chapter67 牙姫襲来③
少し短めです。
アンジュとコーシェは驚きと称賛の言葉をかけ、ゼットに送られて診療所を出た。
二人で留守番をすることになったアルファとファングは、居間で仲良くお茶を飲んでいた。
「って、ファング、お家は?」
「私、今日からここでお世話になりますの」
「そうなの?」
「えぇ。もちろん、家事の手伝いなどはさせていただきますわ」
「それはいいけど……」
そこで再び、ゼットとの関係性に疑問を抱き、アルファはファングを見やった。
「ファングは、パパとどんな関係なの?」
「弟子と言ったでしょう。と言っても、三番目の弟子、ですが」
「三番目?」
「えぇ。私の前に、二人、弟子がいますの。そして、私の後に、たくさんいますわ」
ファングに、嘘偽りを言っている様子はない。
自分の知らない父親の話しに、アルファが遠い世界の物語を聞いているような、不思議な気分でいると、ファングはカップに口をつけて、
「その中に、貴女やアンジュたちがいらっしゃるのですわ」
言われて、アルファははたと気づいた。
ファングと自分へのゼットの接し方に、違いはなかった。それは多分、アンジュやコーシェにも言えることで、自分やアンジュよりも以前から教えているミスロたち騎士も同様で。
自分がゼットを取られたと思ったように、ファングもまた、自分にゼットが取られたと思っていたのではないか。
色々な事が頭の中を駆け巡った。
「どうかしましたか?」
「うぅん……つっかかっちゃって、ごめんなさい」
少し恥ずかしくなって、アルファはファングへ頭を下げた。
「パパをファングに取られちゃうって、思ったら、居ても経ってもいられなくなったんだ」
「……ゼットが貴女を捨てるなんてこと、あり得ませんわ」
だが、ファングは呆れたように半眼になった。カップは口元のまま続ける。
「それと、貴女がどう思っているかは知りませんが、私とゼットは師弟関係ではありますが、友であり、家族でもあります。そして貴女が彼の娘であるなら、貴女もまた、私の身内の一人なのです」
そんな事を言われるとは全くもって考えてもいなかったアルファは、目を見開くことしかできなかった。
「それに、貴女の年頃でそれくらいの嫉妬、別に珍しくなんともありませんわ。やり方は少々考え物ですが、その辺りは反省して修正すればよいのです。むしろ、陰湿な方法でやってこなかっただけ、私としては評価に値します」
いや、そこは真正面からだろうと怒って良い気がする、と思ったが、アルファは口に出さなかった。
「今回、勝負を持ちかけられた私が良いと判断したのです。貴女が反省して今後に活かすのであれば、それで十分。まだ何かありまして?」
「……うぅん」
よくわからないけれど、思っていたよりも、ファングは優しい、とアルファは心の中で独りごちた。
「それとアルファ。私の方が貴女よりも年上ですよ」
「え? そうなの?」
そう言えば、ミスロたちが自分の後輩と言っていた。
ミスロたちがゼットに教えられたのが、十年ほど前。
それよりも前だとしたら……。
「ファングって、一体何歳なの?」
「そこまで教える必要は感じられませんわ」
「……お姉ちゃんって、呼んだ方がいい?」
「ファングで。なんだかむず痒くなりますから」
そんな風に会話をしているうちに、アルファはファングへとかなり懐いていた。
ゼットが帰ってきた頃には、ファングの隣に座って、彼女に若干鬱陶しがられていた。
「ゼット、この子を引きはがすのを手伝ってもらえませんこと?」
「お前一人でできるだろう? 随分と懐かれてんじゃないか。ゼットはクールに去るぜ」
「ふざけてないで、助けなさいな。こらアルファ、貴女も少しは離れなさい」
「じゃあ、明日、また手合せしてくれる?」
「わかりました。わかりましたから」
こうして、アルファに新しい家族兼ライバルが増えた。
次回より、エピローグです。




