24.国兵上がりのヤンキー
今日は任務の日だ。東門で待ち合わせになっている。
自室の扉を開けようとした時、何やら一枚の紙が落ちているのに気付いた。それを拾い上げる。
「王直兵の中に、フウライボウの内通者がいる。気を付けろ」……と書いてある。
後ろから「何なに?」と興味を持たれて覗かれた。
誰が何のためにそれを置いたのかは分からない。
「内通者ってことは裏切り者ってこと?」
「多分そうだな。」
「じゃあ、今から内通者ですか? って、聞いて回る?」
その発言に驚きを隠せない。
「何を言ってるんだ。聞ける訳ないだろ。まず裏切り者が自ら裏切り者ですって言う訳ないからな。それに下手に勘繰られてしまうと、任務に支障をきたしてしまうかもしれないし。」
「そっかー。じゃあ、ここだけの秘密だね。」
「くれぐれも些細な事でもバレないようにしないとな」との声に「そうだな」と返した。
ひとまず俺はポケットの中にその紙をしまっておいた。
◆
「持つもん持ってきただろうな?」
四人の国兵が背筋を張っていた。
「食事!」「イエッサー。」
「敷布団!」「イエッサー。」
「武器!」「イエッサー。」
彼の一声を聞くと同等以上の声を張り上げている。
「本気!」イエッサーの言葉は返ってきていない。
「任務にはなぁ、根気が必要なんだわ。本気と書いてマジと読む。本気は持ってきたかって聞いてんだ!」
それに対して四人が同時に「イエッサー」と言い放った。
そんな暑苦しい様子を俺ら三人は離れて見ていた。
この度の任務はイクリール、カシェル、そして、俺に加えて、ミルファクを初めとする国兵四名とメイサが同行する。
「商人らが使う遠回りだが平坦な道だと四日はかかる。が、俺らが使う道は険しくも二日で着く道を使う。気張って俺に着いてこい。」
彼がそう言っていた通り、道無き道を進んでいった。整備されていない急激な坂を登っていく。険しい道はまだまだ続く。
イクリールを先頭にカシェルは楽々着いていく。まあ、彼女は飛んでいくので険しさなど微塵も感じていないだろう。
俺も負けじと着いていった。
残る五人は遅くなりながら何とか時間をかけて辿り着いていた。
「ったく、だらしねぇなぁ。喝が足んねぇよ。なぁ?」
凄む目をしていても一人が「休憩しませんか」と聞いていた。「馬鹿野郎」と返され、「気合いで乗り越えろ」と一喝された。
太陽は頂点に立ち終えて、ゆっくりと降りていく。
この旅は一筋縄では行かなそうだ。
風で木が揺れざわめく大森林。目の前に現れたのは、鹿の魔物だった。角から風のカッターを繰り出して、周りの木々を切り裂いていく。
「よしっ、カシェル達の出番だねっ!」
「ああ、そうだな。」
まあ、一筋縄で行くとも思ってはいない。魔物が襲ってきたら、返り討ちにすればいいんだ。
「おい、待てや。」彼は臨戦態勢の俺らを制止させた。
「ここら一つ、先輩の顔を立ててくれや。」
俺らは後ろへと退かされた。魔物の前でイクリールはヤンキー座りをして睨んでいた。「ああ、やんのか?」
魔物は返事など一切しないが、その挑発を買っているのは分かった。魔物が彼の方向を向いて、今にも攻撃しようと狙っている。
シュポッ。
彼はライターを取り出し、火をつけた。
「来るぞ。隊長の必殺技が!」と近くで興奮している。彼ら曰く、武器がライターらしく、そのライターから放たれる技はかっこいいらしい。正直、全く想像付かない。
小さな火が揺らめく。
火は炎となりて、炎が燃え盛る。炎は形を変えて蛇のような龍の形へと成していった。
《神喰殺音・離灰亞惨》
炎の龍が自在に舞っていく。龍が咆哮する姿は、国兵達がかっこいいと言うのも理解できる程だった。国兵達が歓声を上げている。
炎の龍が魔物に突進する。魔物は炎に包まれた。夕方のオレンジ色はもう闇色へと変わっていた。そんな少し薄暗い中、その炎は熱く周りを照らしていた。
「こんなもんじゃねぇ。喰らいやがれっ!」
《神喰殺音・畏怖竜怒》
魔物の炎から巨大な炎の翼が生えた。さらに、魔物の首筋からは竜の首が現れ、その先にはおぞましい竜の頭がある。
炎の連獄に囚われている。
熱い炎に苦しんでいく。
そして、パァンと言う音と同時に魔物は破裂し、炎はそれによって消え去った。
ドヤ顔でこちらを見ている。それに対して「流石っす。先輩!」と四人の国兵は声を上げ、彼の元へと駆け寄った。そして、彼を囲むように円陣を組んで「おっおっおっおっおっ」と言いながら、跳ねながら回っていた。
「ねぇ、あの人達、何してんの?」
「さぁな。馬鹿の行動を理解しようとしても単なる時間の無駄さ。」
俺の近くではその空気感に着いていけず呆れ返っていた。
因みに、必殺技のガブリと言うのは、神を喰らう時の効果音としてガブリと喰うから名付けられているらしい。正直、どうでもよかった。
◆
風の国には洞穴が多く点在しているらしい。
因習村の付近にあった洞穴よりも長く空洞がある洞穴に、俺らは野宿することになった。洞窟ではないのである程度進めば、壁にぶつかった。
洞穴の中はとても明るくなった。というのも、イクリールの能力で自在に火の加減を調節できるからだ。普通ならそんなに燃えないだろ、という松明も、今なら大分燃え盛っている。
雨の音が聞こえ始めた。
洞穴の中にいたから気づかなかったが、雨が降り始めていたようだ。雨の影響を受ける前で良かったとひしひしと思う。
木の枝を持って「ねぇねぇ見て見て~」とカシェルが言う。そちらの方を見た。枝の先に火を付けて、口に加えていた。
「煙草の真似」と無邪気に笑う彼女を見て思わず「そこの国兵達とレベル変わらないなー」と呟いてしまった。
何やら、入り口付近が騒がしいような気がした。
近づいてみると、「先輩が消えたんだ」と険しい顔の国兵。
外が何やら騒がしい。些細なことなら雨音で消されるはず。耳を澄ますと喧騒が聞こえてきた。
一人が地面に横たわり雨に打たれている。もう一人は真っ黒な人影に首を絞められていた。真っ暗闇の雨の中であまり何も見えないが、洞穴の松明が確かに締められているそのシーンを映し出していた。
何やらコードのようなものの先端が飛んできた。それが国兵の首筋に当たる。衝突した国兵はその場に倒れてしまった。
怪しい人影が消えた。
俺たち三人に加えて国兵一人がそこに残された。その国兵は虹色の髪をした男。その男が暗い表情を浮かべていた。
彼はただ横たわる国兵達を洞穴に引きずり並べる。その時の彼はどこか無気力だった。
朝日が昇り始めた。
取り残されたミルファクは俺たちのイメージにはない行動をしてきた。頭を垂れてきたのだ。
「俺は亡くなった二人を弔ってから向かいます。火葬するんで時間かかります。」
どこか力無い言葉。そして、彼らしくない言葉使い。それが丸くなった性格と悲しい現状を言い表していた。
「先輩に言われてんだ。身近にある大事なもんを大事にしろって。俺様は先輩に再開して、同じ仲間ができて、心から大事だと思うようになった。だから、悔しいが、俺様が弔ってやらねぇとな。」
独り言のように呟かれるそれはどこか虚しく響いていた。
彼はナイフを取り出してそれを舐めていく。そんなナイフの柄の部分を俺たちに向けて差し出した。
「これは俺様の御守りだ。持ってくか?」
「遠慮する。」彼が舐めて濡れたナイフなど持っていたくない。
彼とは一時的に別れ、俺たちだけで目的地へと目指すことになった。
「道案内はメイサちゃんがする?」
そういう意見が出たため猛烈に反対した。彼女に道案内を任せちゃダメだ。
何やかんやで俺が先頭を切ることになった。
だが、方向だけは分かっても詳しい道は分からない。またもや野宿する羽目になってしまった。
三人で焚き火を囲む。
「旅って大変だね。」
「ああ、そうだな。だが、それも込みで楽しいよ。」
和やかなムードだ。
「解放された感じがいいな。」
その意見に思わず頷いてしまった。
緩やかに燃える炎。昨日と違って勢いはそんなにもない。だが、見ていて心安らぐのは変わらない。
ふと、ポケットに入った紙を取り出した。
「内通者に気をつけろ……か。」
「昨日の事件も内通者の仕業だったりするかもな。」
「可能性はあるよな。」
「ひとまず心しておこう。」
周りを見渡す。闇の中で気配はしない。カシェルの羽による包囲網も異変は感じ取っていないみたいだ。
「明日に向けて、寝ようか。」
◆
小鳥の囀りが聞こえる。
三日目の朝だ。
そこからまた険しい道を進んでいく。ある程度まで行くと、整備された道が見えた。少し先を見ると村のようなものが見える。
今いる子高い位置から見える街並み。
まるで雷の国の景色を見ているようだ。地面はコンクリート。質素な建物が建ち並ぶ。基本的に、マンションやビルなどの大きな建物はなかった。規模的に村ではあるが町のような景色が広がる。
その奥には巨大な工場が存在していた。横に長いコンテナのような建物。そこに併設して立派な建物が建っている。七階建てだろうか。それだけ一際目立っていた。
大通りの道からはすんなりと進めた。普通の遠回りの道を急ぎめで行った方が早かったのでは、とも思った。
村へと入る。そこの住民の半分は作業着のような物を着ていた。それがフウライボウの作業着だと推測できる。
作業着以外に、目立つ服装の人もいた。こんな街中で特攻服を着ているのだ。
「遅かったな」とその男は近寄ってきた。
彼の事を見るや否や、カシェルが「国兵達のことなんだけど――」と紡ぐ。
が、「いい、いい。言わんくて。分ーってる。分ーってるから」と言葉の先を防いでいた。
どうして彼が国兵が死んだことを知っているのだろうか。それに「どうやってここに来たんですか」と、何故ここにいたのか、も疑問である。
彼は、あー、と言って空をチラと眺めた後に視線を戻した。「それが憶えてねぇんだ。気付いたらここにいた。」
正直、信じられない言葉だと思う。
疑いの気持ちが芽生えてきていた。心に双葉が咲いている。
「遅ぇから、先に交渉に行ったわ。対面すらさせて貰えねぇどころか、追い出されちまった。んで、どうすりゃいいか分かってんよな?」
彼はここで話すのはあまり良くないと言って、俺らを路地裏へと呼び寄せた。
「侵入っすぞ。」
彼がゴソゴソとポケットをいじり出す。出てきたのはしわくちゃのフウライボウの見取り図だった。
武器工場や発電所に隣接するその建物は七階建。武器工場とは一、二階と繋がっている。一階にはロビーや受付が存在し、目立つ所にエレベーターが存在していた。社長室は七階。エレベーターからはすぐの部屋となる。目的地はそこだった。
表から行くのは駄目だったらしく、正面突破は厳しいとのこと。つまり、裏からコソコソ行くしかない。「そんために地図があんだ。この矢印に沿って行けば、見つからずに行ける」と豪語していた。
どうして、彼は見取り図を持っていて。人気のない道を知っているのだろうか。
心の双葉が本葉へと変わり果てそうだ。
「まっ、こんなんに時間かけてちゃもったいねぇよな。行くぞ。」
彼を先頭にして進んでいく。
「バレねぇように、静かにしとけよ。」念押しされた。
武器工場の裏門の方へと向かった。
少し錆び付いたボロめの門を飛び越える。
裏口から進んだ先には二階に登れる古びた階段があり、それを使って二階へと上がる。その先の扉は何故か開いていた。
ゆっくりと開いて、床を這うように進む。
ふと隙間から下の様子が見えた。ベルトライン上には鉄のような物が流れていく。よく見ると武器に見える。詳しくどんな武器かは分からなかったが、刀系の武器だと判断できた。
任務の事前に教えて貰った情報によると、風の国の武器の殆どはここで作られているみたいだ。生産性が高く、質も良いらしい。ギルドはそんなフウライボウと提携して利益を上げ、農村部は狩りに一躍買っている。
ドドド、という騒がしい音と共に前方から人がやって来た。フウライボウの人間だ。
思わず立ち上がり後ろを向く。
そこにも人が来ていた。
「待ち伏せか……」とその状況を悟った。
前門の虎後門の狼。横を見ても、蕗穴しか存在しず飛び降りるしかできない。つまり、逃げ道がない。
ふと頭に『王直兵の中に、フウライボウの内通者がいる。気を付けろ』の言葉が過ぎっていった。




