chapter52
『なるほど、貴方がタルマアさんたちの報告にあった『目』ですね。力を失っている彼の代わりに、サポートを行っているみたいですが……魔に属する者が、人を助けますか』
無駄話をしながら、逆さは再び鉄筒から光を放とうとしている。
威力は恐らく、ミスロが――――いや、この私が知る中でも最高クラスだ。
ならば――――ここからは、私も少し本気を出して行こう。
これまで、存在をあまり認識されないようにしてきたが……介入するレベルを上げよう。
アスカスの防御を現在よりもさらに向上させ、この星全体を覆うように、薄く強靭な防御壁を数千層展開する。
「これは……」
タンデンが空を見上げて感嘆した。フジライやブディも同じように空を見て、呆けたように目と口をまん丸く開いていた。
ユーフィッド家の三人は何が起きているのか、全くわかっていなかった。ただ、ミスロだけは、私が何かしらの干渉をしたのだと予想していた。
『ただの妖精モドキさんではありませんね……まぁ、どの世界の方かは知りませんが、無駄なことです。
さぁ、そちらの貴方は変身を解除してください。お仲間の頑張りが無駄にならないように』
逆さが再度警告するが、騎士は動かない。
その時、ようやく逆さが苛立ちのようなものを雰囲気に出し始めた。
『早くしてください。次は本当にフルパワーで撃ちますよ?』
しかし、その物騒な脅しに反応したのは騎士ではなく、タンデンだった。
「ふっ」
それまで焦りや苦渋に満ちていた顔には、おかしなものを見たように、笑みが浮かんでいた。
『何がおかしんですか?』
「いや何、少しおかしくてな……そうだろう?」
タンデンは無人に見える庭の一画へ顔を向ける。すると、不可視の女傑の声が、渋々と言った様子で答えた。
『えぇ……そうね。私は確かに未熟かもしれないけれど、逆さ、アンタの方はもっと未熟だって事が明らかになるくらい、おかしいことだわ!』
最後に鼻で笑い煽る女傑に、逆さも顔をしかめた。
『何を訳のわからないことを。チャージはもう完了しているんですよ。さぁ、今すぐに変身を解除して、鎧を脱ぎなさい!』
言う通り、鉄筒の先端に集まった光は、地表からでも月明かりに匹敵する眩さとして認識できるほどに膨れ上がっている。
確かに、このパワーなら、タンデオスに張った障壁くらいであれば貫通するかもしれない。
「おいおい、ヤベェぞあれは!」
「師匠、逃げましょう! 皆さんも早く立ち上がって!」
「ルラン、皆を逃がすのだ!」
「わかったわ!」
フジライとブディがタンデンに肩を貸して立ち上がらせ、アルデバランはルランに屋敷の使用人たちを逃がすように指示を出す。
それぞれが行動を起こす中で、赤い騎士はやはり動かない。
『いいでしょう……なら、この星と融解してください。
さようなら』
逆さの鉄筒から、今までとは比べ物にならない、光の奔流が放たれた。
それは、真っ暗な世界――惑星の衛星軌道上からタンデオス・ユーフィッド邸の裏庭へ、寸分の違いもなく走った。
幾重にも張り巡らせ、構築した防御壁が悉く溶かし尽くされ、あるいは無視されていく。
その行程が瞬時に終わり、地表へ到達するかと思われたそれは――――
だが、
「無意味だ」
ミスロの言葉と、私の心の声が重なった。
それは、本当にいつの間にだったのかわからない。
赤い鎧の騎士が、光り輝く弓を凶星に向けて構えていた。
大気圏に到達しようとしていた逆さの光が、弾けるように消えていく。
その中心を突き進む一筋の光は、矢の形をしていた。それは滅びの光を砕きながら、瞠目する逆さの胸目がけて迫るが、
『殺すな!』
女傑が一喝したのと同時に、軌道が逸れ、逆さの触れていた鉄筒の表面を掠めた。
たったそれだけのことだったが、逆さは大きく吹き飛ばされ、鉄筒にも大きな裂傷ができていた。
『バカな……』
驚きの声を漏らした逆さだったが、地上で騎士がもう一度矢を番える姿を見て、態勢をすぐさま立て直した。
『くっ、まさか……力は失われていない? なら、どうして『目』を使う? どうして『目』の魔法になんかに……』
ぶつぶつとつぶやきながら、しかし鉄筒の状態を見て悔しそうに顔をしかめさせると、
『タンデンさん、撤退しますよ』
言い終わるのと同時に、その姿を消した。
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