39.Teamアトラ(仮)
そこは周りを暴風雨の壁のようなものに覆われており、外部との繋がりがほぼない島国――風の国。余所者も隣の国――雷の国からの密入国者か、均衡を破壊する者と呼ばれる数人の人達以外の出入りはほぼない国。
その国の真ん中に位置し、その国の中枢とも呼べる都市がある。チュウセという王都である。人力による生活が蔓延る人との繋がりが大切にされているような温かな国だと思っている。
その都市のさらに中枢。王様の住む王宮がある。俺は今、王宮の敷地内にある本宮から少し歩いた所にある建物の中にいた。
女子寮である。
だが俺は男である。どうして男の俺が女子寮にいるかと言うと、そこに住む全員が認めていたからである。というよりも、全員が招いたというべきだろうか。
ただ、許可があるからと言って、場違いな気がして気まずい。少しソワソワしてしまう。
「あら。照れちゃって、可愛いわね♪」
俺達の仲間に加わった彼女はそう微笑んだ。
特注の高めの椅子に腰掛け、魔女のような先の折れた帽子に手を当てている。サラリとした長い青色の髪がなびいている。新たな仲間となったメリディアナは優しく受け入れてくれていた。
ルマクも来た。
女子寮ではあるものの、ここは俺達の拠点となっていた。
メイサは今や追われる立場だ。だからこそ、下手に彷徨くことはできない。そのためにここで匿っているのだ。
ここは住居人の王直兵二人が部外者を寄りつけさせないようにしてくれている。まあ、元々、誰も寄り付かないが。
一応、メイサの件について俺達以外に知っている人は三人いた。
玄関のベルが鳴る。
そこからタリタとアンタレスが束になった弁当箱を持ってきてくれた。
「はっ。こりゃ、"貸し"だからな。絶対にいつか返せよ。」
「ぼーくーはー。いーらーなーいー。」
彼らが帰っていった。あくまでも仲間ではなく、協力者だとか、そんな立ち位置なのである。
俺らは弁当箱を広げた。
そこに蛇がやって来た。
カブリとルマクの腕に噛み付くが、なんともない様子でその蛇を握り潰して殺した。
「鉄に毒は効かん」との事。
「掃除を欠かせずにしているんだが、どうしても除去し切れない。」そう嘆いている。
「ごめんね。メイサちゃんも虫は嫌いなはずなのに掃除とか任せきりにしちゃってて。」
どこかからか「虫の駆除の殆どは俺様なんだが」と聞こえたような気もしたが気のせいだろう。
「気にしないで。皆には迷惑かけているんだ。これぐらいやらないとな。」
またもや、どこかから「待て、殆ど俺をこき使っていただけではないか」と聞こえたような気がしたようなしないような。まあ、気のせいだろう。
「本当に大変ねぇ……。お気持ち察するわ♪」
「いや、虫の発生の元凶はお前じゃい!」
ボケがまたもや増えてしまった。
まあ、天然ボケの二人よりかはまだマシだろう。しっかりと良識を持っている。
ふと、彼女が黄昏始めた。窓越しに向かってため息を放っている。「どうしたんだ」と聞いた。
「はー、拷問したい……。」
「黄昏て言うことじゃないだろ。」
ちょっとボケツッコミに置いて前途多難な気がしてきた。
何も喋らなければ、どこかミステリアスさもあり、妖艶で、国中の男共を魅了する美しい存在ではあるものの、行っている所業とか思考とかが物凄く台無しにしている感が否めない。
「音楽でも聞かないかしら?」
そう言ってレコードを持ってきた。
機械にセットして流していく。
「こうして優雅に紅茶を飲むのが楽しみですのよ♪」
しかし、音楽は聞こえない。何やら心休まるようなクラシックが鳴るはずと思っていたが、機械トラブルだろうか、何も響かない。
いや、何かが聞こえる。「……たすけ、た……す」と聞こえた。そして、断末魔が流れ始めた。
「断末魔流すの止めーや!」
もう、美しい姿が台無しだ。
見た目だけなら、優しく包み込んでくれそうで、包まれたら温かくで温もりの中で癒されるような想像をする人も多そうだが、実際は断末魔を聴きながら興奮して紅茶を啜るヤバい奴だ。
あまりにも個性的すぎる人達に俺とメイサは呆れて笑うしかなかった。
「そうだ。チーム名決めようよ。」
居間で机を囲いながら紙を大きく広げていた。
「あたしが案を紙に書いていくから、バシバシ意見を出していってくれ。」
そこでメリディアナが手を挙げる。
「今まではチーム名は無かったのかしら?」
「うん。一応……Teamアトラ(仮)って仮名はつけてたけどね。」
「じゃあ、そのまま"Teamアトラ(仮)"でいいんじゃないかしら♪」
「本当にそれでいいのか……」と言いつつも紙にその名前が書かれた。
「じゃあ、じゃあ、"ウィクカラーズ"はどう?」
「ウィクカラーズ?」
「え、みんな知らないの?」
周りを見たが、俺も含めて誰もがはてなを浮かべていた。
「黒丸君は倒したい、っていう漫画の敵役だよ?」
そもそもその漫画を知らない。周りも反応からして知らないだろう。
「ウィクファイア、ウィクアクア、ウィクゴールド、ウィクツリーウィングス、ウィク土の五人だよ。」
いや、だから知らないよ。というか、ウィクツリーウィングスだけ名前が長くない? 呼名しずらくない? それとウィク土だけ可哀想じゃない? ウィクグラウンドとか何かいい名前あったでしょ。それに赤、青、金及び黄色、緑と来ての茶色。地味過ぎない? それ考えた人、ウィク土に恨み辛みでもあったのか? ダメだ、ツッコミどころが多すぎる。
「まあ、一応書いとくね。」
「俺様は、漆黒の革命たる五つの聖騎士、はどうだ?」
「えーっと、ブラックネスレボ……なんだ?」
「漆黒の革命たる五つの聖騎士、だ。」
時が止まった。
とても気まずい空気が広がっている。ここは幼なじみである俺が何とか場を作らなければ。
「ま、まあ、俺ら16歳だし、気にしないでやってくれ。俺も14で発症して、卒業するまで半年はかかったし。入学して卒業するタイミングは人それぞれ違う訳じゃん?」
それでフォローできたかどうかは分からないが、一応、場は繋ぎ留めた感じはした。
「俺は、"五色のおりがみ"を提案するよ。紙に折り紙を貼ってメッセージを書くってのが暗黙の了解的なことになってるし。」
「なるほど。面白い案だ。あたしは"未来を変えし星"にしよう。」
案が出揃った。
だが、それを絞り込むことが出来ない。多数決しても偶然にも全員が別々の意見に手が上がる。
頭だけ悩ませてもどうもならない。
「勝負して一位の人の案にするってのはどうだ?」
その意見には概ね賛同したが、今度は何で争うのかが争点になった。力だと機械人間のルマクに有利すぎる。
「これとかはどうかしら?」と何かが書かれた紙が用意された。
「最近、王宮で流行っている実力テストです♪ 自身の頭脳レベルはどれ程か確認するのが流行っているらしいですわよ♪」
女医として救護室に出入りしている彼女は、そこで様々な最新の情報を得ているらしい。今ではテストが流行りなのかと驚愕した。
「うっ、テスト……。何か嫌な記憶が蘇りそうだ」とメイサが頭を抱えていた。
結局、俺らはこの実力テストやらを受けることになった。一時間を四セット。ひたすら机と向き合って問題を解いて解答用紙に書き込んでいく。
黙々と時間が過ぎ去る。
国語、数学、理科、公民、計四種類の問題を解いていく。
例えば数学では、こんな問題があった。円の中に三角形があり、そこにデタラメに引かれた線がある。そこでできた角度を求めよ、と書かれてある。どうやって求めればいいのか。俺は頭を悩ませた。他にも点Pは勝手に動き出すし、起こる確率を求めよなんて当たるか当たらないかの二分の一でいいだろ、と思えてもくる。
何だかんだ、でテストは終わった。
採点を終えて結果を発表していく。合計は400点満点。五位から発表されていく。
「総合点数30点。五位、ルマクさん。」
「ふっ。自慢する程でもないな。」
自慢できる点数じゃないんだよ。
「総合点数95点。四位、カシェルさん。」
「無理だ~。もう無理だ~。テストなんて爆発しちゃえ~。」
両手を伸ばした後、机に額をぶつけていた。
鈍い音がした。
「総合点数175点。三位、メイサさん。」
「少しだけ思い出したよ。どんなに努力したとしても5段階中3しか取れなかったんだ。体育だけは4あったけどさ……。最悪な思い出だ。」
暗い声でハハハハハと詠唱していた。
しかし、四位と三位の差が凄い開いているな、と思った。
「総合点数314点。二位、アトラさん。」
「まあ、そんなもんか。」
雷の国で国の英才教育を受けてきた。これぐらいできなきゃ困る。だが、どんなに良質な教育を受けようが地頭は良くないため、努力でカバーした結果と考えて良いだろう。それに数学は未だに苦手だ。メイサの言う5段階なら4というところだろう。
「因みに、私は385点で一位でしたわ♪」
ということで、一位のメリディアナの意見が通ることになった。俺達のチーム名は「Teamアトラ(仮)」となったみたいだ。
本当にそれでいいんだろうか、と思うが、勝者の決定だ。受け入れるしかなかった。
◆
今日もまた拠点である女子寮の居間へと集まることになっていた。後は、ルマクとカシェルを待つだけだ。
先に来たのはルマクだった。
彼は武器屋へと行って刀を新しくして貰ったみたいだ。だが、カシェルもまた同じ場所へと行ったはずだった。武器屋と服屋は併設しているからだ。
「カシェルは……置いてきた。」
「置いてくるなよ。」
そこに大きな荷物が家来のように後ろを着いてくるカシェルがやって来た。その荷物から大量の服が飛び出してきた。
「さっ、お着替えタイムの時間だよ!」
カシェルの提案でみんなで服を統一しようと言うことになった。言い出しっぺの彼女が殆ど動いてくれた。
俺らは着替え終えて居間へと戻った。
お披露目の時間だ。
全員、同じTシャツを着ているかのように思えた。シャツの下側に色の着いたラインがあり、その色や形がそれぞれ異なっている。
「カシェルはねっ、ウィクツリーウィングスをモデルに、爽やかな風みたいなコーデにしたのよ!」
優しい白色と黄緑色が上手くマッチしている。彼女はガウチョパンツを着た足を目立たせるように空中で足を前に出していた。
「メイサちゃんは、ウィクファイアをモデルに、可愛さとカッコ良さをブレンドした感じにしてみたよ!」
「いいじゃん。気に入ったよ。」
シャツをインして、コートを重ねることでカッコ良さを際立たせている。その中に可愛いアクセントがメリハリを生んでいた。
「ルマク君は金属みたいなイメージがあったから、ウィクゴールドをモデルにしたよ。そのせいで色はみんなと揃えてるけど、そもそもTシャツじゃないしね。」
「……悪くない。」
ピシッとしたシンプルな服。服のアクセントラインも灰色で目立ちにくい。黒のカラーが彼のカッコ良さを引き立たせてくれている。
「メリディアナさんは、ワンビースのイメージがあったから、Tシャツにロングスカートを合わせて見たよっ。」
青色のアクセントがさざめく海を想起させる。恐悦ながら、とても妖艶な印象を与えていた。
「最後にアトラ君。アトラ君は、大地を駆け抜けるようなイメージにしたんだっ!」
大地を駆け抜けるような爽やかなイメージとゴツイイメージとコンビネーションだ。特に、後ろ腰の四つの棘がワイルドなイメージを与えるが、その雰囲気と爽やかな雰囲気が喧嘩していない。とても「最高だよ」な出来上がりである。
「ちなみにアトラ君のモチーフはウィグ土ね。」
ウィク土って何やねん。
そう突っ込みたくなったが止めといた。




