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機巧のギルフェンセィア 天使の子守歌  作者: 胡桃リリス
第五章 牙姫襲来
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chapter64

 その後のサザの行動は素早かった。両親に、しばらく旅に出かける旨の置手紙を残し、旅装束に着替えると、ターンと共に窓から飛び出していた。


 しかし、目的地までは、早馬を使ったとしてもかなりの日数がかかる。その間に、父親の息のかかった捜索隊が追いついてくるかもしれないし、何よりも関所を抜けることができないため、必ずどこかで行き詰ってしまう。

 そこで、ターンは密偵たちが使うという秘密のルートを使う事を提案。

 さらに、問題の足に関してだが……ターンは、見たこともない、とても小柄ではあるが、鋼を纏った、頭のない奇妙な足の馬を用意した。

 サザは前に座ったターンに言われるがまま、おっかなびっくりしながら馬の胴体を太ももで挟み、彼女の腰へ手を回してしっかりと掴まった。


「これを使えば、関所までは半日もかかりますいまい」


 ターンが鞍の先端、両側から伸びている取っ手を握ると、馬は聞いたこともない、地鳴りのような嘶きを上げ、サザが生涯感じたことのない速さで駆け出した。


 最初は驚いて目を瞑っていたサザだが、慣れてきた感覚と共に目を開けると、景色が後ろへと飛んでいる鳥よりも早く過ぎ去っている光景に、あ然となった。

 普通の馬にしか乗ったことがないが、きっと、伝説に出てくるどんな駿馬よりも、この馬は速いと思った


「ターンさん、これは一体……」

「あぁ、あまりしゃべらない方がいいですよ。舌を噛みますので」


 ターンに言われた通り、サザはしばらく黙っていた。

 これから姉の敵討ちに行こうとしているのに、信じられない体験に、サザは奇妙な胸の高鳴りを覚えた。


「ウェーレ王国には、こんな馬がいるんですね……」

「セロウと言います」


 聞いたこともない名前だが、妙に心地よい響きだった。

 そして、しばらくそうやって走り続けていると、ターンの言う通り、昼前には国境近くまでたどり着くことができた。

 ここに着くまで、誰にも出会わず、見られなかったことは、幸いと呼ぶべきだろう。


 こんなことがありえるのかと驚くサザへ、ターンは振り返りもせずに笑った。


「世の中には、不思議なこともございましょう」

「えぇ……姉が生きていたのなら、さぞ驚いたでしょうし、喜んだと思います」


 きっと、あの姉はセロウを気に入るだろう。

 願わくば、あの世に行った時、こんなこともあったと、姉に伝えよう。

 そのためにも、これからの敵討ちをしっかり果たそう……サザは心に強く誓った。


 そんな時だった。

 前方への強い圧力がかかったかと思うと、ターンがセロウを止まらせた。


「どうかされたのですか?」

「申し訳ありませんサザ様。邪魔が入ります」

「え?!」


 どこにもそれらしき姿は見えないが、恐らく、ターンの密偵仲間だろう。

 このままでは、ターンも自分も危ない。下手をすれば、自分のせいで家族に迷惑がかかる、と今更ながらに危惧を抱いたサザだったが、それはターンの言葉で霧散した。


「私が時間を稼ぎます。貴女は関所を通りなさい」

「木札はどうするのですか?」


 ターンはサザの耳元へ口を寄せると、とある単語を伝えた。

 それが、関所を木札なしで通り抜ける符号であることを、サザは瞬時に悟った。


「サザ様……身勝手な願いではありますが、どうか私の分まで、サァフ様の仇を……!」


 柔らかく微笑んだターンは、サザを降ろすと、セロウと共に土煙を上げて元来た道を引き返した。


「……ターンさん、わかりました。お願いします!」


 サザはターンの無事を祈りながらも、姉の仇がこの先に待ち受けるのだと気を引き締め、関所へ向かって駆け出した。




SSSSS




「――――それからは、徒歩か、何度か馬を借りてアスカスまで来ました」


 アスカスの騎士団駐屯地の医務室で、サザはこれまでの経緯を説明していた。

 とても信じられない話でしょうが、と締めくくったサザへ、サァフ、ベル、エールが訝しんだ表情を浮かべた。


「確かに信じられないけれど……うぅん、いえ、信じるわ」


 ベルの言葉に、サザだけでなく、サァフとエールが驚いた。


「信じていただけるのですか?」

「まぁ、色々あってね。現に、早馬の駅伝を使わずにウェーレ王国の中央からアスカスまで、たったこれだけの日数で来ているんだから、もうそう言うもんなんでしょう、としか」

「けれど、ウェーレにそんな馬がいるなんて聞いたことないぜ? そんな凄い馬がいるなら、暗部が一頭も手に入れていないはずがない」

「うーん、その辺は置いておくとしてぇ」


 今すべき議論はそこじゃないと、エールが待ったをかけたことで、サザの話へと全員の意識が戻った。


「それで、サザ。不法入国と市街地での抜剣、及び公務執行妨害についてなんだけれどね」

「はい」


 サザは神妙な面持ちになった。

 サァフが何かを言いかけたが、ベルが肩に手を置いてそれを制した。


「上からの正式な通達よ。サザ、貴女はワンダー診療所で住み込みで働くこと、だそうよ」


 下された沙汰に、サザは、そしてサァフも、目を丸くして固まった。


「あの……処罰は……?」

「だから、今のが処罰。というか、ちょっと色々と今アスカスも忙しくてね。それに、サァフの知り合いで訳ありみたいだし……とまぁ、本当に色々あるのよ」


 エールが後ろ頭を掻きながら言って、サァフとアルファを手でさした。


「ワンダー診療所は、そこにいる女の子アルファの家よ。それで、サァフは今そこで働いているの」

「姉さんが?」


 軽く握った拳を口元に持って行って驚くサザに、サァフは色々とあったんだよと苦笑を返した。


「それで、どう? その気なら、うちの副隊長がウェーレのご両親へ連絡を入れてくれるそうだけれど」

「そこまでしていただけるのですか?」

「まぁ、色々と打算はあるけれどね。それで、どう?」

「数々の無礼を働いた身に、ありがたい申し出ですが、その、私は簡易的な治療しかできません。お医者様のようなことはできないのですが……」

「それなら安心して。サァフだって、できているんだから」

「んだとこらァ」


 エールのあっけらかんとした言動に、サァフが目くじらを立てて凄んで見せるが、エールはどこ吹く風だった。


「姉さん……少し見ない間に、乱暴な口調になって……」

「でも、優しいよ」


 エールへと突っかかるサァフへ、アルファが優しい目を向けているのを見て、サザは笑みをこぼした。


「うん……知っているわ。私の姉さんだもの」


 ベルが仲裁に入り、サァフが落ち着いたところで、サザがエールたちへ質問を投げかけた。


「姉は騎士に殺された、と言う話しをターンさんから聞きました。しかし、こうして姉は生きています。密偵の彼女がその辺りでしくじるとは考えにくいのです。どこで、食い違いが起きたのでしょうか?」

「その辺りも、こちらで調べるわ」

「それよりも今日はしっかりと休んでおきなさい。明日からゼットさんの所でバリバリ働いてもらうから」


 自分と敵対したはずのベルが楽しげにそう投げかけてきたことに、少し不思議な感じを覚えながら、サザは素直に頷いた。


「姉さんが生きていて、こうしてあえて……まるで夢みたい」

「夢じゃないさ。アイツらの言う通り、今はもう少し寝てろ」

「うん……」


 短く返事をすると、サザはあっという間に規則正しい寝息を発し始めた。

 彼女が眠りへと入ったのを確認すると、エールはアルファとサァフへ顔を向けた。


「さて、朝までこちらで面倒を見るから、二人は帰っていいわよ」

「ああ」

「サァフお姉ちゃんは、もう少し残ってあげたら?」


 サザに何度も視線を向けるサァフへ、アルファがそう提案した。


「いや、けど私がいたら迷惑になっちまうし」

「別にいいわよ?」

「いや、私もこいつも一応はアンタらに敵対していた身で、しかも姉妹だぞ……いいのか?」

「もしアンタたちが今更結託して何かしでかしたからって、どうにかなる軟な奴はこの駐屯地にはいないわよ」


 エールがヒラヒラと手を振って笑い、サァフは額に青筋を浮かべて掴みかかろうとするのを、ベルが後ろから羽交い絞めにするという光景を他所に、アルファは騒ぎの中でも熟睡しているサザを見てほほ笑んだ。


「よかったね……家族に会えて」


 その横顔に、一抹の寂しさを浮かべたことに気付けた者は、その場にはいなかった。


この馬イクはターンさんのトンでもスキルのおかげで補給と整備を必要としませんし、いかなる地形に影響されません。ついでに後ろの搭乗者にも快適な乗り心地と安全を約束。エンジン音や排気ガスも全く気にしなくても大丈夫! まるでライダーに出てくるバイクのようですね!


そして、この世界に、ゲームのようにパッケージ化されたスキルなんてものは存在しません。


ターンさん……一体何神なんだ……?(白目

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