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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第五章 牙姫襲来
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エピローグ①

 夜、ライカとベルは夜の街を回っていた。

 サザによる一悶着はあったが、さほど大きな騒ぎにならずに済んだ。

 おかげで、全く問題なく夜警の仕事を遂行できている。

 姉のサァフが絡んでいた事件の時の方が、連日だったこともあって、心身共に疲労したくらいだった。

 そのサァフは今頃、医務室でサザと仲良く眠りについているだろう。そう考えて、ベルは複雑な心境だった。


「姉妹が再会できたのはよかったけれど、あれでよかったのかしらね?」


 だから、ライカの疑問に、ベルもすぐに答えることはできなかった。

 隊長と副隊長へ報告してから、少し休憩している間にサザへの対応が返ってきた。普通ならそれなりの刑を与えるところなのだが、中身はまさかのワンダー診療所送りだった。

 サァフの時と言い、最近は面倒そうな手合いの収容所と思われているのだろうか。


 だが、それもまた仕方のないことなもかもしれない、とベルは思う。

 大声では言えないが、ゼットはある理由から国王から信頼を得ている上に、自分たちの剣と兵法の師でもある。サザが仮に悪意を隠していたとしても、暗示をかけられていて、何かのはずみに殺人鬼に変貌したとしても、ゼットならしくじることはないだろう。


「私たちがどうこう言える話じゃないわ……多分」


 思うところはあるが、サァフとは姉妹であったし、サザ自身も、悪い人間には見えなかった。

 サァフ自身の普段の素行も良い為、二人一緒に置いておいた方が、何かと騎士団としても都合が良いというのはわかる。

 だから、自分たちが口を挟むようなことでもない。


「それに……命令だし」


 ベルが苦笑すると、ライカも「それもそうね」と頷いた。

 そんな事を話しながらも、二人は周囲に目を向けている。


 夜間外出禁止令が出てからというもの、酔っ払いが綺麗サッパリ消えたので、見えていないところで泥水して凍えていないだろうか、という心配をしなくて済むようになった。


 学校建築などの際に行われた改革のおかげで、浮浪者も職や家を得ている。

 盗人も、改革の影響で激減した。今では、街の外からやってきた者が起こすかどうかだ。そして幸いなことに、現在、そう言った輩は出ていない。


 驚くべきことに、初日から、皆、行儀よく夕方以降は家で静かに過ごしていた。


 自分たち騎士以外で、屋外へ出ている者は、誰一人としていない。

 まるで、皆、魔法にかかって、従っているように。


 そんな事を考え、また無人の街に迷い込んだのかと考えて、ライカは周囲の気配を探るが、住民たちの眠っている気配はあった。

 あの時の出来事からまだ抜け出せられていないなぁと、小さくため息を吐いてしまう。


 大半の市民が寝静まった街は、とても静かで、廃墟を歩いているような、不思議な気分になる。

 あの、それなりに騒がしかった夜が、遠い昔の出来事のように思えてしまった。


「何だか、十年前に戻ったみたいね」


 ふと、空を見上げたベルがそうつぶやいた。


 街の灯りがほとんど消えたため、夜の空で瞬く星がよく見えるようになった。

 まるで、空に海があって、月の光で瞬いているようにも見えなくない。

 色白の、光の帯もいつもよりもよく見える。

 女神セルフィナたちが利用している、天空の輝く川だと、幼い頃から神話で慣れ親しんでいるものだ。


 十年前、まだ見習いだった頃は、野外での訓練などもあって、よく見ていた。

 アスカスに来てからは、夜中でも街が微かに明るいので、ここまではっきり見えることはなかったため、ライカもベルの言葉に「そうね」と追従した。

 と、ベルが、


「……十年前のあの日は、星がたくさん降り注いでいたわね」


 懐かしさを露わにした声音で言った。


「たまに、たくさん星が降る夜もあったけれど、あそこまで数が多かったのは、あの夜だけだった」

「その上、山から光の柱が立ち昇って、世界の終りじゃないかって、騒ぎになったものね」

「私、怖くてエールにしがみついてたけれど、エールったら、きれーとか言ってのんびり見てたのよ?」

「そしてその近くで私とゴードンたちで村人が錯乱しないように避難誘導していた訳だけれど」


 ライカとベルは同時に噴き出した。


 その時、二人の耳に、どこからともなく、不思議な物音が聞こえて来た。


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