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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第一章 ワンダー診療所へようこそ!
8/91

chapter7

 翌日。

 今日も今日とて無事に学校が終わり、アルファはリリアンと一緒に帰路へと着こうとして、大広場の一画に人だかりができているのが目に入った。


「何かな?」

「ニュースかしら?」


 好奇心の塊となった二人は人だかりへと近づき、小柄な体を活かして人々の間を縫って前へと進んでいく。アルファは誰にもぶつからず、リリアンは一言謝りながら最前列へと進むと、高台に上がった道化師がいくつもの玉を落とさず、流れるような動作で投げているところを目にした。


「さぁさ、何度も言いますが、明日! この広場で私たちのサーカスをお楽しみください! 明日からですよ! くれぐれもお見逃しのないように! できれば全日来ていただけると(わたくし)とっても助かります!!」


 ピエロから、良く通る女性の声が発せられる。

 その手が大きく広げられた途端、投げられていた玉が全てピエロの頭上に落ち、その光景に集まっていた人々が笑った。


「サーカスだって!」

「明日はお休みだし、見に来ましょう」


 ひとしきり笑った後、アルファとリリアンも顔を見合わせる。

 と、玉を拾い集めたピエロが二人に目を留めた。アルファは靴先に玉が落ちていることに気が付き、それを拾ってピエロに渡す。


「はい、どうぞ道化師さん」

「ありがとうお優しいレディ。私としたことが見逃してしまいました、たはは」


 そう言って手を捻ると渡されたボールが消え、代わりに小さな花が現れ、拍手が起こる。


「これを貴女に、どうかお受取りください」

「ありがとう!」


 花を受け取り、アルファはリリアンの隣へと戻った。

 もう一度手を大きく広げ、ピエロはその声を大広場全体にのびのびと響かせる。


「それではどうか! また明日、明日から、どうかどうか皆さま、この場所へ足をお運びになってくださいませ!」


 そう言うなり、ピエロは高台から飛び降り、傍でサポートをしていた団員達と一緒にえっちらおっちらと台を運ぶ演技をしながら大広場を去って行った。それを見てまた笑いが漏れると、見物人たちもそれぞれの用事へと戻っていく。

 アルファももらった花を手にリリアンと歩き出したところで、見知った顔に出くわした。


「あぁ、こんなところにいたか!」

「ミスロお姉ちゃん?」


 ミスロは首を傾げる二人を一瞥し、周囲を見回す。ミスロ以外にも、軽装姿の男女数名が大広場にやってきた。巡回中の騎士たちのようだが、普段よりも忙しない様子に、アルファとリリアンも不安になって首を傾げた。


「どうしたの?」

「いや……なんでもなかったようだ。それより、こんなところで何をしているんだ? 寄り道はあまり関心しないぞ?」

「ごめんなさい。サーカスの予告を見てたの」

「あぁ、そうか、そうだったな」


 仲間たちに手を軽く挙げると、ミスロは二人に振り返り、腰に手を当てて苦笑を浮かべた。


「早く帰りなさい。ゼットとアンジュの手伝いもあるだろう? リリアンも、父君がお前を恋しがっているに違いない」

「そうだった!」

「わかりました、ユーフィッド様ぁ」


 二人はささっと帰り支度を整え、ミスロに手を振って小走りに大広場を後にした。


               ααααα


 アルファたちを見送っていたミスロの下へ、同僚の女性騎士ライカがやってきた。


「ミスロ、どうもサーカス団が宣伝に来ていただけみたいよ?」

「そのようだな。連絡にあった、旅の一座か」

「えぇ。全員の名前と出身に怪しいところは見受けられなかったって話だけれど……」

「どこにどう抜け道があるかわかったものじゃないからな」


 全く、困ったものだと二人は内心でそう零す。


「ライカとエールは西区を、私とベルは南区を、バートとロックスは東区を頼む」

「了解」


 指示を受け、騎士たちがそれぞれ相方と一緒に散っていった。

 ミスロも相方に指名した騎士ベルと共に、南へと続く大通りを小走りに進んでいく。


「ねぇ、もうラトゥスへ向かったってことはないわよね?」

「ファドェセサが警戒態勢に入っている。それが解けるか、抜け道を見つけるまではここにいるだろうさ」

「そう願いたいものねぇ、まったく」


 軽口を叩くベルも、ミスロの顔にも、笑みはなかった。



               ααααα



 静まり返ったアスカスの街の一画。

 月明かりが遮られた暗い一室で、二人の影が静かな声で話し合っていた。


「……それで、抜け道は見つかったのか?」

「いや、まだだが、もう少しで見つかる。合図を送る。例の場所で落ち合うぞ」

「わかった」

「……くれぐれも、バレるんじゃないぞ? バレたら俺たちの首が飛ぶだけじゃ済まないんだからな?」

「心配はいらない。情報が漏れたのは想定内だし、見つかっても私なら目撃者を消して合流できる」

「ならいいんだがな。お前の剣が、この作戦で切り札になり得るんだ。ヘマするなよ?」


 念押した方の影が部屋の窓から音も無く飛び出る。その着地を見届けることなく窓を閉めたもう一つの影が、ベッドに腰掛け、小さくつぶやいた。


「ヘマなんかするものか。そうよ、私は……敵も失敗も全部、音もなく消せるんだから」


 不穏な言葉に答える者は誰もいない。


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