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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第五章 牙姫襲来
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エピローグ⑨

ααααα




 たくさんの声が聞こえた気がして、アルファは目を覚ました。


 まだまだ夜の静かさが続く自室で、何か嫌な夢を見そうだった、とアルファは不安な気持ちになって隣へ視線を向けたが、そこには誰もいなかった。

 最近、ずっと一緒に眠っていたサァフが、駐屯地でサザと一緒にいることを思い出して、アルファは息を小さく吐いた。


 このまま眠ってもいいが、どうしてか不安な気持ちはぬぐえず、すぐにそれは言葉にできない恐怖となった。

 何が怖いのかも自分でわからないまま、アルファは布団に潜りこむが、目を瞑ると、また自分を呼ぶ声が聞こえそうな気がして、ついに跳ね起きた。


 ベッドから抜け出して、そっと自室から出ると、すぐ目の前の部屋の扉を叩こうとして、やめた。また、その隣の部屋にも目を移したが、顔を背けた。

 お姉ちゃんやファングの邪魔になるかも、と考えた直後、階下から水の流れる音が聞こえてきた。

 父が水でも飲んでいるのかもしれないと思い、階段を降りたアルファを、予想通り、そこにはゼットの姿があった。

 彼はアルファに気が付くと、手を布巾で拭って、近寄ってきた。


「どうした?」

「えと……」


 怖い夢を見たから、誰かと一緒にいたい、なんて言いだすのが恥ずかしくなり、アルファは黙りこくってしまった。

 ゼットは優しい眼差しで、続きをいつまでも待っている。


 やがて、アルファが意を決して顔を上げ、


「そ、その! 久しぶりに、パパと一緒に寝てあげてもいいかなーって思って!」

「ん?」

「ほ、ほら! サァフお姉ちゃんがサザさんと再会できて、今は駐屯地で一緒に寝てるでしょ? 私は最近サァフお姉ちゃんと一緒に寝ていたけれど、パパはずっとずっと一人だったでし、寂しいかなーって考えたの!」


 首を傾げるゼットに、アルファは自分の心の中がどうかバレませんようにと焦りながら、もっともらしい理由を捻り出し、大げさな身振り手振りでそれらしく伝えた。


「だから、今日は一緒に寝てあげる!」


 アルファがむすんっと胸を張ると、ゼットは目を丸くしたが、すぐに口元を綻ばせた。


「そうだな。日の出までまだ時間はあるし、折角だから、久々に一緒に寝てもらおうかな」

「えー? もー、しょうがないなー」


 お姉さんぶりながら、アルファはゼットの手を取った。


「じゃ、今日は私の部屋で寝よっ!」

「俺が入ったら狭くないか?」

「大丈夫だよ!」


 その後、アルファは、数年ぶりのゼットの腕枕をしてもらった。


「腕、痺れない?」

「痺れねえよ。もう寝なさい。待ちに待った休日だろ?」

「……うん!」


 怖さも不安もさっぱりと忘れたアルファが再び寝入ったのは、すぐのことだった。

 彼女が目を覚ますまでに見た夢は、リリアンやミスロ、アンジュたちと一緒に、診療所で楽しく過ごしている、穏やかな日常風景であった。




 寝付いたアルファを眺めながら、ゼットは空いている方の手で、アルファの背中を軽く軽く叩いてやっていた。


「なぁ、ヴァンドラ」


 アルファを起こさないような声で、ゼットが私の名を呼んだ。


「ファングが言うには、もう一人ウチの弟子が来ているらしんだが、どこかわかるか?」


 わかるが、どうして私がやらねばならない。分身を宇宙中に放っているのだから、自分で探せばいい。


「色々と制約があるだろう?」


 その制約を着けた本人がさっき取り下げたぞ。


「俺からの依頼ってことで」


 依頼と言えば何でも通ると思うなよ。


「ワッフルとバニラアイスを昼食のデザートに着ける」


 そんなもので釣られると思うな。

 だが、偶然にも、それらしき人物を見かけることがあるかもしれない。

 その場合でも、その報酬はもらえるのだろうな?


「あぁ、わかってる。ちゃんとデザートは用意する」


 ゼットは苦笑すると、それから空がうっすらと白み始めるまで、アルファの寝顔を眺めながら過ごしていたのだった。


 さて、私はまんまと奴の口車に乗せられてしまったが、約束は守る奴だ。

 報酬の甘味への期待が高まる中、私は早速、世界中へ広げている監視網に、怪しい動きをしている人物が映っていないかを確認し始めた。




AAAAA




 海の波が打ち寄せる浜から、砂の荒野は続いていた。

 草木一本も生えていないが、ぽつりと、人口建築物の跡が岩山のように砂から顔を出している。

 雨や潮風などに晒され続け、補修を長く受けてこなかったため大部分が破損し、崩れ落ちているため、旅人がこれをもし見たとしても、不思議な形の岩くらいにしか認識しないだろう。と言っても、この地に旅人が訪れることは、決してないだろう。

 ここは、忘れ去られた街。


 そこは誰も知らない場所。

 ラトゥスの存在する大陸から、海を遠く隔てた先にある大陸の、とある沿岸部に存在する太古の遺跡。


 きっとこの地に誰かが来る頃には、この遺跡の風化はさらに進み、未知の建造物だと知られる前に消え去ってしまうのだろう。


 しかし。

 この遺跡に、神々の思惑や予想さえも乗り越えて、この世界の誰よりも早くたどり着いた者がいた。

 その不敵な人物は遺跡の奥から、容赦なく照りつける陽光の下へと出てくると、大きく背伸びをした。


 クセのないセミロングの黒髪と、黒茶色の瞳。彫のない幼く見える顔立ちに対して、背丈はそこそこある。

 少女のようにも、少年のようにも見える旅装束の人物は、直視すれば目を損傷するほどの太陽光をものともせず、空を見上げた。


 そして、ふと、何かに気が付いて。


「少し遅れると伝えてください」


 そう言うと、まるで幻のように、その姿を忽然と消したのだった。






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