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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第五章 牙姫襲来
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エピローグ⑦ フラクタル・シュート


 すると、ベルの目の前に、突然、無数の光の点が浮かぶ、真っ暗な世界が現れた。それは、今、見ているアスカスの夜空と重なりながらも別々に認識できており、何かを頭に思い描いている時と似ていながら、妄想や夢などではない、確固とした現実感があった。


「何これ?」


 ライカが手を目の前に翳したりしながら驚いているので、どうやら彼女にもこの光景が見えているようだった。


「あぁ、どうやら、妖精モドキさんが見せてくれているようですね。ミスロも見えているでしょうし。ブディさんは自前で見えていますか?」

「え? あ、はい」


 よくわからないが、自分たちに味方をしてくれている何者かが、どこかの風景を見せてくれているのだろう、とベルは予想した。


 そしてそれは、外れていない。




 さぁ、御覧じろ。

 ミスロ、ライカ、ベル。

 逆さ、ブディ、そしてこれを見ている女神と、その妹や仲間たちよ。


 このヴァンドラ、依頼主の仕事を、皆に漏らさず届けよう。




 青く輝く、美しい水の惑星を背に、金色の襟巻(マフラー)を纏う赤い鎧の騎士が宇宙で佇んでいた。

 ()は、襟巻と同じく金色に輝く目で、我々には感知しえない、超・超超天文学的距離に出現しようとしている存在を、場所や時間を問わず、全て捉えていた。


『……多いわね』


 騎士の隣に、いつの間にか、薄手の服を纏った、鎧姿の少女が浮かんでいた。


『……私やお姉様たちでも、これだけの数は、正直、厳しい。と言うか、きっと……』


 彼女は光輝く剣を握りしめ、悔しそうに俯いたが、やがて意を決したように顔を上げ、赤い鎧の騎士へと体ごと振りかえった。


『虫のいい話だってことはわかってる、私の我儘で散々振り回してきたんだから、怒っても当然の話だわ……』


 少女の顔に浮かぶのは、後悔と、恐怖と、悲しみであった。


『それでも、お願い……お姉様たちを、この宇宙を……この星に住んでいる命を守って』


 少女の嘆願に、騎士は静かに頷いた。

 そこには、怒りや含むものはなかった。

 ただ誠実な、優しさと力強さがあった。


 少女は、両目尻に浮かんだ涙が、丸い水滴となって宇宙空間へと浮かんで、すぐに光の粒となって消えるのを意に介さず、グッと堪えた様子で目を瞑り、やがて開いた。

 もうその時には、戦いの女神の如き、正義と勇気に満ちた顔になっていた。


『……頼んだわよ、ギルフェンセィア』


 そう言って、少女の姿は一瞬で消えた。


 また一人になった騎士――――赤い鎧のギルフェンセィアは、弓と矢に似た形をした光をいつの間にか手にしていた。そして、本物のように、弓へ矢を番え、構えた。


 すると、今度は、矢じりに当たる部分から先に、大きな光の輪が幾重にも出現した。

 幾何学模様にも見えるそれらを、もっとよく観察してみれば、おかしな部分に気が付く。

 輪は、どこか赤みを帯びた金色であった。

 そして、もう少し見つめて、ようやく違和感の正体に気が付くだろう。


 矢を潜らせるように現れた光の輪が、小さな赤い鎧の騎士たちで構成されているのだ。

 さらにその小さな赤い鎧の騎士たちもまたそれぞれ弓矢を構えており、その先端には、また光の輪が出現しており、よく見ればそれらも赤みを帯びた金色に輝いていた。

 どこまでも、どこまでも、それは原子核よりもさらに小さく、もっと小さな世界にまで及んでいた。


 合わせ鏡のように、無限の小さな騎士たちで構成された円環(ループ)を前に、本体である赤い鎧の騎士が狙いを定める。


 ふと、騎士が背を向ける水の星に、いくつかの小さな点が生まれる。大陸に数か所、少し離れた陸地にもいくつか、そして海の上で、騎士が放つものと同じ輝きが、宇宙から観測できる。

 それだけではない、もしも他の惑星や衛星を見ることができるのであれば、いくつかのそれらからも、同じ輝きが、一つの星にやはりいくつも見受けられるだろう。


 全宇宙で、紅の騎士と、彼が構える矢の前に出現した無限の騎士による輪が、一斉に輝き出した。




『フラクタル・シュート』




 その時、ついに、宇宙の至る場所から、名状しがたい存在や、大いなる者、神々しき感覚を嫌が応にでも感じさせる何かが、大量に現れた。その瞬間から世界が閉じるほどの脅威が宇宙を壊す……ことはなかった。


 一瞬にも満たない、だが確実にそれらを感じ取った侵略者たちは、宇宙中から狙いを定められている事を、その金色の輝きを知ることもなく、故に引き返すこともできずに、一柱も残る事なく、消滅した。




 赤い鎧の騎士が放った矢の一撃は、無限の一撃となって、宇宙を、人類が見つけたどのような法則も無視した速度と軌道を以て、邪神の軍勢へと襲いかかった。

 そしてそれは水の星からだけではなく、宇宙全体、ありとあらゆる場所から出現しようとした邪神の軍勢を、全て葬りさった。


 無限に続く無限の光が、宇宙中を真っ白に染め上げる。

 しかしそれは誰の目に留まることもなく、誰に知られることもなく。

 つまり、この宇宙に襲いかかろうとしていたあらゆる脅威はその予兆さえ知られることなく、淡い光の粒となって、消え去った。


 騎士は、全ての脅威が去った事を認識すると、忽然と姿を消した。

 先ほどまで、そこに人智を超越した存在がいた気配は微塵もなく、水の星も、宇宙も、普段通りに活動を続けていた。




ZZZZZ




 誰も観測できないはずの、一連の出来事。


 唯一、騎士が背負う水の惑星でだけ、この光景を観測した者たちがいた。


 その一人、ベルは、視界が元に戻っても、しばらく呆然自失になっていた。

 言葉にできない。

 見つからない。

 何なのだ、あれは。


 アレは、一体、何なの……。


 それが、ベルがまず思い浮かべたこと。

 今、見てきた全てが、ベルには理解できないことだった。


 だが次に、浮かんできた言葉は、心にとどめておくことができず、ついに口からついて出た。


「今のは、神様?」


 まるで、お伽噺に出てくる伝説の騎士ケンドゥスのような、女神セルフィナやその姉、兄妹、友人のような、自分の想像を遥かに超えた存在を、ベルは目の当たりにした。


 幻ではない。

 きっと全員が、同じ光景を見ていたのだ。


 その証拠に、ライカやミスロの声は聞こえない。

 だが、聞き覚えのない、くつくつと笑いを堪える声がした。


「は、は、ははは……うふふふ……あははは……や、やっぱり……全然、全く、弱くなってないじゃないですか……ベルテス様、アーカイム様、これ、私たち、詰んでますよ。あ、通じないんでしたね……ははは、終わったぁ~……」


 あ、逆さだった。

 ベルは目も向けずに、頭の片隅でそう考えた。

 腹の立つ相手よりも、今は先ほど見た、あの赤い鎧の騎士の事を考えていたい。


 涙が出てきそうなほど、美しい、大きな水色の球体を背にした、凄まじき騎士を。

 しかし、もう一人の騎士の声によって、ベルの意識は現実へと引き戻された。


『我が師は、以前健在です。それと』


 ふと、眩しさを感じたベルが緑の騎士へと目を向けると、彼女もいつの間にか、その両手に光り輝く弓と矢を持ち、逆さへ向けて構えていた。光の輪こそなかったが、それを見た逆さが球状の兜の奥で目を丸くしていた。


『私も、同じことができますので、本当に下手なことは考えもしないように』

「……あ、はい」


 気の抜けた返答をした逆さは、上半身を石畳へ倒れ込み、五体を投げ出した。


「……これ、あの未熟者のお嬢さんが我儘を言っていなかったら……」

「今頃、私たちはこうやって話し合う事さえできなかったですね」


 逆さの言葉を、マントの少女が継いで口にした。


「逆ささん……私はこれから、ミスロさんたちを助けるために、しばらくこの星で暮らします」

「そうですかー。私はそうですねー……何しましょうか?」

『貴女は私の仲間に引き合わせます』


 会話に割って入ってきた緑の騎士の、有無を言わせぬ様子に、逆さは上半身を恐るべき速さで起こた。


「まだいるんですかァッ?!!」

『えぇ。私の弟弟子です。あぁ安心してください。怒らせたら私より怖いですが、大人しくしていれば、私よりは優しい対応をしてもらえる可能性はありますよ』


 緑の騎士が、ベルたちへと初めて振りかえった。

 金色に輝く両目が、兜の奥からベルを見下ろしていた。

 若草色の鎧と、それを照らし出す干し草色の襟巻を纏う姿は、ベルに英雄という存在として強く刻み込まれた。


「助けてくれて……ありがとう」


 自然と感謝の言葉が出た。


『……』


 兜に覆われているはずなのに、恐らく少女であろう騎士が、微かに笑ったような気がした。

 騎士は、ベルたちへ再び背を向けると、赤い騎士と同じように、その場から前触れもなく、忽然と姿を消した。


 残された満身創痍のベルたちは、どうにか立ち上がって逆さを拘束しようとしたが、彼女とオートバイも姿を消していたので、大いに慌てた。

 しかし、マントの少女が、


「先ほどの方が一緒に連れて行ったので、大丈夫です」


 と言ったので、一応、信じることにした。突っ込む点が多かったが、ミスロは彼女の言葉に賛同していたので、ベルも野暮な事は言わないことにした。


 こうして、ベルが神を自称する超常の存在や、それと戦う者たちと出会った夜の死闘は幕を下ろした。


 しかし、あれほど何度も大騒ぎをして、まばゆい光が溢れていたのにも関わらず、翌日の街は平穏そのもので、住人達も、誰一人全く昨夜のことなど知らないようであった。


 騎士団が後で調べたところによると、起きている者たちもいたそうだが、誰も外から声など聞こえておらず、暗いが、穏やかで静かな夜を過ごしていたという。


 それについて疑問に思ったベルやライカたちへ、ミスロから新しい仲間だと紹介されたマントの少女改め、ブディが教えてくれたのは、


「逆ささんも、元々は良い女神だったんです。ちょっと、性格が意地悪になってしまいましたけれど」


 と言うことで、あの場にいたベル、ライカ、ミスロ、ブディ以外は、誰もその存在はおろか、出来事さえ認識できないようにしていた、とのことだった。そして、人質にしてはいたが、アスカスの住民に被害が及ばないようにも手を回していた、らしい。


「どういう手段を使ったらそんなことができるの?」

「神様を自称してるんだから、それくらいできるんでしょ」

「……それもそうか」


 本当に訳がわからなくて、ベルは首を傾げたが、まぁ神様だから、と無理やり納得することにした。ベルの人生で数少ない、思考放棄だったが、誰も責めなかった。責められるはずもなかった。


 こうして、ユーフィッドも含めれば、王国で五度目の怪物出現の騒動は、その場にいた者たちだけが体験した、凄まじい戦いとなった。





フラクタル・シュートのイメージは、ディケイドとディエンドのディメンションブラストです。

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