2-6. そうだ、魔法工房へ行こう
———皇帝を討つ。
革命軍のいたる所で、戦いの行方を決めるこのテーマは絶えず論じ続けられていた。
だが誰1人として未だ有効な策を口にした者はいない。
しかし彼らに猶予はなかった。
なぜなら、彼らを追い詰めるべく帝国でも早期決戦を叫ぶ声が上がり始め、革命軍掃討作戦なるものを画策していると国中が噂をしたのだ。
革命軍諜報部は、これを革命軍を焦らせるために故意に流した情報であると判断。
余裕のない彼らにとって焦りは正常な判断力を損なう忌避すべきこと。
噂として流すことで情報を国中に広め、抗う者に対し逃げ場のない心理的な包囲網を形成する。
そうすることで革命軍の結束を弱め、内側から破綻させる狙いだと諜報部は読んだ。
そして噂の詳細について調査を行い、それが事実であるという結論に彼らは辿り着いていた。
そう、猶予はない。
そのことが今、無関係であったはずのアルファにも重くのしかかっていた。
革命軍に身を寄せるアルファは、自分を取り巻く現状を冷静に考えた。
このまま革命軍に居続ければいずれ自分の首を差し出す時が来るだろう。
革命軍の指導者の1人、アイラ・シーンを宿す腕輪の所持者ともなれば当然だ。
突然現れた革命軍の中心にいる聡明な少年。
アイラの名が出るたびに、事情を知らない者がアルファを見れば、あたかもアイラの後継者のように見えてしまうのである。
例えば主要な人物との会議、熟練の戦士による護衛、他の者とは違う雰囲気。
後継者ではなくとも、帝国から重要人物としてすでにマークされていることは想像に難くない。
ここに居ては危険である。
そもそも彼が革命軍にいる必要はないのだ。
安全な帝国に行き、不時着したポッドの修復を待ち本船へ転送、そして帰還。
これが今一番確実に帰る方法だとアルファは知っていた。
このことは誰にも相談をしていない。
もちろんアイラにも。
動くなら近い内に決断が必要である。
帝国が動く前に。
何より、革命軍が追い込まれるその前に、少年は決断しなければならない。
一番の問題はアイラである。
この端末を捨てれば帰る道標を失う。
だがアイラは絶対に帝国には行かない。
理由を作ってこっそりと抜け出しても、外に出るまでにアイラに勘付かれ騒がれて終わりだ。
チャンスがあるとしても一度だろう。
しかし仮に何かの方法で帝国まで行ったとしても、アイラが協力せず帰還が叶わなければ捨てるのと結果は変わらない。
最悪、帝国側に没収され、永遠にこの地に囚われることも想定される。
そう考えると後のない革命軍にいるしかない。
勝算のない選択肢を選ばざるを得ないのだ。
革命軍が抱える絶望と怒りを、違う形でアルファも胸に秘めていた———
せめて魔法だな。
魔法を使えるようにならないと。
こんな馬鹿げた星、さっさと離れたい。
街は活気があって気に入ってるし、この宿も悪くはない。
だけど、やっぱり……
「アイラ」
「はい」
「君はかつて魔法を使っていたんだよね? どんな感覚だったか教えてよ」
「ピリッときてバシッと」
「確かに感覚的だけどもうちょっと論理性がほしい」
「まるで電気が身体を巡るような刺激が」
「それってアイラが雷を使うからなの? それとも魔法を使うと皆そうなの?」
「どうでしょうか。知り合いの女の子とは見解が一致していました」
「ふーん。ちなみにその子の得意な魔法は?」
「炎と雷です。おやこのような共通点が」
「わざとでしょ」
「では工房へ行きましょう」
「工房? そこにヒントがあるならいいけど」
「アルファはきっと楽しめますよ。この地の工業は魔法で精製する手法が主なのです」
「じゃあさっさと行って済ませよう」
「……はい」
アイラの勧めで工房へ向かったアルファ。
工房というのは通称であり、正式名称は革命軍開発部である。
ここで開発したものを工場でラインに乗せ量産するのだという。
その製造工程はアイラの言う通り魔法によって行われていた。
鉄を溶かす釜戸に吹き入れる炎、精密に金属を裁断する水のカッター。
細かい作業による端材や粉末などを吹き払う微風。
そして工房らしい怒鳴り声。
アルファが知る機械を魔法が補っており、工房はこの星の文明においては不釣り合いな程に先進的であった。
「すごい、この中だけなら数世紀先の世界だよ! アイラ、ここはすごいね」
「はい。満足してもらえて良かったです……ふふっ」
殺伐とした原始的な世界から抜け出たような心地を得て、少年は心から喜んでいた———
今アイラが笑った?
珍しい。
けど気のせいかも。
人がいるところだと小声で話すし、もしかしたら聞き間違いかもしれない。
ここうるさいし。
やたら怒鳴ってるし。
それにしてもすごい。
皆の作業を機械でやろうとしたら相当科学技術が進んでないと無理だろう。
炉の前でやっているあれ、溶けた炎みたいな鉄を曲げたりひねったりしてるのは、念力?
あの工程は超光熱の金属を手で直接加工しているようなものだし。
炉の温度調整にしたって、直にできるのも魔法の強みだ、吹子もいらない。
そんなことが出来たらさぞ精巧な物を作れるはず。
本当にすごい!
魔法って、面白いな。
ボクも使えるようになりたい。
アイラは、ボクがそう思うことがわかっていたから提案したのかな。
ボクのためなのか、それとも、何かの企てに必要なことだからか。
ただ1つ感じるのは、この街に来てからアイラの機嫌が良さそうなことか。
「ねえアイラ」
「はい」
「この街に来てからアイラは楽しい?」
「なぜですか?」
「会った時より明るく話すから」
「懐かしかったので、すみません。はしゃいでいるという自覚はなく」
「別に気にしなくていいのに。工房に来て良かったよ。ありがと」
「アルファ……私はアルファが落ちこん」
「んな事出来たらこんな話になっとらんわっ!」
全ての流れをぶった切るようなデカい声。
アイラがいま何か言おうとした気がする。
「さっきから気になってたけど、どうしたんだろ」
「あれは開発部の部長です」
「部長か。荒れてるね、もうちょっと見てたかったけど帰ろうかな」
「ですが部長がこちらを見ていますよ」
「だから帰りたいんだよ」
「おいおい小僧! お前だろ、例のアイラの後釜って!」
声がデカい!
後釜ってなんだよ。
革命軍の中ではアイラ存命(?)は伏せてあるらしいから、それでボクがアイラの代わりになってるのか。
でも部長クラスなら知っていそうだけどな。
ああ、面倒なことになってきた。
「おい小僧、お前は変わったモン持ってるっていうじゃねーか。参考に聞きたい、ちょっとこっち来てくれ!」
「アイラ」
「はい」
「どうしよう」
「私はアルファを応援しています」
「おいっ! こっちだこっち! ったく、聞こえてねーのかぁ? おーいっ!」
「フレー! フレー! ア・ル・ファ!」
誰かたすけて……




