35.風の国の闇
長い長い道に感じた。
薄暗い洞窟な指していく光。その方向は北を示している。目の前に広がる景色を見ても、北へと道が広がっている。ついに、迷いの洞窟を抜けたのだ。
「僕が案内するのはここまでだ。」
「えぇ~。せっかくだし、一緒に行こうよー。」
「どうして休みの日というのに上司に会いに行かなければならないんだ?」
アンカーは嫌そうな顔をしている。
この先の森を抜けると砂漠に通じる。そこの砂漠を盗賊団は拠点にしているらしい。
「ありがとな」彼女とはここでお別れだ。
「感謝を言うのはこちらだ。馬鹿」と返された。
森に切り開かれた細く小さな道に向かって二人で足を一歩出した。
◆
川のせせらぎ。
横にとても広い川がある。その間に削られてできた岩場が点在する。
二人でその岩場を乗り移って進む。
「足を滑らしそうで怖いね」と言ってる傍からバランスを崩している。
思わず落ちてくその手を掴んだ。
「なーんて、大丈夫だよ。だって、飛べるもん。」
繋いだ手の先には空を飛んでいるカシェル。「逆に落ちないように繋いでてあげるね」と無邪気に微笑んだ。
アンカーから貰った服がとても似合っていた。
思わずそっぽを向いた。
本当はそんなことするつもりは無かった。だけど、そうしないと赤らめた頬がバレてしまう。
ようやく渡り終えた。
繋いでいた手が今でもほんのり温かい。柔らかいその手の感触が頭にこびり付いて離れない。
そこから先の森も長かったはずなのに、その途中の景色すら思い出せない。何気ない道だったからだろうか、それとも胸のざわめきが蔓延るせいだろうか。
少しずつ木が少なくなり、森から林へ、そして、点々とした木々へ。いつしか砂漠へとやって来た。
渇いた砂が吹き荒れている。
昼から夕方の間の日差しではこの砂塵の中に光を届けられない。それでもコンパスだけを頼りに北へと向かっていく。
荒れた天気だ。
歩いていくと、谷のようなものが見えてきた。谷の間を通っていく。
「身ぐるみは置いてって貰うぜ」と何人もの悪そうな顔な人が岩の上に立って俺らを見下ろしてきた。
例の盗賊団だろう。
律儀に自分は盗賊団です、みたいな格好をしている。手に持ったナイフが在り来り感を感じさせる。
「カシェルは思うのよ。こんな場所はRTAすべきって。」
盗賊団が空中に浮き始め、慌てた声を鳴らしながらあちらこちらに吹き飛ばされていく。歩いている間には、彼らは何もすることができず敗北し、俺らの背後で山のように積まれていた。
圧倒的な実力差に思わず薄ら笑いを浮かべてしまっていた。
前方で俺らに北へと逃げていく盗賊団員がいる。しかし、申し訳ないが俺らの進む方向は北なので、追うような感じになってしまう。
砂塵舞う砂漠のフィールド。逃げた盗賊はそこにいる男に報告をしているようだ。多分だが、俺らのことだろう。
ようやく声が拾える範囲まで来た。
報告を受けている男は、黒い服に身を包み、白いターバンを巻いている。そのターバンから虹色の髪が溢れ出ている。顔は堀が深く濃いめで髭が目立つ。見た目はとっても強そうだ。
「やれ」の一言。
それを聞き受けた盗賊が攻めようとするが、透明な羽で何をされたか分からないまま吹き飛ばされ負けを認めていた。
「お前、不必要だな。」彼はサバイバルナイフを握った。
「サダル・スウド様。お許し下さい。鎌鼬だけはお止め下さい。」
「決めるのは俺だ。お前には、罰だ。」
彼がこちらへと逃げてくる。
「今日は幸運だ。自ら罠に引っかかってくれる。」
《鎌鼬》
目に見えない無数の斬撃がその盗賊を切り裂いていった。
その場に倒れ込む傷まみれになった盗賊。そこにサダル・スウドと呼ばれる男が近づき、ナイフの先端を下に向けた。
それを振り下ろそうとしたが、途中で動きが止まった。
「不運だ。なぜ邪魔をする?」
「逆に、どうして殺そうとするの?」
「俺は上の立場で、こいつは部下。部下の処遇を他シャに決められる筋合いはない。」
「人としてダメじゃん。それは。」
「不幸だ。埒が明かない。」
彼はナイフで刺すのを諦め、横に向けて思いっきり蹴り上げた。その人は横に、遠くに、飛ばされた。
「お前、酷いことするな。」
「気にするな。社員らの事はウチらで決める。」
野太い声が砂漠に響いている。
「お前らは……王直兵か。いつもなら攫う殺すは行方不明事件として上が処理してくれるが、お前らは処理してくれるのか。不運だ。対応に困る。」
行方不明事件……。ふとグリーゼの声でその事件の概要について思い出していく。確か『鎌鼬の夜』と呼ばれる日には必ず行方不明事件が起きると言っていた。そして目の前の男の能力は鎌鼬。そこでその情報の真相について閃いていく。
「お前なのか、鎌鼬の夜の犯人は!」
「俺は知らんが、そう呼ばれていると聞いた事がある。俺は人攫いのため、夜に王都で鎌鼬を起こしているだけだ。ただ、それだけだ。」
「何か倒さなきゃならなそうね。」
「元々、ただで逃がすつもりは無い。」
サバイバルナイフが横に振られた。
斬撃が流れてくる。
さらに、振られる。何度も振られていく。その度に斬撃が現れていった。
彼を視点にして、その周りを走っていきながら攻撃を避けていった。
「空ががら空きね!」
自信満々で上から襲うが、それについては予定範囲だったみたいだ。
《鎌鼬》
どこからとも無く現れては襲う乱雑な斬撃。彼女は乱雑に切り刻まれてしまった。服の上から皮膚事、切り裂かれている。赤い血が滴り落ちては服を赤く染めていた。
顕になる皮膚がとても痛々しい。
ニードルパンチ。怒りを込めた一撃は容易く避けられてしまった。
《鎌鼬》
俺を襲う斬撃。だが、そんなものに負けてたまるか。気概だけで突き進む。
ニードルアームが敵の腹に刺さる。
彼は華麗なバックステップで距離を開けた。
「不運だ。女が普通の安物の服着てるから、男も安物だと思ってゴリ押そうとしてしまった。」
俺の服は軽く傷ついただけだ。鉄糸で丈夫なだけではなく、能力を吸収する糸が使用されているため、俺の食らったダメージも思ってる程大きくない。
「だが、俺は負けない。俺は風の国一の闇と称される盗賊団長サダル・スウドだからな。」
彼は強くサバイバルナイフを握っている。ターバンから出ている虹色の髪が揺らいでいた。
そのまま彼は視線を変えて動き出す。
何と俺ではなくカシェルを狙いに行ったのだ。
「戦闘に置いて、弱い奴を狙うのが鉄則だ。」
より好んでいる場合じゃない。地面に棘を突き刺した。
そこから出力を調整した《A――アンペア――》で彼より早くカシェルの元に来た。そして、守るために体が動いていく。俺は彼女の鼻の先で盾になったのだ。
急ぎすぎていて敵に背中を見せてしまっている。
彼が腕を振り下ろした。
斬撃が来――。
来なかった。
突然、足元から現れる植物が、俺ら二人に絡んで離さない。カシェルの流している血を中心に蔦がこれでもかと言う程、まとわりついてきた。
「青の種子の拘束時間は10から長くて30分程度。その間に殺して置くか。生かすと上が処理するとしても面倒だ。」
砂を踏みしめる音がする。
「卑怯だな。弱い奴を狙うなんて。」
「卑怯? 何を言っている。これはルール有りきの試合ではない。紳士なスポーツでもない。」
段々と近づいてくる。
「これは時に生死をかけた戦闘だ。負ければ、最悪死す。死なずとも惨憺たる結末になるかも知れない。どんな手を使ってでも命と尊厳を守るために戦う。これが戦闘。規模が大きくなれば戦争。そこに甘えなど存在しない。」
身動きが取れない。技を繰り出そうにも蔦が絡まって繰り出せない。もし無理やり動いたり技を使ったりしたら、目の前のカシェルにまで被害が及ぶ。
「まあ、いいや。俺が盾になりゃいいんだ。」
彼は数十分で拘束が解ける的なことを言っていた。つまり、それだけ俺が攻撃を受けきればいいんだ。
「戦いを舐めているな。お前は傷つけて植物の拘束を加速。女は即殺害。俺の鎌鼬は隙なく切り裂く。せめて絶望するといい。」
彼の手が空高く上げられた。
砂塵が舞っている。
《スマートホーン》
どこからとも無く彼を狙って放たれた一つの刀。さらにもう一つの刀が彼を狙って進んだ。
サバイバルナイフが振られ、刀と当たる。カンッという音と同時に刀は来た方向へと空を舞った。
そこに颯爽と現れては、二本の刀をかっこよく拾う男。砂塵によってシルエットしか見えないが、俺には誰かすぐに分かった。
砂煙が止んだ。
白いツンツンとした髪。二刀流。何より、幼い頃から見慣れた顔。
「助けに来た」と颯爽と言い放っている。
「なんであなたが……。」
そう言えば、カシェルにとってはそいつは敵でしかなかった。
「お前に興味はない。俺様はアトラに興味があるのだ。」
「それは……ちょっと語弊を生むかな。」相変わらず、語彙が少なく短い文のせいで語弊を生む言葉が時々ある。
「知り合い……なの?」
「ああ。死に別れしたと思っていた……俺の親友だ。」
彼は「そうだ」と頷き、すぐに本題へと戻る。「あいつを倒せばいいんだな。」
ルマクは刀を敵に向けた。




