38.努力と恋の必殺炎技
塔の上のメイサを無事に救出することができた。「ありがとう」そう呟いていた。
ルマクとメイサは初対面だ。「ルマクだ」という素っ気ない自己紹介。それに対して、カシェルが説明を加えようとした所、それを止められていた。
「塔の上から見ていたよ。理由は何であれ、あたしのために命懸けで戦ってくれた。それだけで伝わっているよ。」
不思議とミステリアスな雰囲気がさらに助長されている気がする。
「君達が力を合わせて倒したケントという人は、全てを見透かしていたみたいだった。君達三人がここへ来ることも、君達に負けることもね――。」
元々、負けるつもりだった? しかし、どうしてわざわざ負けることを分かって、様々な行為をしてきたのだろうか。疑問が現れてくる。
「あたしは、彼と同じ『しっくすさいど?』というグループに所属する仲間だったみたいだ。ただ、そこで何をしていたか、そもそも記憶を失う前のあたしについてはほとんど教えてくれなかった……。」
どこか虚しい表情をしていた。
台地の丘に風が通り抜けていく。
「下手に記憶を取り戻すと、あたしは死んでしまうらしい。」
一体どういう事だろうか。何か魔法にかけられているのだろうか。
謎という靄に包まれている。俺らは素手で、その靄を霧払いすることはできない。ただ、その白い空間を眺めて飲み込むしかなかった。
「それと、あたしは均衡を破壊する者で確定だろう。この国の人間じゃなかったよ。それと、彼から必殺技を安定して出力するコツを教えて貰った。風に関する能力ではなかったよ。ただ、今まで戦力になれなかった分、あたしが戦力になろうと思う。」
彼女の前髪が揺れていた。
オレンジの光が紫や紺色、藍色へと変わっていく。
無人の静けさが残るこの場所は休むには持ってこいの場所だ。盗賊に襲われる心配が頭を過ぎる気配もしなかった。
非常食を広げる。疲れた体に栄養のあるパンが染み渡っていく。
「長旅で半分は落としてきたのだろう。こんなにも食料がよく残っているな。」
そう言われてギグリとした。
確かに普通なら足りるはずがない。ただ、アンカーからの支給と、声を大にして公にして言えないが、盗賊の家で――いや、なんでもない。それによって足りたのである。悪気は無かった。出された食料を非常食と思い込んで食べてたら、まさかのソレだとは思うまい。
星々が輝く中、一つの敷布団の中で三人が固まって眠る。だが、鼓動がバクバクと動くせいで眠れなかった。眠れないせいでただ突っ立っているルマクを眺めている内に夜は更けてしまっていた。
ここには何も無い。暮らすための補給ができない。サバイバルするのなら可能だと思うが、今の疲労感に押し潰されている俺らには厳しいものがある。
ひとまず南へと下る。
台地を過ぎて砂道が見え始めた。
そこに一つ、魔物が現れた。人間の二倍ぐらいの大きさのある猪の魔物だった。白い鼻息を吐き出している。その狙いは俺らみたいだ。
「やるしか無さそうだな。」ボロボロの体で身を構える。
「ここはあたしがやるよ」と回復し切れていない三人より前へと立っていた。
大きな魔物の目前で彼女は手で焦点を定めていた。
《恋淡――》
それは燃え盛る恋のように。されど儚く淡い恋のように。熱く揺らめく燃え盛る炎の中にゆっくりと落ちて、儚く塵芥へと成りていくかの如く、淡い恋に犯されるかのように意識を失っていく。苦しみ藻掻くような事はない。ただ、ゆっくりとゆっくりとその場に優しく倒れ込む。
魔物は倒しきれていない。倒すと言うことは破裂させるということだからだ。
《精進――》
魔物が突然発火した。風を媒介することなく、魔物の体内から急に燃えだしたのだ。
それは熱く燃える情熱の塊のような、努力に満ち溢れる根気のような。そんな暑苦しさが全体を熱苦しく包み込む。大抵の人間にとっては拷問のような熱さだろう。
魔物は爆散した。炎も無くなっていた。
まるで回避不可能な攻撃に見える。そんな技を放てる彼女はどこか逞しく見えた。
砂漠を抜け、森へと入っていく。
そして、ついに洞窟の入り口へとやって来た。
「来たな、迷いの洞窟。如何に迷わずに行けるか……だな。」「気をつけないと出れなくなっちゃうからね。」
俺らが気を引き締めていると言うのに、彼らは何を言っているんだ? みたいな顔でこちらを見てくる。
「山を登って行った方が確実だと思うけどな。」
その言葉を聞いて、俺とカシェルでお互い「あっ」と言って顔を合わせていた。
岩肌を登っていく。山頂へと辿りつく頃にはすっかり夜になっていた。
平らな地だったのでそこで食料を頂き、睡眠を取る。
夜は明けて、御来光が昇る。
眩しい朝日に打たれていく。
「うわぁ、綺麗――。」
水平線の先の太陽は暴風雨の結界のせいで歪んでいて綺麗に見えない。何が綺麗なんだろうと彼女の顔を見ると、向いてる方向が真逆だった。
とっさに振り向くと、そこには朝焼けの色に染まった王都が見える。山の山頂から眺め下ろしていく景色。
輝いて見える王都はまだ眠気の残る早朝のためか活気はない。明るくも落ち着いた街が聳え立っている。
「ああ、綺麗だな。」
みんなで眺めるこの景色。四つの影が前方に薄く伸びていた。
「ねぇ、カシェルね、いい事思いついちゃったの。」
「いい事?」
「メイサちゃんが王都に残る方法だよっ!」
何を思いついたのだろうか。しかし、王様や王直兵全員を懐柔するのは至難の業だろう。一体全体どうしていく案なのだろうか。
「そのために誘いたい人がいるの。この四人のチームにさ、もう一人追加しない?」
少しだけ前かがみになって、腕を後ろで組んで、俺らの顔を見ていく。無邪気な笑顔が振りまかれている。
「誘いたい人?」
「うんうん。もし仲間になったら、メイサちゃんは窮屈かも知れないけど、みんなと一緒に王都にいれるようになるはずなの。」
彼女の言い放った言葉は朝焼けに消えていった。いや、俺の本能がその名前を聞かないようにブロックしていただけかもしれない。その無言が、所謂承諾になっていた。
「何となくチームって言ったけどさ、チームなら名前もつけなきゃだよねっ!」
「チーム名……か。」
「うんうん。」
そこにルマクが「例えば?」と聞いた。そのせいで彼女は言葉に詰まっている。降りていく間、ずっとそのことばかり考えているようだった。ルマクもまた同じくチーム名について考え続けているようだった。
「例えば、『Teamアトラ』とかかな。すごく適当につけたけど。」見かねたメイサが適当にそう言った。
「そうそう、そんな感じ」と便乗し、「なるほど。そういう名前をつければ良いのか」と納得していた。
自分の名前を付けられるのは恥ずかしいが、適当にパッと付けられた名前なので、容易くスルーした。
そんなことを話している内に山を下り終え、森の中へと入っていく。
◆
何とか森を抜けた。後は、王都へと入るだけだ。聳え立つ壁に囲まれた王都へと入るには門を通り抜けなければならない。中にさえ入れば人混みに紛れることもできるのだが。
どのように侵入すべきか、頭を悩ませる。
後僅かだと言うのに、そこからの足取りが重い。辿りつく気配がしない。
「まっーて、たー。」
眠そうなゆっくりとした声。スッと現れたのはタリタだった。
まさかこんな所で鉢合わせてしまうとは。いや、彼の言葉からして俺らを待ち伏せしてた可能性がある。しかし、こんな長旅の俺らを待っているなんて気が知れる。
「こーれー」と何やら布と紙を渡された。
紙は折り紙の貼られた俺らの中で暗黙の了解的な俺ら独特のマナーである。その折り紙にはここで待って欲しい、と書かれている。場所は具体性があるが、日付は大雑把だ。待つ日付は一昨日からになっている。
「もしかして一昨日からずっとここで待ってていたのか?」
「うーんー。そーれー、わーたーすーたーめー。」
布は広げてみると、真っ黒のフード付きのコートだった。これを羽織れば誰だが見分けが付きにくくなる。
一体、誰が手紙やコートをタリタに託したのだろうか。彼自身も身に覚えはないようだ。まるでメイサが攫われた日の、死んだはずの日の、目を覚ました時に入っていた一枚の紙切れのように。
誰かに全てを見透かされているのだろうか。
疑問は残るが、それを上回る感謝が勝る。
三人の王直兵と二人の付き人、内一人はフードで顔を隠している。容易く門を抜けることができた。
デモがひっきりなしに行われたあの景色はそこにはもうない。
デモ前のような、穏やかに人々が暮らしている。心の中に革命の兆しに蓋をして、日常を演じている。
だが、そんな様子でも、ありふれた日常というものはどこかほのかに温かい。俺は勝手にそう思ってしまっていた。
◆
メイサは無事に女子寮のカシェルの部屋に身を隠せたみたいだ。
俺たちは一先ず戦いの疲れを癒していく。
もう二日も日が経っていた。
「まさか王宮でメンテナンスもできるとは。ウヌク・アルハイ、さまさまだな。」
ルマクは普通の人間とは少し仕様が違うため、回復のためには特別な装置が必要となる。だが、この王宮には亡くなった王直兵の一人がその装置を持っていたらしく、それが捨てられずにいるようで、運良く俺――アトラの従者であるルマクは楽々と回復していた。
「はい。特性お弁当ね。」
グリーゼお手製のお弁当を貰って、女子寮の玄関へと進んだ。扉が開かれると、カシェルが顔を出した。
「お弁当持ってきたぜ。」
メイサは部屋から出られないため、またカシェルは一応、見張りのために、こうしてお弁当を持っていくことになっている。
扉が大きく開かれた。
カシェルは笑顔を浮かべている。
「前に話していた、仲間に誘う件って、憶えてる?」
王都に戻る時、山頂で話していた件だ。もちろん、憶えていた。
「何と、仲間になってくれるって!」
飛び切りの笑顔。そして、そんな新たな仲間を加えてみんなで話し合いたいという気持ちがうずうずと心の中で渦巻いているような気がした。
【作者からの一言】
ここの後書きの蘭、考えるのがとても大変なので終わります。人気なら再開します。




