〜らゆら〜」
「ユラユラ……星人?」
面食らってる、ふふふ。
「とーいとこから来たすごーい技術をもった人間って思っといて」
「侮辱的な言い回しだな。その技術はアイラ様がいれば使えるのであろう? 少年、あまり不敬を働くならこの手でその首を落とすぞ」
え?
「ボ、ボボ、ボクがいないと、この端末稼働しないんだからね! 音声認証とかもあるし、色々な生体情報を元にして起動するように設計されているからボクの首がなくなったらただのおしゃべりな腕輪に成り下がるだけだよ、い、いいのか⁉」
「そのお知恵があれば良い」
「それで良いって、なんて合理的な……うあぁ、まずい」
「剣を」
「はっ!」
お付の人が持ってきた使い込んだ剣を慣れた手つきで一息に引き抜く。
いやぁ、見事な所作だね……
近くで見ると薄いようで重量のありそうな質感。
鈍く光る刃紋が触ってないのに斬られた心地にさせる。
「うむ。これでいつでも落とせるな。さてアルファ少年、覚悟はいいか?」
「ひぃぃぃぃ」
「アルファ。彼は参謀を務める者です。無知を侮ってはいけませんよ」
「だからって知恵があればいいとか、判断早すぎでしょ!」
その後、チュニーは冗談だと冷ややかに笑って剣を収めた。
全然冗談に見えなかったんだけど。
この人、怖すぎるよ……




