43.魔王
「悲しいかな、僕の能力は呪われているんだよ。」そこまで話して「自分語りばかりしてしまって申し訳ないね」と突然謝ってきた。
彼は「良かったら君たちの二人の話も聞かせてよ。確かケント君に聞いた話によると、君たちは、えーっと……」と思い浮かべながらのせいか歯切れの悪い言葉を浮かべている。
「そうそう、君たちはもうとっくに"つき――」そこで大きな音、シャーという音が鳴った。
魔物だった。蛇の魔物だ。それがベイの真後ろに舌を出して鳴き声を鳴らしている。
正直、彼についてはまだ分からないことが多すぎる。そして、彼はこの世について知り過ぎている。だからこそ、彼の言いかけてた言葉は、もしかしたら何か大事なことだったかも知れない。例えば新たなるパワーアップとなる技法や元々持っている真なる力などそんな大切なことが隠されていた感じがした。特に、彼には月に関するイメージがある。余計に彼が最後に言いかけた『月――』の言葉が意味深に感じ取られる。
一体なんだろうか、とは気になるものの、それどころではない。魔物を倒すのが優先だ。
俺はニードルアームを敵に向かって照準を合わせて放った。棘が蛇を貫いた。
「カシェルの新必殺技だよっ! ふっふっふっ。喰らうがいい!」
棘が四つに分かれた。それがバラバラに行動して、それぞれが蛇に向かって進んで貫いていく。棘はまとわりつくように何度も何度も周りを進んでは貫いていた。
その棘は俺の武器ではあるが操ってはいない。それを操っているのはカシェルだ。ある日。彼女が話してくれた内容によると、羽の操作は細かい作業が苦手のこと。人とか大きい物とかは簡単に浮かしたり操ったりできても、武器を持つ、のように羽で何かを掴むような作業は細かくて難しいと言っていた。しかし、メイサを連れ戻す旅の時に棘を操るということを経験し、それがきっかけとなって今では容易く操れるようになっている。魔物襲来の時に、ルマクの刀を操っていたのが確かな確証だった。
魔物が破裂した。
満月の夜に終わりを見守った。
ベイは「見込みがあるじゃん」と言う。その後、何かを話しかけようとしてきたが「何で話しているんだっけ」と言って、そのまま仮泊まりの家へと戻っていった。
俺たちは満月の夜に取り残されてしまった。仕方なく、寝床の待つ家へと向かっていった。
◆
魔王捜索が始まっていた。疾風村を拠点にして四つに分かれていた。北側はイクリール、ミルファク、国兵二名。南側及び疾風村拠点はリベル、国兵四名。西側はレグルス、タリタ、ルマク。東側はアンタレス、ベイ、カシェルと俺。
そこは草原が爽やかな風でなびく場所。なだらかな坂となっている。そこから見渡せる疾風村の景色。まるで因習村を見下ろしたあの坂を思い出して懐かしい気持ちになってくる。
アンタレスとベイとはぐれてしまった。
仕方なく二人で探検していく。
草原の中で一際目立つ大きな大きな石があった。そこに一人の男の子が座っていた。石が大きくて足が着いていない。また、コートがデカすぎて石に垂れている。彼は昨日の夜中に会った男の子アルタイルであった。
「こんな所でどうしたの?」
「どうしたのって?」
「どうしてここにいるの~?」
「だってここが僕の家だもん!」
周りには何も無い。雨風を凌ぐ物など一切ないのである。それは家と呼ぶことはできない。巣穴の方がまだマシである。
何故ここが家なのか――。その子は「殺されるもん」と泣きかけていた。そして、「さっきも怖いお兄さんに襲われかけたもん」と一滴、垂れていた。
よしよし、と彼女は頭を撫でていた。
嫌じゃない、不満ない、そんな様子で撫でられにいっていた。「辛いね」と優しく声がかけられる。それに返事をするように「お姉ちゃん大好き」と抱きついていた。
ほんわかとした空間に、優しい風が運ばれていた。
彼は気持ちを落ち着かせ終え、石を椅子にして座った。その子が村を見下ろすように眺めるのを見て、俺らも同じ景色を瞳に映していった。
その子が石から飛び降りて急いでどこかに逃げようとした。それと並行してアンタレスがこちらへと緊迫した面立ちで走ってきていた。
彼の真上に打ち上げられた骨と、骨から吹き荒れる大爆発。そんな轟音の中でも聞こえるぐらい大きな声で俺らの名前を呼んでいた。
その後、何かを言っている。耳を澄ますと聞こえてきた。
「……を殺せ。」「そいつを殺せ!」
と言っても、殺す対象は何処にいるのだろうか。ここには俺ら以外には子どもしかいない。その子どもに焦点がいく。
「そこのチビが魔王だ。魔王アルタイルなんだ!」
あんな普通の男の子にしか見えない人間が魔王……。その事実に衝撃が抑えられない。しかし、考えて見れば、イクリールがカシェルに言った弱き者を殺せるかという問いが真実味を増す要素となった。
「ダンゴムシさん、助けて」と聞こえた。その子の目の前から巨大化していくダンゴムシが見られる。それは紛れもなく魔物だった。つまり、その子が魔王という紛れもない証拠だった。
魔物が丸まってそしてこちらに回転しながら襲ってきた。
《Ω――オーム――》
棘の盾による防御。回転が止まった。
丸まっていた体が元のように伸ばされていく。その隙をついて羽が魔物をひっくり返した。そこを骨の矢が何本も刺さった後、頭蓋骨がぶつかって爆発が起き、そのダンゴムシの魔物も爆散して消えた。
その間に魔王との距離をだいぶ開けられた。
《風の重力》
そこに現れたリベル。それとベイもいる。
「増援を呼んだ。虫も魔物にできるようになっている。長丁場は危険すぎる。ここで一気に蹴りをつけるぞ。」
そんな彼の元へ猫の魔物がのそり。薙ぎ払うように振るわれた一撃がリベルを吹き飛ばす。それと同時に風による枷――重力は消えた。発動中は動けないということが仇になったようだった。
続々と魔物が現れていく。俺の所へバッタの魔物が飛んできた。何とか攻撃をいなす。
「逃がすかよぉ!」
イクリールやミルファクも合流した。魔王の行く手を塞ぐことになった。
ニードルショットで目の前の魔物を倒した。
ベイの真後ろに猫の魔物がいる。その魔物が彼の首を狙って爪を研いでは切り裂こうとしていた。思わず俺はそこに走り出したが間に合いそうにない。
鋭い爪が彼を頭部、胴体、足の三つに別れさせた。
思い入れがある訳でもないが、気分は悪い。守る必要のある人を目の前で殺されたのだから。
「ちなみに僕、後方支援で戦闘員じゃないからさ、戦えないんだよね。コイツ何とかしてもらっていいかな?」
さっきまで分断されてしまった体が元に戻り、何事も無かったかのようにそこに立っていた。まるで、その死はなかったかのように。
ザンッ!
二つの鉄の剣と一つの手刀、合わせて三つの刀が魔物の背中を切り裂き、破裂へと追い込んだ。
「待たせたな。」「きーたーぞー!」
タリタとルマクの剣士コンビだ。頼もしい増援に安心感が現れる。
《風の重力・超重量負荷区域》
リベルとその周りを覆うように現れる風の重力。それが魔王を捉えていた。敵の動きを止めている。
「防御も兼ねるこの技は俺も動けなくなる。そして解除後、俺もこのエリア内にいる者も等しく動き出しが遅くなる。それ故に俺ではトドメはさせない。カシェル君。君がトドメをさすんだ。」
俺も含めて魔物との対峙により手が離せない。彼女しかその役目を果たせる人がいなかった。
「そこにアンタレスの骨がある。俺が能力を解除した瞬間、それでヤツの心臓を刺すんだ。覚悟を決めて穿て!」
その言葉に追い討ちをかけるように「お前ぇ言ったよなぁ。そいつぁ子どもだが、拭えない罪を犯してる。迷わず殺せるよなぁ」とイクリール。
その言葉が骨を握らせていた。
荒い息が聞こえてくる。それは疲弊の息ではなかった。
重力が解かれた。魔王もまた地面に這いつくばってた状態からふらりふらりと立ち上がり、またとない隙を生み出していた。
そこに向かって進んで、武器が真っ直ぐ突き刺された。
彼の頬を擦り切れ、そこから血がゆっくりとだけ落ちている。攻撃は大きく外れていた。攻撃をする側もされる側も動揺を隠せず荒い息を吐いていた。
「やっぱり無理だよぉ。どうしても思い浮かべちゃうんだ。『魚の家の子』のこと。殺さないで助ける方法はないのかなぁ。」
瞳が潤っているような気がした。
そんな様子などお構いなしにリベルは言葉を紡ぐ。「無理だ」と。「こいつは魔物を生み出し、魔物は数え切れぬ程の実害を今も出している。救えない程の罪を犯したのだ。」
手に握っていた骨が落ちていた。
「こいつはもう社会の中では手がつけられない存在。それどころか社会を脅かす存在なのだ。可哀想、罪を償えば、教育すれば、思考矯正すれば、などという戯言は社会の枠組みで何とかなるからこそ言えること。だが、こいつは社会ではもう何ともできない存在なのだ。逃せば実害は免れない。今やらねば未来の被害は防げない」それに加えて「これ以上、罪を増やさず償わせるためにも殺すしか、もう打つ手がない。つまり、手遅れなのだよ」と放たれた。
目の前にいるトンボの魔物を何とかやっつけた。これでカシェル達の所へと向かえる。
アルタイルが言った。「お姉ちゃんも僕を殺そうとするんだ」と。
彼の言葉が彼女の時間を止めたような気がした。
「お姉ちゃんなんか大嫌いだ。みんな、大嫌いだ!」と走っていく。それは俺らからしたらあまりにも遅く、しかしその年齢にしては当たり前の走り。
もう彼女は涙を出してその場に座り尽くしていた。
そんな彼女を狙う猿の魔物。大きく手を振りかぶられた。しかし、一向に動く気配がしなかった。
《A――アンペア――》
超スピードで彼女を空中で抱き、そのままそこを抜けていく。魔物の攻撃はスカしていた。
何とか彼女を守りきれた。
しかし、そんなことお構い無しの放心状態の彼女はまだ泣いていた。
「あんなに立ち向かうって言ったのに。結局、ダメだった。ウチ、王直兵……失格なのかな。」
「人には得手不得手ってもんがあるだろ。今はその優しさが仇になっただけだ。またどっかでカシェルの優しさが必要になることがあるさ。だからさ、苦手なことは任せちゃえばいいんだよ。」
後ろポケットに手を突っ込んだ。そこにハンカチがあったはず。……あった。それを手渡す。
「涙でも拭いて、小っさいけどそれで目を閉じていてくれ。多分見たくもない景色を見ることになるからな。」
敵はアルタイル。俺は棘を磁力で集めて手に装着した。倒しきるしかないんだ。
どうしてか彼はベイの足元に立っていた。そして、話しかけている。
「みんな、酷い。僕を殺そうとするんだ。おじさん、前みたいに僕に力を貸してよ。」
それに対して「いいよ。おじさんが"1"貸してあげる」と手を出して、手と手が触れ合っていた。彼らの関係は何なのだろうか。
また、何が起きたのだろうか。特に変化は見当たらない。
「僕の友達、ワンワンファイア。倒しちゃえ!」
そこにいた犬に触れると魔物化して大きくなる。しかし、今回は普通の魔物化と違った。王都を襲った超巨大な魔物。それと同様の大きさの魔物となっていたのだ。
「何をしたんだ!」
「力貸して欲しいって言われたから、貸してあげただけだよ」と悪びれもなく言われた。
巨大な魔物が襲ってくる。たたでさえ、魔物の多さに辟易していたのに、敵の質が上がると参ってしまう。
カシェルが狙われ始めた。急いで戻って魔物の相手をする。全く手があかない。増え続ける魔物に埒が明かない。それでいて巨大な魔物が控えている状況に、とっても恐ろしく思う。
息が上がりかけそうだ。
巨大な犬の魔物に対して、どこかからか何か小さな小さなミサイルのような物が放たれていた。少しすると巨大な爆破音と共に魔物が膨れ上がった。そんな魔物にアンタレスの骨がトドメをさした。
「お待たせっす! やっぱり爆弾ミニロケット持ってきて正解すよねぇ。拙僧の判断は正しかったみたいっす。」
レグルスだった。彼が持ってきていた一際大きいリュックの中に、武器となるミサイル型のソレが詰められていた。
「後は国兵が何とかするし、ここは僕も堂々参戦っすね!」
《破滅の願い》
落下してくる鉄屑の玉。それが魔物を一掃していく。しかし、よく見ないと俺たち味方にも当たってしまいそうだ。ラスターカノンを沢山上に打ち上げるように放ったのだろう。後は敵に当たるように祈る、とんでもない力技だ。
ただ、お陰様でだいぶ戦いが楽になった。感謝を込めるべきか、味方にも当たるだろと突っ込むべきか、ひとまず結果オーライだ。
「あー、もう、もう、もう!」地団駄が踏まれていた。年相応の反応だ。幼いが故の罪意識の低さと上手く行かないことへの苛立ちだろう。
「やっちゃってよ、モグアクア。イノイノゴールド。」厄介な巨大魔物が現れた。モグラとイノシシ型の魔物だ。
「まだまだ。行けぇ! カラスツリーウィング。鹿土。」今度はカラスと鹿の巨大な魔物まで現れる。
俺らの近くには鹿の魔物が立ち塞がった。
ツノの先端が俺の腹を掴む。そして、上空へと投げられてしまった。
難局を極め、荒々しい地上も空へと来れば静かだなと感じる。俺はカシェルに呼びかけた。これで応じなかったら正直、俺は、下手したら死ぬかも知れない。そんな一撃を考えている。
今度はリベルさんの名前を呼んだ。彼は何をするのか即座に理解して技を放つ準備をしてくれた。
腕を伸ばして真下へと自由落下していく。
風のせいか髪が上へと押しやられていく。風の圧が邪魔をしてくる。
《風の重力》
凄まじい風が俺の体を下へ下へと勢いを増して進ませる。その加速する落下から放たれる棘の攻撃。鹿を穿ったがこのまま地面に落下したら、腕の骨折は必然だが、下手したら死ぬ。
魔物の長い足の部分でふんわりと止まる。彼女が俺の呼びかけに気づいて、羽で地面付近の俺を優しく受け止めてくれたようだ。
しかし、まだ倒しきれていない。
《巨大遊撃》
ゆらりと、やってきたルマクがのらりくらりとした動きのついでに放った切り裂き。そのまま鹿の頭上付近へとやってきていた。さらに、
《巨大鋼刃》
と大きくなったかのように幻覚する程、力強く放たれた一太刀が魔物を一刀両断。魔物は爆散した。
その頃には残る三つの魔物は既に破裂させることができていたようだ。
残るは魔王、ただ一人。こちらは全員生きている。ただし、等しく満身創痍だった。その子は「あーもう。あーもう」と地団駄をこれでもかという程強く踏んでいた。
「おじさん。もっと強いの頂戴!」
「うーん。じゃあ"2"にしてあげようか?」
彼のあげた"1"で厄介だったのに、さらに上回るとなると、もはや厄介というレベルではなくなる。たたでさえ、全員が動ける状態にない中で勝つビジョンが持てない。
「おじさん。一番強いのはどこまで?」
「僕は"1"から"10"までなら力を付与できるんだよ。」
「じゃあ、"10"頂戴。」
「いやぁ、止めた方がいいよ。それだと――」
「いいから、"10"。"10"がいい!」
子どもは駄々を捏ねていた。それを受けて困ったかのように苦笑いを浮かべている。
「後悔しないね」に対して「うん」と答えられた。
ため息混じりに「これが"10"の力だよ」と手を差し伸べていた。
このままじゃマズイ。たたでさえ、満身創痍だっていうのに、先程の十倍になると考えると絶望しか生まれない。
もう手と手が触れ合いそうだった。
それを防ごうにも誰もそこに追いつけそうになかった。




