chapter46
アルファたちがそんなやり取りをしながら、お茶の時間になった頃。
街道を、ミスロを乗せた早馬が駆けていた。
穏やかな空の下、誰と出くわすことなく、ミスロは次の町までの距離を計算しながら、馬を急かせた。
「すまないな、着いたらしっかりと世話をしてもらうように言っておく」
そう伝えると、馬は軽く嘶いた。
そうやって走ることしばらく、一人の旅人が見えてきた。頭からすっぽりとマントを被っているが、恐らく若い女性だろう。足取りはしっかりしており、長歩きすることにも慣れていることを伺わせた。
ミスロは馬の進路を少し横にずらして走らせる。旅人もミスロに気が付いて道の端側へ少しだけずれた。
すれ違い様、ミスロは旅人に軽く一礼すると、旅人は右手を胸に当てて会釈を返してきた。
「ふむ」
あの旅人、剣を帯びていたな。
野盗の類がいなくなったとはいえ、女性一人の旅が危険な事に変わりはない。剣を所持していること自体は決して珍しいことではないが、身のこなしや先ほどの挨拶から武芸者だとミスロは見抜いていた。
だから何だ、と言う訳ではないが……振り返った時、旅人の姿はすでに豆粒ほどに小さくなっていた。
「どこかの騎士だろうか……?」
ミスロは馬を止めず、走らせ続けた。
次の町で馬を乗り換え、ミスロは小休止も挟まずに出発した。
すでに日は大きく傾いており、空も少しずつ赤色へ染まっていた。
村をいくつも超え、次の町に着いたらまた馬を乗り換え、それから少し経った頃。視界の先、道端に立てらてた看板を見つけ、ミスロは馬に速度を上げるように指示した。
タンデオスはユーフィッド領。あの看板を超えれば、ミスロの故郷の地だ。
だが、入る直前になり、ミスロは看板の隣にいつの間にか立っている男の姿を認め、その出で立ちに顔をしかめた。
「ここに来て……!」
比喩ではなく、真っ赤に燃え盛る頭髪と両手足を持つ、美しい男だったが、その顔には薄ら笑いを浮かべていた。
ミスロは怯えを見せた馬を宥めながら走らせる。
すると、男の両手が真っ直ぐ横に伸びて、前方全ての行く手を遮った。
「退けっ!」
不可思議な現象に気を取られることなくミスロが鋭く叫ぶが、男が動く気配はない。
『安心しろ人の子、我が炎で少し器が燃えるだけだ。何、死にはシない』
火の粉が弾けるような音が、重なり、響き合ってミスロに理解できる言語となって聞こえてきた。
「面妖な……!」
湧き上がる怖気をねじ伏せ、ミスロが馬を反転させようとしたところで、男の動きに変化が合った。
『ナ……ッ』
目を見開き、驚愕を浮かべた彼が見下ろした胸元には、光り輝く剣が刺さっていた。
ミスロは馬を停止させ、男の様子を見守る。彼の頭と手足を包んでいた炎が掻き消えていき、体の方も散っていく火の粉のように霧散し、光の粒となって空に舞い上がり消えた。
ミスロは脅威が去ったことを察し、安堵の息を吐いた。
一度、背後を振り返るが、静かな夕暮れの街道の続くだけたっだ。
「……助かった」
小さな声で誰かにつぶやくと、再び馬を走らせた。
去りゆく騎士を、近くの樹木の上から見下ろす影があった。
影は、顔を上げると、肩を竦めた。
その背後には、いつのまにか薄手の衣を纏った少女が、足を枝に置くことなく宙に浮かんでいた。
『またやってくれたわね』
睨みながら、少女は怒気を込めてそう言った。
『アンタがやらなくても、私が助けられた!』
影が応えることはなかった。
『……ふんっ!』
少女がそっぽを向いて消えると、影もやがて消えた。
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