36.「ルマクだ。俺様の名は!」
「笑わせる……。全くだ。笑止千万。この世は弱肉強食。弱き者が足掻こうと勝てはしない。幸運だな。強食側の二人は拘束され動けない。弱肉側のお前では何もできない。」
「百聞は一見にほにゃららだろ?」
そこまで言えるなら、しかず、ぐらい忘れるなよ、なんてツッコミは止めといた。
敵が襲いかかる。
《メタルクロー》
指に挟んだ剣が振るわれる。
それをバックして回避される。
《タキオンカッター》
刀を横に回転させてぶん投げた。まるでブーメランカッターのように進んで行く。一つ目は避けられ、二つ目も避けられた。
「連続攻撃だ。この攻撃は。」
戻ってきたその刀が敵に擦り傷を作らせた。四回目の攻撃は避けられた。舞い戻る回転するカッターの剣先を掴んでいた。機械だからだろうか、血は出ていない。
「ふっ。どうだ。」
かっこよく決めたつもりだろうが、柄の部分を持てずに、もはや刀の鉄刀部を持っているせいで台無しだ。
「少しはやるみたいだ。」
刀を持ち直して、手で掴んでいた部分を頭に当てる。そのまま頭突きするように走っていく。
《アイアンヘッド》
《鎌鼬》
鎌鼬が彼を襲う。そこに青色の種子が放り投げ出された。無数の斬撃を諸共せず、種子は踏みつけて、勢いそのままに頭突いた。それに合わせて蹴りで守った彼はさらに後ろへと退くことになっていた。
「何故だ。鎌鼬も青の種子も、何故効かない……。」
「俺様は機械人間……サイボーンだからだ。」
惜しい、ンではなくグだ。サイボーグが正しい。カッコイイ決めポイントでミスるからダサい。いつもとても惜しい。
敵が襲いかかってきた。
刀とナイフが合わさる。刀と斬撃も合わさる。何度も合わせていく。そして、彼は手の空いた片手で彼の肩に触れて、彼の背後へと飛び越えた。
《鎌鼬》
無数の斬撃が襲っていく。
「だから、効かないな。」
「いい。それでいい。狙うのはお前じゃない。」
敵がこちらに向けて走り出してきた。狙いは俺達のようだ。
《ホイールスピン》
彼は寝そべった状態で人間離れした速さで回転し始めた。持っている刀も回転し、もはや速すぎて残像が見え、その残像を含めて車輪のように見えた。砂に刀が差し込まれ安定した速さを生み出す。
まるで車輪、は弧を描くように素早く進み、俺達の近くへと先回りした。
今度は、彼は刀の矛先を下に向けた。そして、刀を下でクロスさせ、そこに両足を置いた。
「何をする気だ。」
「技を放つだけだ。」
《ジャイロボール》
それはゆっくり、ノロノロと右回転し始めた。あまりに遅すぎて逆に突っ込んでいいか分からない。
「何だ、その技は。ふざけているのか。」
初めはノロノロ過ぎた回転も、少しずつオルゴールレベル、メリーゴーランドレベル、コーヒーカップレベルにまで回転が速くなる。
そこにサバイバルナイフが突き刺されたが、回転に巻き込まれて刀はあられもない方向へと吹き飛ばされていった。
一度回転したソレは、回り出すとさらに加速して回り出す。まるでベイゴマのようにさえ見える。
すぐ側にいた彼は攻撃によって遠くに吹き飛ばされていた。
回転が止まる。
今や敵は武器を持たず丸腰の状態。そして、こちらにはまだ戦えそうなルマクがいる。
右手に持っていた刀を敵に向けている。
ちょっとドヤ顔をした表情を向ける。きっとカッコイイ言葉を放つのだろう。
「全く……。目が回る。」
目が回るんかい。せっかくの決め場が台無しだ。
すると、敵は背中を見せた。
「逃げるのか。」
「俺は盗賊だ。盗むのが専門職だ。だが、逃賊として逃げるのも専門職なんだよ。」
そう吐き捨てて、その場から走り去ろうとしていた。
「逃がすか。」両手を真っ直ぐ出し、手に持つ刀を回転させ始めた。ラスターカノンでも放つのだろうか。
《マグネットボム》
放たれたのは小さな弾の鉄の塊。それが敵の近くに近づくや否や、その敵向かって進んでいく。
磁力だ。雷の国の中の磁力という能力を利用した攻撃だ。その鉄屑は敵に引っ付くように進んだ。
そして、遠くで小さな爆発が起きた。
サダル・スウドを倒したかどうかは分からない。ただ、爆発があったことと、砂塵が舞っていたことだけしか分からなかった。
◆
目の前に組み立て式だと思われるとても簡易的な家を発見した。
先程まで傷ついて、植物に巻き付かれていた体だ。休めるなら嬉しいが、その家は盗賊団の拠点にしか見えなかった。
「カシェルに任せて!」
なんの策があるのか、彼女がその家の前へと空から進んでいった。
ドアを三回ノックする。コンコンコン「ごめんくださーい。」
中から盗賊っぽい人が顔を出した。
「ちょっと休みたいので家を貸してくれませんか?」
「駄目に決まってんだろ。」
彼女がトボトボと帰ってきた。「駄目だった」と肩を落としている。
いや、普通に考えて駄目だろ。相手は盗賊だぞ。
「全く。俺様に任せておけば良いものを。」
今度はルマクが行く。ドアを何回もノックした。
嫌そうな顔でドアから顔を出した人。その人に向かって「家を……くれ」と言い放つ。いや、それただの盗賊だから。お前がなってどうする。
その人がナイフを持った。襲いかかってきたが、容易く返り討ちだ。刀を抜くまでもなく頑丈な一撃でのされていた。彼の体は鉄なので、それなりのダメージだろう。
中にいた人達が一斉に襲いかかってきた。
次の瞬間、彼らは空中へと浮き上がり、そのまま外へと放り投げ出された。
「家を貸してくれるらしいね……ってことにしよっか。」「だな。」
……。本当にこれでいいのだろうか。
罪悪感を噛み締めながら、俺らは簡易的な家へと入室した。
「――が死んだ今、風の国には俺様の居場所などないと思っていたが、お前がこの国にいると知って、ここへと来た訳だ。」
今度は何故このような旅に出ているのかを聞かれる。その一連の流れを説明した。彼はメイサを連れ去った敵に興味があるようだ。「――乗り物を召喚する能力だ」と伝える。
そこに俺の服に着替え終わったカシェルもやって来た。
「名案があるぞ」と彼は言う。それにカシェルは期待して前のめりになっていた。
「まずは手を上げるんだ。」立ち上がり、手を上げている。
「そして、攻撃が来ないことを確認して、右を向け。」……ん?
「次は左を向いて、右を向いたら歩けば、攻撃を喰らわない。」
それ、小さい子が横断歩道を渡る時にする奴。故郷で小さい頃は何度もやった、けど。
「なるほど、参考になるね。」いや、参考にはならないよ。
全く16、17のいい歳した人達が何を馬鹿げたアイデアを浮かべているのやら。
そんな無意味な方法の中で、一つ俺は勝つための提案をする。それは新たな技についてだ。
「俺の技《W――ワット――》は俺自身を大幅に強化する強い技なんだけど、一つだけ問題があるんだ。」
二人が耳を傾けていく。
「それは技の使用中は物に磁力を付与できなくなるんだ。」俺はニードルの一つを持って、一つのニードルを空中に浮かした。「これみたいに浮かすだけじゃなくて、ニードルアームを拳につけることもできなくなるんだ。つけれはするけど、すぐにすっぽ抜けてしまう。唯一使えるのは、鉄を基盤にして自身を一瞬だけ反発させて瞬間移動をする《A――アンペア――》ぐらいだ。」
俺はカシェルの方を見て「だから、少し提案があるんだ」と呟いた。
俺らは夜をその家で過ごすことにした。良識には反するが、ここは目を瞑ろう。
機械人間は凄いと思う。何日間は寝なくても良いのだと言う。彼に免じて、俺らは仮眠を取った。
夢には入れていないが体は休まっていく。
……。何やら、家内が騒がしい感じがする。誰かと戦闘をしているのだろうか。結構、騒がしいぞ。
体を起こして目を見開いた。
敵襲か?
俺の頭に枕が突撃した。「枕投げ合戦やめーや!」ただ、二人で枕投げ合戦をしていただけだった。
ひとまず無視して再び眠ろう。
そこにまた枕が飛んできた。ちょっとイラつく。思わず枕を投げ返したのが、間違いだった。その流れで俺もその合戦に参加する羽目になっていた。
◆
朝だ。
俺は頭を悩ませていた。ツッコミ担当不足だ。ボケが一人加わった。ボケとボケでボケの二倍。そんな甘い話ではない。これはボケとボケの二乗だ。俺は元々、ツッコミが強い訳ではない。そのせいでツッコミが追いつかない。
扉を開けると、一人の盗賊団員がいた。
震えながらナイフを俺らに向けている。
「サダル・スウド様を倒したな。あの方は我々を束ね、生活を楽にしてくれる本当に凄い方なのに。」
その言葉を否定したい。
「何が凄いんだ?」
「窃盗、強盗、人身売買……。普通の人間にはできない事もあの方はやり遂せる。それで我々は食べていけるんだ。」
何故だろう。俺は彼に冷たい視線を向けていた。
「凄くないな。窃盗も、強盗も、人身売買も、誰もが思いつく、楽して儲ける悪徳な所業じゃないか。」
「窃盗も、強盗も、人身売買も、弱者にはできない強者の所業。それができる奴は限られている。凄くないか。それに俺はあの方に付いていくことで強者側に立たせて頂いている。それなのに、貴様らはぁ。サダル・スウド様をぉ。」
彼は怒りの矛先を俺らに向けていた。
「それは悪いことだって分からないの?」とカシェル。
「己は、悪でいいぜ。強者になって金が稼げるんならよぉ。」
「お前は間違っている。そんな悪な行いは何一つ凄くないんだ。」全く、ため息が出そうだ。「本当に凄い奴ってのは、傍から見て誰もやりたがらない嫌な事を泥臭くやり切れる奴だ。」
彼が襲いかかってきた。
回し蹴りで腕を蹴り上げ、刀を吹き飛ばす。
「全くだ。誰かを生贄に楽して稼げる方法なんかかっこよくも凄くもないんだよ。」
彼はそのまま膝を着いて崩れ落ちていった。
「どうして、己は弱いんだ……。」
「ウチらの先輩が言ってたんたけどね。その受け入りなんだけどね。正義と悪って、いっつも正義が勝つじゃない?」
みんなの視線が彼女に集まっていく。
「大抵は正義と正義の対立で、勝った方が悪になるだけらしいのよ。」
脳裏にあの人が浮かんでくる。王直兵の先輩であるあの人なら、暇な時間に正義と悪について語っていそうだ。
「けど、正義と悪の対立で、自分から悪だと認識してる人は弱いんだって。悪いことだと心の底では思ってるから、弱いんじゃないのかな。」
「つまり、心を入れ替えて、正しき生活にアッピロードしろってことだ。」
それアッピロードじゃなくて「アップロード、な。ルマク、お前、横文字使うの止めたら?」と提言。
彼はその場で泣き始めた。
その姿を置いていって、先へと急ぐ。
「自ら悪と認識してる奴は弱い……か。」
頭の中に、この旅の元凶であるケントや道中であったアンカーが思い浮かばれた。二人とも自らを悪だと言っていた。
確かアンカーはテーミンお婆さんの薬のためにお金が必要で、そのために盗賊という悪にならざるを得なかったのだろう。
では、ケントはどうだろうか。まだ彼について知る事は少ない。もしかしたら悪にならざるを得ない理由があったのだろうか。そんなことを頭に思い浮かべながら三人で砂の道を歩いていった。
砂の道は途絶えて、丘へと変わった。岩場だ。
この先に行くには、高い岩場から降りなければならない。しかし、高すぎる。
俺はニードルを使って磁力を使って下の地面に難なく着陸した。カシェルはそもそも翼があるので問題ない。問題なのはルマクだ、と思ったが、彼は片方の刀を地面に落とし突き刺し、その刀と持っている刀で磁力を起こして、俺と同様に難なく着陸した。
この台地を踏みしめていく。
お昼頃だろうか。
俺らは高い塔が目と鼻の先にある場所までやって来た。あの中にメイサがいる……はずだ。
そんな俺らのいる場所に、突如、この国には存在しないバイクの蒸した音が鳴り響いていった。




