37."3rd BOSS"『ケント』
蒸した音を響かせて走ってきたバイクは俺らの前方で止まった。ヘルメットを脱ぐと、そこから爽やかなケントが現れた。
「よく来てくれたっ! メイサならあの塔の最上階にいるぞ。階段を壊したから自分から降りれないけどなっ! 助けたければ、俺を越えて行くんだ! 準備はいいか?」
拳をぎゅっと握った。「もちろんだ。」
カシェルが手を上げた。そして、右を見て、左を見て、右を見てすたすたと歩く。しかし、走らされたバイクに引かれてしまった。
「歩行者が気をつけるのも当然だが、運転手が危険走行してたら意味ないんだ。そういう時は渡らない方がいいんだぞ! 身を守るんだ!」
ふわり、と空中で一回転して俺らの近くに着地した。
「大丈夫か?」
「うん。遅かったから威力なくて助かったかも。それに当たったダメージも分散できたしね。」飛ばされる時にその方向の流れに身を任せて空中で体制を整えたことで威力を分散したようだ。
「ちっ、その方法が通じないとはな。」
カシェル、ルマク。いい加減、当然の摂理に気づいてくれ。
バイクが襲ってくる。ウィリーの状態となり、タイヤの前足が襲う。
俺は横に避けた。直前に磁力をそのバイクを媒介して発動することで避けることを用意にする。
《アイアンローラー》
地面に平行になり、凄まじい回転を起こす。まるでローラーのようだ。それとバイクのタイヤが衝突した。火花を散らす。
バイクはタンッとその攻撃を乗り上げて真っ直ぐ進んだ。一方は外へと弾かれた。
またもやバイクが襲っていく。
《鋼の翼》
刀を背中につけて、回転する攻撃。一見ふざけているようにしか見えないが、攻撃の性能は高い。
バイクの車輪に攻撃が弾かれた。しかし、彼自身は無傷だ。まだまだ回転は止まらない。
バイクは俺らを狙った。
それを躱す。そこにバイクを追ってきた回転する攻撃。「俺を飛ばせ!」と指示が来た。
回転する背後に回り込んだ。
鉄の体と俺の体。磁力で吹き飛ばす。吹き飛ばされたドリルのような攻撃がバイクを目掛けて進む。
《メテオドライブ》
回転が凄まじくなり、赤い火花を散らしていく。まるで隕石のような一撃。猛スピードで突っ込んだバイクに衝突した。
威力は互角。
勢いは止まり、お互いの攻撃が相殺された。ルマクは勢いを失ってその場に落ち、バイクは破壊された。
「うおっと。足がジーンとするな。」
ついにバイクから降りたケント。
動き回って掴みどころがなかった先程とは違う。そこにカシェルが蹴りを入れた。
「いい蹴りだ。だがな、まだ負ける訳にはいかないんだ!」
「ねぇ、どうして、メイサちゃんを攫ったの?」
「ネタバレになるから詳しくは言えん。俺ちゃんはネタバレ嫌悪勢に優しいからなっ!」
空中から蹴りや殴りを入れる天使とそれに対抗する成人男性。取っ組み合いが続いていく。近づこうにも《C――カー――》で車を召喚されて、上手く近づけない。ルマクも同様だ。
《事象》
ふと彼女の動きが止まった。その隙を狙った彼が彼女の腕を掴んで空に向けて巴投をした。フラッとしながら地面に着地した。
「大丈夫?」
「うん。少し頭痛がしただけ。問題ない。」
一時的に攻撃が止まった。お陰で三人が揃う。
「だーはっはっ。メイサさんを攫った理由についてヒントを教えてやろう!」大きな声で高笑いするかのように話しかけてきた。
「何もし無ければ、何も伝わらない。言葉で伝えなきゃ、思ってることは伝わらない。行動で示さなきゃ、その思いの誠意は伝わらない。」
そのヒントではどうして攫ったのか全く分からない。彼は「何れ分かるさっ!」とキラッと歯を見せていた。
魔法陣から放たれる車やバイク。
それを走りながら避けていく。逃げるように走らないと躱すことができない。速度が上がっている気がする。
「一般道で走ろうか。」これぐらいなら避けられる。
「産業でも使おうか。」磁力を使えば避けられる。
「やっぱり高速を使おうか。」先に動かないと避けられない。この速さの攻撃のせいで、魔法陣が出た瞬間に動かなければならなくなっている。
「いやいや、標識のない細道にしよう。」時速三十以下のスピード。あまりの遅さに感覚が狂う。
《B――バイク――》
出遅れた。避けようと思ったがどこかスピードが速い気がするような、いや、遅い? 狂った感覚のせいか、避けそびれた。
俺はちょっと轢かれて吹き飛ばされた。
ダメージが少しだけ体に響く。
《C――カー――》
ノロノロとした車が襲ってきた。それなのに、体が身構えてしまった。余裕で避けきれるはずなのに、ギリギリで避ける。
「攻撃の緩急か。長期戦は不利そうだ。一気に決めてやる。」
遅い車に追いつき。それを足場にして相手の頭上へと跳んだ。
《ハードプレス》
剣を叩き落とすように落下していく。しかし、ケントの頭上付近に魔法陣が現れた。
《C――カー――》
その攻撃が彼を空へと吹き飛ばした。
だが、彼の目は死んではいなかった。
回転しながら落下していくのが見える。まるで落下の勢いをつけているように。
《ヘビーボンバー》
《C――カー――》
落下引力を用いた攻撃と下から上へと進む車。その攻撃が車に打ち勝った。車を巻き込みながら落下していく。
「凄いぞ。だが、弱点がある。」
ケントが後ろに向かって走り出した。
先程までケントがいた位置に車を巻き込んだルマクの攻撃が落ちた。それと同時に爆発が起きた。その爆風がこちらまでやってくる。
「凄い攻撃だが、落下時点が決まってる。当たらなければ意味がないぞ!」
彼は爆風に煽られているだけだった。
爆煙から現れるルマクは刀を地面に突き刺して、それを杖代わりにし、地べたに座っていた。息を切らしている。
生きているだけで良かった。そう思える程の事象だった。
「流石だが、激しく動き回る攻撃スタイルのルマク君には、打つ手がないんじゃないか。あーはっはっはっ。」
息を切らした音がこちらまで聞こえていた。
そんな姿に比べて、敵はまだまだ余裕そうな表情を見せている。
「もう一つヒントを教えてやる!」
胸を張って笑顔を放っている。
「俺はどうしようもない未来をこの手で変えたいんだ。普通なら諦めてしまうような高い高い壁が何度も待ち受けようとも、それがどんなに理不尽極まりない壁だとしても、俺はそれすら全て乗り越え、いーや、全て打ち壊して変えてしまいたい!」
大きな声が鼓膜に響く。
技じゃないのは分かるが、圧倒されかねない。
「そのためならば俺は何だってする。悪にでも堕ちてやろう。アトラ君やタリタ君達を襲ったのもそうだ。メイサさんを攫ったのも、この地へと誘うために手紙を書かせたのも――」そして、彼は思い出したかのように付け加え「そうそう、この風の国に侵入した時に、メイサさんを海に突き落とし記憶喪失にさせたのも、全てよりよき未来のためだ!」と言い切った。
怒りが血液の流れを早くしてくれる。今ならパワーアップの技が発動できそうだ。
「それが許されるとでも思うのか。」
「思わないさ。だが、聞いてくれ。俺ちゃんは目的のためなら"悪"にでもなるのだ!」
開き直ったかのようなその態度に怒りが込み上げてきそうだ。だが、その感情を全て血液の循環に回していく。
《W――ワット――》体に電気を帯びた。
全身に電流が流れているのが分かる。パチパチと青色の電気が放電している。明らかなパワーアップ。これこそ完全なる発動形態。
ただし、弱点が三つある。
一つ、完全な発動は体から電気を放電するために周りに『自分は余所者です。雷の国から来ました』と示すことになる。つまり、スパイだとバレてしまう。これに関しては周りに誰もいないこの場所で、カシェルやルマクなどそれを承知で仲間にいる人しかいない。お陰で難なく解放できる。
一つ、長くは続かないということ。時間制限付きのパワーアップだ。発動が切れると動けなくなる。やるなら一気に決めるしかない。
一つ、物に磁力を付与できないということ。磁力を一瞬だけ発動させることはできても、それを長く続かせることができない。ただ、それをカバーする秘策がある。
制約がある中で、この技で決め切るしかない。
体内から力が溢れ出ていく。
「カシェル……。お願いできるか。」
「もっちろん。」
足を出す。脚力もうんと上昇した。魔法陣から放たれていく車やバイクも難なくかいくぐれる。
敵の付近へと来た。
棘が浮いている。俺にはよく見えていないが、裏に透明の羽がくっついているのだ。俺が攻撃を放てる程度にまで制御した《A――アンペア――》を繰り出す。見えない速さで襲撃し、攻撃する。一つの場所に留まらず、四方八方へと移動して攻撃を繰り出す。
羽によって周りに浮かぶ鉄の棘を素早さの基軸にして移動。流れに乗って殴る蹴るの攻撃を繰り出す。彼も受け切ろうと構えるも俺のスピードには付いてこれない。
力×スピード=「パワー」
制約の代わりに、力もスピードも上昇した。俺が先程通った直線上に青く通り抜ける電撃が見えた。遅れて進んでいる青の電雷がその素早さを示している。
四方八方からの目に見えない速さで襲いかかる攻撃。何度も何度も殴るし、蹴る。
そろそろ終わりにしよう。
相手の顔面に向けて拳を振るった。
《事象》
痛っ。
一瞬の痛みに気を取られてしまった。振るった右拳から血が流れ出ている。あまりに唐突な出来事によって、今までの流れが止まってしまった。
一瞬。一瞬の緩みだった。その緩みの隙がその右フックを紙一重で躱された。虚しく残る腕を掴まれて空へと巴投げ。俺は空中に漂った。
《T――トレイン――》
赤いボディの平らな四角形の前面。そんな電車が俺に突撃する。そのまま空中を共に進んでいく。
俺は空中の魔法陣をすり抜けて、電車は空中の魔法陣に消えていった。すり抜けていった俺は後ろ方向へと吹き飛ばされてしまった。
このままだと地面にぶつかり重症は免れない。だからと言って、何か手を打つことができる訳でもない。まさに万事休す、だ。
そこにカシェルが勢いよく落ちていく俺を全身で受け止めた。彼女はその勢いの方向を地面と平行にし、そのまま空中でその勢いに耐えていく。
ある程度は勢いが緩み遅くなった。
彼女は地面をズサァと転がっていく。俺は彼女のお陰で命拾いをし、地面に軽く転がっただけで済んだ。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと動けそうにないけど。ただ、棘なら操れるよ。」
「そうか。なら、アイツに向けて一直線に、等間隔に棘を並べてくれ。」
「おっけい。」
棘が並んでいく。「もう少し感覚を狭く」と要求。離れすぎると技が失敗する。
俺はすぐ近くの棘に足をかけた。
《A――アンペア――》一つ目。
さらに、その勢いのまま、空中で二つ目の棘を蹴り飛ばす。
《A――アンペア――》二つ目。まだまだ、《A――アンペア――》三つ目。そして、最後の《A――アンペア――》四つ目。
ある程度の勢いはあるが、ちょっと距離が離れ過ぎている。威力が落ちてしまうがこればかりは仕方ない。持てる力を振り絞るだけだ。
「俺様の剣を使え!」
ルマクが俺の通る直線上に向かって水平に剣を振るう。二本重ねられた逆刃で進むそれは、これを棘代わりにして使え、という暗黙の行為であった。
《A――アンペア――》リミテッド!
超スピードでケントの懐へと入り込み、彼のお腹に向けてそのスピードを、その威力を思いっきり流し込む。
力×『速さ』=パワー。
彼は受けながら「お前達の勝ちだ」と呟いた。
その攻撃を受けた彼はそのまま後ろへと向かって吹き飛ばされていく。遠く遠く遠くへと、飛ばされていく。
もう俺らでは姿が目視できない程、遠くへと吹き飛ばした。
その勢いが空中で相殺された俺はそのままポトンと地面に落下した。パワーアップが途切れた。それと同時に、体が言うことを効かなくなった。動けない。
勝利の余韻に浸る前に、そんな喜びを噛み締める前に、俺らは疲労で何も出来ずにその場に立ち尽くしてしまっていた。
どれ程、立ち尽くしてしまったかは分からない。分かるのは今が夕方になりかけているということだ。
残り僅かの体力で立ち上がっていく。
他の二人も俺と同様だ。
少しフラフラとはしつつも、塔に向かって歩き始めた。
…【シェルタンからの一言】
自分で悪だと分かってるなら、やるなよ!
まあ、自分の行為を悪いと思わずに誰かのせい、社会のせいだと勘違いしてる人よりかはマシか……。




