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【ライト戦記】宇宙の彼方から革命を越えて_連載版  作者: Tongariboy
3. 燃える帝都、戦火の八騎士

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 3-10. 革命の終わり

「アイラ」

「はい」

「あの扉をくぐればもう引き返せない。何があるかわからない。だからいざという時に、このプランαを準備しておいてよ」

「これは……役に立ちますかね」

「うっ、状況次第ではその場しのぎにはなるんじゃないかと……」

「わかりました。お任せ下さい、アルファ」

「よろしくね、アイラ。よし、行こう」




 ここか。

玉座って思ったより広くはないんだな。


 うっ、なんだこれ。


 部屋に入った瞬間の、全身を圧し潰すような何ともいえない不快感。

見習い魔法使いみたいなボクでも分かる。

空気にまで侵食する魔力濃度。

息苦しくて、部屋から出て行きたくなる。

玉座のそばに立っているあの老人。

最後の騎士長。


 異質だ。

本当にルー達と同じ騎士長なのか。

深くて、暗い、魔力の渦そのものみたいだ。



「遅かったなアルファ。怪我は」

「ふん、真打は遅れてくるものでしょ。古典的な存在のくせにお決まりを知らないのか」

「無事ならいい」


 アーシスが目を逸らせない者。

あの老人の奥。

玉座にゆったりと腰掛けるこの覇王。


 皇帝コーン・ク・リート。


 背の高い玉座のせいか顔が翳ってるのに、見られているのがわかる。

あの視線、まるで魔法だ。

足がすくむ。

危険だ。

なのに、なぜかあの目に引き込まれる。

……見ちゃダメだ。


 こっちはチュニーを中心に円陣を組んだ戦士と、騎士?

土壇場で帝国を裏切った?

いや……チュニーの私兵?

離反した騎士長と、今でも慕う騎士達。

この状況はそういうことなのかも。

そうか、チュニーの別行動の目的。

なるほど。


 だけど、これだけでどうにかできるのか?

アーシス……この状況、どうするつもりなんだよ。




———皇帝を取り囲む革命軍と帝国騎士。

この均衡はいつから続いているのか。

誰一人動けずにいる。

逃れようのない魔力の渦と冷徹な瞳。

大陸を見透かす王の威光が、革命の灯火を凍てつかせた。


「どうした革命軍諸君。何もせず立ったままではないか。ここまで来たのはなんのためなのだ? 予の首を取るためではなかったのか。それとも茶会でも開きたいのかね」

「ちっ、言ってくれるな」

「ふん。久しいな、ポーよ」

「……ああ」

「騎士長にしてやった恩を忘れたか?」

「いい迷惑だったよ」

「はははっ、まさかそれを恨んで来たとでも?」

「かもな。はぁ、わかってんだろ……この国の未来のために来たんだ。この革命って演目を終わらせるために」

「ならばその志を真っ当してみせよ。さあどうしたっ! その剣は飾りか、腑抜けども!」



 恐怖か蛮勇か。

1人の戦士がアーシスの静止を聞かず、雄叫びをあげ皇帝に襲いかかった。

だが皇帝も老人も意に介すことなく平然としている。

振りかざした剣。

数歩の踏み込みで刃が届く。


 戦士は最後に何を見ただろうか。

彼の眼前に突如、黒い球体が出現し、音もなく一瞬で吸い込まれ消えた。

球体はしばらく虚ろに宙に留まり、吸い込むものがないと知ると、自らを吸い込むように消えてしまった。


 何が起こったのか。

目の前の出来事が理解出来ず、人が突然消失した事実に誰もが凍りついた。

その中で、アルファとアイラだけが状況を理解していた———




 黒い球体に吸い込まれた?

亜空間……いやちがう、い、いまのは、うそだろ。

「アイラ、いまのはまさか」

「はい。小規模のブラックホールを観測しました」

「魔法でブラックホールを精製、周囲への影響を中和か遮断……」


 いくら魔法でも物理現象の域を越えることはなかった。

だとしたら、あいつは星をも呑み込む力を制御したことになる。

精密に、たった1人で。


「宇宙なんて概念さえないくせに、銀河の外で観測される現象を生み出して完全にコントロールしたってこと……?」

「騎士長ブルー・ウー・イー。魔王と恐れられる大魔法使いです」

「大魔法使いがなんなんだよ、そんなことで納得が……ここまで精度の高い重力操作なんてボクらの科学でさえ出来ないんだぞっ、なんなんだこいつ……」


 数世紀をかけて生み出された科学技術でさえ到達出来ない高み。

それをこの老人は涼しい顔して当然のようにやってみせた。

今まで見た魔法なんて、これに比べたらもう、手品と変わらないじゃないか。


「ルーなんて比較にならないほどの化物だ。こいつ1人で革命軍なんて……いやそもそも人類が勝てる相手じゃない……魔王とはよく言ったものだよ、まったく」

「はっはっはっ。そこの小僧はよくわかっておるようだな。聡い子は好きであるぞ。小僧、名をなんと」

「アルファだ。名札でも付けておこうかな」

「そ、そうか、覚えておこうアルファ」

「おい。子供をいじめるのはその辺にしておけ、暗黒じじい」

「やれやれ。仰せのままに、皇帝陛下」 

「ふん」



 この状況で和んでる。

このじいさんもそうだけど、皇帝もやっぱり只者じゃないみたいだ。

アーシス達、本当にどうするつもりなんだ。

チュニーの奴、目を伏せているし。

まさかここに来て打つ手無しとか……ないよね?


 アーシスは……あ、あれ?

アーシスがいない?


「動くな」

「お、おお」


 アーシス!

いつの間にか老人に組ついてる。

まったく気付かなかった。

アーシスがあれを抑え込むなんて、見てる光景がちょっと信じられない。


 よく見ると黒いモヤを纏ってる。

あれが闇の魔法?

チュニーか。

見事な連携じゃん。

やるじゃないか、革命軍。


「ふむぅ、殺し屋ポー、流石なり」

「何を呑気に言っておる! このっ、このくそじじいっ!」

「いやぁ、すまなんだ、油断していたつもりはないのだが、ははは……これは本当に想定外である」

「長老、この距離で魔法はやめてくれよ? ナイフがぶれて首が切れちまう」

「う、うむ。降参降参」

「はぁ〜、ったく! これだから老人ってのはっ!」




———次いで動いたのは、アイラだった。

アルファに短く声をかけ、皇帝の前に立つ。

「コーン皇帝陛下。ご無沙汰にございます。アイラ・シーンにございます」

「ほう、アイラか! 話には聞いていたが腕輪になったのだな」

「はい」

「よもやお前とまた話すことができるとはな。優雅に茶を楽しむことはできそうにないか」

「はい。私は……いえ、革命軍はその使命のためにこの瞬間のために、皆は命を賭してきたのです。どうぞお覚悟を」

「死してなお使命に殉ずるか。いいだろう。受けて立とうではないか」

「……」

「どうした? 予を守る騎士はおらん。好きにするがいい。まさかここまで周到にやってのけるとはな。見事であるよ。はっはっはっ」


 皇帝の笑い声が玉座の間に硬く反響する。

魔力とは違う威圧感にあてられ、戦士達は剣を持つ手に汗を滲ませる。

覇王は追い打ちをかけた。


「ふむ、予を捕えてどうするのだ? 帝国を解体するのかね。混乱が大きい。見たまえ。眼下の街を。崩れ去ったこの無実の街を! もはや悲鳴さえも聞こえん」

「そうさせたのはあんただろ」

「いいや。貴様達が赤く染めたのだ。この代償をどう払うつもりなのだ? 予を退けた後の統治をどうするつもりなのだね。まさか戦うことばかりで後先何も考えていない、などとは言わんだろうな。ポーよ、貴様はどうなのだ。かつて語らったなあの時から、貴様の答えは出たのか」

「お、俺は……」


 たじろぐ青年。

皇帝は喰らいつく。

「答えが無くば革命を諦めよ。国家転覆など一時しのぎにすぎん。政権が交代した後にこの戦いを繰り返すだけ」

「繰り返すとしても、このままじゃ……俺だってそんなこと……」

「ならば貴様らが第二の帝国を作るか。そのつもりならば突き進むがいい。愚者の国を築き上げ、いつかその手で焼き尽くすがいいさ。ふははははっ、その末路、地獄で」


「革命後の話なんて関係ないよ」


 皇帝の言葉を遮ったのはアルファであった。

「その主張はボクも同感だ。でも君が今やっていることは、追い詰められて当てつけに嫌味を言っているだけだ」

「ほう」

「この問答って意味ないよね? まだ続けるならこの城ごと吹き飛ばすよ」



 アルファは掌を皇帝にかざした。

その手に小さく、それでいて強い光が灯る。

これは魔力によるものではない。

端末から投射した光、辺りを照らすだけのライト。

アイラが少年をシールドで包む。

体に沿って纏う光の膜は、アルファ自身が発光しているように見える。

そして電気ショックをシールドに当てスパークさせる。



 魔力を伴わない光学現象に、誰もが驚き、目を見張った。

皇帝も、あの魔王でさえも。

アルファは後の世にこう語られてしまう。



 神秘の少年。



 プランα。

その演出はその場の空気を変えた。

アルファは皇帝に光を突きつける。

ただのライトだけどね、と心の中で付け加えながら。




 コーン皇帝は驚愕から次第に顔を歪め、大きく笑った。

「はっはっはっ、少年は空気が読めんと見える。これでは予の姿が滑稽ではないか。ふははははっ」

「う、うるさいな。ボクは巻き込まれただけなの。いい加減、終わらせたいんだよ」

「ふふふ、面白いやつよ。ポーにアイラ、貴様のような奴がおれば……ふっ」



 皇帝は玉座から立ち上がり魔王に組み付くポーを見据える。

ポーは全身が強張るのを感じた。

決断の時が来たのだ。


「ポー。いや、アーシスであったか。裏切り者め。貴様はその剣で予を斬る事が出来るのか?」

その投げかけの真意を探るアーシス。

そして、彼は応えた。


「……無論。お望みとあらば、今この場にてその首を斬り落としましょうっ!」

「出来るのか?」

「無論。いざ……いざお覚悟を。皇帝コーン・ク・リート、お命頂戴(つかまつ)る!」


 老人から離れるアーシス。

魔王は動かない。

アーシスは剣を高く掲げ、呼吸を整え、王の首めがけ振り払う。

皇帝が満足げに笑ったように見えた。

アルファはその時の皇帝を見てそう感じた。


「待たれよ!」


 それをとめたのはチュニーであった。

「皇帝を斬るのは今ではない、早まるな。事前の計画通りに公開処刑を行う。よいな」

「……了解した」

「ふん、騎士長セーツ・マ・ルー。闇の怪人と恐れられた貴様が止めるか」

「コーン皇帝。これ以上の会話は不要ではありませんか」

「よかろう。後は好きにするがよい。ふっ、革命はここに成就せり、か。ふはははは」

やまない冷笑を遮るようにアイラが号令する。


「捕らえなさい」


 その静かな一言で、長い戦いは幕を閉じた。

革命は成功したのだろう。

戦争は終わった。


 アルファは窓に歩み寄った。

街は燃え、城外ではまだ激しい争いが続いている。

「みんなが望んだもの、か」



 少年は玉座から降りた皇帝の背中を一瞥し、黄昏れる空を仰いだ———




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